知っているようで知らない酒粕の世界:味わいの違いから使い方、保存方法まで酒粕マニアが解説!

2024.02

06

知っているようで知らない酒粕の世界:味わいの違いから使い方、保存方法まで酒粕マニアが解説!

木村 咲貴  |  日本酒を学ぶ

日本酒を造る工程で生産される酒粕。かつては家庭で日常的に使われる食材でしたが、近年はニーズの減少による廃棄が問題視される一方、栄養価の高さなどが再評価され、利活用する新しい動きも出てきています。

そんな酒粕を誰よりも愛するのが、管理栄養士の資格を持ち、現在、新潟大学大学院の日本酒学プログラム博士後期課程に在籍する「さけかす子」さんこと志村茉里さんです。

「酒粕は日本酒と同じくらい多様性があって美味しい!」と豪語するさけかす子さんに、その奥深さについてお話していただきました。

さけかす子(志村茉里)
管理栄養士。東京農業大学 農学研究科 食品栄養学専攻を卒業後、社会人を経て新潟大学 大学院 日本酒学プログラム 博士後期課程に在籍。
東京農業大学在籍中に酒粕に出会い、その美味しさと栄養価の高さに感動。現在は、新潟大学にて酒粕の機能性成分の研究に従事するかたわら、酒粕を通じて「食べて心も体も喜ぶ食事」を伝えたいという思いから、酒粕カフェや研究会を主催している。

美味しい日本酒の酒粕は美味しい

酒粕との出会いは、東京農業大学に通っていた学部生時代のこと。甘いもの、特に生クリームが大好きだったさけかす子さんは、ニキビなどの肌荒れに悩まされていました。

「我慢せずに食べたいけど、太りたくないと思っていたときに、東京農大の先輩に教えてもらって酒粕を知りました。クリームみたいで濃厚なのにヘルシーなところに惹かれたんですが、東京農大の大学院に通っていたころは、お金も時間もないので酒粕甘酒を主食にしていたほどです」

これまで食べた酒粕は100種類以上。 さまざまな健康的機能も知られる酒粕ですが、好きないちばんの理由は「美味しいから」だと断言します。

「酒粕はいろいろな用途に使えますが、好きなのはそのまま食べて美味しいもの。ほんのりした甘さとほどよい酸味があって、苦みが少ないものが好きです。

酒粕の味が酒蔵によって違うことを知るきっかけになったのは、山形県・楯の川酒造の酒粕でした。もともと楯野川の日本酒が好きだったんですが、酒粕があることを知ってお取り寄せしたところ、今までの酒粕とまったく違う味がして、『美味しい日本酒の酒粕は美味しいんだ』と衝撃を受けたんです。

楯の川酒造の酒粕は、ほとんど食用として売られていて、供給が追いつかないほどだそう。いろいろな酒蔵で酒粕を買っていますが、ほかの酒蔵さんからは聞いたことがないような話です」

酒粕タイプ別おすすめの使い方

「酒粕には、日本酒と同じくらい多様性がある」と熱弁するさけかす子さん。まず、形状は大きく分けて4タイプあるといいます。

「もろみの搾り方によって、酒粕の形状が変わるのですが、それによって味わいや使い方も異なってきます。

一つ目は、板状の板粕。藪田式などの圧搾機で強く搾っているので、味わいもチーズのように濃厚なものが多いです。シチューなどの濃厚な料理に入れるほか、ヴィーガン向けのチーズとしておすすめのタイプです。

二つ目は、バラ粕。槽搾りなど、圧をかけすぎずに搾っているので、板粕よりもゆるめです。甘味や日本酒らしい香りが残っていて、そのまま食べても美味しい。甘酒にはバラ粕がおすすめです。

三つ目は、ペースト状になった練り粕。タンクの中に酒粕を溜めて、足で踏み込むことから、『踏み込み粕』とも呼ばれています。熟成をともなうので酒粕らしいクセが出ているものも多く、料理やお菓子作りにちょっと入れると、コクや風味が出ます。

