山田錦ってどんな酒米? - 「酒米の王様」と呼ばれる酒米の系譜、特徴、生産地、日本酒の味わいを解説

2021.11

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山田錦ってどんな酒米? - 「酒米の王様」と呼ばれる酒米の系譜、特徴、生産地、日本酒の味わいを解説

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

日本酒の主な原料は、米。酒造りに使われる米は酒米(酒造好適米)とも呼ばれ、その種類や品質も日本酒の味わいに影響を与えています。その酒米には100以上の品種がありますが、なかでも「山田錦」は代表的な存在として知られています。
なぜ、山田錦はほかの酒米よりも群を抜いて有名なのか、気になったことはありませんか?今回は、山田錦の特徴や系譜、産地について解説します。

山田錦とは?

酒米の王様と呼ばれる山田錦

山田錦は、「酒米の王様」と呼ばれる酒造好適米の代表的な品種です。1936年(昭和11年)に兵庫県立農事試験場で誕生した品種で、「獺祭」や「白鶴」といった有名な銘柄のほか、全国の多くの酒蔵で使用されています。

山田錦で造った酒の特徴は「バランスの良さ」

山田錦は酒米のなかでも「心白」が現れやすく、大きく、形もよいのが特徴的です。心白とは米粒の中心に現れる、デンプンが集まっており、白くにごった色に見える部分のことです。
この部分が現れることで、麹づくりの際に麹菌が米の中心まで入り込みやすいため、山田錦は特に良い麹をつくりやすいと言われています。

山田錦はこのほかにも脂質やたんぱく質といった余分な成分が少なく、大粒で砕けにくいため精米がしやすく、そのうえ吸水性が高い、と酒造好適米として備えるべき条件をすべて満たしています

そのため、山田錦で造られた日本酒は雑味が少なく、バランスのよく取れた味わいになりやすいことが特徴です。造り手の意思を反映したお酒になりやすい、と言えるでしょう。

酒造適性が高く鑑評会向き

100年以上続いている「全国新酒鑑評会」では、現在でも山田錦を原料米としたお酒が多く出品されています。1980年代後半から1990年代にかけて、酒造関係者の間で鑑評会向きの酒の特徴を表す「YK35」という言葉が盛んに使われていました。YK35とは、山田錦を使用していること(山田錦のY)、「香露」で有名な熊本県酒造研究所の熊本酵母(きょうかい9号酵母)を使用していること(熊本酵母のK)、35%精白で酒を造っていること(35)の3つ条件を満たしている酒のことです。こうした言葉があることからも、山田錦は金賞を受賞する酒を造るのに適した品種であることがわかります。

山田錦の系譜

「山田穂」と「短稈渡船」を親に1936年に誕生

山田錦の始まりは、1923(大正12)年に「山田穂」と「短稈渡船」の人工交配が行われたことです。その後、産地適応性試験や品種比較試験といったさまざまな試験が行われるなかで選抜が進み、1936(昭和11)年に「山田錦」と命名されました。その後も各地の生産者たちが酒米の品種改良を重ね新品種が登場しましたが、山田錦は50年以上に渡って酒米の王様と呼ばれ続けています。

山田錦の母にあたる山田穂は歴史が古く、明治時代初期からその存在が確認できる品種です。当時から酒造家が好むと言われていた山田穂ですが、その由来には諸説あり

  1. 現・多可郡多可町中区東安田で山田勢三郎が発見し、自らの姓をとって名付けた
  2. 現・三木市吉川町の田中新三郎が伊勢詣りの際に持ち帰って栽培し、豊受大神を祭る「伊勢山田」にちなんで名付けた
  3. 現・神戸市北区山田町の東田勘兵衛が現・大阪府茨木市から持ち帰った種子から育て、当時の「山田村」という村名から名付けた

といったものがあります。(現在は1.の説が最有力とされています。)

父親である「短稈渡船」は現在では使われておらず、謎の多い品種です。現在も「渡船」として使われている品種(滋賀渡船6号等)と同様に、「雄町」をルーツに持つ品種であると考えられています。

