2020.04
02
京都御所南、時間がゆっくり流れる空間で穴子料理と日本酒を - うまいもんや いっしょう
京都御苑の南。通称「御所南」エリアは、かつて平安京の中心でした。その、今もなおステータスある地域の一画に「うまいもんや いっしょう」という割烹居酒屋があります。
昔の面影を残す町家が点在する静かなエリアにあって、ひときわ個性を放つ暖簾(のれん)と一枚板の看板がお店の目印。名物の穴子料理と店主が選ぶ穏やかな日本酒で、舌を喜ばせてくれる名店です。
店主・清水学さんは丁寧に確かめながらひと言ずつ話す方で、言葉選びから実直で穏やかなお人柄がにじみ出ています。
お店を8年間経営するかたわら、京都市内屈指の日本酒イベントにも力を入れてこられた清水さんに、その思いをうかがってきました。
日本酒と、いっしょう
――今日はよろしくお願いします。さっそくですが、数あるお酒の中で日本酒を主体に提供されている理由はなんでしょうか?
清水さん「料理を、美味しく食べてもらいたいので。食中酒として、うちの料理とは日本酒が合うのかなと思います。
昔から、僕の周りに日本酒があったので。お父さんとか、お爺さんとか……普通に飲む環境にあったんです。それで、すごくすんなりと日本酒を扱えた気がします。
だから、僕も日本酒が好きやし……日本酒をお客様にも飲んでもらいたいな、という気持ちで、日本酒をメインに勧めてます」
――お店に置く日本酒を選ぶ基準みたいなものは、あるんですか?
清水さん「そうですね、たくさんお酒は置いてるんですけど。
『50本50銘柄』っていう考え方ではなくて。10から15銘柄ぐらいのお酒を、例えばヴィンテージ違い、25BYと27BYとか。雄町と山田錦とか。
流行りやお客さんの好みもあると思うんですけど……そういう感じで、 自分が美味しいなと思う、自分が好きな銘柄を、なるべくかぶせて持つようにしています 」
清水さん「例えば竹雀(たけすずめ)やったら、竹雀を新酒から1年かけて、追いかけていきたいと思ってます。
天明オレンジラベルは、一年中置いてあるんですけど、3つの温度帯ですごくおいしい『三温至福』 で、夏は冷やして飲んで欲しいし、ちょっと寒くなってきたら室温と燗で、みたいな。
まぁそういう、いろんな遊びをお客さんにもして欲しいな、と」
――料理に合わせてお酒を勧めることもあるんですか?
清水さん「聞かれたら答えます。お酒のメニューを書くのは、見て選びたいお客さんも多いからです。だから、そういうのは、尊重してあげたいなぁと。でも、聞かれたときはしっかり提案をしたいな、と思います。
僕は…できたらお客さんと話して『こんなんどうですか』っていうスタイルが望ましいかなと思うけど。『これが飲みたい、これが好き』っていうお客さんもいはるから。
ただやっぱり、お酒のお勧めを気軽に聞いていただけたら、嬉しいなと思います」
清水さん「よっぽどでなかったら日本酒って、けっこう懐が広いと思うので。『どのお酒でも』って言うとちょっと語弊がありますけど、わりと、どんな料理でも合わせられると思うんですよ。
だから、まぁ、合わせようとするのはすごく大事なんですけど…… 『その時の美味しいお酒と、その時の美味しい料理を、一緒に』というのがベスト かなと、僕は思います」
――思い入れのある銘柄はありますか?
清水さん「一番好きなのは、竹雀ですね。イベントでも使うし、普段から公言してるんで (笑)。
蔵の、お酒造ってる人も仲がいいし、よく知っているので……人間も見えてくるっていうか。 竹雀は、お酒と蔵を大事にしたいなぁという気持ちがあります。
そんなに古い銘柄ではないですけど、毎年進歩してるお酒やと思うので、お店と一緒で、ちょっとずつ良くなっていけばいいかなと。そういう気持ちで、応援させてもらってます。
竹雀を飲みに来はる人は、けっこういはります。うちに種類がようけ(たくさん)あるので (笑)」
――1番人気は、どんなお酒ですか?
