
2025.07
17
米100%なのに日本酒じゃない!? - 老舗酒蔵&ベンチャー酒屋出身の若者が新潟の集落に醸造所をオープン!
Sponsored by 弥栄醸造
田んぼがいたるところに広がるのどかな集落の中に佇む、一軒の古民家。見た目は昔ながらの日本の一軒家ですが、玄関を抜けて奥のスペースに入ると、コンクリート敷きの床に小型のタンクや蒸米用の機材が並んでいます。
「以前はここも畳敷きだったんですよ。床は全部張り替えました」と説明してくれたのは、“イッコー”こと坂本一浩(かずひろ)さん。今年2月、新潟県柏崎市の宮之下集落に、念願だった自分の醸造所「弥栄(いやさか)醸造」をオープンしました。
造るお酒の原料はお米だけにもかかわらず、「日本酒」ではないそう。 酒蔵・酒販店の経験を経て、12年目に自分の醸造所に挑戦することを決め、「十割麹」というユニークなお酒を醸すイッコーさんに、設立の背景とこれからのビジョンについてお聞きしました。
弥栄醸造では、現在クラウドファンディングを準備中。こちらについても、記事の後半で詳しくご案内します。
クラウドファンディングページ(7月18日 18:00 募集開始予定)はこちら:「新潟・柏崎の醸造所に直売所&Barを作り、多くの方に訪れてもらえる酒蔵にしたい! 」
酒蔵の営業、酒屋の店長を経て「感動できる酒を自ら造る」道へ
イッコーさんが日本酒の世界に入ったのは、大学卒業後の2013年のこと。新卒採用の募集をきっかけに、灘(兵庫県)の大手酒蔵・菊正宗酒造に就職しました。
大学生の頃からお酒は好きだったものの、特に日本酒に興味があったわけではなかったそうですが、営業担当としてさまざまな経験を積むうちに、その美味しさと多様性に魅了されていきます。社内では自社製品を飲む機会が多かったといいますが、後輩を連れて飲食店をまわり、全国のいろいろな銘柄を飲み比べるようになりました。
「日本酒の世界で生きていきたい」という想いを強めるにつれ、「全国の美味しいお酒を伝えながら、日本酒の幅広さを知ってもらいたい」と考えるようになったイッコーさん。 酒販店の求人を探していたところで、ちょうどスタートアップ日本酒専門店「未来日本酒店」が実店舗を出す計画を進めているのを発見します。
「『おもしろそうだな』と思って話を聞きに行ったら、山本祐也社長から『よかったら来てほしい』と言ってもらえて、転職を決めました。1号店となる代官山店では副店長として働き、2号店の吉祥寺店を出すときには店長を任されて。その後、横浜の店舗のオープンに合わせて、そこでも店長を務めました。
吉祥寺店の立ち上げはほとんど自分ひとりに任されて、スタッフの採用からお酒の選定まですべての業務をやらせてもらいました。当時は27、28歳だったんですが、その年齢で店舗運営を任せてもらい経営的な感覚を培った経験は、醸造所の立ち上げにあたってすごく役に立っていますね」
酒造りに興味を持ち始めたのは、転職から約4年が経過し、30歳に差し掛かったときのこと。全国から届くお酒を日々テイスティングするうちに、「現代の日本酒は、美味しいのがあたりまえ」と感じるようになっていたイッコーさんは、「自分が感動できるようなお酒を、自分で造ってみたい」と考えるようになっていきました。
しかし、日本では清酒用の製造免許は新たに交付されておらず、「日本酒」を造ろうとすると、既存の酒蔵に就職するか、M&Aで買収しなければならないのが現状です。酒蔵にはそれぞれのスタイルや方針があるため、一人の蔵人が自分のアイデアを取り入れたお酒を自由に造る機会はなかなかありませんし、M&Aには大きなコストがかかります。
そんなときに、イッコーさんにヒントを与えたのが、新潟県・阿部酒造の「ホボホボゼンコウジキモト」という、原料米のうち96%を米麹で造った日本酒でした。
日本酒の原料は「米」と「米麹」であり、この割合によって味わいが変化します。一般的に、麹の使用割合が多いと酸味や旨味の強い濃醇なお酒になります。 しかし、日本酒は、酒税法で「米」と「米麹」の両方を使うことが定められているため、「米麹」だけで造ったものは日本酒として売ることができません。