山田錦の生産地

主な産地:兵庫県

山田錦は主に兵庫県で栽培されています。気候、地形、地質が酒米造りに適しており、全国の山田錦生産量のうち約3割を兵庫県産が占めています。特に代表的な土地は六甲山地の北側で、昼夜で気温差が大きいことや、土地が粘土質であることなど、高品質な山田錦を生産する条件が揃っています。

山田錦は食用米よりも高い価格で取引されていますが、高品質を保つことが難しいことから栽培を避ける農家も少なくありません。後で解説する「特A」と呼ばれる山田錦を生産しているのは、古くから酒蔵と産地が連携して品質を高めてきた兵庫県のみです。

その他の産地①:山口県

山口県は兵庫県に続いて山田錦の生産量が多い地域です。山田錦の日本酒で有名な「獺祭」を醸す旭酒造は、山口県岩国市に位置しています。かつて日本酒の生産量が全国的に減少していた2010年代でも、山口県は生産量・出荷量を増やしていました。アジアや欧米諸国への海外市場を開拓し、輸出量を伸ばしています。

また、山田錦の頂点を決めるコンテスト、「山田錦プロジェクト」は山口県・旭酒造の主導のもとで開催されています。

その他の産地②:栃木県

栃木県も山田錦の生産が盛んな地域です。2019年に行われた「山田錦プロジェクト」では、栃木県の農家が育てた山田錦が優勝しています。現在では栃木県の農家約40軒が山田錦栽培研究所に所属しており、高品質な酒米の栽培に力を入れています。

その他の産地③:佐賀県

佐賀県では、銘酒「東一」を醸す嬉野市・五町田酒造が1988(昭和63)年に自ら山田錦栽培への挑戦を始めます。本州の産地とは気候や地質といった条件も異なるなか、さまざまな工夫を重ねて収量・品質を高めていき、1990(平成2)年度の全国新酒鑑評会では、地元産の山田錦を使った酒で金賞を受賞するまでに至りました。

このように長い期間をかけた取組みの結果、現在は佐賀県各地に山田錦の栽培が広がっており、2018年には県の奨励品種にも登録。県を挙げた栽培技術向上の取り組みもなされるようになっています。

山田錦とそのグレード

酒米は特上、特等、一等米、二等米、三等米と格付けされます。これらは「整粒歩合」と呼ばれる、一定量の玄米の中にきちんと形の整った米が含まれる割合や、「被害粒等の割合」と呼ばれる、着色粒など使用できない米が含まれる割合によって分類されます。

山田錦の場合は、この等級制度に加えて「特A地区」という基準が加わります。特A地区とは山田錦を育てるのに適した特定の産地を表す言葉です。夏の気温の日較差が大きく、酒米に必要な栄養素をたっぷりと含んだ豊かな土壌であることが特徴です。具体的には兵庫県の南東部にある播州地域の三木市(吉川町・口吉川町)や、加東市(旧東条町・社町東部)などが挙げられます。

酒米の格付けや特A地区に関する詳細については、こちらの記事をあわせてお読みください。

まとめ

今回は、酒米の王様と呼ばれる山田錦の特徴や系譜、生産地についてご紹介しました。山田錦は酒造好適米と呼ばれる品種のなかでも、特にバランスの良い味わいで鑑評会に向いている品種です。そして酒米の品質は、気候や土壌が大きく影響しています。山田錦の生産が最も盛んな地域は兵庫県ですが、山口県と栃木県で生産される山田錦も高品質であることが知られています。山田錦で造られた日本酒を飲む際は、生産地や銘柄によって異なる味わいを感じながら飲んでみてはいかがでしょうか?

参考文献:
・兵庫県・兵庫県酒米振興会・JA全農兵庫「兵庫県産山田錦 生誕80周年記念冊子
・勝沼直子「兵庫県産山田錦『酒米の王者』であり続ける理由」(ふるさとひょうご133号, 2018)
・木暮 保五郎「酒米の思い出]」(日本釀造協會雜誌, 63巻7号, 1968)
・兵庫県酒米振興会「兵庫の酒米 : 創立50周年記念誌」(兵庫県酒米振興会, 2000)

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