2024.04
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10回連続金賞、20年以上落選ゼロ。「文佳人」・有澤浩輔杜氏の酒造り - 高知県・アリサワ
高知県香美市のアリサワで「文佳人」を造る蔵元杜氏の有澤浩輔さんは、全国新酒鑑評会で金賞の連続受賞記録を10回にまで伸ばしています。金賞を続けて取るだけでなく、さらに注目すべきは、25年間、一度も落選していないことです。
その快挙の裏には、酒造り、特に麹造りの基礎を愚直に守る姿勢がありました。酒質の変革は最小限に留め、同じお酒を再現することに注力する有澤さんの酒造りに迫ります。
普通酒だけの蔵が、1年目から鑑評会で入賞
1970年にアリサワの5代目として生まれた有澤さんは、この時代の酒蔵後継者の多くがそうであるように、十代の頃には酒蔵を継ぐ意思はありませんでした。専門学校を卒業後、東京の音楽スタジオでエンジニアとして働き始めた有澤さん。ところが4年後に、4代目である父が病気で入院し、蔵元の仕事を続けることが難しくなったため、1994年に高知へ帰ってきました。
その当時、アリサワは普通酒、とりわけパック酒だけを造る蔵になっていました。しかし、低価格日本酒の市場は1990年代以降に競争が激烈になり、アリサワの経営も苦しくなる一方でした。
このため、有澤さんは、人件費が払えなくなる前にと1996年から杜氏を招くのをやめ、自らが蔵元杜氏になることを決意。「杜氏と一緒に来ていた蔵人も呼ばずに、知人やアルバイトなどを集めて、酒造りを始めました。普通酒だから、難易度は低く、トラブルもなくお酒はできました」と有澤さんは当時を思い出します。
ところが、普通酒だけを淡々と造っていた蔵の仕事は単調で、違うことに挑戦したくなった有澤さんは、「全国新酒鑑評会に出品する大吟醸を一本造ってみよう」と思い立ちます。
「県内のほかの蔵が年に1回、勝負をかけるように出品酒用の酒を造るのを見て、自分たちもやってみたくなったんです。仕込みは小さいので、仮に売れなくても打撃は小さいだろうといった軽い気持ちでした。ただ、そんなハイスペックなお酒は造ったことがなかったので、酒造りの教本と首っ引きでの造りでした。麹造りも酒母造りも醪管理も普通酒とはまったく違う世界で、驚きの連続でした」
「挑戦することに意義があり、結果は気にしなかった」といいいますが、なんと、その1996BYの大吟醸が入賞を果たします。
「びっくりしましたね。でも、『次は金賞だな』と色気を出して造った翌年の出品酒は落選でした。そんな甘いものではないと痛感させられて、次の年(1998BY)はいろいろな人に教えを請い、情報をもらいながら万難を排して出品しました。結果はめでたく金賞。蔵の歴史でも初めての金賞でした」
酵母を切り替える決断が金賞の連続記録へ
大吟醸酒の造り方のコツがわかってきた有澤さんでしたが、翌年以降は無理に金賞を狙うのではなく、入賞を外さないという作戦に切り替えました。
「金賞を取るにはいろいろなテクニックが必要と聞かされるのですが、無理をすると逆に失敗して、予審を通過できないリスクも出てきます。私は性格的には金賞を取った時の誇らしさよりも、落選した恥ずかしさの方が気になってしまい、手堅く予審通過を優先して、決審の結果は二の次と考えるようになりました」
出品酒のスペックも山田錦40%精米の大吟醸に固定して臨んだ結果、その後の13年間(1999BY~2011BY)は落選がなく、金賞4回、入賞9回を記録しました。
その翌年の2012BYから10回連続金賞の歴史が始まりますが、そのきっかけは酵母の切り替えでした。2011BYまでは高知県が開発した酵母「CEL19」で造ったお酒で好成績を残してきたのですが、2008BYからは4年連続して入賞に留まりました。鑑評会の審査基準が微妙に変わり、それがCEL19にとっては不利になってきたと感じた有澤さん。保守的な性格にしては珍しく、酵母を協会1801号に切り替えることを決断しました。
「初めて使う酵母ですから、案の定、扱いに苦労をし、出品する段階では金賞は無理だなと諦めていました」とのことですが、暗に反して金賞に。翌年以降は扱いに慣れ、しばらくは「金賞を取れる」と確信する年が増え、連続記録を更新することができました。
そんな中、一番のピンチは10回目となる2022BYの酒だったといいます。
「その年は、米が硬くて溶けにくいという評判を聞いていて、それに対応した麹を造ったつもりなのに、醪が思うように溶けず、焦りました。終盤になんとか微調整したものの、できた酒はこの10年では最も出来の悪い部類になってしまいました」
酒蔵の情報発信を担当している妻の綾さんも、「今年はあきらめました」とSNSでつぶやいたほどでしたが、見事金賞となり、10回連続の金字塔を打ち立てました。「入賞という丸い的の中央にある小さな金賞の枠の縁に、かろうじて踏みとどまったのだと思っています」と有澤さんは苦笑します。
特定名称酒主体の蔵へ変身を果たす
普通酒しか造らなかった蔵から、鑑評会で落選しない酒を安定的に造れるように。有澤さんは、以後、大吟醸以外のスペックの「文佳人」(純米大吟醸、純米吟醸、純米)を次々と商品化し、高品質の酒を市販酒として投入していきました。
営業が苦手だった有澤さんに代わって、2006年に結婚した妻の綾さんが販売会に立つようになってからは注目度が増し、文佳人の売れ行きが軌道に乗り始めます。この10年間はいろいろな補助金を活用して、高品質の酒を造るのに不可欠と言われる設備を着々と導入。普通酒や紙パック酒が売り上げを落とす一方で、文佳人が蔵の大黒柱にとって代わり、「蔵の存続が見えてきました」と有澤さん。いまでは、年間の仕込み40本弱のタンクのうち、35本前後もが文佳人だといいます。
有澤さんの酒造りへのこだわりは細部にまで至りますが、最もこだわっているのは麹造りです。
「ゴールはきれいなすっきりとしたお酒なので、麹は派手で若く、糖化酵素をやや少なく力の弱い仕上がりにします。種麹を振る量も少ないので、それでも醪で米が溶けるように、掛け米はなるべくすみやかにタンクに投入するようにしています」
3年前からは綾さんと二人だけで酒造りをしており、設備もワンオペで対応できるように工夫を施しています。
「よりよい酒を造るためにどうすればいいかを常に考え、それを具体化するために、自ら汗を流して造ってみるという、小さな地酒蔵の蔵元杜氏ならではの醍醐味を大いに楽しんでいます。ただ、造ったお酒で納得がいく仕上がりになるのは全体の2割です。まだまだ発展途上だと自らを戒めています」と話す有澤さん。自分への厳しさゆえの守りの姿勢で、これからも金賞の記録を更新していくのでしょう。
酒蔵情報
アリサワ
住所:高知県香美市土佐山田町西本町1-4-1
電話番号:0887-52-3177
創業:1877年
社長:有澤浩輔
製造責任者(杜氏):有澤浩輔
Webサイト:無し
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