2020.05
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日本酒ラベルの見方を徹底解説 - 各項目の意味を知って、味わいを想像しよう
日本酒のラベルをじっくり見てみると、そこにはいろいろな数字が記されています。「アルコール度数」「日本酒度」「酸度」「アミノ酸度」……このような項目を、普段どの程度参考にしていますか?
実はこうした数字から、日本酒の味わいがある程度イメージできるのです。味わいとの対応関係という意味では、数字はあくまでも目安に過ぎませんが、それぞれの数字の意味を理解しておくことで、店頭での銘柄選びがさらに楽しくなります。今回は、日本酒のラベルに記されるさまざまな数字の意味や、そこから読み取れる味わいへの影響を学んでみましょう。
アルコール度数
アルコール度数は、ラベルへの表示が義務づけられている項目です。法律上「清酒」とみなされるのはアルコール度数22度未満のものに限られており、22度以上の日本酒は「リキュール」または「雑酒」として扱われます。
日本酒のアルコール度数は、14〜17度程度が標準です。一般に、アルコール度数が高いほど「飲み口」が重く感じられます。アルコール度数が標準の範囲に収まる日本酒は、重すぎず軽すぎない、バランスが良いものが多いです。標準よりも度数が低い日本酒では甘味とライトな飲み口が際立つ傾向があり、お酒が苦手な人にとっても飲みやすいでしょう。いっぽう、標準よりもアルコール度数が高くなると味わいの濃さと厚みが増し、飲みごたえのある日本酒になります。
日本酒度
日本酒度は、ラベルへの表示が義務づけられていないものの、表示されていることが多い項目です。甘辛度の指標とされることもある日本酒度ですが、これは糖分の含有量などを示す数値ではありません。日本酒度とは、すなわち日本酒の「比重」なのです。
日本酒度は、「日本酒度計」と呼ばれる浮きばかりで測られています。このはかりは、4℃の純水に浮かべたときに数値が0になるように設計されていて、水よりも軽い酒に浮かべるとプラスの値を、水よりも重い酒に浮かべるとマイナスの値を示します。つまり、比重が重くなるほど、日本酒度の値は小さくなるのです。
では、日本酒の比重がどうして甘さ・辛さの指標として使われるのでしょうか。一般的に、日本酒度-1.4〜+1.4を中庸(※1)として、それより日本酒度が小さくなる(=比重が重くなる)ほど甘口、大きくなる(=比重が軽くなる)ほど辛口だと言われます。
アルコールは水より軽く、糖は水よりも重いです。そして酒が発酵するプロセスでは、酵母が糖を分解してアルコールに変えていくので、その過程の中で酒の比重は徐々に軽くなります。もともと日本酒度は、製造過程においてどれくらいの糖をアルコールに変えられたかを計る指標として用いられたものなのです。
つまり、日本酒度が大きい(=比重が軽い)酒では、より多くのアルコールが作られていると言えます。アルコールが多く作られたということは、糖が分解され少なくなったということを意味します。そして糖が少ないということは、甘味が少ない、つまり辛口であるという考えから、甘さ・辛さの指標としても日本酒度が使われているのです。
ただし、日本酒の評価において「辛口」という言葉は、「甘味が少ない」という意味だけでなく「キレが良い」という意味でも使われます。「キレの良さ」も甘味が少ないほど感じやすいのは事実ですが、決してそれだけでは計れないものです。たとえば、酸味や苦味によっても甘辛度は変わります。甘味は、酸味や苦味と相殺しあうからです。
また、先に述べた理屈だと、アルコールが多い酒ほど辛口になるはずですが、アルコールそのものが甘味を感じさせることもあります。
(※1)甘口/辛口の中庸については「±0とする」、「±0~+5未満とする」など、諸説あります。
日本酒度は、日本酒の甘さ・辛さを考える上でのひとつの判断材料にはなります。ただし、あくまでもほかの数値と組み合わせて使う必要があるのです。
酸度
酸度は、ラベルへの表示義務がなく、表示されていないことも多い項目です。日本酒の酸度を計る際には、日本酒10mlに0.1N(※2)の水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHが7.2になるまで中和滴定をおこないます。その際に使用した水酸化ナトリウム溶液の体積を、酸度と呼んでいるのです。
