2020.02

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日本酒の8割は「水」- 軟水・硬水の違いと日本酒の味わいへの影響を学ぶ

瀬良 万葉  |  日本酒を学ぶ

日本酒の主な原料は「米」「米こうじ」「水」の3つですが、この中で一番多く使われているのは「水」。日本酒は、その約8割が水でできているのです。

日本酒造りでは、お酒の原料として使われる以外にも洗米や割水等、幅広い用途にたくさんの水が使われ、必要な水の総量は米の総重量のなんと約50倍にも上ります。水は、美味しい日本酒造りに欠かせない存在なのですね。

これほど多く使われるわけですから、水の性質が日本酒の風味に与える影響は小さくありません。今回は、水と日本酒の関係について学んでみましょう。

軟水・中硬水・硬水の違い

水の性質を表す指標の一つに「硬度」があります。硬度は、水に含まれるミネラル成分のうち、カルシウムとマグネシウムの合計含有量を示す指標です。このミネラル含有量が比較的少ない水を「軟水」、中程度の水を「中硬水」、多い水を「硬水」と呼びます。ミネラルウォーターのラベルでも、「軟水」や「硬水」といった表示を見かけることがありますね。

軟水・中硬水・硬水は、どのような基準で分けられているのでしょうか。分類基準は国ごとに多少の違いがありますが、WHO(世界保健機関)の水質ガイドラインでは、以下のように定められています。

軟水   : 硬度0 - 60未満
中硬水  : 硬度60 - 120未満
硬水   : 硬度120 - 180未満
非常な硬水: 硬度180以上

硬度によって、水の味わいも違います。軟水は口当たりがまろやかで無味に近く、硬水はほのかに苦味を感じます。日本には軟水が多いので、軟水のほうを「飲み慣れた味」と感じる人が多いかもしれません。

水の硬度の違いが日本酒の味わいに与える影響

水の硬度の違いは、日本酒の味わいにどのような影響を与えるのでしょうか。軟水で仕込んだお酒と硬水で仕込んだお酒、それぞれの特徴を比べてみましょう。

軟水で仕込んだ日本酒の特徴

ミネラル含有量の少ない軟水で造った日本酒は、水そのものと同じように、口当たりまろやかに仕上がる傾向があります。軽やかでやわらかいイメージを感じさせる、繊細で淡麗なお酒になります。

硬水で仕込んだ日本酒の特徴

ミネラルが豊富に含まれた硬水で日本酒を造ると、旨味とキレが生まれます。しっかりと存在感のある、濃厚で辛口のお酒に仕上がりやすくなります。味わいのバランスとしては、きれいな酸味が際立つ傾向にあります。

銘酒を造る水の硬度

水の硬度が日本酒の味わいに与える影響を知ると、「有名な日本酒はどんな水でできているのだろう?」という疑問が湧いてくるのではないでしょうか。ここでは、特に名高い日本酒の産地について、仕込みに使われている水の硬度をご紹介します。

灘:硬度100前後

灘の日本酒に使われる水は「宮水」と呼ばれ、腐敗を招きづらい「強い水」として江戸時代から有名でした。宮水は上記の区分で言えば硬水にかなり近い中硬水です。

豊富に含まれるミネラル成分のおかげで酵母の活動が活発になり、輪郭のはっきりした辛口のお酒 に仕上がります。このような味わいの特徴から、灘の日本酒は 「男酒」 と呼ばれることもあります。

伏見:硬度80前後

日本酒の銘醸地として、灘とよく対比されるのが伏見です。伏見で酒造りに使われる水は「御香水」という名を持ちます。灘の宮水よりも硬度が低めで、分類としては軟水に近い中硬水です。

水に含まれるミネラル成分が比較的少ないことから発酵がゆっくり進み、きめ細やかでやわらかな味わい になります。こうした性質を持つ伏見の日本酒は、「女酒」 とも呼ばれています。

広島西条:硬度30前後

広島の水は、伏見よりずっと硬度の低い軟水です。以前は、このような硬度の低い水では日本酒造りが難しいとされていました。しかし明治31年(1898年)に、広島の酒造家・三浦仙三郎によって「軟水醸造法」が生み出されて以来、広島は灘・伏見と並ぶ酒どころとして知られるようになります。

軟水醸造法では、厳密な温度・湿度管理による雑菌汚染の少ない麹造り、当時としては低温での発酵による野生酵母の繁殖抑制、使用器具の滅菌・乾燥による微生物汚染の防止により、淡麗で香り高い日本酒を造ることができます。この醸造法を、現代でも人気の高い「吟醸酒」の発祥として位置付ける研究もあります。

参考:広島国際学院大学研究報告 第49巻「広島発の秀逸バイオ技術,軟水醸造法の水質化学的および微生物学的要点」佐々木 健, 佐々木 慧 (2016)

水質に関する酒蔵での工夫(フィルター、成分調整等)

酒蔵では、美味しくて安全な日本酒を造るため、毎年水質の検査を行うとともに、目指す酒質に合う水を使えるように努めています。具体的には、日本酒造りに使う水には以下のように水道水よりも厳しい水質基準が定められています。

醸造用水として備えるべき条件
色彩 : 無色透明であること
臭・味 : 異常のないこと
: 0.02 ppm以下で、検出されないのが望ましい
マンガン : 0.02 ppm以下であること
亜硝酸性窒素 : 検出されないこと
pH : 中性または微アルカリ性
アンモニア性窒素 : 検出されないこと
細菌酸度 : 2 mL以下であること
生酸性菌群 : 検出されないこと
大腸菌群 : 検出されないこと

(出典:日本醸造協会『酒類総合研究所標準分析法注解』
※ これ以外に、毎年の水質検査で食品衛生法に関する厚生労働省告示第 482 号に基づく食品製造用水の基準を満たす必要がある。)

日本酒に使う水をクリーンに、そして発酵に適した状態に保つために取り入れられている、さまざまな技術を知っておきましょう。

フィルターの使用

活性炭フィルターなどを用いて、日本酒の味わいに悪影響を及ぼす物質(鉄やマンガン等)を取り除きます。加工前の水の状態や目指す水質に最適なフィルターを使い分けます。

成分調整

日本酒の醸造用水には、酵母の増殖に必要となるカリウム・マグネシウム・リンの3種が「必須無機塩分」として必要になります。これらを補うため、醸造用水には塩化マグネシウム、酸性リン酸カリウム等の添加が認められています。これらの物質が醸造用水中に不足している場合、添加を行うことで発酵を促進する効果があり、その促進に有効な量に限って添加することができます。

その他

イオン交換樹脂法による除硬度処理や、空気を吹き込む気曝法による除鉄処理を行うことによって、特定の成分を取り除く処理を行うこともあります。

まとめ

これまで見てきたように、日本酒において水という物質は非常に大切な役割を果たしています。米の品種や酵母の種類だけでなく、水の成分によっても日本酒の味わいは大きく変わるのです。

自分好みのお酒を見つけたら、酒蔵の周辺地域の水について調べてみるのも面白いかもしれませんね。

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