阿部酒造の「ホボホボゼンコウジキモト」は、「日本酒」という法律の枠を出ない範囲で、米麹で造るお酒の美味しさを表現した商品でした。このお酒をテイスティングしたイッコーさんは、あるアイデアをひらめきます。
「米麹だけのお酒は、法律で『日本酒(清酒)』を名乗れない代わりに、『その他の醸造酒』という酒造免許で造ることができます。96%でこんなに美味しいなら、100%でも美味しくできるはず。それなら、自分でも免許を取って醸造所を始めることができるんじゃないかと考えるようになったんです」
その構想に辿り着いたのが2020年。業界では、清酒製造免許を取れない代わりに「その他の醸造酒」の免許を取得し、日本酒の法的な定義を逸れた新しい酒類「クラフトサケ(※1)」を造る若手醸造家たちが登場しはじめたころでした。
すぐに阿部酒造の蔵元・阿部裕太さんに電話し、「自分の醸造所を開くために、阿部酒造で修行をさせてもらえないか」と打診。その電話口で、「良いよ、おいでよ」と快諾をもらい、イッコーさんの修行が始まることになりました。
(※1)クラフトサケという名称は株式会社モトックスの商標であり、2022年に設立されたクラフトサケブリュワリー協会が同社に許可を得た上で同カテゴリを説明する名称として使用している。
米100%なのに日本酒じゃない? “十割麹”の魅力
これまで米麹だけを使ったお酒は「全麹(ぜんこうじ)」と呼ばれてきましたが、弥栄醸造では「十割麹」という言葉を使っています。全麹という言葉が日本酒の通や専門家のあいだでしか通じないのに対し、より一般的に知られている「十割そば」という用語をイメージした呼称です。
2024年12月には、弥栄醸造として初めての商品となる「ITTEKI(一擲)十割麹酒 Vol.0-1」をリリース。阿部酒造に委託醸造(※2)し、新潟県内の酒販店にて販売しました。お米だけで造っていることが強みとなり、日本酒と同じ棚で扱ってもらいやすいこともあって、好評を得ているといいます。
十割麹のみに限定するつもりはなく、「今後のニーズによっては、新潟や柏崎の素材を活かした商品も造っていきたい」と柔軟な考えを示すイッコーさんですが、なによりも注力したいのは米麹づくり。現在、日本には清酒用の種麹を製造販売している企業が5〜6社ほどありますが、さまざまなメーカーの種麹ごとに異なるお酒を造るというアイデアを話してくれました。
「種麹って酒造りにとってすごく大切で、味に関わる存在なのに、酒米や酵母と比べると、ラベルに書いてる蔵がほとんどないんですよね。いまは京都の菱六さんから種麹を買っているんですが、『白夜』とか『月下氷吟』とか、すごくかっこいい名前が多いんですよ。うちのブランドが『一擲(ITTEKI)』というので、使っている種麹の名前と組み合わせて『一擲 白夜』などの商品名にしてはどうかなと考えています。
まだ一年目なので、種麹の種類や米麹の作り方は実験的にトライアンドエラーを重ねていく予定です。ある程度、定番ラインができたところで、季節限定や変化球的な商品を出していきたいですね」
クラウドファンディングページ(7月18日 18:00 募集開始予定)はこちら:「新潟・柏崎の醸造所に直売所&Barを作り、多くの方に訪れてもらえる酒蔵にしたい! 」
(※2)委託醸造:設備や酒造免許を持たない醸造家が既存の酒蔵にて製造をおこなうこと。製造自体を委託する場合もあるが、弥栄醸造の場合は阿部酒造の設備を借りてイッコーさん自身が製造したもの。
阿部酒造が繋いだ地域の米
4月には、完成した醸造所でお酒の仕込みを開始。醸造所が立つ新潟県柏崎市の「宮之下」と呼ばれる集落で昨年収穫されたコシヒカリを100%使用しています。
日本酒造りには、食用米よりも酒造りに適した特性を持つ酒造好適米(酒米)を使うことが多いですが、「酒米には特にこだわっていなくて、コシヒカリやこしいぶきなど、この地域で取れる食用米をメインで使用する予定です。」とイッコーさん。
「阿部酒造でも食用米を使った経験があるので、苦手意識はありません。実際、仕込みから1週間ほど経ちましたが、もろみの状態は悪くないです。コイン精米でできる93%程度の精米歩合ですが、十分な仕上がりになるように感じています」
「地元の田んぼで生産されたお米を使っていきたい」と話すイッコーさん。阿部酒造から車で15分というこのエリアに導いてくれたのは、元上司である阿部裕太さんでした。
