2024.04
09
日本酒の「酸度」を学ぶ - 数値の意味や酸の種類、味わいとの関係
裏ラベルやウェブサイトなどで、日本酒の情報としてしばしば表示されている「酸度」。すべてのお酒で必ずしも公開されているわけではないこの項目を、どの程度参考にしていますか? 酸度のような数字の意味を理解すると、造り手のこだわりや、日本酒の味わいをある程度イメージすることができ、日本酒選びがもっと楽しくなります。今回は、そんな「酸度」の定義や味わいとの関係について学んでみましょう。
酸度って、どんな数値?
酸度は、日本酒の中に含まれる有機酸の量を表す数値です。ラベルへの表示義務はないため、ラベルに酸度が記載されていない日本酒もよくあります。
酸度を測る際には、「中和滴定」という手法が用いられます。こしたもろみや日本酒に少しずつアルカリ溶液を加え、「どのくらいアルカリ溶液を加えたら中和するか」によって測定するのです。
具体的には、日本酒10 mLに0.1 N(※)の水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHが7.2になるまで中和滴定します。このとき使用した水酸化ナトリウム溶液の体積が「酸度」です。
※ N(規定)とは、溶液の濃度を表す単位のひとつです。溶液1 L中に1 グラム当量の酸またはアルカリが含まれているときの濃度を1 Nといいます。
具体的にはどんな酸?主な有機酸とその説明
「有機酸」というカテゴリには、さまざまな酸が含まれます。中でも日本酒に特に多く含まれるのは、乳酸・コハク酸・リンゴ酸・クエン酸の4種です。それぞれの酸の特徴を見ていきましょう。
乳酸
乳酸は、ぬか漬けやヨーグルトなどに含まれる有機酸です。ふくよかで丸みのある酸味を持っています。
乳酸は酒母造りの工程で雑菌による汚染を防ぐ役割も担っており、日本酒造りにとっては非常に大切な酸です。乳酸菌から乳酸を生み出す生酛系のお酒では、乳酸の味わいを特に感じやすい傾向があります。
コハク酸
コハク酸は、貝類に多く含まれる旨味成分です。
日本酒において、コハク酸は主に、酵母の働きでつくられます。苦味や渋味の要素をもたらし、味わいに深みを与えてくれる有機酸です。
リンゴ酸
リンゴ酸はその名の通りリンゴから発見された酸で、ブドウにも多く含まれます。すっきり爽やかで、かつ甘味も感じるのが特徴で、白ワインに近い酸味を持っています。
リンゴ酸高生成酵母を用いて醸造することで、リンゴ酸をたくさん含む日本酒を造ることができます。また、ワイン酵母で醸した場合にも、リンゴ酸が多く発生します。
クエン酸
クエン酸は、柑橘系に代表される酸です。爽快感のある、シャープな酸味をもたらします。
日本酒造りにおいては、一般的に焼酎に使われる白麹や黒麹などを用いるとクエン酸が多く含まれるお酒を造ることができます。
酸度が味わいに与える影響
酸度は、どのように日本酒の味わいに関わるのでしょうか。
まず知っておきたいことは、「酸度が高い=酸っぱい」というわけではないということです。日本酒の味わいはさまざまな要素が絡み合って決まるため、酸度単体の高低によって味が決まることはありません。
特に酸味との関わりが分かりやすいのは「甘味」です。一般に、甘味が強いほど酸味は感じにくくなります。したがって酸度が高くても、甘さの指標として使われる「日本酒度」が低い(マイナスの数字が大きい)お酒の場合には、それほど「酸っぱい」とは感じにくくなります。
このほか、最近では甘さの指標として「グルコース濃度」を活用するケースも出てきています。この場合は、グルコース濃度が高いお酒であれば、酸度が高くても酸っぱく感じにくいことになります。
このように、酸度は単体で日本酒の味を判断できる要素ではありません。しかし、 上記を理解した上で、酸度を「味わいをイメージするための指標」として活用することはもちろん可能です。
酸度の平均は1.3〜1.5程度ですので、これを目安にするとよいでしょう。『SAKE DIPLOMA教本 Second Edition』(一般社団法人日本ソムリエ協会、2020)によると、「一般に酸度が1.0以下の場合、より柔らかく軽快な印象を感じ、1.5を超えると、よりしっかりとしたストラクチャーと余韻のフレッシュ感などを感じる」という傾向があります。
酸度のほかにも、日本酒度、アミノ酸度、アルコール度数など、日本酒の特徴を示す数値はいくつかあります。それぞれの数値の意味を知っておくと、より鮮明に味わいを思い描くことができます。もちろん、これらの数値には表れない香りや味わいの要素はたくさんあるので、飲んでみると「イメージと違った」と思うこともあるでしょう。その驚きも含めて、日本酒の奥深さを楽しみたいところですね。
酸度が高い日本酒にはどんなものがある?
