2024.09
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スパークリング日本酒とは?- 作り方や歴史をわかりやすく解説
シュワっと爽快感あふれるガス感が魅力のスパークリング日本酒。近年は、フルーティーな味わいのものや、低アルコールで飲みやすい商品もたくさん発売されています。スーパーなどでも販売されており、日本酒初心者でも気軽に手に取れるのも魅力です。
今日では、たくさんの蔵が造るようになったスパークリング日本酒ですが、どのように誕生し、普及していったのでしょうか。この記事では、スパークリング日本酒の製法や歴史、おすすめの商品を紹介します。
スパークリング日本酒のタイプ
スパークリング日本酒は炭酸ガスの作り方で大きく「炭酸ガス充填タイプ」と「瓶内二次発酵タイプ」の2つに分類することができます。
炭酸ガス充填タイプ
炭酸ガス充填タイプは、できあがった日本酒に後から二酸化炭素を注入して作ります。ソーダ水など、市販の炭酸飲料の多くと同じ製造方法です。
ベースとなるお酒を自由に選ぶことができ、ガスの添加量も調整することができるため、さまざまなバリエーションの商品を作ることができます。また、品質が安定しやすく、充填後の低温加熱殺菌などの工程が不要なため、管理が容易であるのも利点といえます。
しかし、このタイプは、ベースとなる日本酒が吟醸酒や純米酒などの特定名称酒であっても、炭酸ガスを添加しているため、法的に「特定名称酒」という表記をすることができません。原材料表示には「炭酸」や「炭酸ガス」と記載されます。
瓶内二次発酵タイプ
瓶内二次発酵タイプは、酵母がアルコール発酵をする際に発生する二酸化炭素を活かして作ります。二酸化炭素がしっかりお酒に溶け込むため、キメが細かく、優しい泡になることが多いとされています。スパークリングワインの製法になぞらえて「瓶内二次発酵」と称されていますが、瓶内だけでなく、タンク内で二次発酵をさせることもあります。
瓶内で二次発酵をさせる際には、十分な量の炭酸ガスを得るために、瓶内に澱を入れます。そのため、薄にごりのお酒になることがよくあります。近年は、シャンパーニュの製法である「澱抜き(デゴルジュマン※)」と呼ばれる作業を取り入れることで、透明な瓶内二次発酵のスパークリング日本酒も作られています。また、タンク内で二次発酵をさせる場合は、澱引きや濾過をすることで、同様に透明なお酒を作ることができます。
※澱抜き(デゴルジュマン):瓶口に集めた澱を取り除く作業
また、同じく瓶内二次発酵タイプの日本酒に「活性にごり」があります。活性にごりとは、もろみに火入れ(加熱殺菌)をせず、粗い濾過を行い、酵母が生きた状態のまま澱ごと瓶に詰めたお酒のことです。
飲んだことがある人は、開栓時に噴き出しやすいイメージがあるかもしれませんが、これは瓶内で酵母が活発に発酵し、炭酸ガスが充満しているためです。冷蔵物流技術の発達により、自宅でも楽しめる機会が増えましたが、瓶の温度が上昇したり、強い衝撃を受けると、蓋が飛んだり、瓶が破裂する恐れがあります。
瓶内二次発酵タイプは、酵母が生きており、発酵のコントロールが難しいため、保管環境やその時々の造りによって品質にバラつきが出やすくなります。酒販店だけでなく、運送中や消費者の手に渡ったあとも含め、品質管理の難しさが課題となっています。
スパークリング日本酒の歴史
このように、今では製法が確立され、お店に並ぶことも増えたスパークリング日本酒ですが、どのような経緯で誕生し、親しまれるようになったのでしょうか。
開発から製品化への道
1909年(明治42年)には、醸造試験所発行の「釀造試驗所報告 第82號」にて、佐藤寿衛技師が「泡沸性飲料製造」の報告をしています。これは、炭酸ガスや糖類などを酒に溶け込ませ、シャンパンのようなガス感のある飲みものをつくる研究でした。
また、1934年(昭和9年)には、醸造学者の中島文雄が「清酒又ハ清酒代用飲料製造方法」として瓶内二次発酵タイプの製造方法を特許申請しています。
そして1939年(昭和14年)、日本に先立ち、ハワイで日本酒をベースにした発泡酒が発売されます。海外日本酒醸造の元祖だったホノルル酒造製氷会社が開発した「ポロチャンピオン」は、日本酒に少量のワイン、香料、炭酸ガスを添加した発泡酒でした。
第二次世界大戦のため、発売後すぐにポロチャンピオンの製造中止を余儀なくされたホノルル酒造製氷会社ですが、戦後になると、パイナップルなどの香料と炭酸ガスを添加した「ポリネシアン チャンピオン」をアメリカ本土向けに製造、発売しました。アメリカの清酒飲料を研究し、シャンパンを模したお酒で、香味は好評でしたが、販売はうまくいかなかったようです。
日本での普及
酒税法が制定されて以降、日本で初めてスパークリング日本酒が発売されたのは、1964年(昭和39年)。京都府に現存する増田德兵衞商店が「月の桂 大極上中汲 にごり酒」を発売しました。 酵母が発酵することにより発生した炭酸ガスを溶け込ませた”スパークリングにごり酒”の誕生です。
