2021.11
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「日本酒度」とは?プラスとマイナスの違いは?甘口・辛口がどのように決まるのか解説!
日本酒の裏ラベルなどに記載されることがある「日本酒度」。日本酒度は甘さ/辛さの目安になる数値ですが、酒の甘口/辛口は日本酒度だけで決まっているわけでもないのが面白いところです。
そこで今回は、日本酒度を中心テーマとしつつ、味わいに影響を与えるその他の要素も併せて検討し、日本酒の甘口/辛口は総合的にどう決まるのかを考えてみます。
日本酒度とは
日本酒度は、甘さ/辛さの目安として使われる数値です。一般的に、日本酒度-1.4〜+1.4を中庸(※1)として、それより日本酒度が小さくなるほど甘口、大きくなるほど辛口だと言われます。
(※1)甘口/辛口の中庸については「±0とする」、「±0~+5未満とする」など、諸説あります。
甘口/辛口の指標になる日本酒度ですが、糖分の含有量などを示す数値ではありません。日本酒度とは、酒の「比重」です。
日本酒度は、「日本酒度計」という浮きばかりを使って測定します。日本酒度計は、4℃の純水に浮かべたときに数値が0になるように作られていて、水よりも軽い酒に浮かべるとプラスの値を示し、水よりも重い酒に浮かべるとマイナスの値を示します。
では、なぜ酒の比重が甘さや辛さの目安となるのでしょうか。その理由は、アルコール発酵のプロセスをイメージすることで読み解くことができます。
酒が発酵するときには、酵母が糖を分解してアルコールに変えていきます。そして、糖は水よりも重く、アルコールは水より軽い物質です。したがって、発酵が進み、糖がアルコールに変わっていくにつれて、日本酒の比重は軽くなります。もともと日本酒度は、製造過程における発酵の進み具合を計る指標でした。
日本酒度が大きい(=比重が軽い)酒では、日本酒度が小さい(=比重が大きい)酒に比べて、より多くのアルコールが作られていると言えます。アルコールが多く作られたということは、糖が分解され少なくなったということを意味します。そして糖が少ないということは、甘味が少ない、つまり辛口であるという考えから、甘さ/辛さの指標としても日本酒度が使われているのです。
甘口/辛口に影響を与えるほかの要素
日本酒の甘口/辛口を決めるのは、日本酒度だけではありません。日本酒の評価において「辛口」という表現は、「甘味が少ない」という意味だけでなく「キレが良い」という意味でも使われるためです。酒の甘さや辛さに影響する、日本酒度以外の要素を見ていきましょう。
酸度
甘口/辛口に影響するその他の要素として、まず取り上げるのは酸度です。酸度が高い日本酒ほど、「辛い酒だ」と感じます。
酸度は言葉のとおり、日本酒中にどのくらいの酸が含まれるかを表す数値です。日本酒の酸度は0.5〜3.0程度に収まるのが一般的で、1.4〜1.6程度が中庸だとされています。
酸度が甘口/辛口に影響する理由として、酸味が「キレ」をもたらす要素であることが挙げられます。また、酸味と甘味は互いに相殺しあう要素でもあります。したがって、高い酸が味わいを引き締める「キレが良い酒」の場合は、日本酒度が低くても、比較的辛めに感じることがあるのです。
1974年に考案された「甘辛度(※2)」では以下のように、日本酒度と酸度から甘口/辛口の度合い算出しています。
甘辛度 ={193593 /(1443+日本酒度)}-(1.16 × 酸度)- 132.57
(※2)甘辛度は、甘辛の程度。非常に辛い=-3、かなり辛い=-2、すこし辛い=-1、どちらでもない=0、すこし甘い=1、かなり甘い=2、非常に甘い=3
一方、この式から算出できる甘辛度では、たとえば「日本酒度+12、酸度1.6」と市販の日本酒ではかなり辛口の酒の数値を当てはめると、甘辛度は約-1.37となり、「すこし辛い」程度になってしまいます。
こうした点を考慮し、2004年には「新甘辛度」も考案されました。
新甘辛度 = グルコース含量( g /100 ml)- 酸度(ml)
新甘辛度が0.2以下のものを辛口、0.3〜1.0をやや辛口、1.1〜1.8をやや甘口、1.9以上を甘口に分類します。この指標では、より幅広い市販の日本酒で甘口/辛口を判定しやすくなるとされています。
いずれにせよ、甘辛度・新甘辛度どちらの計算にも酸度が使われていることからも、酸度が与える甘辛評価への影響の強さが分かります。
なお、酸度はアミノ酸度とともに、濃醇/淡麗にも影響する数値です。酸度やアミノ酸度の高い酒ほど濃醇に、それらの数値が低い酒ほど淡麗に感じる傾向があります。酸度・アミノ酸度について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
日本酒の「酸度」を学ぶ - 数値の意味や酸の種類、味わいとの関係