最後に、高い酸度を持つ日本酒の銘柄をいくつか紹介します。
美川酒造場「舞美人 山廃純米 無濾過生原酒 sanQ」(酸度:8.0)
味わいだけでなく香りにも豊かな酸を感じる「舞美人 山廃純米 無濾過生原酒 sanQ」。
この独特の「酸」の鍵を握るのは、蔵付き酵母です。蔵元杜氏の美川さんが「SanQ酵母」と呼ぶこの蔵付き酵母は、一般的な酵母に比べて、乳酸・酵母無添加の環境で酵母が生成する乳酸の量が多いそうです。
「SanQ酵母」が生み出す豊富な乳酸の酸味と、それを支える重厚な旨味や甘味のバランスが絶妙な、舞美人の看板商品です。
榎酒造「華鳩 貴醸酒 8年熟成」(酸度:3.5)
仕込み水に酒を使って造られる「貴醸酒」は、とろりとした甘さが特徴のお酒です。
こちらの「華鳩 貴醸酒 8年熟成」も、もちろん糖度が高くリッチな味わいを持っているのですが、それに加えて注目したいのが酸度の高さ。
口に含むと、豊かな甘味に次いでまろやかな酸味が顔を出します。そこにほろ苦さも加わって、奥行きのあるハーモニーを奏でます。ただ甘いだけではない、複雑で深みある味わいには、酸も一役買っているのです。
寺田本家「醍醐のしずく」(酸度:5〜12)
「醍醐のしずく」は、室町時代に奈良で生まれたとされる伝統的な酒母造りの手法、「菩提酛(ぼだいもと)」を再現して仕込んだ日本酒です。
天然の乳酸菌と蔵付き酵母を活かす菩提酛仕込みならではの、個性的で爽やかな酸味が魅力的。精米歩合90〜93%と低精米で、お米由来の濃厚さと穀物感のある独特な香りがしっかり感じられ、かつ、酸度が高いので切れ味はすっきりしています。
また、仕込み時期によって違った味わいに仕上がるため、何度でも新しい発見がある一本です。
木戸泉酒造「純米生 AFS(アフス)」(酸度:5.5)
「日本酒とは思えない」と評判の「純米生 AFS」。白ワインをイメージさせる印象的な酸味と甘味が特徴です。
独特の味わいの鍵を握るのは、木戸泉酒造が昭和30年頃に生み出した「高温山廃一段仕込み」です。「高温山廃酛」は、天然の乳酸菌を用いて、高温で酒母を仕込む手法。「一段仕込み」は、通常の酒造りでは3回に分けて入れる米と米麹を、一度にすべて入れて仕込む方法です。
いい意味で日本酒らしくない新感覚の味わい。ロックや炭酸割りで楽しむのもおすすめです。
まとめ
酸度は、日本酒の味わいをイメージするのに役立つ数値です。最近では、商品情報として酸度が表示されることも増えてきました。酸度に注目して日本酒を選んでみるのも楽しいかもしれません。
また、日本酒にはさまざまな種類の有機酸が含まれています。「この味わいは、どんな有機酸に由来するのかな?」と考えながら飲んでも楽しそうですね。
参考文献
- 野田博行「味関連データを基にした日本酒の味のマッピングと分類化」(科学・技術研究,第11巻第1号,2022)
- 島津善美、藤原正雄、渡辺正澄、太田雄一郎「清酒に含まれる有機酸の酸味と飲用温度の関係」(日本醸造協会誌,第106巻第11号,2011)
- あいち産業科学技術総合センター「清酒の分析について」(2023年10月21日閲覧)
- SAKE Streetメディア「ラベルの数字から想像する、日本酒の味わい - アルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度」(2023年10月21日閲覧)
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