
2024.01
30
日本酒蔵の事業承継に関心を持つ人のために、日本酒蔵ならではのM&Aの特徴を解説する「日本酒蔵M&Aスターターガイド」。1本目では酒蔵M&Aの概況、2本目では基礎的な情報やポイントを解説しました。
最終回では、実際に買い手としてM&Aを経験した3名の方にインタビュー。経歴や状況の異なる3名の方のお話を、3本の記事に分けてご紹介します。
本記事は、これまで16社もの酒蔵のM&Aを手がけた日本酒M&Aの先駆者である、株式会社日本酒キャピタルの田中文悟さんにお話を聞きました。
▼ほかの2名の記事はこちら
・決め手は「熱い想い」。M&Aで先祖代々のブランドを復活:「 敷嶋」伊東優さん
・DXで事業再生。投資先としての酒蔵とは:くじらキャピタル・竹内真二さん

大学を卒業後、アサヒビールに就職した田中文悟さんは、日本酒業界に関わりを持つ同僚たちから「いま、日本酒が大変だ」ということを聞かされ、「何か手伝うことができないだろうか」と考え始めたといいます。
2008年には、友人が立ち上げた阪神酒販へ転職。そのころ、取引のあった企業の社長から、グループ事業のひとつとして抱えている酒蔵を手放すという話を耳にします。
「『それなら、我々がやりますよ』と3つの酒蔵をM&Aしたタイミングで、阪神酒販のグループ会社として田中文悟商店(現社名:SAKEアソシエイツ)を設立しました。田中文悟商店時代にM&Aをした酒蔵は12軒。2021年に独立して日本酒キャピタルを設立し、これまで4軒の酒蔵をM&Aしています」

酒蔵M&Aをおこなうにあたってのポリシーは、「社員は誰も辞めさせない」ということ。
「オーナーは変わりますが、杜氏のほか、社員は引き継いで一緒にリスタートするのが信条です。また、設備や在庫も、とりあえずはすべてこちらで引き継ぐようにしています」
債務が多く経営難に陥っている酒蔵を対象としているため、仲介料が発生する仲介業者は使用しないとのこと。基本的には、地方銀行や知人を経由して案件が持ち込まれるといいます。数多くの持ち込みがある中で承継の決め手となるのは、「杜氏の熱意」。
「杜氏の想いを引き出して、やりたいことをやってもらうという方針です」(田中さん)。
また、社員一人ひとりのコミュニケーションについては、大学時代に取り組んでいたアメフトでの経験が役に立 っているといいます。
「野球やサッカーは運動神経が良くないとできないと思うのですが、アメフトは“自分の得意なことができるポジションにつく”という適材適所の考えなので、誰でもできるスポーツだと考えています。契約が成立する前から全社員と面談をして、その人の想いを聞き出し、『どうやったらこの人の最大限のパフォーマンスを発揮できるだろう』と考えて配置することで、新体制のスタートが切りやすくなります」
日本酒キャピタルにはデューデリジェンスのチームがあり、会計士と顧問弁護士も所属しています。
「以前の会社ではほぼ私一人で見ていたので、専門家が必ず必要であるかというとそうでもないとは思います。複雑なケースの場合は専門家に任せるのが望ましい、というくらいですね。株主が数百人にも及ぶ酒蔵などは、弁護士に不明株主への対応やスクイーズアウトの手続きなどをしてもらいます」
続いて、田中さんに、第2弾で紹介したM&Aのプロセスに従って、それぞれのポイントを教えていただきました。
「案件ソーシングは、紹介と、自分でのリサーチが半々くらい。後者の場合は、こちらが良いなと感じても譲渡金額が高いパターンなどがあるので、