
2025.08
19
日本酒の炭酸割りってアリなの?7本を徹底飲み比べ!
2025年に入って、日本酒業界ではにわかに「サケハイ」(日本酒の炭酸割り)が注目を集め始めました。各蔵元から炭酸割り専用商品がリリースされ、居酒屋チェーンでもメニューに並ぶように。しかし、日本酒ファンほどつい気になってしまうでしょう──日本酒の炭酸割りって、本当に美味しいのでしょうか?
ウイスキーのハイボールや焼酎のチューハイが確固たる地位を築いている一方で、ストレートで飲まれることの多い日本酒の炭酸割りについては「単に薄めただけでは?」「日本酒本来の良さが失われる」といった批判的な声も少なくありません。
今回は、SAKE Street関係者4名で、市販されている炭酸割り用日本酒6銘柄と、専用ではない日本酒数種類を実際に試飲。炭酸割りの方向性や可能性を建設的に分析してみました。
試飲会参加者紹介
この4名の異なる視点から、日本酒の炭酸割りを多角的に検証します。
なぜ、人は酒を炭酸で割るのか?
試飲に入る前に、「なぜ、人々は炭酸を求めているのか?」、つまり、ハイボールやチューハイなどの炭酸割りのお酒が市民権を得ている理由を、参加者の間で整理します。

やっぱり、爽快感じゃないですかね。友達と家飲みするときは、焼酎の炭酸割りをよく飲みますよ。

手軽さも重要なんじゃないかな。炭酸水と氷だけあれば、お酒を冷やしてなくても美味しく飲めるのはラクだよね。

ウイスキーや焼酎に関して言えば、アルコール度数が高いお酒を希釈することで飲みやすくするというのもありますよね。日本酒はスピリッツに比べると度数が低いですが、ビールやサワー派の人には飲みづらいと思うので。

あと、一杯目には炭酸割りがうれしいですよね。逆に、飲み会が進んでくるとお腹いっぱいになってしまうので要らなくなってくるんですが。
炭酸割り用の商品を試飲レビュー!
ここからは、近年「炭酸割りにおすすめ」という売り文句で販売されている商品をみんなで飲み比べ、レビューをしていきます。
爽吟(小山本家酒造 灘浜福鶴蔵)
まずは埼玉県・小山本家酒造が子会社として兵庫県の浜福鶴を傘下に入れた灘浜福鶴蔵の商品。

香りが強烈に華やかだね。協会19号みたいな酵母を使ってるのかな。

ほんのり旨味が残る感じがありますね。

香りがメロンっぽいんですけど、ちょっとハーブや柑橘のニュアンスもあります。

炭酸で割ってみましたが……ストレートで飲んだほうが好みかも(笑)

ちょっと薄まっちゃう感じがしますね。

個人的にはこれ好きだな。甘味と酸味は平均的で旨味はしっかり。炭酸で割ると、香りがちょうどよく広がって、すごくフルーティで爽やかな印象になる。米由来の旨味も感じられるし、ちゃんと炭酸で割った後のことを想定して設計されてる気がする。
炭酸割りでおいしい純米酒(月桂冠)
次に、商品名に「炭酸割り」を冠した月桂冠の意欲作。夏場の期間限定商品で、パック裏の説明では「氷→炭酸水→日本酒」の順序で割ることが推奨されています。

ストレート、めっちゃ美味しいですね。

おいしい割り方は日本酒:炭酸水=1:1だそうです。

うーん、炭酸で割ったら、味が薄くなってしまうような。我々のような酒好きはそのまま飲むのがいいかもしれないですね。

原酒の品質や安定感はさすが月桂冠という感じだけど、炭酸割りとしてはまだまだ進化の余地がありそうだなあ。
大典白菊 吟醸酒 &SODA(白菊酒造)
2022年秋に発売された商品。2種類の酵母と食用米の「朝日」を使用した、アルコール度数18〜19度のかなり濃醇な原酒です。

これは炭酸水を多めに入れるのがいいみたいで、1:2って書いてありますね。

これ、美味しいですね。僕は好きです。

おお、日本酒をそんなに飲まないという小出くんのお墨付きが!

