コロナ禍で「お酒をやめた」人の割合は? - コロナ禍がもたらした飲酒習慣変化をアンケート

2021.06

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コロナ禍で「お酒をやめた」人の割合は? - コロナ禍がもたらした飲酒習慣変化をアンケート

酒スト編集部  |  SAKE業界の新潮流

2020年4月、新型コロナウイルス感染症対策のため1回目の「緊急事態宣言」が発出され、特に感染の広がっていた都道府県では飲食店でのお酒の提供時間が大幅に制限されました。それから1年以上の間、飲食店や屋外での飲酒にはさまざまな形で制限が加えられ続けています。

この1年間の動向自体が、お酒に関わる産業には大きな影響を与えています。そしてさらに、この影響が長期化したことで、「慣れ」や「適応」が生まれ、人々の飲酒習慣にも変化が起きているのではないでしょうか

こうした変化の動向を捉えることで、「コロナ後」の市場に備える一助とすべく、今回SAKE Streetではアンケート調査を実施しました。

先行したいくつかの調査によって、「家の外で飲む機会が減っていること」「家飲みが増えていること」「オンライン飲み会が増えていること」など「コロナ禍の現状」はすでに明らかになってきています(※)。

一方、「コロナ後にも残る、習慣の変化」に焦点を当てた調査はお酒産業全体として、まだほとんど例がありません。今回はモニターサービスを活用し一般層からも回答を集めることで、極力回答者層の偏りを排して市場動向の変化を見通すためのデータを集めました。

今回の記事では、このアンケート調査結果を紹介するとともに、そこから見える変化の兆しを考察します。

(※)参考:
井藤漢方製薬株式会社プレスリリース「WITHコロナの飲酒と健康と生活 生活者実態調査レポート PART1
日本トレンドリサーチ(株式会社NEXER)プレスリリース「【オンライン飲み会】『新しい飲み会』として定着せず? 昨年の調査結果と比較

回答者の属性

今回の調査では、以下の集団を対象にインターネット上でアンケートを実施しました。

  • モニターサービス(GMOリサーチ株式会社「MO Liteアンケート」)による一般層:回答数1,000名
  • SAKE StreetのSNS上での呼びかけによる、日本酒好きを中心とした層:回答数605名

回答者合計1,605名のうち、女性は595名(37.1%)、男性は1,010名(62.9%)でした。年代別に見ると、20〜40代は女性:男性の割合はほぼ5:5〜4:6の範囲に収まっているものの、特に60代以上において男性の回答者割合が高くなっています

年代別の割合では、20代が10.3%と少なく、40代が29.0%と多かったものの、30代、50代、および60代以上はすべて20%前後となり、比較的偏りが少なく回答を得ることができました。

回答者のうち、日本酒を日常的に飲んでいる層(週に1回以上)は約1/3(33.6%)でした。各年代とも、「日本酒は飲まない」と回答した層が多かったものの、 日本酒飲用頻度の偏りはある程度抑えることができました

日本酒を日常的に飲んでいる層の割合は、モニターサービス経由の回答(10.9%)とSNS経由の回答(71.1%)で大きく異なっており、今回の調査対象は「市場全体に比べて、日本酒好き/お酒好きの割合が高い」と想定される点には留意する必要があります。

外飲みが減ったことに「不満を感じない」が優勢。家飲みへの「慣れ」が影響?

先行調査にあるとおり、緊急事態宣言等の影響を受け、多くの都道府県で外飲みの機会は減っていると考えられます。このことで欲求不満を感じるかどうか尋ねたところ、「不満を感じない」(「まったく感じない」または「ほとんど感じない」)と答えた層の割合が54.3%となり、「不満を感じる」(「強く感じる」または「ある程度感じる」)と答えた層を上回りました。

日本酒の飲用頻度別に見ると、飲用頻度が低い層ほど「不満を感じない」と回答する割合が高くなっていますが、日本酒を「(ほぼ)毎日」飲むと回答した層でも25%以上の人は「不満を感じない」と回答しています。

欲求不満の解消方法は大部分が「家飲み」

外飲みができない不満を感じる人に、その主な解消方法を尋ねたところ「家飲み」の回答が75%以上にのぼりました。「お酒を飲む以外のアクティビティ」との回答は合計13.0%にとどまっており、「飲酒以外の趣味を見つける」というパターンは多くないようです。現在の市場環境下では家飲み需要への対応が最も有効であることが分かります。

不満を感じない背景に「慣れ」?

