
2026.03
10
日本酒「値上がりしても買う」が80.1%。231名のアンケート回答を分析!
「令和のコメ騒動」とも呼ばれる昨今の米の価格高騰は、食用米にとどまらず、日本酒業界にも影響を及ぼしています。原料米の値上がりに加え、エネルギーコストや資材費、物流費の上昇なども重なり、酒蔵を取り巻くコスト構造はここ数年で大きく変化しました。
一方で、多くの酒蔵はいまだ価格改定に慎重な姿勢を崩していません。値上げによる消費者離れへの懸念、流通現場との関係性、業界内の横並び意識など、理由はさまざまです。
では実際のところ、消費者は値上げについてどう考えているのでしょうか。
SAKE Streetでは、X(旧Twitter)上で日本酒の価格上昇に関するアンケートを実施。231名から寄せられた回答からは、価格上昇の単純な正否にとどまらない心理が見えてきました。
本記事では、アンケート結果のデータと回答者からのコメントを整理しながら、米価格の高騰における日本酒の価格設計を考察していきます。
回答者は日本酒消費者のコア層
回答を見る前に、まず、今回実施したアンケートの回答者がどんな人たちだったのかを見ていきましょう。
日本酒を飲む頻度の質問には週に2〜3回、もしくはそれ以上の頻度で日本酒を飲むと答えた人が70.6%。「家で飲むために日本酒を購入することがあるか」という質問には「ある」が97.8%と、日常的に日本酒を購入・消費しているコアな消費者層が多数派となっています。
SAKE Streetの読者層の傾向とも考えられますが、日ごろ日本酒に親しみ、よく購入しているからこそ、値上がりへの意識が高くアンケートを回答するに至ったと推測することができます。
続いて、「普段よく買う日本酒の価格帯(税抜)」の質問に、最も多かったのは四合瓶で2,000円前後の価格帯で、全体の36.7%を占めました。一方で、2,000円を超える価格帯の日本酒を普段から購入していると答えた人も31.9%にのぼっています。
今回の回答者は、平均的な日本酒消費者と比べて、比較的高い価格帯の日本酒にも日常的に接している層であるようです。つまり、今回のアンケートは、日本酒市場全体の平均像を示すものではなく、現在の日本酒消費を支えている比較的コアな消費者層が、価格帯をどのように認識しているのかを捉えたものだと考えることができます。
以下の章では、このような前提を踏まえたうえで、価格が上昇した場合にこれらの消費者の行動や意識がどのように変化するのかを、具体的なデータとともに見ていきます。
「値上げしても買う」が多数派
300円の値上げは許容範囲か?
はじめに、酒販店で購入する日本酒の許容範囲を知るため、「普段購入している日本酒(四合瓶)が、今より300円高くなったらどうするか」という質問をしました。すると、「変わらず買う」と回答した人が62.4%と、過半数を占める結果となりました。
次に多かったのは、「少し買う回数を減らす」と答えた人で、30.1%でした。
続いて、どれくらいの値上げまで許容できるのかを確認するため、「いつも買う日本酒(四合瓶)の値上がりは、どれくらいまで受け入れられるか」と聞いてみました。
この回答からは、値上がりしても買うと考えている人が80.1% であり、「これまでと同じくらいの値段がいい」と考えている人は11.9% にとどまることがわかりました。中でも、「多少高くても気に入った銘柄なら買う頻度は変わらない」が最多数の34.1%を占めています。
では、具体的に「四合瓶で『これくらいまでなら買う』と思える価格帯(税抜)」についての回答を見てみましょう。
ばらつきがありましたが、1,800〜2,000円、および2,500円までに回答が比較的多く集まっているのがわかります。日頃から2,000円程度の日本酒を購入している層であるため、2,500円までは「日常的に手に取る価格帯」として認識され、それを超える価格帯になると、「特別なときに飲む酒」「目的をもって選ぶ酒」として扱われる傾向があるようです。
