2024.08
27
日本酒と女性:女性らしくではなく、自分らしく。業界で働く女性5名が赤裸々トーク!
伝統産業である日本酒の世界で働く女性は、どんなことにジェンダーギャップを感じているのでしょうか。
近年、DEIという言葉(Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性))が広く提唱されています。SAKE Streetの特集「日本酒と女性」は、このDEIの考えに基づき、日本酒業界で長くマイノリティである”女性”に焦点をあて、すべての人が障壁なく公平に働ける業界となるために必要なことを模索していく企画です。
第1弾では、製造の現場における労働環境の課題と解決策について、女性50名へのアンケートをもとに分析しました。第2弾では、飲食店や酒販店、インフルエンサーなど、製造以外の分野で活躍する女性5名で座談会を実施。日本酒にまつわる活動をする中で違和感を覚えることや、キャリアへの考え方について語ってもらいました。
参加者
司会・ライター
木村咲貴(SAKEジャーナリスト)
“日本酒女子”の扱いに対する違和感
──今回は、飲食、販売、情報発信など、酒造り以外の分野で日本酒関係の仕事をしている5名の女性に集まっていただきました。いずれも20〜30代で、現役で活躍している方々ですが、プライバシーを保護するために匿名とさせていただきます。
現代社会でジェンダー格差を解消する動きが進んでいる一方、日本酒のような伝統産業では前時代的な意識が残っている様子もしばしば見られます。まず、日本酒のお仕事をする中で、女性という性別に基づく違和感を覚えたことはありますか。
酒販店で接客をしているんですが、40〜50代の男性のお客様からいわゆる”マウント”を受けることがよくあります。「若い女性は日本酒に詳しいわけがない」という偏見を持たれているのか、「自分のほうが詳しい」っていう態度で接してくるんですよ。
私も、飲食店で働いていた時に、「お姉さん、本当に普段から日本酒飲むの?」と聞かれましたね。
「女性はあまり日本酒が飲めない」という偏見を持っている人は多いですよね。お客さんとして行ったお店で、「どんな日本酒がありますか」と聞いたら「たぶん、言ってもわからないので」と言われたことがあって。「もう2度と行かない!」と思いました。
──店員さんにまで、そんなことを言う人がいるとは。ぞうさんもパンダさんも、専門店に立っているということはその道のプロである可能性は高いのに、「女性は日本酒を知らない」と決めつけてしまう人が多いんですね。
あと、いちばん違和感があるのは、日本酒好きを公表していると、飲みに誘ってもOKだと思われがちなことです。初対面の人や、SNSの匿名のアカウントから、「日本酒好きなら、今度二人で飲みに行こうよ」と言われることが多くてびっくりします。私は同性の相手でも、仲良くならないと誘いづらいと思ってしまうので……。
日本酒好き女子にとっては、SNSあるあるだと思います。私も、「今度、◯◯エリアに行きます」と投稿すると、匿名の人たちから「一緒にこのお店に行こうよ」というダイレクトメッセージがしょっちゅう届くので。距離の詰め方が不思議だし、仮に私が男性だった場合でも同じようにするのかな? と疑問です。
──向こうはみなさんのことをよく知っている気になっているのかもしれませんが、こちらからは相手のことがわからないので不安になりますよね。日本酒以外のジャンルにもあるのかわかりませんが、「自分と同じ趣味だから大丈夫だろう」と思い込んでしまうんでしょうか……。
ちょっと、ナメられている感じがしちゃいますね。
日本酒好きってコミュニティが小さくて、イベントに行くと毎回同じような面子がそろっているから、すぐに知り合いの気分になってしまう人も多いかもしれません。地方の業界関係者からは、セクハラがまだまだありますよ。いきなり年齢を聞いたり、「なんで結婚しないの」と問い詰めてくるような人がいまだにいます。
──現代社会では完全にタブー視されていることですね。実家に帰ったときに親戚からそう言われることさえ問題視されているのに……。
日本酒は新規製造免許が発行されないから、残っているのは何百年もの伝統を持つ酒蔵ばかりだし、昔ながらの慣習が、良いところだけでなく悪いところも引き継がれがちなのかもしれません。
酒蔵さんって、デザインやプロモーションを他社やプロに外注せず、全部社内で完結しちゃうところも多いじゃないですか。地域コミュニティや家族経営で完結しているからか、外部の視点が入ってこなくて、情報がアップデートされづらいのかなと思っています。
──世代交代によって改善されていっている部分だと思いたいですが、全体を改善するのにはまだ時間がかかりそうです。
”女性性”を売りにするのはアリ?