清水さん「1番って言われるとちょっと、絞りにくいですけど、オープンしてからずっと置いてるのが”英勲 やどりぎ”ですね。
まぁ、何かの銘柄にグッと固まることはないんですよね、やっぱり。すごく有名な銘柄とか、そういうのを飲みに来はるタイプのお客さんは、うちにはいらっしゃらないと思います。
1合からじゃなくて、半合からなんで。わりと5~6種類、いろんなお酒を飲まはって……っていうお客さんが多いですかね」
――お燗にすると美味しそうなお酒が多いですね。
清水さん「そうですね、お店としては、わりと冷や(常温)を勧めてて。僕が、そういうお酒が好きで。冷たいのも美味しいんですけど、味がちょっと先細ってしまう。
火入れのお酒をそのままか温めて、みたいな飲み方が好きやし。『お任せで』って言われると、つい『冷やは大丈夫ですか?燗大丈夫ですか?』って聞いてしまいますね。
燗で飲むお客さん、意外と多いですよ。夏でも、燗しか飲まへん人いはりますね」
――置くお酒を入れ替えたりとか、あまりしないんですか?
清水さん「基本はそうです。あんまり、変えません。買ってみたり飲んでみたいっていう気持ちはあって試飲会も行くし、よく飲むし、いろんな種類試すんですけど。
『珍しいものが飲めるよ』っていうタイプの店ではないし、そういうのはそういうので頑張ってやってはるお店があって。
うちのお店に置くのはやっぱり、なるべく…… 芯になるお酒がいくつかあって、それを、四季をとおして追っていきたいな、という気持ちが強いですね 」
――焼き物をされるそうですが、酒器に関してこだわりはありますか?
清水さん「自分で作った酒器は少ないですけど、お皿は自分で作ったのもあります。
まぁ、ろくろを回すのではなく、タタラづくり(板状粘土で作る方法)とか。大きいものを、一点ものをちょこちょこ作るのが好きで。
酒器とか徳利とか片口は、ギャラリーへ見に行くのが好きで。そういうところで気に入ったのを買ったりして……勝手なイメージですけど、なるべくお酒に合う酒器で飲んでいただいてます」
名物は穴子料理。少しずつ幅を広げて「日本酒と肴」のスタイルを確立。
――お店やお料理は、どんなスタイルなんですか?
清水さん「和食、烹割居酒屋ですね。だから、鯛だったら『焼いて』って言われたら焼くし、『炊いて』って言われたら炊くし。そういうご要望をお聞きできるかなぁと、思います。
寿司割烹で修行させてもろて、お魚やお寿司中心に、勉強させてもろたんで。まぁ、良くも悪くも、それが方向性になったかなぁと。
穴子が名物 なんですけど。お店を出すとき穴子はやりたいと思ってたので、穴子を中心とした、お魚の店ですね。
燻製も、ずっと20年ぐらいやってるんですけど。お寿司のこととか、いろいろ、 自分なりの『日本酒と肴』みたいなスタイルを確立はできてきてるんじゃないかな と、思います」
清水さん「日本酒は、お付き合いしてる酒屋さんが京都に何軒かと東京に1軒あって。 ちょっとずつお付き合いをして、お料理の幅もお酒の幅もちょっとずつ広げたいな と思ってて。
お酒の会も、したかったんですよね。最近やってないですけど、7,000円位で、7種ぐらいの料理を出して、お酒もそのテーマに合ったものをお出ししたりとか、以前はそういう会を開催してました。
その気持ちは『平安日本酒フェスティバル』なんかにもね、影響してます」
毎年2,500人以上が集う、平安日本酒フェスティバル
――平安日本酒フェスティバルは、清水さんのご発案なんですか?