外飲みが減っても不満を感じない人に、その理由を尋ねたところ「もともと飲みに行くことがないため」が半数以上(57.1%)を占めていました。一方、「外で飲まない生活になれたため」との回答も15.2%にのぼっており、日本酒の飲用頻度が高い人でも不満を感じない背景として、現在の環境への「慣れ」があることが示唆されました

「その他」と回答した人(3.8%)のなかにも、「もともと家飲みが中心である」旨の回答が複数あり、「外で飲めない環境に適応した/している人」が一定数いることが分かります。

「コロナ禍でお酒をやめた」人が3.5%、うち約9割は「コロナ後も戻らない」

この1年間でのお酒を飲む量の変化について尋ねたところ、「増えた」が16.1%に対して、「減った」「お酒を飲むのをやめた」の合計が25.2%となり約9ポイントの差が出ました。

「お酒を飲むのをやめた」と回答した人は3.5%おり、さらにそのうち約90%の人はコロナ後も「今と変わらない(お酒をやめたまま)と思う」と回答しています。割合は小さいとはいえ、コロナ禍を契機に、飲酒人口自体が減っている可能性が示唆されました。

ECでのお酒購入は若い世代ほど増加、コロナ後も習慣化の可能性

オンラインでお酒を買う機会が増えたか尋ねたところ、「変わらない」という回答が72.7%と大部分だったものの、「とても増えた」「少し増えた」も合計で22.6%にのぼり、コロナ禍を契機にお酒のEC購入が増えたことが分かりました。

特に20代と30代では「とても増えた」「少し増えた」の合計が30%を超えており、若い世代ほどECでお酒を購入するようになっています。

また、オンラインでお酒を買う頻度が増えた人に「コロナ後」の見通しを尋ねると30%以上が「(頻度が増えたまま)今と変わらないと思う」と答えています。「完全に元に戻ると思う」と答えた人は5%未満となっていることからも、ECの利用が定着していることが分かります。

コロナ禍/コロナ後の市場を考えると、特に若年層への訴求には、オンラインでの取り組みが重要になることが示唆されました。

なお、オンラインでお酒を買う機会が「減った」と回答した人も5%ほどいましたが、「お酒を飲む機会の増減」に関する前出の質問に「お酒を飲むのをやめた」「減った」と回答した人が大部分であり、ECの利用が減ったというよりは、お酒自体を買わなくなったと解釈できます。

飲むお酒の単価は大部分が「変わらない」が、高単価化の傾向が若干優勢

この1年間で、飲むお酒の単価が変わったか尋ねたところ、約8割(79.2%)が「変わらない」と答えており、大きな変化はないことが分かりました。一方、「今までより単価の高い酒を飲むことが増えた」と答えた人の割合(13.2%)は、「今までより単価の安い酒を飲むことが増えた」と答えた人の割合(7.6%)の1.7倍程度となっており、高単価化の傾向が若干優勢です。

「家飲み」が外飲みの主な代替手段となっているという前掲の結果を踏まえると、今まで外飲みで使われていたお金が家飲みで使われている分、飲むお酒は高単価化しやすいと解釈できます。

「単価の高い酒を飲むことが増えた」と答えた人に、それらのお酒をどこで買っているか尋ねたところ、「量販店(25.5%)より専門店(72.2%)」、「オンライン(40.1%)よりオフライン(57.6%)」の傾向がありました。

オンラインでのお酒購入自体は増えているという結果を踏まえると、「高単価化」の需要を酒販店等のECサイトが拾い切れていない(オンラインでも単価の高いお酒が売れるような、顧客とのコミュニケーションが十分にとれていない)可能性はあります。

飲むお酒の単価が変わったという人に、「コロナ後」の見通しを尋ねたところ、単価が高くなった/安くなったと答えた層のいずれも、「今と変わらないと思う」との回答が30%を超えており、コロナ禍の1年間を通して飲んでいたお酒のグレードが、ある程度習慣化し温存される可能性が示唆されました。