──ここまで、男性から受けたハラスメントのお話をしていただきました。一方で、女性が自ら引き起こす問題というのもあるのではないでしょうか。例えば前回のアンケートでは、経営層の女性が若い女性に古い慣習を押し付けてくるという意見が見られました。
若い世代にありがちですが、自分の女性性を売りにしてる人はいますよね。
──SNSなどで個人が発信しやすくなったので、日本酒に限らずどのジャンルでも増えていますね。最近はルッキズム(※1)も批判されるようになってきていますが。
美しいのは素敵なことですし、強みにすることは悪いことばかりじゃないと思うんです。でも、それ以外の知識やスキルも見せないと「かわいいだけで中身がない」と思われて、自分で自分の価値を下げてしまうんじゃないかと。
※1 ルッキズム:外見至上主義。見た目の美しさだけで価値を判断すること。
私自身、「これは女性性を売りにしてしまっているのではないか」と自省することがあります。SNSだと顔写真付きの投稿の反応が良いんですよ。特に読んでほしい投稿については自分の顔写真も載せるんですけど、自分が違和感を覚えている風潮に自分からはまっていっているようで……。
──売りになる部分がせっかくあるなら、せめて入り口として使いたいという気持ちは起きそうだなと感じます。
私が20代なんですが、同世代にそういう子が多いですね。SNSでも、日本酒のラベルよりも自分の顔を目立たせて、「かわいい」というコメントがたくさんつく、みたいな。私も自分の顔をアップすることはありますが、同じように思われるのは嫌なので、お酒について熱く語って、文章量で勝負しています。
でも実際、若い女性だからという理由でお仕事をもらえたこともあります。女性が少ない業界では性別が強みになるのは事実。ただ、武器にしてしまうと危ういですよね。
──私はアメリカの友人から「日本人女性は男性の女性蔑視を受け入れる人が多いけど、相手が『それでいいんだ』と思ってしまい、結果として他の女性にも迷惑がかかる。毅然とした態度でいなければならない」と意見を言われたことがあり、日本はまだまだ女性側のジェンダー意識も後進的なんだろうと感じました。
女性のインフルエンサーには一定のファンがつきますし、アイドルのような扱いを受けやすいんでしょうね。冒頭の飲み会に誘われる話などを聞いていると、「会いに行けるアイドル」のような感覚なんだろうな、と思わされますが……。
私は自分のことをアイドルだとは思っていないので、「彼氏いる?」と聞かれたら普通に「います!」と答えているんです。そうしたら、「応援する気がなくなった」と言われて「え、そうなるんだ!」ってびっくりしました。今はアイドルでも恋愛を制限しないところが出てきていますが、やっぱり”処女信仰”のようなものがあるのかもしれないですね。
私は結婚したことを発表したとき、フォロワーが数十人減りました。
私も30人くらい減りましたね。
でも、色恋目的で見ていた人の誤解が解けて、それ以外の魅力を見てくれる人が残るのは良いことなんじゃないでしょうか。
正直、淘汰されて良かったとすごく感じます。
私もです。あと、数千人フォロワーさんがいても、減るのはたったそれだけなんだなと思いました。
女性ならではのライフステージを考える
──結婚のお話が出ましたが、お酒の仕事をしている女性として、妊娠・出産はどのように考えていますか?
お酒を飲まなければいけない仕事はさすがに受けられないですよね。飲み込まないようにテイスティングする程度だったら大丈夫なのかなと。酒蔵で働いている中にも、お酒が苦手で、口に含んですぐ吐き出すテイスティングをする人もいますし。
私は妊娠・出産を経験しましたが、その間は飲み込まないでテイスティングをしていましたよ。ただ、日本酒はのど越しや飲み込んだ後の鼻に抜ける味わいも大切だと思うので、「これでいいのかな」というもどかしさは感じましたね。
ちなみに、私は無事出産してから公表しましたが、SNSなどを見ている人から、「妊娠中にお酒を飲んでいなかった?」と誤解させてしまうんじゃないかという不安は少しありました。
女性ならではのそういう経験って、プラスにしていくこともできるんだと思うんですよ。「大黒正宗」(兵庫県・安福又四郎商店)の蔵元さんは、妊娠中の日本酒が飲めない時期に、食事に合わせる飲み物が欲しくて玄米緑茶を開発しましたよね。
あ、私は妊娠・出産によって仕事がなくなるようなことはまったくなかったです。悩んでいる人には「不安になる必要はない」と言いたいですね。
──お酒の仕事をしようか悩んでいる女性にとって、妊娠・出産は悩みの種になると思います。コアラさんのようなロールモデルの存在は力になりますね。
日本酒のミスコン「Miss SAKE」は誰のため?
