酒蔵には動物が棲んでいる? 動物の名前がついた酒造道具を紹介!

2024.08

20

酒蔵には動物が棲んでいる? 動物の名前がついた酒造道具を紹介!

戸部 雅弘(リンゴの魔術師)  |  日本酒を学ぶ

日本酒を造るときにはさまざまな道具を使います。酒蔵に行ってみると素材も形もいろいろな道具が壁や棚に整頓されているのを見ることができるでしょう。そんな道具の中には動物の名前がつけられたものがたくさんあるのを知っていますか?

酒蔵はある程度閉じた世界なので、内部の人同士で伝わるように、見た目や性質から思い浮かぶ動物の名前で呼ばれる道具も多いのです。

「キツネ取ってこい!」「タコ確認してきて!」

さぁ、これらがどんな道具を指すのかわかりますか?

キツネ(狐桶):醪を移し入れる容器

液体を扱う酒蔵には用途にあわせて多様なかたちの桶があります。たとえば試桶(ためしおけ)は酒や水を汲んで運ぶ用途、半切桶(はんぎりおけ)は水を溜めて米洗いや道具洗い等に使う桶です。その中でも、動物の名前がついているのが「キツネ(狐桶)」です。

注ぎ口がついているので、液体をこぼさないように移し入れるために使います。例えば、お酒を搾る前に、醪を酒袋に入れる作業などで登場します。丸い桶より注ぎやすく、こぼれにくいことが想像できると思います。

ウマ(立ち馬):便利な道具置き場

槽場(ふなば・酒を搾るところ)に置かれている細長い台は「ウマ」と呼ばれています。水平に長く、前足と後ろ足で立つ様子が馬のように見えるかもしれません。工事現場では足場として使われますが、タンクや槽(ふね)用の板の仮置き用などに使われます。

2頭のペアで置かれているケースが多く、木製や金属製のしっかりした素材のものが多いようです。単に物置の台ですが、木製のものを使用する場合には、そこに発生したカビからお酒に異臭が移ったという例もあり、雑菌を発生させないための洗浄は丁寧におこないます。

管理の悪い道具はケガの原因にもなりますので、その意味でも定期的なメンテナンスは重要ですね。

ネコ(猫車):狭い道も運べる台車

一輪、または二輪の手押し車のことを、「ネコ」(猫車、猫台車)と呼びます。酒蔵では、P箱や段ボールを運ぶ際に使うため、瓶詰場や倉庫にいることが多いでしょう。狭い場所や、一枚板で渡しただけの細い通路などを進める様子は、確かにネコっぽさがあります。

酒蔵でよくあるネコの使用方法は、P箱を6つ載せて、バランスを取りながら持ち運ぶ、というものです。崩さないために、すべてのP箱の重さを均一にし、持つ手をしっかり固定するなど、ネコと一体化して運ぶことがポイントとなります。上手く操作すれば、上り坂も下り坂もスイスイ移動できます。

ヘビ(蛇管):火入れや冷却に活躍する金属の管

火入れ(加熱殺菌)に使われる蛇管(じゃかん)はステンレスなどで出来た管で、字の如く蛇のようにとぐろを巻いたような形が特徴です。この管にホースを繋ぎ、お湯を沸かせた釜に沈めて、管の中に酒を通すと、火入れができるという仕組みです。

現在は、これを改良したプレートヒーターが火入れ道具の主流となっています。これらの方法は、タンクから別のタンクに火入れしたお酒が移るので、タンク火入れと呼ばれます。蔵の規模や設備によって火入れの方法はさまざまですが、蛇管を使った方法は近年少しずつ見られなくなってきています。

蛇管は、中に冷水を通してお酒や醪の入ったタンクに入れておけば、冷却装置として使うこともできます。しかし、醪や酛を冷やす際には揺り動かしながらでないとまんべんなく冷えないので、なかなか一苦労な仕事です。また、冷却水が醪などに混入しないようにホースバンドでしっかりと止めることも重要です。

この役割でも、サーマルタンクや冷水ジャケットの登場で活躍の機会は減っていますが、高温糖化酛や酛分けなど、急冷が必要な時には「蛇」が活躍します。

タコ:お酒を搾るときの強い味方

4つの足に、2本の管、電気のコードが生えたこちらの機械は、その見た目のとおり「タコ」と呼ばれています(7本なので、正確には1本足りないのですが)。正式名称で呼ぶことはほぼありませんが、「圧力調整器」などと呼ばれるもので、上槽にあたって醪を一定の量で送り込める装置です。

醪をポンプで送り込む際に、量が少なく空気が混ざりそうな時も、流れ出てくる圧を一定に保つため、密閉タンクのある待機場が必要になります。ヤブタ式などの圧搾機には、もともとこの機構が備え付けられていていますが、「袋吊り」や佐瀬式などの槽しぼり用に、酒袋に醪を送り込む場合に必要となる道具です。

サル:米を蒸すための強い味方

お米を蒸す甑の底に空いた穴から、蒸気を均等に分散させるために設置する「コマ」のことを、「サル」と呼ぶことがあります。形状が猿の伏せた姿に似ているから、赤みを帯びた杉が猿の赤い尻を連想させるから、など、由来はさまざまです。

蒸し作業では、米に蒸気を均一に当てることが重要です。米を蒸す量は毎日違いますし、麹米か掛米か、米の品種や年度、搗精日(酒米を精米した日)、季節によっても蒸し塩梅は調節する必要があります。

サルは、主に和釜に取り付ける甑に使われるので、近年では見かける機会も減りました。現在の甑では、スノコを敷いた上にプラスチックでできた擬似米を敷くことで、蒸気の分散などの役割を持たせています。更に近年では、この擬似米が不要になる布も話題となりました。甑自体も移動式のもの、サバケ(米の表面の手触り。麹など後々の工程で蒸米が取扱いやすくなる)が良くなる乾燥蒸気を出しやすいもの、年々進化しているようです。

その一方で、木製の昔ながらの甑への注目もあります。木はステンレスと異なり、吸湿性が高く余分な水分を吸ってくれるので、表面への結露も起こらず麹米の蒸しあがりが違ってくるのです。ただし、木の甑は丁寧な掃除が求められます。木の甑への回帰が進めば、このサルも再び日の目を見るのかもしれません。

ツル(ツルクビ):タンクに引っかけて使う曲がった装置

ホースの先に取り付けてタンクに掛けて使うU字の道具は「ツルクビ」と呼ばれています。ツルのように首が曲がっていることがその由来だと考えられますが、植物の「蔓」である可能性もないとは言い切れません。

水や酒、醪を移す時に使う道具で、タンクを傷付けないようゴム素材でコーティングされていることが多いですが、金属(ステンレス)だけで作られたものもあります。

酒をポンプとホースで移動させる際、ツルクビを使ってバシャバシャと刺激を与えるとお酒にダメージがあるため、「玉呑み」(ゴム玉が入った器具で、逆止弁の働きをして逆流を防ぐ)が推奨されているところもあります。

日本酒は、動物と仲良し?

この記事では、酒造りに使われる道具と動物の関係を見ましたが、よく考えると日本酒の銘柄や商品名にも動物が使われていることが多いですね。鶴や亀など縁起がいいもののほかにも、虎や鷹など強そうな動物、鶯、燕など綺麗な動物もたくさん使われています。

なかには、蔵のある地域独特の吉兆や故事にちなんでいるものもあるかもしれません。酒蔵見学などの際には、ぜひ由来などを聞いてみて、お酒をさらに美味しく楽しみましょう!

文・イラスト:リンゴの魔術師
CG制作:SF酒造

話題の記事

人気の記事

最新の記事