2019.12

05

実は味の決め手?日本酒造りに使われる「酵母」を学ぶ

二戸 浩平  |  日本酒を学ぶ

日本酒をいろいろと飲んでいると、米だけではなく酵母にもいろいろな種類があることに気が付くかもしれません。特に最近では「6号酵母」を使った新政のNo.6のように、ラベルで使用酵母を大きくアピールするお酒も出てきていることから、酵母に注目する機会も増えているように思います。

実は 日本酒の風味を決めるのは、米よりも酵母の与える影響が大きいと言われることもある ほど、酵母は日本酒造りにとって大事な原料の1つです。この機会に、酵母とは何なのか、日本酒の風味にどのような影響を与えているのかを学んでみましょう。

酵母とは?

日本酒の発酵に使われる 酵母は、生物学上はS.セレビシエ(サッカロマイセスセレビシエ)という名称の菌類の一種 です。

日本酒に限らず、お酒を造る際には「糖を分解してアルコール(エタノール)と二酸化炭素を生成する」いわゆるアルコール発酵というプロセスが必要になります。S.セレビシエは日本酒だけではなく、ワインやビールのアルコール発酵にも使われることがありますが、そのうち日本酒の発酵に適したものを「清酒酵母」と呼んでいます。

先ほど「糖を分解してアルコールと二酸化炭素を生成する」と書きましたが、日本酒の主な原料である米に含まれるのはデンプンであり、糖ではありません。そこで別の菌類である麹菌、生物学上はA.オリゼー(アスペルギルスオリゼー)が持つ酵素の働きによって、まずはデンプンを糖に分解します。

麹菌が米から生み出した糖を、清酒酵母がアルコールに変えることで、水と米と麹という原料から日本酒が生まれるのです。

酵母が日本酒の風味に与える影響

酵母の働きは糖をアルコールに変えるだけではありません。発酵の過程において、酵母はアルコール以外にも様々な成分を作ります。そのうち、特に日本酒の風味に影響を与えるのは 香気成分と酸 です。

香気成分については、まずはこの2種類を覚えておきましょう。

  • リンゴや桃の香りに例えられる カプロン酸エチル
  • メロンやバナナの香りに例えられる 酢酸イソアミル

どちらも、日本酒をフルーティに彩ってくれる香気成分です。人によって、酢酸イソアミルは好きだけどカプロン酸エチルは苦手、など好みの分かれやすい部分でもあります。自分の好きなお酒の香りを果物に例えてみると、どちらの成分の影響が大きそうか、そうした特徴を持つ酵母の種類、などが分かるかもしれません。

酵母が生成する酸のうち代表的なものは、 リンゴ酸コハク酸 です。

リンゴ酸はさわやかな酸味を感じさせる成分です。甘みの強めなお酒に適度なバランスで含まれていると、フルーツのようなさわやかな味のバランスを表現してくれます。コハク酸は「貝の旨味成分」として知られる酸で、酸っぱさよりも旨みを感じる成分です。コハク酸が多く含まれる日本酒を飲む機会は少ないかもしれませんが、多く含まれている日本酒の場合には旨味をしっかり感じ、場合によっては苦味や渋味が感じられることもあります。

実際の日本酒には、これらの香気成分・酸以外にもさまざまな成分が含まれており、それらのバランスによって香りと味わいが決まりますが、酵母が日本酒の風味に与える影響としては、まずは上記の内容を覚えておくと理解しやすいと思います。

代表的な酵母の種類

清酒酵母には、多くの種類があります。全ての酵母の特徴を覚えることは難しいですが、ここでは代表的な酵母の特徴を抑えておきましょう。

きょうかい酵母

日本醸造協会は酒質の安定向上のため、優れた特徴を持つ酵母を培養し、酒蔵向けに頒布しています。これらの酵母は「きょうかい酵母」と呼ばれています。 多くの日本酒は、このきょうかい酵母を使って作られています。

きょうかい酵母の名前は、基本的には「6号酵母」「7号酵母」・・・といった連番で付けられています。これらのほかに、「601号酵母」「701号酵母」・・・といった、酵母名の連番に「01」をつける形のものもあります。

もともと清酒酵母は、もろみの表面に炭酸ガスによる泡が形成され、それが高く盛り上がる「高泡形成」と呼ばれる性質を持っていましたが、高泡により製造効率が悪くなってしまいます(発酵タンクの容量を泡が占めてしまったり、泡消しなどの作業が発生してしまったりします)。

そのため、高泡形成の性質を持たない「泡なし酵母」が開発されました。名前に「01」がついているものは、この泡なし酵母であることを表しています。

きょうかい酵母のうち代表的なものとその大まかな特徴をまとめると以下の表のようになります。

都道府県酵母

日本醸造協会のほかにも、各都道府県が設置する試験研究機関が独自に酵母の開発、培養、頒布を行っています。

秋田県、静岡県、長野県、愛媛県などでは特に長年にわたり独自の酵母開発を続けており、県酵母を使用するお酒が多く作られています。都道府県酵母の代表的なものと大まかな特徴は以下の表のようになります。

その他

これまで紹介したほかにも、様々な酵母があります。

代表的なものは、東京農業大学が開発した花酵母です。酵母はそもそも自然界の様々な場所に存在していますが、そのなかでも花や果物などに多く生育しています。花酵母とは、様々な花に生育していた酵母を分離し、培養することで日本酒の発酵に活用しているものです。 現在ではナデシコ、マリーゴールド、アベリアなど10種類以上の花から分離した酵母が開発されています。特徴も様々ですが、カプロン酸エチル系の華やかな香りを出すものが多いです。

最近では、あえて清酒酵母ではなくワイン酵母を使用した日本酒も作られています。ワイン酵母は清酒酵母と比較するとアミノ酸とコハク酸が少なく、リンゴ酸と酢酸を多く生成する特徴があり、風味もワインに感じられるような酸味や余韻を含むものになることが多いです。

またこれまで紹介したような、「蔵の外で培養された酵母」を使用しない清酒も造られています。こうした酵母は 「蔵付き酵母」 と呼ばれ、その蔵独自の風味を形作ります。「蔵付き酵母」の日本酒は、酵母を全く添加しない形で造られるケースと、自社内で分離・培養した酵母を添加する形で造られるケースがあります。

まとめ

これまで見てきたように、清酒酵母にも様々な種類があり、使われている酵母により香りや味は大きく変わってきます。

日本酒の利き酒に関する訓練を積んでいる方からは、「酵母の種類は一定の確率で当てることができるが、米の種類はなかなか当てることができない」というお話を聞くことも多くあります。これから日本酒を飲むときには、使われている酵母に注目してみると、より楽しい日本酒ライフが送れるようになるかもしれませんね!

話題の記事

人気の記事

最新の記事