結婚といえば、Miss SAKE(※2)には未婚女性しか応募できないという規定がありますよね。 私の周りでは、「Miss SAKEにチャレンジしたいから、彼に1年結婚を待ってもらった」 という子が何人かいたくらいで。
別に結婚していてもしていなくても、 日本酒をプロモーションすることはできるじゃないですか。昨年同団体が立ち上げた既婚女性向けのMrs SAKEはなぜかエントリーが有料で、それも引っ掛かりました。
※2 Miss SAKE:日本酒の魅力を伝えるためのアンバサダーを選出するミスコンテスト
https://www.misssake.org/
──Miss SAKEとMrs SAKEの問題点については、手前味噌ですが、司会(木村咲貴)が書いた記事にまとまっているので、こちらでリンクを紹介させてください。確かに、グローバルな立場で日本酒の魅力を伝えるアンバサダーとして、いわゆる「大和撫子」的な女性を選出するというのは、やや時代を逆行している印象を受けます。
そもそも、Miss SAKEって、「ミス・ユニバース(※3)」から派生したミスコンなんですよ。ミスコンというのは未婚の女性を対象としたコンテストなので、単にそれを継承している、というのが大きいのだと思います。
※3 ミス・ユニバース:世界的な規模でおこなわれるミスコン。日本代表を決めるミス・ユニバース・ジャパンがある。
https://www.missuniversejapan.jp/
──確かに、歴代のMiss SAKE(ミス日本酒)受賞者を見ると、ミス・ユニバース・ジャパン関係の女性が多いです。ミスコンも、最近では廃止する大学も出てくるなど、賛否両論あるカルチャーですね。
参加者にも、ミス・ユニバースはハードルが高いからMiss SAKEを受けたっていう人たちは多いんです。ミス・ユニバースは身長制限がありますけど、Miss SAKEにはないので。
私は何の事情も知らずに、ただ日本酒が好きだからという理由でMiss SAKEに応募しました。そうしたら、会場にいた半分くらいの人が「日本酒を飲んだことない」 と言っていて唖然としましたね。運営側も、「女性が詳しいと喜ばない男性もいるし、知らないのは構わない」という態度で、二重で驚きました。
──日本酒を飲んだことがなくてもMiss SAKEになれるんですか! それは、いいんでしょうか(笑)
日本酒に関係したコンテストならではの基準があまり設定されていなかったり、重視されていないのではと感じます。アンバサダーとして日本酒業界と深く関わるようになったことで、矛盾が生まれて批判を受けるようになったのかな、と。ちゃんと日本酒が好きで参加している人たちは気の毒ですね。
きれいな子が着物着てイベントに立っていて、よくない言い方ですけど、客寄せパンダみたいなイメージを持ってる人は多いですよね。あと、日本酒って女性が男性にお酌をする文化があるので、コンパニオンっぽくなってしまうというか。ミスコンと日本酒の相性が悪いんだろうなと思います。
女性を立てたプロモーションのはずが、ターゲットが男性になってしまってるんですよね。私が飲食店で働いていたときの話ですが、カウンターのお客さんが男性ばかりになってしまって、こちらは情熱を持っておすすめのお酒やペアリングを提案しても、「なんでもいいから早くちょうだい」と軽くあしらわれて。ガールズバー感覚の人が多いと感じました。
酒蔵のアンバサダーなども、女性が多いですよね。実際に相談された蔵に男性を推薦したら、「女性しか募集していない」と言われたことがあります。
──もともと日本酒のマーケットが男性中心だから、女性にアピールしてもらって新しい層を開拓したいという気持ちがあるのかもしれませんね。でも、向いている男性もいるでしょうし、能力で判断されないのは気の毒です。
女性を立てたプロモーションが、実際に女性にアプローチして、新しい市場の開拓につながった例ってちゃんとあるんでしょうか? 女性を増やすためには、Miss SAKEもそういったアンバサダーも、男性が喜ぶようなことをするのではなく、女性が憧れるような存在になっていけると良いなと思います。
最近は女性だけが審査する「美酒コンクール」というのもできましたが、あれはあれで、「なぜ男性が排除されるのか?」という疑問が湧きますよね。女性性を強調しすぎると、男性と対立する構造ができてしまいそうだなと。
