ふるさと納税の返礼品に日本酒を選ぼう!寄附者と酒蔵のメリットをふるさとチョイスと酒蔵に取材

2024.12

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ふるさと納税の返礼品に日本酒を選ぼう!寄附者と酒蔵のメリットをふるさとチョイスと酒蔵に取材

新井 勇貴  |  日本酒を学ぶ

全国各地には、その地域の魅力を活かした特産品が数多くあります。昨今、原料高騰などに伴う値上げラッシュの中、こうした品々を気軽に楽しむ方法として注目されているのが「ふるさと納税」です。

ふるさと納税の返礼品は各自治体の特色が色濃く反映されており、その中には日本酒も多くラインナップされています。地域の水やお米を用いた日本酒は、各地の魅力を体現する品としてぴったりだからです。

年々利用者数を増やしているふるさと納税ですが、2024年時点の利用率は約16%(※1)とまだまだ少数。ふるさと納税が実際にどのような制度なのか、どういった返礼品があるのか気になっている方は多いのではないでしょうか。

本記事では、ふるさと納税の基本的な概要から日本酒との関係について解説。14,000点超もの日本酒を扱うふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」と、ふるさと納税を活用したことがある酒蔵へのインタビューもお届けします。

(※1)カリーグズ「ふるさと納税の都道府県別「利用者数・利用率」と「平均寄附金額」を発表|2024年最新データ」(PR TIMES)

ふるさと納税はなぜできたのか?

都道府県や市区町村に寄附をおこなう制度である「ふるさと納税」の第一歩は、2006年10月にまで遡ります。当時の福井県知事であった西川一誠氏が、日本経済新聞の「経済教室」欄にて「故郷(ふるさと)寄付金控除」制度の導入を提案したことがきっかけと言われています。

西川氏は地方と都市の関係について「地方で育った若者が都会に引っ越し、そのまま就職して都会の自治体に納税する状況を改めたい(※2)」と述べ、地方自治体に寄附金が流れる仕組みを提案しました。この制度によって、地方自治体は育てた子どもたちから恩恵を受けられるということです。

(※2)返礼品競争が過熱 ふるさと納税発案の福井知事が語る「本来の趣旨」より引用

この提案は大きな反響を呼び、2008年には当時の菅義偉総務相の尽力により制度化が実現しました。秋田県出身の菅氏もまた、地方への還元方法を常々考えていたといいます。

その後、2011年に発生した東日本大震災を契機にふるさと納税の利用者は急増。ボランティアでも募金でもない支援方法として注目を集め、年々ふるさと納税の利用者は増加していきました。

2024年1月1日に発生した能登半島地震においても、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」では約20億円超の支援を集めるなど、地方への支援制度としてその存在感を増し続けています。

ふるさと納税の基本的な仕組み

ふるさと納税を利用すると、寄附者は寄附金から2,000円を除いた額を所得税と住民税から控除できます。50,000円の寄附の場合、2,000円を超える48,000円が控除対象です。さらに寄附した自治体から、寄附額の30%以内に相当する返礼品が贈られます。

なお、ふるさと納税をおこなう人の給与収入や家族構成に応じて寄附の上限額が異なるため、まずは自分が納税できる年間上限額を総務省のウェブサイトで確認しましょう。

参考:総務省 税金の控除について

住民票のある自治体への納税は義務として発生しますが、ふるさと納税を活用することでそのほかの地域も含む自治体へ寄付できると同時に、それを経由して控除を受けることができ、魅力的な特産品も楽しめます。こうした仕組みからふるさと納税は寄附者、自治体にとってメリットある制度として注目されているのです。

ふるさと納税はどうやるの?

ふるさと納税から控除を受けるまでは、どのようにすればいいのでしょうか。申請のステップを確認していきましょう。

申請のステップ

  1. 応援する自治体を選ぶ
  2. ふるさと納税をおこなう(細かい納付方法は自治体によって異なる)
  3. 税控除を受けるため「①確定申告」または「②ふるさと納税ワンストップ特例制度」をおこなう

①確定申告は、所得税と翌年度の住民税からそれぞれ控除を受けるために必要となります。一方、②ふるさと納税ワンストップ特例制度は、特定の対象者がふるさと納税をした後に確定申告をしなくても寄付金控除が受けられる仕組みです。

ふるさと納税ワンストップ特例制度の対象になるのは、ふるさと納税以外の確定申告が不要な人や寄附先が5自治体以内の場合です。ふるさと納税以外の確定申告が必要な人や寄付先が6自治体以上の場合は、確定申告をおこなう必要があります。自営業者や、多くの自治体に寄附したいと考える人はそちらの方法を確認してください。

なお、確定申告とワンストップ特例制度の併用はできません

返礼品はどこを見て選ぶ?