最後は、私が勝手につけた名前なんですが(笑)、ゆる粕。袋搾りやはねぎ搾りなど、圧をかけずに搾ったお酒の粕で、ゆるゆるなんです。フルーティなものや甘みの強いものが多く、少し加熱してドレッシングなどに入れています。アルコール分がかなり残っているのでお酒弱い人は注意が必要です」

酒粕の4つのタイプ

タイプ主な搾り方特徴おすすめの使用方法
板粕圧搾機濃厚濃厚な料理に入れる、ヴィーガンチーズとして食べる
バラ粕槽搾り甘み、香りが強いそのまま食べる、甘酒にする
練り粕(踏み込み粕)搾った後にタンクで熟成させる熟成感がある料理やお菓子の風味づけに入れる
ゆる粕袋搾り、はねぎ搾りフルーティ、アルコール分が残っている加熱してドレッシングにする

味わいも、フルーティなものから濃厚なもの、苦味の強いものまでさまざま。スーパーマーケットなどで売られているものと、酒蔵が直売しているものについては、「スーパーの酒粕も美味しいですが、酒蔵で買うと鮮度の良いものが手に入ります」と教えてくれました。

酒粕の熟成と保管

開けたての日本酒にまだ味が乗っていないことがあるように、搾りたての酒粕もあまり味がしないことがあるそう。

日本酒と同じで、酒粕も少し寝かせた方が甘みが出て美味しくなります。米粒が酵素によって消化されるためです。気温によっても異なりますが、20度くらいの冷暗所で1週間ほど置いておけばかなり味わいが乗ってきます」

上記4タイプの中でも熟成に向いているのは板粕

「好みもありますが、密度が高いので、寝かせることで濃厚になっていきます。ゆるめの粕も熟成できますが、ものによっては水分が出てシャバシャバになってしまうことも。寝かせて茶色くなった酒粕は、煮込み料理などに入れると美味しいですよ」

さけかす子さんがこれまで自分で熟成させたものは2年半、購入したものは10年ものが最長とのこと。自分で寝かせるときは、より保管性の高いホーローの瓶に詰めて常温で保管します。取材時に見せてもらったものは、1年半ほど熟成をかけたものでしたが、味噌のように濃い茶色になっていました。

酒粕の保管の大敵は日光と酸素なので、酸素がなるべく入らないようにして、冷暗所などの光が当たらない場所に置いておきます。『酒粕で冷蔵庫がいっぱいになってしまう』と聞くことがありますが、常温で保存しても大丈夫。冷凍すると熟成が止まり、味がキープできるので、美味しく熟成した時点で冷凍庫に入れるのがベストです」

最近、酒粕用の冷蔵庫を購入したというさけかす子さん。冷蔵庫で保管するにあたって、スペースが足りないこと、ほかの食べ物のにおいが移ってしまうことが悩みだったと話します。

酒粕は長持ちはするんですが、においを吸ってしまって美味しくなくなってしまうことがあります。販売時の梱包は酒粕から出るガスを抜くための気孔が空いていることが多いので、ジップロックを二重にしたものに入れ替えましょう。冷凍庫は特ににおいが移りやすいのですが、袋の上からアルミホイルを被せると酸素を通しにくくなります」

酒粕の保管のポイント
・常温での保管もOK
・空気に触れないよう、ジップロックや瓶に密閉する
・日光に当たらないよう、遮光できる容器か冷暗所で保管する
・味をキープしたいときは冷凍庫へ
・冷蔵庫や冷凍庫はにおいが移りやすいので、袋を二重にするなどの対策をする

普段の食事に酒粕を取り入れる

現在、社会人学生として新潟大学大学院で酒粕の成分を研究しているさけかす子さん。「食べたからすぐ健康になる、というようなものではない」と念を押しつつも、その詳細を教えてくれました。