それで思い出したんですが、親しくしていた女性杜氏さんで、「自分は女性だけど、そんなの関係ない」と頑張っていた方がいたんですが、男性から「女性なのに気が強すぎる」と敵視されてしまって、業界にいづらくなってしまったと聞きました。「性別なんて関係ない!」って頑張りすぎてもつぶれてしまうし、女性性を出しすぎても歪んだ方向に行ってしまうし……。もっとフラットに性別と向き合える人が増えるといいんですが。
──業界の中で軋轢を起こさないためにも、昔ながらの”女性らしい”振る舞いをするほうが安全ではあるんだと思います。私も、公の場ではジャーナリストとしてはっきりと意見を言うようにしていますが、飲み会などの場では波風を立てないことを優先しがちですし、Sex Sell(女性性を売りにすること)だけでなく、自己防衛に”女性らしさ”を使う人は少なくないかと。
女性の数が少ないと、一人ひとりの女性の負担やプレッシャーが大きくなってしまう。割合が増えて、多様性が広がっていけば、性別を主張すること自体に違和感が出てくるようになるんでしょうね。
女性らしさではなく、”自分らしさ”を
──女性がのびのびと活躍できるような業界とはどんなものでしょうか。最後はみなさん自身のビジョンをお聞きしたいと思います。
自分が目立つことを考えるのではなく、お酒のおいしさや酒蔵のストーリーをきちんと伝えていきたいですね。また、酒蔵関係者でない人で、妊娠・出産をしたあとも日本酒業界で活動している女性はまだそんなに多くないと思うので、その視点を活かして発信をしていけたらいいなと思います。
私はもともと性別に関係なく、若い人たちに日本酒を好きになってもらいたいという思いで活動しているので、「なんで女性らしさを売りにするの?」「なんで男性はダメなの?」と違和感を覚えることが多いです。これからも、男性や女性といった性別に関係なく、若い世代の人たちに楽しいと思ってもらえる企画をしていきたいです。
もう少し女性比率を上げられるように、自分の周りから少しずつ改革を進めていきたいです。最近、酒蔵の仕事に関わるようになったんですが、第1弾の記事を読みながら、「そういえば、女性トイレに生理用の三角コーナーがあったのかな?」と気になって。まずはここで女性にとって気持ちいい環境を作りたいですね。
これまで、女性として恩恵を受けた部分もたくさんあると思っています。そのことを忘れないようにしつつ、女性性を売りにすることが他の女性への悪影響になってしまうことを理解する。そのために、女性を第一のアイデンティティにしてしまうことなく、「自分に求められていることはなんなのか」を考えながら仕事に取り組んでいきたいと思います。
私は普段、自分が女性であることをあまり意識せず仕事ができています。こうやってナチュラルに日本酒に関わる仕事ができている人がいることが、業界にとって良い影響を与えられるかもしれないので、このまま頑張ろうと思います。「女性らしさ」ではなく、みんなが「自分らしさ」を追求できるようになると良いですね。
──おっしゃるとおりですね。自分らしさを追求しようとしても、マイノリティとしてのシーンに直面すると、「自分の性別とは?」を考えなければいけない瞬間が出てくる。業界に女性が増えていく途上の時代に活躍しているみなさんだからこそ、性別によって受けるメリットやデメリットに向き合いながら、自分なりの考え方を築いていっているのだと感じさせられるお話でした。
みなさん、本日はどうもありがとうございました!
まとめ
今回の座談会では、第1弾で取り上げた酒造りの現場だけではなく、飲食や酒販、プロモーション、そしてひとりの「飲み手」としても、女性ならではの息苦しさと葛藤があることがわかりました。昔ながらの慣習を甘受するのではなく、その背景や自分の立場を客観的に理解しつつ「自分らしさ」を模索するみなさんの言葉からは、今という時代が、まさに変化の途上にあることが伝わってきます。
本特集のラストを飾る第3弾では、グローバルな視点から「日本酒と女性」を掘り下げ。海外で活躍する人々にお話を聞き、日本酒の未来を考えていきます。
【シリーズ】日本酒と女性
Part1:多様な働き手を受け入れるために、酒蔵の現場が乗り越えるべき課題とは?
Part2:女性らしくではなく、自分らしく。業界で働く女性5名が赤裸々トーク!
Part3:海外醸造のリアル。日本酒の外にヒントを見つける
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