清水さん「”日本酒BARあさくら”の朝倉さんと、一緒にやってるんです。お互いそういうプランみたいのがあったんですよね。『お祭りみたいのができたらいいね』っていうね。
出発点は2人とも違うんですよ。朝倉さんは朝倉さんで思ってたことがあって、僕は僕で思ってたことがあって。せやけど、話し合ってあんな形になったみたいな」
――1回目からあんなに大きなイベント、すごいです。ノウハウがあったんですか?
清水さん「ね~、びっくりしましたね。あれ、おおまかな筋は僕が言わしてもろて『お祭りみたいなんにしましょう』って。
ほんで、もっと小さい場所を考えてたんですけど、京都市役所前の広場が取れるっていう話になって。その時点で『これは100人や200人で済まないよね』っていうことになったんですよ。
で、ふたを開けてみたら…… 初年度3,000人近く来てくれはって 。2年目が1番少なくて、2,500人ぐらい。3年目と4年目は、2,800人ぐらいで。
参加した飲食店舗も20店位あったし、お蔵さんも21蔵やったかな。なので、まぁ……『ふた開けてみたら、かなり大きくなっちゃった』みたいな (笑)」
清水さん「ノウハウは、筋書きはね、そういうの朝倉さんがすごく上手で。上方日本酒ワールドさんとも仲がいいし、そういうのを中心に勉強してきはって。
で、まぁ、 上方さんをちょっと参考にしつつも……僕らのエッセンスというか、ちょっとフェス色を強くしようと思って 。
だから何でもありじゃないですけど、スペイン料理もあって、フレンチも来て、イタリアンもお呼びして、ね。お祭りっぽい様相になったんじゃないかなと思ってます (笑)」
――あれほど家族で行きやすい日本酒イベントは、ないですね。
清水さん「ありがとうございます。まぁただ、1年目はほんまにゼロからやったんで。だいぶみんなでしんどい思いしましたけど。それがあったぶん、2年目3年目は楽でしたね。
平安神宮前の岡崎公園に移った理由は、市役所が使えなくなったからですけど、まぁ、結果的に動いてよかった……ですね、遊べるし」
――平安日本酒フェスティバルをされているというのは、お店にも影響ありますか?
清水さん「ゼロではない、と思います。
平安だけじゃなくて、ゴーアラウンドにも参加させてもらったりしてて。まぁ、イベントっていうのは、後々、いろんな意味でお客さんがついてくるのかなあと思います」
――最後に、清水さんにとって日本酒とはどういう存在なのか教えてください。
清水さん「日本酒は……どうですかね。うん、まぁ、拠り所の1つですかね。
なんていうんですかね、いいお酒もあったら、そうでないお酒もあるし。悲しい時に飲んだら、感情が出ちゃうお酒もあるし。けどまぁ……落ち着かせてくれますかね、お酒っていうのは。
だから、まぁ、変な意味ではなく…… すごく頼りになる、存在ですよね。お酒にゆだねるのではないけど、飲むとホッとするし。
うん、日本酒はすごく頼りになる存在かな、と思います」
取材を終えて
ちゃんと手間暇かけた「いいもん」を美味しく食べてもらいたい。食材の品質を落として安くするのではなく、今のスタイルで若い人にもお酒と料理を楽しんでもらうのが課題、と話す清水さん。
インタビューのあとカウンターでお寿司と日本酒をいただいていると、街と心の喧騒を忘れ、まるで時間がゆっくり流れているように感じました。
御所南を訪れたら清水さんが自ら染めた暖簾をくぐって、いっしょうの穴子料理と日本酒を楽しんでみてください。
店舗情報
うまいもんや いっしょう
住所:京都市中京区御幸町二条下ル山本町427
電話番号:075-231-1711
他の予約方法:電話のみ
営業時間:18:00〜24:00(L.O. 23:00)
定休日:水曜日、一部不定休あり
予算:平均7,000~8,000円
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