酒粕の食物繊維はごぼうと同じくらい多いので、お通じが改善したという話はよく聞きます。タンパク質は蒸し大豆ほど含まれていますが、『畑の肉』と呼ばれる大豆と同じということは、植物性の食品の中でもトップレベルで多いということ。また、マウスを使った実験によると、酒粕粉末や酒粕発酵物を用いた動物実験では、血中コレステロールや中性脂肪の低下、肥満抑制作用なども報告されています(※)。太りにくくなるというのは、私自身の体感としても感じることです」

健康作用については明言できない部分も多いですが、普段の食材を酒粕に置き換えることで、よりヘルシーな食生活を心がけることは可能です。

酒粕はチーズの代わりになります。チーズは動物性の脂質が多いですし、塩分もたくさん含まれているので、健康が気になる人は酒粕に置き換えるのもおすすめです。チーズも発酵食品で、チーズの場合は固体のほうを残して、液体部分の乳清(ホエー)は捨てるので、作り的にも酒粕と共通するんですよね。

健康のためにチーズを控えたい人や、体質的にチーズを食べられない人には、酒粕は良い代替品になります。海外ではヴィーガンの人が多いですし、植物性のヘルシーな食べ物として広められるのではないかと感じています」

生クリームが大好きだったさけかす子さんが、濃厚でクリーミーな酒粕に魅了されたように、乳製品が好きな人は酒粕を好きになる可能性が高いのではないでしょうか。

※参考文献:渡辺敏郎. "健康と美容に貢献する 「酒粕」 の成分." (2012): 282-291./Kubo, Hisako, et al. "Sake lees extract improves hepatic lipid accumulation in high fat diet-fed mice." Lipids in Health and Disease 16.1 (2017): 1-10./持田和美, et al. "ラットのコレステロール代謝改善効果を有する酒粕粉末の調製." 日本食品科学工学会誌 47.2 (2000): 78-84.

「酒粕って難しそう」とお悩みの人におすすめの食べ方

栄養が豊富な酒粕だからこそ、「健康を意識した取り入れ方をしてほしい」とさけかす子さんは話します。

「例えば、お菓子作りに使うにしても、たっぷりの砂糖を入れたケーキにしてしまうなら、健康には結びつきません。自然な甘味と香りのある酒粕を使えば、砂糖の量を減らすこともできます。ちなみに焼き菓子に入れると、しっとりとした食感に仕上がるという良さもあるんですよ。また、酒粕を使った甘酒は甘さが控えめに仕上がるんですが、砂糖ではなく米麹の甘酒で甘味をプラスするのがおすすめです。

また、量を消費したいときは、お肉を酒粕と味噌を混ぜたものにしばらく漬けてから焼くと良いですよ。焦げないよう酒粕を剥がしてから焼くことになるので、酒粕を食べたい私としてはちょっともったいなく感じるんですが(笑)、お肉がやわらかくなるし、旨味もアップしておいしくなります」

最後に、酒粕を手に入れてもどう使えばいいかわからないという人のためにアドバイスをもらいました。

「新酒の時期は、新しい酒粕もどんどん手に入ります。手に入ったら、とりあえずアルミホイルに広げてトースターで焼いてみてください。焼き酒粕は、手っ取り早く酒粕を美味しく食べられる方法。こんがり焼くとチーズそっくりになりますし、酒粕の魅力に気づいてもらえるんじゃないかと思います。

また、酒粕はそのままだと扱いにくいので、料理に使うときは水を混ぜて少しやわらかくしてみてください。それさえできれば、いろいろな料理に使いやすくなりますよ」

酒粕愛にあふれたさけかす子さんのお話を聞いていると、酒粕も、日本酒と同じくらい多様性と未知の美味しさにあふれていることがわかります。酒蔵にとっては、処分の悩みの種である酒粕。酒蔵にもうれしく、環境にも優しく、自分にとっても美味しい三方よしの酒粕をぜひ使いこなせるようになりましょう!

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