2020.05

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自宅でお酒のことを学ぼう!日本酒・お酒の書籍紹介 -「日本酒の造り手」編

二戸 浩平  |  日本酒・お酒関係書評

日本酒のことが学べる書籍紹介も今回で第5回となりました。ここ最近で、オンラインでのイベントも増えてきたとはいえ、試飲会や蔵元会などの日本酒イベントで造り手の方から直接話を聞く機会は減ってしまっているのではないでしょうか?今回は、「日本酒の造り手」について知ることができる書籍を3冊ご紹介します。

これまでご紹介してきたさまざまなジャンルの書籍と比べても、多くの著作が存在するジャンルです。3冊に絞るのに少し苦労しましたが「なるべく多くの酒蔵について読むことができ、なるべく登場する酒蔵が被らない」ように選んでみました。

造り手の覚悟とドラマを知る『蔵を継ぐ』

少数の例外はあれど、多くの酒蔵が今でも「家業」として代々創業家や関係する血筋の子孫が経営を受け継いでいくスタイルをとっています。山内聖子著『蔵を継ぐ 日本酒業界を牽引する5人の若き造り手たち』(双葉社)は、近年酒蔵の経営者、あるいは杜氏として蔵を継いで活躍する5人について、「蔵を継ぐ」という点にスポットをあてたエピソードを紹介している書籍です。

この書籍に登場する酒蔵(代表銘柄):
宮森銘醸(寫楽)、松崎酒造(廣戸川)、高嶋酒造(白隠正宗)、湯川酒造店(十六代九郎右衛門)、せんきん(仙禽)
※法人格は略。蔵を訪問・取材した先のみ掲載。

私自身、おそらく多くの読者の皆さんと同じように「家業」のない家庭に育ったこともあり、「家業を継ぐ」ということに対して漠然としたイメージしか持っていませんでした。さらに言えば、それはごく自然なことというか、当然の流れのように思っていた部分もありました。しかしこの書籍を読んで、それは間違いであったことに気付かされました。

現在ではさまざまな鑑評会やコンテストでの評価も高く、名の知られる酒蔵を継いだ5人は、あるいは強い意志によって、あるいは偶然の出会いによって、あるいは突発的な事件がきっかけで、それぞれ酒蔵を継ぐことになったのです。

日本酒の消費が減る中、経営的に何の問題もなくうまくいっている酒蔵はほとんどない、と言って良いと思います。そうした状況で、自分の子供に蔵を継がせることについて、親の側にも少なからぬ迷いがあります。継ぐ側の子供にとっても、蔵で育ったからといって必ずしも酒造りに関心を持つとは限りませんし、特に経営的に厳しい蔵を継ぐことは生半可な覚悟でできることではありません。こうした事実は、考えてみれば当たり前なことではありますが、現在活躍している酒蔵の姿を見ると、意識する機会は少ないのではないでしょうか。

造り手の持つ覚悟、そこに至るまでのドラマを胸に刻み込んでくれる一冊です。

『蔵を継ぐ 日本酒業界を牽引する5人の若き造り手たち』(双葉社)

多様な酒蔵とその周辺の土地について知る『にっぽん蔵元名人記』

勝谷誠彦著『にっぽん蔵元名人記』(講談社)は、他にご紹介する2冊とは毛色の異なる書籍です。この書籍はどちらかといえば「紀行文」であり、各地の酒蔵やその周辺にある歴史的・文化的な場所を訪ねるなかでの発見が記されている本です。著者である勝谷誠彦さんも、国内外のさまざまな場所を訪ねる紀行文を専門とする紀行家です。

しかしそれにも関わらず、むしろそれだからこそ、日本酒ファンにとっても新しい発見があり、日本酒に詳しくなくても旅や歴史が好きな人にも楽しめる内容になっています。

この書籍に登場する酒蔵(代表銘柄):
清水酒造店(能登誉)、中野酒造(能登亀泉)、櫻田酒造(大慶)、諏訪酒造(諏訪泉)、土佐酒造(桂月)、田嶋酒造(福千歳)、一本義久保本店(一本義)、南部酒造場(花垣)、白鶴酒造(白鶴)、齋彌酒造店(雪の茅舎)、栗林酒造店(春霞)、福源酒造(福源)、信州銘醸(瀧澤)、小林酒造(北の錦)、田中酒造(寶川)、芳水酒造(芳水)、日新酒類(瓢太閤)、宮尾酒造(〆張鶴)、美の川酒造(美の川 ※現在は廃業、苗場酒造がブランド継続)、津南醸造(霧の塔)、白菊酒造(大典白菊)、李白酒造(李白)、三浦酒造(豊盃)、西田酒造店(田酒)、大門酒造(大門)、香住鶴(香住鶴)、福光屋(福光屋)、成政酒造(成政)、喜多酒造(喜楽長)、池本酒造(琵琶の長寿)、澄川酒造場(東洋美人)、旭酒造(獺祭)、田畑酒造(羅生門)、九重雑賀(雑賀)、鶴之江酒造(会津中将)、廣木酒造本店(飛露喜)、土井酒造場(開運)、磯自慢酒造(磯自慢)、和田酒造(あら玉)、東北銘醸(初孫)、坂田酒造(上喜元)、老松酒造(山水)、浜嶋酒造(鷹来屋 )
※法人格は略。蔵を訪問・取材した先のみ掲載。