1968年(昭和43年)になると、複数の酒蔵が連携し、炭酸入り一級清酒「パンチメイト」を発売します。パンチメイトは炭酸ガス充填タイプのスパークリング日本酒で、低濃度酒、発泡性ソフト清酒として売り出されました。
CM動画:https://www.facebook.com/watch/?v=373501630218091(高砂酒造株式会社Facebook)
そして、1998年(平成10年)瓶内二次発酵による発泡性低アルコール日本酒の先駆けとして、一ノ蔵(宮城県)が「一ノ蔵 発泡性酒 すず音」を開発、発売しました。 瓶内二次発酵タイプで、低アルコール酒ににごり酒をわずかにブレンドしているため、淡雪のような軽いにごりがあります。
発売当初、スパークリング日本酒はまだ一般的ではなく、「すず音」を取り扱う酒販店は宮城県内で1店舗、全国合わせても20店舗しかありませんでした。しかし、1999年(平成11年)ごろ、テレビ番組で紹介されたことを機に一気に注目を浴び、スパークリング日本酒が広まる契機となりました。
技術の発展と多様化
「すず音」の発売以降も、日本酒製造の技術の発展に伴い、さまざまなスパークリング日本酒が研究・開発されています。
2008年(平成20年)には永井酒造(群馬県)が日本初の”液体が透明な”瓶内二次発酵タイプのスパークリング日本酒として「MIZUBASHO PURE」を発売。 構想から10年、数百回に及ぶ試行錯誤のもとに開発され、その製造技術は特許を取得しています。
また、海外からの注目が高まるにつれ、スパークリング日本酒の品質向上や普及促進を目指した活動も行われるようになりました。
2016年(平成28年)には一般社団法人awa酒協会が設立されました。 醸造中の自然発酵による炭酸ガスのみを保有していることや、液体が透明であることなど、厳しい条件を満たしたスパークリング日本酒を「AWA SAKE」として認定し、品質向上や普及促進、市場拡大を目指して活動しています。永井酒造株式会社代表取締役の永井則吉氏が理事長を務め、現在(2024年8月)は33蔵が加入しています。
おすすめのスパークリング日本酒
現在では手軽にさまざまな種類を楽しめるようになったスパークリング日本酒。歴史に名を残す一本からフレッシュな活性にごりまで、おすすめのお酒をご紹介します。
一ノ蔵 発泡性酒 すず音 - 一ノ蔵・宮城県
1998年に誕生した瓶内二次発酵による低アルコールスパークリング日本酒のパイオニア。甘酸っぱくフルーティーな味わいのロングセラー商品です。スーパーやコンビニなどでも販売されていて、手に入れやすいのもおすすめポイント。
MIZUBASHO PURE - 永井酒造・群馬県
日本(世界)で初めて誕生した”透明な”スパークリング日本酒。きめ細やかな泡と控えめな酸味があり、軽やかで洗練された味わいは世界のスパークリングワインに匹敵します。
月の桂 純米スパークリングにごり酒 - 増田德兵衞商店・京都府
酒税法制定以降、日本初のスパークリングにごり酒。青リンゴのような爽やかな香りが特徴。飲み口はボリューミーで、旨味の余韻が長く楽しめます。
神蔵 にごり ひそか 活性 無濾過 無加水 生酒 - 松井酒造・京都府
活性にごりタイプのスパークリング日本酒。金平糖のような甘やかな香りがあり、口に含むと柑橘類を思わせる甘味と酸味がふくらみます。
まとめ
今でこそ気軽に手にとれるスパークリング日本酒ですが、私たちの生活に根付くまでには、研究開発やマーケティングなどの企業努力、技術の発展が必要不可欠でした。現在は、日本酒が国際的に評価されている中でスパークリングワインを意識した商品や、日本酒の消費者が増える中で飲みやすさを意識した商品も増えており、今後の発展にも期待ができそうです。
炭酸ガス充填タイプと瓶内二次発酵タイプ、それぞれに良さがあります。たくさんの酒蔵が趣向を凝らしたお酒を作っているので、ぜひお気に入りのスパークリング日本酒を見つけてみてください。
参考文献
- 釀造試驗所「釀造試驗所報告 第82號」(1920年)(国立国会図書館 次世代デジタルライブラリーより)
- 特許出願広告第二六二二號, 清酒又ハ清酒代用飲料製造法(1935年)
- 二瓶孝夫「続・ハワイにおける日本酒の歴史」(日本釀造協會雜誌, 第80巻第12号, 1985)
- 二瓶孝夫「ハワイにおける日本酒・味噌・しょう油の歴史--日本酒(その2)」(日本釀造協會雜誌, 第73巻第6号, 1978)
- 坂倉又吉「清酒中小メーカーのマーケティング」(日本釀造協會雜誌, 第67巻第6号,1972)
- 星靖子、鈴木整「発泡清酒『すず音』の開発と商品化」(日本醸造協会誌, 第111巻第3号, 2016)
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