2020.07

04

四谷三丁目で長野の地酒と食材をとことん楽しむ - 日がさ雨がさ

橋村 望  |  日本酒をもっと楽しめる名店

路地裏に小さな店が立ち並ぶ荒木町、落ち着いた雰囲気の四ツ谷界隈。いつからか「日本酒の聖地」と呼ばれるようになりました。

四谷三丁目駅からすぐ近くにある旬酒場「日がさ雨がさ」も、長く日本酒ファンに愛されている名店のひとつです。四ツ谷を活気づかせた町イベント「大長野酒祭り」、日本酒の醸造年度(BY : Brewery Year)が変わる7月1日に日本酒を祝う「サケおめ!-日本酒元旦-」など、日本酒の飲み手を増やすべく、数々のイベントも手がけています。

選りすぐりの日本酒を飲み放題で

靴を脱いで店内に入ると、掘りごたつのテーブルもありリラックスできる空間です。カウンターからは、店主である宮澤一央さん選りすぐりの日本酒、焼酎、リキュールなど、さまざまなお酒が並びます。少量ずつさまざまなお酒を楽しめる「飲み放題」プランが一番のおすすめです。

店主の宮澤さんの出身は、長野県。信州とも呼ばれるその地域は、飛騨山脈、木曽山脈など大きな山々に囲まれた内陸部にあります。豊かな自然環境で名水も多いため、日本酒の産地としても長い歴史を持ちます。長野県にある酒蔵は約80蔵。小さな酒造場が多く、新潟についで二番目に酒蔵の数が多いのも特徴です。

独立してお店を始めた当初の宮澤さんは、長野の日本酒に特にこだわりはなかったと言います。しかしお客さんから長野の日本酒を褒められるたび、他の県のお酒が褒められるよりも嬉しく感じたことから、自分の郷土愛に気づいたのだとか。品揃えを増やしはじめ、現在では約5割が長野のお酒。東京ではあまり見かけない蔵のお酒もあり、地酒を楽しみに来る人も多いです。

注文すると、宮澤さんが簡単にお酒を紹介してくれます。カウンターの上にある台に酒瓶をのせて、そのお酒の特徴や造り手の話など、知りたいことがあればなんでも気軽に答えてくれます。提供するお酒のことをよく知るために、毎年のように長野の酒蔵を訪れているそうです。

宮澤さん「毎年蔵へ行き、通年で飲んでいると、自分の中にその蔵のスタンダードや一番いい状態がわかってくるんです。がんばっている蔵は、常に設備投資をしたり、毎年なにかしらの工夫を重ねて成長しています。行くたびに日本酒がどんどん成長していくことが感じられるのもうれしいですね。お酒の美味しさは、お店に来てくれるお客さんの手応えにもつながります。店も一緒に成長していけることが体感できるんです」

酒と良い付き合いを続けるための「白湯(さゆ)」

日本酒好きにとって飲み放題はうれしいプランですが、ついつい飲みすぎてしまうのも問題です。日がさ雨がさでは、和らぎ水として「白湯」がおすすめされています。温かいお湯を飲むことで、体を温めお酒の酔いを自覚しやすくなる、と考えて白湯を取り入れて始めたそうです。

宮澤さん「五反田にある日本酒居酒屋『SAKE story』の橋野さんが“チェイ白湯普及の会”というのをやられているのを知って、うちの店でも取り入れたいと思い、昨年からはじめてみたんです。お酒は体温くらいまで温まってから体に吸収されます。温かい白湯をチェイサーとして飲むと、お酒が体に吸収されやすくなることでお客さん自身が自分の酔い加減を早めに察知しやすくなると思うんです。燗酒を飲むのと同じような効果です。

お酒を扱う人間として、お客さんの健康にも気を遣っています。飲み放題の良さも楽しんでもらいながら、体を壊すようなお酒との付き合い方にならないように、できる範囲でリスクを減らしていきたい。お酒の楽しい部分を引きだすことが僕らの使命ですから」

実際に、お酒の合い間に白湯を飲むと、ほんのり体が温まるだけでなく、お腹にもやさしい感じがしました。うっかり飲み過ぎを避けられるのと同時に、お腹の弱い人にもいいのではないでしょうか。

長野の食材を使った絶品おつまみ

お刺身、馬刺し、おでん、栃尾の油揚げ、焼きそら豆、チーズ……。日がさ雨がささんでは、日本酒に合うおつまみが幅広く楽しめます。長野で採れた野菜や千曲川のサーモン、信州ポーク、ジビエなど、おつまみにも信州の食材が使われています。

宮澤さん「長野の酒蔵や酒屋さんと交流する中で、生産者さんたちを紹介してもらえる機会が増えました。酒米や野菜を作っている農家や畜産関係の方と一緒に、毎年『信州情熱交流会』という交流会も行っています。試行錯誤してこだわって作られた食材は、やはりひと味違うんです。単純に長野のものを売りたい、というのではなく、長野でもトップクラスのものを出してこそ、心に響くものを味わってもらえるし、同時に長野のアピールにもなると思っています」

選りすぐりの長野の食材を使った料理は、長年和食の修行を積んだ料理人が手がけます。どれもお酒の進む味わいです。春夏は「信州太郎ぽーくのしゃぶしゃぶ」、秋冬は「名物トマト鍋」など、お腹いっぱいになるコース料理もすすめです。

宮澤さん「料理に関しては、料理人にほぼ任せています。お酒は、美味しいものを選んで管理をしっかりしていれば美味しいのは当然だけど、自分が作っていない料理を褒められるとスタッフががんばってくれていることがわかって、うれしいですね。自分が店の外でさまざまな活動ができるのも、任せられる料理人がいて、スタッフがいてからこそ。感謝しています」