ふるさと納税が始まって16年が経った今、全国のほとんどの自治体が本制度に参加しています。返礼品を選ぶ際は応援したい自治体や欲しい返礼品を基準にすることがおすすめです。いくつかのふるさと納税ポータルサイトがあるため、日ごろ利用するサービスを基準に選んでもいいでしょう。

また、ポータルサイトによって、取り扱う自治体、返礼品は異なります。

一例として、2012年に日本初のふるさと納税ポータルサイトとして登場した「ふるさとチョイス」の担当者にインタビューをおこないました。同サイトでは現在、全国の自治体の95%以上に当たる1700超の自治体、約76万点超の返礼品が登録されています(2024年10月時点)。

同サイトにて人気の高い返礼品について、チョイス事業本部アライアンスパートナー部の地域創生エバンジェリスト・伊藤健作さんは以下のように話します。

伊藤「カテゴリーベースではお肉、魚介類、果物類といった食品や、トイレットペーパーといった日用品に人気が集まっています。また今年の夏場に発生した米不足の影響から、9月にお米を選択する寄附者も増加しました。お米やお酒といった重いものについては、定期便(サブスクリプション)といった形での返礼品も人気です」

寄附額の相場については、ふるさとチョイスでは10,000〜30,000円がボリュームゾーンになっているそうです。寄附額に応じて返礼品の内容も変わってくるので、上限額や予算に応じて商品を選んでみましょう。

申し込みから返礼品が届くまでの期間は?

伊藤「通常、返礼品のページに『配送目安』が記載されているので、それを参考にするといいでしょう。多くの自治体では発送までに1〜2カ月程度を要することが一般的です。しかし、農産物などの場合は天災などの状況によって配送時期が大幅にずれることは考えられます」

このように、通常のEC通販とは異なり、手元に届くまでに多少の時間を要することは理解しましょう。

ふるさと納税をするときの注意点は?

伊藤「その年の年収がおおよそ確定する年末など、寄附が集中する時期には商品配送に時間がかかる場合があるため注意が必要です。ふるさと納税は年間を通していつでもおこなえるため、申し込みに最も適した時期はありませんが、季節の旬がある返礼品についてはタイミングを確認した方がいいでしょう」

前述したとおり、家族構成や年収によって寄附額が異なるため、自身の上限額を確認したうえで寄附することが重要です。

また、ふるさと納税ワンストップ特例制度の対象ではない場合、確定申告を忘れてしまうと控除が受けられません。ふるさと納税した年の翌年1月1日から5年以内なら還付申告をすれば控除が適用されます。しかし、申告漏れになることを防ぐためにも、毎年忘れずに確定申告を行いましょう。

ふるさと納税における日本酒

現在、ふるさとチョイスに登録されている76万点以上の返礼品の中で、酒類は41,000点超と全体の約5%の割合にあたります。その中でも、日本酒は約14,000点(酒類の約34%)のボリュームを占めています(202410月時点)。

伊藤「日本酒の原料となるお米は各地にありますし、地域性が出やすい商品として自治体のアピールに繋がりやすいので、このように大きな割合を占めているのだと考えられます」

日本酒の価格帯については、約75%が10,000〜30,000円程度と、全体寄附額のボリュームゾーンに重なっています。一方、10万円以上、中には100万円を超える寄附額を設定する日本酒も存在します。

ふるさとチョイスでは全国各地の自治体との新しい出会いを生み出すため、サイト内で200を超える特集記事を展開しています。その中には日本酒特集も組まれており、日本酒をチャート表でわかりやすく整理するなど、だれでも気軽に自分好みの日本酒を見つけられる工夫がされています。

酒蔵(事業者側)がふるさと納税を利用するメリット

地域に根ざす酒蔵にとって、ふるさと納税は単なる販路拡大の手段だけではなく、地域との関係性を深め、より幅広い展開に繋げるきっかけになりえます。伊藤さんは酒蔵が出品者としてふるさと納税を利用するメリットについて次のように話します。

