2020.07

17

日本酒の「表示義務のない添加物」ってなに? - 米、米麹、水「以外」の原料・資材を学ぶ

二戸 浩平  |  日本酒を学ぶ

日本酒の原料として、よく知られているのは米と米麹、それに加えて水です。これ以外の原料として、槍玉にあがることの多い「醸造アルコール」だけでなく、近年いくつかの蔵が不使用を掲げている「表示義務のない添加物」など、日本酒造りに使われる原料や資材には想像以上にさまざまなものがあります。

今回の記事では、日本酒造りに使われるさまざまな原料について、成分や使用目的、使用にあたっての法的な規定を解説してみます。「なぜそれが使われているのか」を知ることで、それを使っているお酒の価値も、使っていないお酒の価値も、自分なりに正しく判断できるようになると思います。

表示義務があり、添加物とみなされるもの

はじめにラベルへの表示義務がある添加物として、醸造アルコール、糖類、酸味料の3種類をご紹介します。スーパーなどでパック酒やカップ酒を購入すると、ラベルにこれらの文字が見られることが多いと思います。(上記の3種以外に「アミノ酸」も添加が認められていますが、筆者はアミノ酸添加の日本酒を見たことがないため今回は割愛します。)

この3種の添加物は、日本酒の品質を示す指標として考えられることも多い「特定名称」と関係します。具体的にはアルコール添加を行った酒は、「純米」とつく特定名称を名乗ることができません。糖類または酸味料を添加した酒は、特定名称を名乗ることはできず「普通酒」として扱われます。

醸造アルコール

添加物として一番有名なのは「醸造アルコール」でしょう。「本醸造」などの純米系ではないお酒(アルコール添加のお酒、いわゆる「アル添」)に使われている原料で、「悪酔いの原因になる」「まがいものである」などさまざまな悪評がついてしまっています(※1)。

(※1)これらの悪評とその真相については、以下の記事で解説しています。
アル添は悪?日本酒の「醸造アルコール」を正しく理解しよう

醸造アルコールを添加する目的は、主に以下の3つです。

1.香りを立たせる
アルコールを添加すると、醪の固形成分(酒粕になる部分)から、液体部分(清酒になる部分)へと香気成分が移る効果があります。これにより、アルコール添加を行うことで、より香り高い酒を造ることができます。

2.キレを良くする
甘味のある酒は、「ベタベタする」と言われるように口の中に甘さが残る場合がありますが、アルコールを添加することでこうした味が口の中に残りにくく = キレが良くなります。

3.アルコール度数を上げる
発酵によって発生するアルコール量には限度がありますが、アルコール添加を行うことで、さらにアルコール度数を引き上げる効果があります。

4.保存性を高める
アルコールを添加することで、「火落ち」と呼ばれる劣化の原因となる火落菌の増殖を抑える効果があります。

この醸造アルコールとして主に使われているのは、サトウキビを原料とした糖蜜から作られた蒸留酒(甲類焼酎と同様の製法)で、純粋なエチルアルコールに近いものです。缶チューハイのベースになっているアルコールと同じもの、と理解していただくのが分かりやすいでしょう。一部の酒蔵では、自家製造した米焼酎をアルコール添加に用いているところもあります。また、国産米を原料にした醸造アルコールを販売するメーカーもあります。認められている添加量は、特定名称酒の場合は白米重量の10%(アルコール濃度95%換算)までです。

なお化学的に精製(合成)されたものをイメージされる方もいるようですが、これは誤りです。

糖類

次は糖類について見てみましょう。使用目的は分かりやすく、甘味の調整です。日本酒の甘味については、香りや酸味、アルコール度数といった要素とうまくバランスがとれている必要があります。このバランスを実現するため、糖類を添加することがあります。

なお、前述した醸造アルコールも同様ですが、使用する原料については醸造前に税務署への申告が必要です。そのため甘味の調整といっても、「甘味が足りなかったから加える」というものではなく、他に使用する原料や製造方法の都合上、最後に甘味のバランスをとるために糖類を添加することを、あらかじめ見越して酒造りを行っています。

糖類というと砂糖が思い浮かびますが、日本酒造りに使われる糖類は主にぶどう糖 と水あめです。ともに、コーンスターチなどのでんぷんを酵素の力で液化、糖化した後に不純物を取り除き、濃縮した純粋なぶどう糖・水あめが使われています。

酸味料

日本酒の酸味を構成する成分は、主に乳酸、コハク酸、クエン酸そしてリンゴ酸の4種の有機酸です。これらは発酵の過程で生み出されるため、純米酒にも含まれている成分ですが、酸味の調整のために添加物として加えられることもあります。

たとえば乳酸は、発酵により作られた後、科学的な製法で濃縮・精製されているものと、化学的合成により作られているものがあります。クエン酸はサツマイモデンプンを発酵させて精製しているものが多いようです。