ファン心理と財布事情の葛藤
自由回答のコメントでは、「値段は上げてもいいから品質を維持してほしい」という意見が多く見られました。
「蔵で働く従業員の方々や酒米を作ってくださる農家の方々のことを考えると、米の値上がり価格の大部分は消費者に負担させてよいと思います」
「恒久的な値上がりではないと思っていますので、酒蔵さんたちの「今」を支援する意味でも、なるべく持続的に自宅用のお酒は購入していきたいです」
「そもそも値上げしないこと自体が悪しき慣習なので、今後も同じ品質を求めるならば受け入れるべき」
一方で、値上げに対する理解は示しつつも、自身の経済的事情も踏まえると調整の必要があるとする意見も複数ありました。
「原材料が上がっているので値上げは当然だと理解できます。ただ、こちらの収入は変わらないので、予算内で買える別銘柄の酒・別の酒を買うと思います……」
「今までが安かっただけだと思うので値段上がるのは仕方ないと思います。ただ、減税などで手取りが増えないことには今までのようにお酒買う頻度は少なくなっていくかなと」
「昨今の値上げ事情は理解しているが720mlで2000円を超えると多少躊躇してしまう。狙って買いに来た商品なら2000円超えでも購入するが、ついでにもう一本とか未飲の蔵のお酒を試しに一本と言ったケースの場合にちょっと安めな商品を選んでしまう」
「嗜好品なので多少高くても飲むが、3000円クラスは年末年始くらいにしか飲まない」
ここから、数百円ほどの値上げは、多くの消費者にとって「購入をやめる決定打」にはならないとはいえ、購入頻度や選択の仕方を見直す契機として受け止められることがわかります。
値上げは否定しないが、「納得感」は欲しい
自由回答からは、納得して値上げを受け入れるための説明を求める声もいくつか見られました。
「徐々に値が上がっていくのなら納得感があるものの、価格高騰の明確なメカニズムを理解していない中で突然の大高騰だったために、消費者の納得感が下がっていると思われる。日本酒マニアは応援消費の気持ちも含めて飲み続けるだろうが、ライトユーザーにとってはしんどい状況ではあると思う
「値上げ幅の妥当性を示して欲しい。米農家が儲けてるのか、酒蔵が儲けてるのか、酒屋が儲けてるのか、どこも儲けは変わらず原価構造が変わってるのか。原価構造の具体的に何が変わってるのかなど構造的に把握できれば納得感があります」
「なにが原因で値上げが起きているかわかる、ポータルサイトのようなものがほしい」
これには、各酒蔵の発信にとどまらず、SAKE Streetのようなメディアにも果たすべき責任があるといえます。
値上げ以外の「第三の選択肢」
飲食店での注文は800円がボーダーライン
酒販店での価格に加え、「お店で「90mL(半合)あたりいくらくらいまでなら日本酒を頼む」と思いますか?(税抜)」という質問もおこないました。
その結果、最も多かった回答は800円で、36.8%を占めました。次いで、600円および1,000円がそれぞれ22.9%と、外飲みでは比較的幅のある価格帯が許容されていることがわかりました。
ほとんどの場合、飲食店も小売向け価格(消費者が購入するのと同じ値段)で日本酒を仕入れています。ドリンクの原価設定はお店によってさまざまですが、日本酒の場合30〜40%程度が多いとされます。
コメントの中には、こうした価格構造そのものに言及する声も見られました。
「クラフトビールも好きで、よく飲む。1杯1200円みたいなこともざらにあり、それに比べると日本酒はまだ安価という印象です」
「飲食店の原価3割設定を見直して、原価+サービス料方式に変えないと、そこが一番影響を受けるし、酒蔵も影響が大きいのではないか」
昨今の価格高騰にともない、従来の価格設定の慣行が飲食店に負担を与え、結果的に飲食店からの日本酒の買い控えが起きる可能性もあるということです。
許容範囲を超えたらどうする?
