2022.03
08
「雄町」ってどんな酒米? - 100年以上の歴史を誇る酒米の系譜、特徴、産地、日本酒の味わいを解説
「オマチスト」という言葉をご存知ですか?酒米「雄町」を使用した日本酒を熱狂的に愛する人たちの呼称です。100年以上の歴史とコアなファンを持つ雄町の特徴や系譜、産地について解説します。
100年以上の歴史を持つ唯一の酒米「雄町」とは
100種類以上存在する酒米の中で、100年ものあいだ途切れずに使い続けられている唯一の品種です。さかのぼること約160年前、1859年に備前国上道郡高島村字雄町(現在の岡山市中区雄町)の農家が発見したとされています。
当初は1866年に新種「二本草(にほんぐさ)」と命名されますが、岡山県南部を中心に栽培が広がるなかで、地域の名前をとって「雄町米」と呼ばれるようになりました。こうして育てられるようになった在来品種から1922年に純系分離されたものが、現在の「雄町」だと言われています。
以前から雄町を使用した日本酒のファンは多くいましたが、近年はより熱狂的な「オマチスト」が増加中です。
多くの人を魅了する雄町の特徴とは
柔らかく溶けやすい
雄町は吸水性に長けていて、米粒の中心にある心白が大きいのが特徴。また、米自体が柔らかいので日本酒を造る過程で溶けやすく、麹が持つ酵素によって糖に分解されやすいです。日本酒造りに適した特徴を多く持っているうえに狙った個性を出しやすく、味わいに多様性があるのも雄町が愛される理由です。
濃醇な酒に使われることが多い
溶けやすい性質を持つ雄町は、濃醇でコクのある酒によく使われます。「雄町らしさが出ている」と評価されるのは、ふくよかな甘さで華やかな香りの酒や、どっしりとした旨味と酸味を感じる酒が多いです。
雄町の代表的な日本酒の銘柄のひとつが、利守酒造の「赤岩雄町」。利守酒造は、一時期は生産量が大きく減った雄町の復活を牽引しました。「赤磐雄町 純米大吟醸 生」は、2020年の岡山県清酒鑑評会にて岡山県知事賞を受賞した逸品で、口に含むとフレッシュな香りと旨みが広がります。
滋賀県の「渡船」は同じ品種だった?
酒米のルーツである雄町は、さまざまな種類の品種との関わりを持っています。
たとえば滋賀県の「渡船」は、もともと同じ品種の酒米だったと言われています。1895年に滋賀県立農事試験場が取り寄せたものから「渡船」として名付けられ、その後雄町と同種であると認定された、とされています。
(この説は慎重に扱うべき、とする論文もあります。より詳しい内容が分かり次第、こちらの記事の追記・訂正を行います。)
このほかにも「五百万石」や「愛山」、「きたしずく」など、雄町は多くの酒米のルーツになっています。
雄町の系譜
また、ラベルなどに「〇〇雄町」と書かれている場合には大きく分けてふたつのパターンが存在します。ひとつ目は、雄町の産地を示すもの。代表的なのが「備前雄町」や「赤磐雄町」です。
もうひとつは、雄町をもとに品種改良をおこなった別の品種であるパターンです。例として「こいおまち」「改良雄町」が挙げられます。
雄町の産地
岡山県が圧倒的生産量を誇る
雄町の生産量の9割を、雄町発祥の地である岡山県が占めています。生産地が分散していない理由として挙げられるのが、栽培の難しさです。雄町は酒米の中でも成長が遅い晩生(おくて)であり、稲の背丈が長いため倒れやすく、病気にもかかりやすいという弱点があります。こうした特徴から他県ではあまり生産が広がらず、一時期は「幻の酒米」と呼ばれるほど生産量が減少しました。
その他の生産地
雄町の岡山県以外の生産地は、広島県や福岡県、香川県です。広島県では品種改良をくわえた「広島雄町」も栽培されています。2019年に開催された、雄町のみを使用した日本酒の品評会「雄町サミット」では、広島県と香川県の日本酒も優等賞を受賞しました。
まとめ
今回は100年以上の歴史を持つ酒米「雄町」の味わいや系譜、生産地について解説しました。雄町は、酒米の代表である山田錦と五百万石を孫に持つ品種です。芯があり、濃醇でコクのあるお酒に使われることが多く、独特の味わいから日本酒ファンを魅了しています。雄町をこよなく愛する「オマチスト」まで誕生させる、奥の深い酒米です。
酒米のルーツと言われる雄町の魅力はまだまだ語り尽くせません。雄町に関する詳しい歴史や、栽培の技術面から考える雄町の魅力について詳しく知りたい方は、ぜひ下記の関連記事もチェックしてみてください。
関連記事①:発見から160年。「雄町」の歴史をたどる
関連記事②:飲み手を魅了。酒米「雄町」の特徴を知る
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