一般的に、日本酒の酸度は0.5〜3.0程度に収まります。中庸とされるのは1.4〜1.6程度です。酸度が1.4よりも低い酒からは、柔らかく軽快なニュアンス、いわゆる「淡麗」な印象を感じるでしょう。いっぽう、酸度が1.6より高い酒からは、酸味を感じるジューシーな味わいや、骨格がしっかりした「濃醇」な印象を感じることが多いでしょう。 ただし日本酒には、乳酸やコハク酸、リンゴ酸、クエン酸など、さまざまなタイプの酸が含まれており、これらのバランスによっても味わいのニュアンスが変わってきます。たとえば、リンゴ酸やクエン酸はとりわけ爽やかな印象を与えますが、乳酸は味わいにふくよかさや丸みを与えます。したがって酸度もまた、あくまでも目安として使用するべき数字だと言えるでしょう。
(※2) N(規定)とは、溶液の濃度を表す単位のひとつです。溶液1L中に1g当量の酸またはアルカリが含まれているときの濃度を1Nといいます。
アミノ酸度
アミノ酸度もラベルへの表示義務がなく、表示されていることが少ない項目です。アミノ酸とは、主として旨味やコクを酒に与える成分です。日本酒の中には、アルギニン、グリシン、ロイシン、チロシン、グルタミン酸など約20種類ものアミノ酸が含まれており、これらアミノ酸の総量を数値化したものがアミノ酸度です。
アミノ酸度を計るには、日本酒10mlに0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHが8.2になるまで中和させ、次に中性ホルマリン溶液を加えてアミノ酸を酸性化させます。その後再び0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHが8.2になるまで中和滴定し、その際に使用した水酸化ナトリウム溶液の体積をアミノ酸度とします。なお、劇物である中性ホルマリン液の代わりにエタノールを用いる方法も近年開発されました。
参考:酒類総合研究所「ホルマリンを使用しないアミノ酸度の分析法」
アミノ酸度は、標準的なお酒では1.0強~2.0弱程度。鑑評会用の出品酒やそれに近いタイプの吟醸系のお酒などでは1.0を下回るものもあります。
一般的にはアミノ酸度が多いほど、ふくよかさや濃厚さ、旨味や味わいの広がりが増します。その一方で、吟醸系のお酒でアミノ酸度が低い理由は、アミノ酸が増えすぎると苦味や雑味に感じられることがあるためです。ただし、アミノ酸度だけで旨味が決まっているわけではありません。日本酒の深い味わいは、例えば「酸」でありながら旨味を感じるコハク酸であったり、アミノ酸の種類、あるいは熟成の進み具合などのさまざまな要素のバランスによって形作られるものなのです。
最近の研究では、アミノ酸の中でもD-アミノ酸とL-アミノ酸(※3)では、D-アミノ酸の方が旨味(呈味)を感じやすいこと、生酛系のつくりで活動する乳酸菌がD-アミノ酸の生成に関わっており、そのことが生酛系のお酒に表れやすい独特な旨味に関係しているかもしれないことが明らかになっています。
参考:日本醸造協会誌 110 巻 4 号「日本酒の新たな呈味性成分『D- アミノ酸』」老川 典夫(2015年)
(※3) グリシン以外のアミノ酸には、鏡に移したような反対の構造を持つ光学異性体があり、一方をL体、もう一方をD体と呼んでいます。
まとめ
今回の記事では、日本酒のラベルに書かれた数字から、ある程度味わいの予想ができるということを述べてきました。繰り返しますが、それぞれの項目はあくまでも目安に過ぎません。日本酒の深くて複雑な味わいは、いくつかの数値に表しきれるものではないのです。たとえば、フルーツのような甘い香りのするお酒は味わいも甘く感じやすいですが、今回紹介した数値には「香り」の要素は含まれていません。
しかし、ラベル表記の意味を知ることで、日本酒を味わう楽しみがさらに大きくなるのは確かです。試飲をしなくても、ラベルを参考にして、自分が好きそうな銘柄や、まだ飲んだことのない味わいを持つ銘柄などを見つけられるようになるからです。
ラベルを見ないでお酒を飲み、それぞれの数字を予想してから答え合わせをすると、だんだんと数字と味わいの紐付けができるようになってきます。日本酒仲間どうしでクイズを出すのも楽しいかもしれません。ぜひ試してみてくださいね。
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