ラベルの数字から想像する、日本酒の味わい
苦味・渋味・ガス感
苦味・渋味・ガス感は、いずれも多いほど辛口に感じやすくなります。これらは、味わいに刺激を与える要素です(酸味も同じ)。いっぽう、甘味や旨味は味わいに滑らかさを与える要素です。
刺激を与える要素が、滑らかさを与える要素を上回ったとき、「辛口だ」と感じる傾向にあります。逆に、滑らかさを与える要素のほうが刺激を与える要素よりも強いときには、「甘口だ」と感じるのです。
味の要素から甘さ/辛さを捉えるこの考え方については、「私の辛口論」シリーズ第1回で詳しく取り上げています。ぜひ併せてご覧ください。
私の「辛口」論(1)日本酒提供者の視点
日本酒度が高い酒/低い酒
日本酒の甘さや辛さは日本酒度だけで決まるわけではなく、日本酒度はあくまでも目安です。しかし、日本酒度というものがどのように味わいに反映されるのか、一度は実感してみたいもの。そんなときは、極端な日本酒度を持つ酒を飲み比べると、味わいへの日本酒度の影響がわかりやすいはずです。
そこで、日本酒度が非常に高い酒と非常に低い酒をご紹介します。日本酒度によってどのように風味や印象が変わるのか、ぜひ実際に味わって実感してみてください。
日本酒度の「+」の数字が大きい、辛口のお酒
辛口と一口に言っても味わいはさまざま。今回は、それぞれ魅力的な3つの辛口をご紹介します。
刈穂 山廃純米超辛口(日本酒度+12)
山廃仕込みでもろみの発酵を極限まで進めることで、超辛口に仕上げた特別純米酒。キリッとした骨格のなかに、凝縮された力強い旨味と繊細で緻密な風味が感じられます。超辛口でありながらバランスがすばらしく、ついつい飲み進めたくなる味わい。刈穂はこれ以外にも、日本酒度+25の「超弩級 気迫の辛口」や日本酒度+27の「RESISTANCE +27 極限辛口・純米生原酒」など、さまざまな辛口を造っています。
春鹿純米 超辛口(日本酒度+12)
春鹿の定番銘柄。今でこそさまざまな蔵元が「超辛口」をリリースしていますが、「超辛口」の3文字を冠した酒を初めて販売したのは春鹿だそうです。口当たりはふくよかで、米のやさしく丸い風味を感じさせますが、そのあと辛さが訪れ、余韻にかけてすっきりと冴え渡るような爽やかな仕上がりです。春鹿の「超辛口」には、吟醸や生酛仕込などさまざまなバリエーションがあります。
大倉 辛口山廃特別純米 直汲み 無濾過生原酒(日本酒度+19)
瓜やメロンのような、若々しく青い果実の香りが爽やかです。口に含むとしゅわしゅわと心地よく泡が弾ける微炭酸。みずみずしく引き締まるような硬質な酸、そして力強い苦味・渋味と、さまざまな顔を見せてくれる日本酒。極めて個性的なのに飲みやすく、親しみやすい味わいです。
日本酒度の「-」の数字が大きい、甘口のお酒
辛口もいろいろ、甘口もいろいろ。それぞれ違うおいしさを持つ3銘柄を選んでみました。
白鶴 別鶴 木漏れ日のムシメガネ(日本酒度-45)
白鶴の若手チームが開発した日本酒。日本酒度は低いですが、酸度がとても高いので、甘さが突出した印象ではありません。白麹由来のクエン酸から来る柑橘類の爽やかな風味が甘味と絶妙に混ざり合い、白ワインやカクテルにも似た雰囲気。キャッチフレーズのとおり「新しい日本酒の世界を覗」くことができます。
川鶴 讃岐くらうでぃ(日本酒度-70)
こちらも「木漏れ日のムシメガネ」と同様、白麹を使った甘酸っぱい日本酒ですが、たっぷりのにごりによってクリーミーに仕上げています。麹を通常の3倍使っているのも特徴です。カルピスを思わせる爽やかな味わいで、アルコール6%とライトですが、ロックやソーダ割りにしても楽しめます。
舞美人 純米酒 MYVY (日本酒度-154)
木槽でしぼった酒粕をタンク内で再発酵させ、再びしぼって造られた酒です。外観は琥珀色で、とろりとした質感を持っています。カラメル、味噌、漬物、熟れた果実、紹興酒などを感じさせる味わいは、まさに旨味の極地。このとてつもない旨味や甘味に負けないしっかりとした酸味があり、余韻は驚くほど爽やかです。
まとめ
日本酒度は、酒の甘さ/辛さの指標として使われている数値です。日本酒度の読み方を知っておくことで、ラベルから甘口/辛口をイメージでき、好みの銘柄を見つけやすくなるでしょう。ただし、日本酒の甘さ/辛さを決めるのは日本酒度だけではありません。酸度の高い日本酒や、苦味・渋味・ガス感の多い日本酒は、辛口になりやすい傾向があります。
日本酒は、さまざまな要素のバランスで甘口/辛口が決まる、非常に面白い飲み物です。たとえ似たような日本酒度の酒でも、まったく仕上がりが異なることは珍しくありません。それでも、日本酒度などの数値から味わいをイメージするのは楽しいものです。予想が外れたときの意外性も含めて、ラベルの読解を楽しみたいものですね。
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