炭酸で割ってもちゃんと味が伸びるタイプのお酒ですね。

逆に1:1だとバランスが崩れるかも。

割ると、低アルコール日本酒っぽいニュアンスがある気がします。アルコール度数11%くらいの。酸味があるからかな。割った時に味が散らずにまとまるのかも。

炭酸で割ることでマシュマロやチョコみたいなニュアンスも出てきますね。
多満自慢 ソーダ割り推奨酒「日本酒ソーダ」(石川酒造)
東京都の嘉泉、澤乃井、多満自慢の3蔵が共同企画したシリーズで、こちらは多満自慢が醸した一本。特定名称は本醸造酒で、こちらも日本酒:炭酸水=1:2の割合を推奨しています。

ストレートは少し酒っぽさというか、アルコール感がありますね。

日本酒初心者としては、ちょっとにおいが苦手かもしれません……。

これはある意味個性だと思うんだけど、炭酸で割ると、この癖がさらに前に浮き出てくるのが面白い(笑)。

私は好きですけどね。でもこういうのって、レモンがうまく働くんですよ。

あ、飲みやすくなりました。日本酒って、飲み方によってぜんぜん変わりますね。
専用ではない日本酒を割ってみよう
ここからは炭酸割り専用ではないお酒でも試してみます。家で日本酒をよく炭酸割りにするという木村さんオススメの2本と、酒ストで取り扱っているお酒を試してみました。
麒麟山 伝統辛口(麒麟山酒造)
新潟の飲食店には、「麒麟山サワー」がよく置いてあるのだそう。蔵の推奨は1:1で割り、レモン1切れを浮かべる飲み方です。

割ってもしっかり旨味が残ってる!

そうなんです! ちゃんと日本酒らしい味がしますよね。

炭酸割りなのに、普通に「日本酒」として美味しい感じがします。

辛口なのに炭酸割りだとストレートよりも不思議と柔らかさが出るね。

もともと口あたりがソフトなので、まろやかに伸びるのかもしれない。

レモン浮かべても全くケンカしないというか、馴染んでくれますね。

これ、すごく好きで、新潟に行くたびにずっと飲んでたので、みんなに共感してもらえて嬉しいです(笑)
極上黒松剣菱(剣菱酒造)
灘五郷の酒蔵の日本酒が楽しめる「灘五郷酒所」では、兵庫県・剣菱酒造の「極上黒松剣菱」をハイボールにして出しているのだとか。

うまいですね!まろやかさが長続きするお酒って炭酸で割っても美味しいなって感じますね。麒麟山とか、この剣菱とか。

剣菱は、炭酸で割っても全然剣菱なんですよ。焦げっぽいニュアンスとか渋みとか、ぜんぶ液体の中にしっかり入ってきてる感じがする。

でも、喧嘩してないよね。ちゃんと炭酸と調和してる。旨味が強く残るからペアリングでもポテンシャルありそう。
舞美人 純米酒 MYVY (美川酒造場)
最後は、酒ストから福井県・美川酒造場の舞美人。酒粕を再発酵させるという特殊な製法で、濃醇な酒質と強い甘味と酸味が特徴です。

お、これ美味い!割っても全然バランス崩れない。

すごいですね。酸味が強いから、爽やかに飲めます。

リンゴ酢を炭酸で割ったみたいな感じですね。

酸味はやっぱりポイントになるね。ジュース的な美味しさを目指すならこういうのがいいんじゃないかな。
トニック割りとペアリングに挑戦!
ここからは発展系として、トニック割りとペアリングを試してみました。ここまで出てきたお酒を使ってみます。

炭酸割りの課題は「味が薄まる問題」だと思うんだけど、これを解決する一つのアイデア。トニックウォーターはもともと柑橘やハーブの味があるから、ただ薄まるんじゃなく新しい味になるんじゃないかな。

爽吟はハーブっぽいニュアンスがトニックの香りと調和しますね。

剣菱にトニックはダメでした。すごい“遺伝子が強い”というか、喧嘩してる感じがする(笑)

麒麟山も同じ感じだね。せっかくのお酒の個性や良い部分が消されちゃう。

ソニック割りにしてみましょうか。ソーダ(炭酸水)とトニックを半々にする割り方です!