イベントで日本酒を飲む・知るきっかけをつくる

2011年、四ツ谷の飲食店仲間と一緒にはじめた「大長野酒祭り in 四ツ谷」は、昨年2019年で9年目。残念ながら昨年をもって役目を終えたと判断し、一旦終了となりましたが、1000人規模の人が集まる人気の飲み歩きイベントに発展しました。

四ツ谷が「日本酒の聖地」と呼ばれるようになったのも、このイベントがきっかけではないでしょうか。

宮澤さん「四ツ谷の街は、日本酒の名店と呼ばれる店が多いというイメージがありますよね? もちろん、実際に名店もありますが、毎年イベントを続けていろんな人が目にする機会が増えることで、その認識がさらに高まっていくんです。1年では伝わらなくても3年5年とやっていくとだんだん定着していきます。

僕らも途中から意識して、『日本酒の聖地』という表現を使うようになりました。大塚や大森も言われますが、聖地は一つじゃなくてもいい。あえて言葉を使うことで、日本酒を飲みに四ツ谷に行ってみたい、というきっかけづくりにしていこうとしたんです」

同じように長野という地域も、日本酒が造られていることはあまり知られていなかったそうですが、「長野」と銘打った酒のイベントを続けることで、多くの人に認識されていきました。

他にも、蔵元杜氏ではない雇われ杜氏の方々にスポットを当てたトークライブ「職人杜氏トークライブ」など、他にはないイベントも行い、宮澤さんは、お店を超えて日本酒全体を盛り上げる活動も続けています。

宮澤さん「長くイベントを続けていたら、少しずつ応援してくださったり共感してくださる仲間ができてきました。いろんな方とご縁ができるので、もう少し来年は大きいことをしよう、日本酒を広げられることができるかもしれない、と思うと楽しみにもなります。やりがいになりますね」

コロナ禍で感じた居酒屋の役割とは?

4月7日の緊急事態宣言。日がさ雨がさでは、16時〜20時までの短縮営業に切り替え、営業を続けました。早くからテイクアウトメニューやお酒の小売販売もはじめています。ランチやテイクアウトなど、初めての試みを前向きにチャレンジする中で、お店の強みや弱み、新しい武器が見えてくるかもしれないと、宮澤さんは考えたそうです。

宮澤さん「もし休業したら気持ちが萎えたり、迷ったりしそうだったんです。不安でも試行錯誤して動いている方が気持ちも維持できるし、通常の営業に戻ったときに迷う時間も減らせるし、その方が自分に合っているのではないかと判断してお店を続けました」

5月26日宣言解除に伴い、現在は、通常営業に戻り夜の時間も長く楽しめるようになりました。入り口での手指消毒、スタッフのマスク着用、ゆとりある席の配置、大皿料理を小皿に個別に提供するなど、コロナ感染防止にもしっかり取り組まれています。

テイクアウトやデリバリーも続いています。

宮澤さん「料理やお酒のテイクアウトは、ビジネス街という立地もあり大反響とまではいきません。今も試行錯誤が続いてます。本格的に忙しさが戻ってきたら対応ができなくなるかもしれないのですが、それまでは頑張ってクオリティを上げていきたいです。信州ジビエや千曲川サーモンといった食材は長野県内でも入手はごく限られるものなので、この機会にぜひ試してみてください!」

宣言解除後から、だんだん街に人が増えてきましたが、やはり以前のように会社帰りに気軽に飲み歩くという状況には、もう少し時間が必要なのかもしれません。

コロナで大きな影響を受けた飲食業界。これから大人数のイベントも行いづらい雰囲気があります。長野の地酒を発信したり、四ツ谷の町を盛り上げたり、これまで続けてきた活動をこれからどのよう続けていくのか、宮澤さんに伺いました。

宮澤さん「まだ答えはでていませんが、まずやれることを考えると人数を絞った形で『"小"長野酒祭り』など検討しています。参加者の多寡にかかわらず、日本酒との接点の少ない人にどうしたら届けられるか、これからのイベントの大事な意義として考えています。オンラインは便利ですが、リアルな体験でしか感じられないワクワクや充実感はぜったいにあると思います。そう簡単には負けません

自粛期間中にオンラインイベントは増えましたが、居酒屋のわいわいした雰囲気で飲む高揚感、イベントでの予想外のお酒や人との出会い、どれもリアルでしか味わえないものです。宮澤さん自身も外で飲む機会があり、その楽しさを実感したそうです。

宮澤さん「『視察』と称していくつか他店を回って思ったのが、やはり"外呑み"は楽しい、ということ。渇き、疲弊し、萎縮した心を解きほぐし、潤いを与えてくれる力が飲食店にはあると、いまさらながらに実感しました。まだ、外での飲食に不安を感じている方もいるかもしれませんが、"心の健康を保つ"という意味でも、ぜひまた飲食店に足を運んでいただけたらと思います」

ひとりでゆっくりと、または気のおけない仲間と一緒に、お酒を酌み交わす豊かな時間を提供してくれる居酒屋の楽しさ。今こそ、多くの人に味わってほしいです。ぜひ一度、「日がさ雨がさ」のあたたかい雰囲気と長野の地酒をとことん味わってみてください。

店舗情報

日がさ雨がさ
住所:東京都新宿区四谷3-9-11 四谷シンコービル7F
電話番号:03-3225-0267
他の予約方法:電話のみ
営業時間:17:30~23:30(お料理L.O.22:30、ドリンクL.O.23:00)
定休日:日曜日・祝日・年末年始等
予算:平均5,000〜6,000円

話題の記事

人気の記事

最新の記事