味の(主に甘味との)バランスをとるために使われること、醸造前に使用の申請が必要であり、あらかじめ添加を見越した酒造りを行うことは糖類と同様です。

表示義務はないが、添加物とみなされやすいもの

日本酒造りに使われる原料や資材のうち、ラベルへの表示義務がないものには、以下の2種類があります。

  • 原料の一部や、発酵過程で生成される量と差がないとみなされる等の理由で、酒税法上「酒類の原料として取り扱わない」こととされているもの(※2)
  • 濾過等によって商品に残存しないため、食品衛生法上の「加工助剤」として扱われるもの

このうち、前者に該当する「酵素剤」や、後者に該当する「活性炭」は添加物として批判の対象になることも多いようです。まずはこの2つについて解説します。

(※2)酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第2編 第3条(共通事項)7

酵素剤

日本酒造りにおいて、米のでんぷんを糖に分解するためには主に麹が持つ酵素の力が使われています。

参考:日本酒造りの要! - 麹造りのプロセスと香味への影響を学ぶ

この酵素の一部を補うために使われているのが「酵素剤」です。麹ではなく、あえて酵素剤を使う目的には以下の2つがあります。

1.品質の安定化
麹造りは、酒造りの中でも最も重要と言われる工程ですが、それは造り方によって酵素量のバランスなどが変わり、酒の味わいへの影響が大きいためです。

たとえば、ペプチド(たんぱく質が分解されたもの)をアミノ酸に分解する酵素である酸性カルボキシペプチターゼ活性は、麹の場合1gあたり926〜7,416と大きな幅があります(※3)。一方、酵素剤は酸性カルボキシペプチターゼをほとんど含んでいません。

(※3)醸造用資材規格協議会編『日本酒用資材Q&A』p.39, 66(日本醸造協会, 1999)

アミノ酸は、日本酒に含まれる量が多すぎる場合「雑味」とみなされる場合があります。アミノ酸量の少ない酒を造る場合に、麹の一部を酵素剤で代用する、などの使い方が考えられます。

2.合理化、省力化
三段仕込みのうち一部の工程や、後述する「四段掛け」に使う麹の代わりに使うことで、丸2日程度の作業を要する麹づくりの頻度を下げることができ省力化が可能になるだけでなく、社員の勤務体制を週休制にするなど合理化することにもつながります。

なお、酵素剤を使う目的は「コスト低減」にあると考えられる場合も多いのですが、原料としての原価を考えた場合には、麹の代用をするにはむしろ高コストになってしまうようです。では、なぜ酵素剤はコストとの関係で語られる場合が多いのでしょうか?

「四段掛け」といって、三段仕込みを終えたもろみの発酵末期に、さらにもう一段の仕込みを行うことで酒の甘味を補う方法があります。この四段掛けには、かつては蒸米と米麹に、お湯を加えて糖化させ甘酒のようにしたものを加える「甘酒四段」、もち米を蒸して熱いまま加える「もち米熱掛け四段」などの方法が主に使われていました。現在では、蒸米を酵素剤とお湯で溶かして加える「酵素四段」という方法が広く使われるようになっています。この「四段掛け」は、アルコール添加等と組み合わせることで酒の増産につながるため、この文脈で酵素剤とコスト低減が関連づけられているものと思われます。

上記のような目的で使われていることが分かっても、聞き慣れず化学的なイメージのある「酵素剤」という響きがなんとなく気持ち悪い、と思われるかもしれません。そこで酵素剤とはどういったものなのかについても見てみましょう。

麹が持つ酵素はカビの一種である麹菌が生産しているものですが、酵素剤も同様に、カビが生み出す酵素を使っています。目的とする酵素バランスを実現できるように菌株を選定し、培養条件を整え、酵素を生産させるのです。菌が十分に酵素を生産した後、酵素を抽出・濃縮・精製して粉末化、または液状のまま安定化剤を加え、酵素活性を調整するために糖類等を加えて酵素剤とします。

このような方法で造られている酵素剤ですが、使用量は仕込み総米の1000分の1以下までに制限されています。

活性炭

活性炭とは文字通り「炭」で、オガ粉やヤシガラ等を高温で処理することで製造されています。加工助剤として使われる活性炭も、イメージの悪い資材と言えるでしょう。活性炭を入れた、濾過前の酒が持つ黒い色や、活性炭の量が多かった場合などに生じる「炭臭」と言われる香りが、こうした悪いイメージを作っているようです。

活性炭には、微細な隙間がありさまざまな成分を吸着する効果があります。こうした特性を活かして、以下のような目的で使われています。

1.色を透明にする
活性炭は、熟成酒に特徴的な着色成分であるメラノイジンを良く吸着します。そのため、黄色〜褐色の色味が抑えられ、透明感が増します。

2.異臭を取り除く
上槽などの工程でつく、袋臭やゴム臭、カビ臭などの香り成分を吸着し、そうした香りを抑える効果があります。一方、吟醸香の成分も吸着されてしまうため、フルーティな香りも感じにくくなってしまいます。