上記の銘柄の中に、どれだけ知らないものがあったでしょうか?よほど熱心な日本酒ファンであっても、見たこともないものがあるかもしれません。名前の知られていない小さな酒蔵だけでなく、「白鶴」といった国内を代表する大手酒蔵、そして取材対象になることが少ないように思われる各地方大手の酒蔵にも訪れ、それぞれに異なる酒造りへのこだわりや、地理的・歴史的な個性があることを教えてくれます。20年前に出版された著作ということもあり、現在人気となっている酒蔵の当時の姿を知ることができるのも、日本酒ファンにとっては嬉しい魅力かもしれません。

紀行文らしく、その土地の情景描写にもワクワクさせられます。たとえば、第二章で出雲を訪れた際には以下のような描写があります。

雲が、巨きい(おおきい)。上昇気流によって立ち上がった雲の峰は、輝く海にその影を落としている。峰々の谷間からさす光は、万物を劇的効果を持って、浮かび上がらせる。
こうした光景を、以前もどこかで見た。記憶の底へ降りて行った私は、やがて答えを見つける。イスラエルだ。視界から荒野を上り続けたあとに出現する、エルサレムを包む光。多くの宗教がそこに神を見出した。そして、私を載せた小さな飛行機が、今降りなんとしている場所も、また神々のいます場所であった。
出雲。八雲立つかの地は、まさにその名の通りの演出で、私を迎えてくれたのである。

酒蔵の周りにある史跡や飲食店なども魅力的に紹介されています。旅行に出かける前にこの本を開き、いくつかの酒蔵や史跡をめぐる計画を立ててみる、という使い方も楽しいのではないでしょうか

『にっぽん蔵元名人記』(講談社)

直接蔵を訪ねるより、深く広く学べる『日本酒ドラマチック』

ある酒蔵のことをよく知るためには、実はその酒蔵の方から自分で直接話を聞くよりも、人が聞いた話を読んだり、聞いたりした方が良いことがあります。山同敦子『日本酒ドラマチック 進化と熱狂の時代』(講談社)は、そのことを強く実感させてくれる本です。

この書籍に登場する酒蔵(代表銘柄):
木屋正酒造(而今)、磯自慢酒造(磯自慢)、澄川酒造場(東洋美人)、新政酒造(新政)、永山本家酒造場(貴)、花泉酒造(ロ万)、若波酒造(若波)、冨田酒造(七本槍)、宝剣酒造(宝剣)、福禄寿酒造(一白水成)
※法人格は略。蔵を訪問・取材した先のみ掲載。

なぜ、直接聞くよりも人伝手に聞いたものを読む方が良いのか?それは、ある人が話す内容が、聞き手との関係性や聞き手側の持つ知識によって変わってくるからです。この書籍では、酒造りのうえでの細かなこだわりだけでなく、酒蔵と酒販店や飲食店との関係性、そして蔵元本人だけでなく家族や従業員にもスポットを当てており、広く深く酒蔵のことを知ることができます。これは、何年にもわたってさまざまな造り手と交流を重ね、酒造りや飲用シーンにも専門的な知識を持つ著者だからこそ聞き取れた内容だと思います。

さらに言えば、この本に登場する酒蔵は上記のとおり、直接話を聞こうと思っても、なかなか聞く機会が得られない人気銘柄を持つ蔵ばかりです。

また、それぞれのお酒について、ワインにも知見のある筆者によるペアリングの表現があることも飲み手として楽しく、日本酒を提供する立場としてもヒントが得られます

今回の記事の趣旨からは外れますが、個人的には種麹メーカーである秋田今野商店へのインタビューも興味深い内容でした。重要な原料でありながら、飲み手として麹が酒質に与える影響について、説明を受ける機会は多くありません。秋田今野商店へのインタビューは、種麹や麹造りに関する工夫や設計の観点が説明されているという点で貴重な文章です。

『日本酒ドラマチック 進化と熱狂の時代』(講談社)

まとめ

知識がなくても、ストーリーを知らなくても、美味しく飲める日本酒はたくさんあります。しかし、造り手の思いやこだわりを知れば、さらに愛着を持って日本酒を飲むことができ、そのことで美味しさも含めた感動がより強く感じられると、私は信じています。今回紹介した3冊以外にも様々な書籍がありますので、ぜひ色々と読んでみて、SNS等で紹介いただければと思います。

最後に少しだけ宣伝させていただくと、SAKE Streetでもこれまで多くの酒蔵様を取材させていただきました。書籍ほどのボリュームはありませんが、いずれも経験豊富な執筆陣が、しっかり取材した記事です。造り手のことを知る際に、こちらも参考にしていただければ幸いです。

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