お、これだとちょうどいいですね。日本酒の個性も残しつつ、薄くなりすぎない。ソニックいいかも。

続いてはペアリング実験。日本酒の炭酸割りが「気軽に飲める」酒として位置づけられるなら、同じく気軽なおつまみの代表であるコンビニのチキンやポテトチップスに合うんじゃないかと。

ダメだ……どれも壊滅的に合わない。ジャンク系は向いてないなあ。

そもそも料理に合わせようとして飲む感じじゃないのかもしれないですね。

確かに。チューハイやハイボールも「ペアリング」ってより、酒で口の中を洗い流してリセットさせる感じだしなあ。それであれば無理にペアリングを考える必要はないのかな。

でも日本酒の炭酸割りはうま味がほのかに残るから、薄味の和食なら合いそうじゃないですか?

ああ、それは合うかも!いずれにしろ、食事との相性をもっと突き詰めて考えた商品が出てきたらおもしろいのにな。
炭酸割りに向く日本酒の条件とは?
成功する条件
これらのテイスティングを通じて、炭酸割りに向く日本酒のポイントは以下の3点にまとめられます。
1. 濃醇さ
結論として、味が濃いお酒の方が概ね評価が高くなりました。希釈されても味が薄まらない、味の要素の多い酒が適しています。大典白菊や剣菱のような、アルコール度数が高めで旨味の詰まった酒が好評でした。2. 酸味の強さ
味の要素の中でも、MYVYのように酸味の強いお酒は、炭酸で割ることでより爽やかになります。3. 香りの強さ
爽吟のように香りが強い酒は、炭酸で割ると香りが広がり、新しい魅力になります。酔いが回ってから炭酸割りを飲むと、こうしたタイプのほうが飲みやすく感じるという興味深い発見もありました。
味わい設計の方向性
炭酸割り向けの商品は、ふだん日本酒を飲まない人に日本酒を飲みやすくするための取り組みでもあるはずです。しかし、今回の参加者は日本酒好きが多かったとはいえ、普段飲まない小出くんと愛好家の間にそれほどの大きな評価の違いはありませんでした。
日本酒愛好家はストレートの味わいに飲み慣れているので、「炭酸割りは薄くなってしまう」という印象を持ちやすい傾向があります。そのせいか、味わいのしっかりしたお酒を炭酸割りにするか、日本酒とはまったく違う商品として押し出すかのどちらかに振り切ったほうが高く評価されることがわかりました。
それを踏まえて、今後、日本酒の炭酸割りが目指す方向性は以下のようなパターンが考えられます。
1.日本酒らしさを残すアプローチ:
日本酒本来の旨味やコクを適度に残しつつ、炭酸で飲みやすさを加える方向性です。割ったときに輪郭がぼやけないよう、濃醇でしっかりとした味のあるお酒を選ぶと良いでしょう。2.ジュース的な味わいのアプローチ:
チューハイのようなジュース的な味わいを目指すなら、酸味の強いタイプを。また、炭酸水にこだわらず、トニックウォーターやサイダーなどを使うのも良いでしょう。3.フレッシュで淡い味わいのアプローチ:
日本酒の味を残すことにこだわらず、フレッシュで淡い味わいのドリンクを目指すなら、淡麗なタイプでも問題ありません。ただし、香りは華やかなほうが、より完成度は上がりそうです。
おわりに
炭酸割り専用として設計された商品には期待したいものの、現時点では、味わいの方向性が明確に定まっている商品と、そうでない商品が混在している印象もあります。業界としては、単に炭酸割りを促すのではなく、「本当に美味しい炭酸割り用の日本酒とは何か」を考えて開発に取り組む必要があります。
また、これから消費者に評価されることで、味わいの基準が形成されていくでしょう。今後、炭酸割りがどんな展開をしていくのか楽しみです。
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