3.雑味を取り除く
一部の苦味成分などを吸着するため、雑味を感じにくくなります。なお、日本酒度、酸度、アミノ酸度、糖分及びpHは活性炭処理ではほとんど変化しません。

4.保存性を良くする
熟成による色や香味の変化や、「火落ち」や「蛋白混濁」と呼ばれる劣化を引き起こす成分が減るため、保存性が良くなります。

5.腐造酒等の矯正
健全な発酵が進まない「腐造」や、火落菌による汚染が起こる「火落ち」と呼ばれる現象が起きた場合に、他の矯正方法とともに活性炭が使われる場合があります。

活性炭は、濾過時にすべて取り除かれており、清酒の中には残らないため、加工助剤として表示義務がありません。

表示義務がなく、添加物とみなされにくいもの

酵素剤や活性炭と同じく表示義務がない原料や資材でも、酵母や醸造用乳酸などは「添加物」とみなされにくい、少なくともこれらを添加したお酒を飲むことを避ける人は少ないように感じます。これらの原料・資材について解説します。

酵母

酵母は麹菌とあわせて、日本酒造りの要となる微生物で、糖をアルコールに変える働きをしています。日本醸造協会などの機関や、自社で培養した酵母は、酒税法で原料として取り扱わないことになっています。酵母を分離、培養して添加する技術は明治時代後半から開発され、次第に普及していきました。現代ではごく一部「酵母無添加」の日本酒がありますが、ほとんどの日本酒は酵母を添加することで発酵させています。

参考:実は味の決め手?日本酒造りに使われる「酵母」を学ぶ

醸造用乳酸

多くの日本酒は、「酒母」を仕込む際に醸造用乳酸を添加しています。乳酸は、酒造りのスタートにあたる酒母を酸性の環境にすることで雑菌の繁殖を防ぎ、酵母が健全に育ちやすいようにしてくれます。「速醸」と呼ばれるこの方法は、明治時代に編み出されて大正時代に普及して以来、現在に至るまで日本酒造りの主流です。「生酛」「山廃」などと表記されていない日本酒の場合には、この方法がとられています。

醸造用乳酸の製法には発酵法と合成法がありますが、発酵法の場合にもエステル化などの化学的な製法が使われているため、食品衛生法上は「化学合成品」という扱いになり、その点においては大差ありません。醸造用乳酸も、酵母と同じく酒税法で原料として取り扱わないことになっています(酒母に含まれる乳酸の量は、速醸の場合よりも生酛・山廃の場合の方がむしろ多くなっています)。

乳酸菌

精製された乳酸の代わりに培養した乳酸菌を添加し、それが生み出す乳酸によって酒母を酸性にする方法もあります。この方法をとっている日本酒は少なく、「酸基醴酛」「乳酸菌添加仕込み」「生酛速醸」など酒蔵によってさまざまな名前で呼ばれています。

仕込み水への成分調整

日本酒造りに使われる「仕込み水」には、発酵を促す成分が不足している場合、その成分を補うために添加物を加えることが認められています。具体的な内容を過去の記事から引用します。

日本酒の醸造用水には、酵母の増殖に必要となるカリウム・マグネシウム・リンの3種が「必須無機塩分」として必要になります。これらを補うため、醸造用水には塩化マグネシウム、酸性リン酸カリウム等の添加が認められています。これらの物質が醸造用水中に不足している場合、添加を行うことで発酵を促進する効果があり、その促進に有効な量に限って添加することができます。
参考:日本酒の8割は「水」- 軟水・硬水の違いと日本酒の味わいへの影響を学ぶ

仕込み水の成分は蔵によって異なっており、上記の成分調整とは反対に鉄分等を取り除く措置がとられるケースもあります。そうした背景もあり、成分調整が添加物とみなされることは少ないように感じます。

まとめ

米と米麹、水から造られるのが基本となる日本酒ですが、さまざまな原料・資材が使われていることが今回の記事で分かったと思います。消費者の目線でこれらのうち、どれを使用することに抵抗を感じるかは人によって異なるのではないでしょうか。酵母を除いては使用に抵抗を感じるという方もいると思いますし、反対に自然な乳酸菌を活かした生酛・山廃造りの酒が持つ味わいに苦手意識を持つ方もいるでしょう。

日本酒の誕生から現代に至るまで、さまざまな技術が開発されてきました。「表示義務のない添加物を使用しない」という制約のなかで、美味しい酒を造りあげる酒蔵の技術は素晴らしいものだと思います。一方で「美味しい酒を造るために、使える技術は全て使う」という酒蔵があっても良いと筆者は考えています。重要なのはどの原料を使っているか、使っていないかではなく、そこにどんな哲学があるか、ではないでしょうか。添加物について知ることで、それを否定するのではなく、それぞれの蔵の商品へのこだわりを応援する材料としてくれる人が増えれば嬉しく思います。

参考文献
醸造用資材規格協議会編『日本酒用資材Q&A』(日本醸造協会, 1999)

話題の記事

人気の記事

最新の記事