とはいえ、自分の財布事情と欲しい日本酒の値段が合わなくなったとき、回答者はどのような選択肢を選ぶのでしょうか。
最も多かった回答はビールやワインなどの「ほかの酒類を飲む」で、39% を占めました。次いで、「飲む頻度を減らす」が37.2% 。「安価な日本酒を買う」と回答した人は18.2% にとどまりました。
この結果からは、価格が許容範囲を超えた際に、日本酒の中で価格帯を下げるよりも、日本酒以外の選択肢に移行する、あるいは消費そのものを抑えるという行動が選ばれやすいことが分かります。
一方で、コメントには、値上げ上昇を機にリーズナブルな価格帯の日本酒の再評価を求める声も複数見られました。
「この値上げを期に、大手の比較的安い日本酒を飲むようになったが、意外と美味しかったので、日本酒の幅、奥行きは底しれない。値上げが逆に、新しい発見に繋がるものでありたい」
安価な日本酒の原料米も高騰しているため一概には言えませんが、原料米を減らすために、本醸造や普通酒などの醸造アルコール添加が見直される可能性はないとは言い切れません。
「容量を減らす」という選択
今回のアンケートには、「価格は据え置きのまま、容量で調整すればいいのではないか」という声が複数寄せられていました。
「値上げは全然良いんですが、出来れば値段そのままで量を減らした規格が欲しいです。500ml、360mlなど」
「家飲みでは複数の銘柄を購入して飲んでいるので単純な値上げよりも、値段は変えず容量を減らす実質値上げの方が印象は良いかも。720mlが680mlになるくらいならほぼ気にしないかなあ」
「ある程度は仕方ないと思う。どうせなら500mlで1本あたりの価格を抑えるとか900mlでお得感のある選択肢が増えると嬉しいです」
こうした少量規格の展開は、まだ飲んだことがない銘柄に挑戦するという新規開拓とも相性がよいといえそうです。
そのほか、価格高騰にともない浮き彫りになった米・日本酒を取り巻く構造的な問題を指摘する意見も見られました。
「米の値段の高騰が問題になる前から、日本酒の消費量は下がっていたわけで、とすると、値上げが日本酒離れの本質的原因とはとらえるべきではない」
「本来主食である米がこれほどまでに高くなるのは危機的状態だと思います。農業改革が必要だと思います。また、酒造メーカーにとって大災害レベルの状態で殆どの酒蔵が赤字か利益が出ないと思っています。それでも酒税は取られます。日本酒は特に売れているわけでもないので、税金改革も必要ではないかと感じています」
「競争力の無い酒蔵は自然とリタイアしていくでしょうから、品質が良く経営層の商才がある蔵は自然と評価されて残っていくのでは。業界の転機は大きなチャンスですから、業界の勢力図が大きく変わって地道に力をつけている蔵が徐々に評価されていくことを楽しみにしています」
まとめ
今回のアンケートからは、値上げをきっかけに、日本酒業界全体の持続性や将来像を考えようとする視線が、消費者側にも広がっていることがうかがえました。
回答者は、米価格の高騰や原材料費の上昇といった背景を理解したうえで、一定の条件のもとであれば日本酒の値上げを受け入れる姿勢を示しています。一方で、価格改定とは別の調整手段として、容量の見直しや丁寧な説明を求める声も多く見られました。
もちろん、日本酒の熱心な消費者層が回答者に多かったことを踏まえると、ライトユーザー層は値上げに対応しきれない可能性は大いにあります。しかし、日本酒というジャンルを選び支える層が離れていってしまわないために、なにが問われているのかが見える結果となったとはいえるでしょう。
米価格の高騰は、日本酒業界にとって避けがたい現実です。そのなかで問われているのは、値上げをするか否かという二択ではなく、どのような価格設計を行い、どのように説明し、どのような選択肢を提示するのかという、一歩踏み込んだ対策であるといえます。
Pickup記事
2021.10.27
話題の記事
人気の記事
2020.06.10
最新の記事
2026.03.03
2026.03.03
2026.03.03
2026.02.24


