「僕は神奈川県横浜市の生まれなので、最初は地元で醸造所を開こうと思っていたんですが、家賃などを調べるうちに、とても現実的じゃないと理解しました。阿部酒造では2週間に1度、(阿部)裕太さんと一対一の面談があるんですが、『場所選びに悩んでいる』という話をしたら、『だったら柏崎でやれば?』と言われて。そこから裕太さんが知り合いに声をかけてくれて、この建物の所有者の方を紹介していただき、そこから一気に話が進んだんです」
独立を前提に修行をしていたため、阿部さんとの面談では事業の話がほとんどだったそう。「裕太さんが面談で『前回はこれをやるって言ってたけど、どうなった?』と進捗を確認し、ことあるごとに喝を入れてくれたおかげで計画を進めることができた」と苦笑いします。
「ただの社員というより、一人の経営者として扱ってもらっていたと思います。経営者としてのマインドをたくさん学ばせてもらいました。裕太さんのおかげで良い場所に出会えましたし、この選択は間違いじゃなかったと証明していきたいですね。
宮之下では農業生産組合が田んぼを管理しているんですが、高齢者の方ばかりで、今後担い手が減るのは確実です。だから、いずれは自社で田んぼを所有し、組合の手が回らなくなったタイミングで、『じゃあうちがやりますよ』と引き継げるような存在になろうと思っています」
お酒を中心に、地域の人々が集う場所を作る
まだ酒造りで生計が立てられないという事情もあり、現在、週3〜4日は農業生産組合を手伝って農作業に勤しんでいます。 横浜という都会に生まれ育ちながら、「これからも、春と夏は農作業をして、秋から冬は酒造りをしていきたい」「出張で東京に戻ると『もう都会では暮らせない』と感じる(笑)」と、すっかり馴染んでいる様子です。
地元の方々と接する中でその温かさに触れて、「『この地域を将来に残したい』と思うようになった」と話すイッコーさん。近日開始予定のクラウドファンディングで募った資金は、玄関とキッチンをリノベーションし、みんなが集まれるバーカウンターを作るために活用する予定です。
「理想は、地域のおじいちゃんおばあちゃんが気軽に立ち寄って、お酒を飲んだり食事をしたりできる空間。 直売所も設けて、この蔵をもっと“開かれた場所”にしたいと思っています」
クラウドファンディングのリターンには、秋から仕込む予定の十割麹酒のほか、宮之下で収穫されたお米をラインナップ。タンク1本分のオーダーメイド酒を造る権利や、完成したバーカウンターで使える特典もそろいます。
「近所の方から『うちの空き物件も使ってほしい』と言っていただけているんですが、そこは民宿に改装する予定です。近くに泊まれる場所があったら、滞在型の観光が実現できますから。
5月にツアーを開催したんですが、田植えを体験してもらい、地元の温泉に浸かって、最後は近所の阿部酒造の直売所で買い物をするという日帰りプランでした。宿泊施設ができれば、地元のおじいさんたちに採ってきてもらった山菜をおばあさんたちに料理してもらって、お酒を飲みにきたお客さんをさらにおもてなしすることができますよね。少しでも仕事を作れれば地域に還元もできるし、それがみんなの喜びにもなる。来年のうちには、そこまで形にしたいと考えています」
地域とともに、栄える未来に向けて。クラウドファンディング準備中!
弥栄醸造の「弥栄」とは「ますます栄える」という意味で、人々が宴の席などで繁栄を祈って「乾杯」のようにして使われてきた言葉なのだとか。目指すのは、地域の人々と醸造所を訪れた人々が飲み交わすアットホームな醸造所です。
就職から日本酒に惹かれ、大手酒蔵、酒販店、地酒蔵と業界で12年働いてきたイッコーさんの次なる挑戦に向けて、近日、クラウドファンディングが公開されます。都会生まれの若き醸造家が地方で醸す、米100%のお酒の可能性を、ぜひ一緒に見守ってみませんか。
クラウドファンディングページ(7月18日 18:00 募集開始予定)はこちら:「新潟・柏崎の醸造所に直売所&Barを作り、多くの方に訪れてもらえる酒蔵にしたい! 」
Pickup記事
2021.10.27
話題の記事
人気の記事
2020.06.10
最新の記事
2025.07.08
2025.06.24