考察 - 調査結果をどう活かせるか

市場の縮小は加速、変化への対応を

お酒を飲むのをやめた層の存在や、外飲みができない環境への慣れを示すデータからは、これまでも叫ばれ続けていた「お酒離れ」がコロナ禍を契機に加速したことが分かります。

そのほかにも、今回の調査からはお酒の飲用・購入に関する行動変化が起きていることが示唆されました。「感染が収束すれば、以前の姿に戻る」ということにはならない可能性が高いと言えそうです。市場の縮小や変化は前提として考え、そのなかでも価値を発揮し、生き残りや成長を果たせるよう、今から備えていくことが重要なのではないでしょうか。

「オンラインで単価を上げる」取り組みができているか

今回の調査では、お酒購入の「オンライン化」「高単価化」の傾向が示唆されました。一方、前述のとおり高単価商品が買われる場はオフラインが中心であり、「オンライン×高単価」の取り組みが十分ではない可能性があります。

これまで、日本酒の高単価商品は「オフラインの場で、スキルのある販売員が、商品価値を顧客に直接伝えることで販売されてきた」傾向はあるでしょう。たとえば、原料のこだわり、酒蔵のストーリー、料理との相性……こうした要素をオンライン上で伝えきれているプレーヤーはまだ多くありません。(このテキストも、自戒を込めつつ書いています。)

日本の代表的なクラフトチョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」の山下社長は、オフラインとオンラインではブランド価値の伝え方が異なることを指摘しています。特に若年層の行動変化(ECの利用増)にあわせて、「改めてお酒の価値の伝え方を考え直してみる」ことが必要なのでしょう。

コロナ禍をきっかけに、酒蔵や酒販店によるオンラインでの販売・イベント開催等の取り組みは急速に進んでいますが、まだまだできることはたくさんありそうです。現在進行形で厳しい市場環境が続いており、今回の調査から見えた将来の傾向も決して明るいものばかりではありません。それでもこの変化を、将来日本酒が成長するきっかけとできる取り組みが増えることを願っています。

(文:二戸 浩平)

調査方法 および 引用/転載にあたってのお願い

調査方法

調査名:
新型コロナウイルスの影響長期化に伴う飲酒習慣の変化に関する調査

調査対象:
・モニターサービス(GMOリサーチ株式会社「MO Liteアンケート」)による一般層:回答数1,000名
・SAKE StreetのSNS上での呼びかけによる、日本酒好きを中心とした層:回答数605名

調査方法:
インターネットを活用したアンケート調査

調査期間:
2021年6月1日~6月7日

設問:
1.あなたの性別をお知らせください
2.あなたの年齢をお知らせください
3.あなたのお住まいをお知らせください
4.コロナ禍でお酒(日本酒に限らず)を飲みに行く機会が減ることで、欲求不満を感じることはありますか?
5.飲みに行く機会が減ったことで生じる欲求不満は、主にどうやって解消していますか?
6.飲みに行く機会が減っても、欲求不満を感じないのはなぜですか?(当てはまるものが複数ある場合、最も当てはまるものを選んでください。)
7.2020年の緊急事態宣言以降の約1年間で、ECサイトやクラウドファンディングなど、オンラインでお酒を買う機会は増えましたか?
8.今後、飲食店でのお酒の提供や外出制限などが解除された時には、オンラインでのお酒の購入頻度は元に戻ると思いますか?
9.この1年間で、飲酒量にはどのような変化がありましたか?
10.今後、飲食店での酒の提供や外出制限などが解除された時には、飲酒量は元に戻ると思いますか?
11.飲むお酒の単価に変化はありましたか?
12.単価の高いお酒は、主にどこで買っていますか?
13.今後、飲食店での酒の提供や外出制限などが解除された時には、飲むお酒の単価は元に戻ると思いますか?

本調査結果利用・転載にあたってのお願い

本調査結果の引用・転載は自由ですが、以下のご対応をお願いいたします。

  • 引用元が「日本酒メディア SAKE Street」である旨の記載
  • 「SAKE Street」の該当記事(https://sakestreet.com/ja/media/questionnaire-about-covid19-impact-on-sake-industry)へのリンク設置
  • 調査実施主体である「酒ストリート株式会社」(https://sake.st)へのリンク設置

また、よろしければ掲載先媒体名や利用目的についてご連絡いただけますと幸いです。

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