伊藤「酒蔵さんにとっては、販路がひとつ広がることで、まずは売上の拡大が見込めます。どういった価格帯が好まれるのかといった寄附者の声も集められるでしょう。こういったデータは今後のプロモーション活動に活かせるはずです。

さらに、ふるさと納税での送料は、酒蔵さんの負担ではありません。つまり、低リスクでの販路拡大、データ収集、認知度向上といったメリットがあるので、今後展開していくうえでの足がかりになると考えられます」

さらに、寄附者が実際にその地方に足を運んだうえでの体験をベースにした返礼品もあると伊藤さんは続けます。

伊藤「酒蔵さんの場合、酒造り体験をしてもらい、できあがった日本酒を後日届けるというような返礼品があります。他にも、自治体が提供するコースの中に酒蔵での利き酒体験が含まれている事例もあるなど、活用の仕方次第で売上やファンが増える可能性があります」

寄附者がふるさと納税で日本酒を選ぶメリット

ふるさと納税で日本酒を選ぶ場合、寄附者は普段なかなか手に入らない珍しい銘柄を楽しむと同時に、酒蔵を直接応援できる機会を得られます。

伊藤「ふるさと納税では通常のECサイトでは販売されない商品や、数量限定の日本酒が現れることがあります。普段手に入らない日本酒が手に入る、新しい発見ができるという点は寄附者の方にとって楽しみのひとつになるはずです」

さらに、ふるさと納税による寄附額は酒蔵を含めた自治体全体の利益となります。寄附によって地域経済が活性化し、結果として酒蔵も潤う。気になる日本酒を通して好きな地域を応援できることも、ふるさと納税の利点だといえるでしょう。

酒蔵の声:実際にふるさと納税を利用してみた感想は?

では、実際にふるさと納税を活用している酒蔵は、その利点をどのように感じているのでしょうか。松井酒造(京都)の松井治右衛門さんと安福又四郎商店(兵庫)の安福愛さんの意見を聞いてみましょう。

松井酒造(京都):京都をイメージできる商品が良く売れる

ふるさと納税へ登録する商品について、松井さんは 「京都産のお米を使用しているなど、京都らしい商品を選定しています」 と話します。売れやすい日本酒の傾向は「10,000円程度」と、前述の10,000〜30,000円というボリュームゾーンにも当てはまるようです。

松井「京都以外の地域で手に入りにくいものや、京都をイメージできる商品も人気があります。酒蔵がふるさと納税を利用するメリットは、商圏が及んでいない地域にアプローチできる点が大きいですね。制度上の課題もあるかもしれませんが、いつか海外からも利用できるようになればいいと思います」

安福又四郎商店(兵庫):日常では手が伸びづらい価格を展開

安福さんは、「ふるさと納税という通常とは異なった入手経路だからこそ、日常ではあまり購入しない価格帯の商品を選びやすい」と話します。

安福「年末は日本酒需要も高まるので、12月ごろに純米大吟醸の申し込みをよくいただきますね。その年の申請の締め切りのタイミングに合わせて、年末年始のお祝いの席などに使うお酒を買っているのだと思います」

メリットについては「送料負担がないため、酒蔵としては利益を確保しやすい」と評価しつつ、課題を感じる部分もあるそうです。

安福「出品の基準に疑問を感じることがあります。例えば、神戸市の基準に当てはめると、『五つ星ひょうご(※3)』に選定された商品でも、神戸市の返礼品としての価値が低いように判断されることがあるんです。

神戸市産のものに限りたいという想いも理解できなくはないんですが、灘五郷のお酒は加東市の特A地区産山田錦を使っていたり、西宮市の宮水を使っていたりといった昔ながらの伝統があります。それが神戸市の返礼品としての価値を下げてしまうのではなく、地域としてのつながりも酌んでもらえるようになればさらに良いのにと感じます」

※3:ひょうご五国(摂津・播磨・但馬・丹波・淡路)の中でも選りすぐった、とっておきの逸品に認定される。

まとめ

ふるさと納税は地域の特産品をお得に手に入れながら、地方自治体を応援できる制度です。その返礼品には各地域の特色が詰まった日本酒も数多く含まれており、寄附を通じて酒蔵と自治体を支えることができます。

全国各地に存在する酒蔵が醸す日本酒は、地域の風土や伝統が色濃く息づく商品です。寄附者は珍しい銘柄を通して地域の魅力を楽しみ、酒蔵は販路拡大や認知度向上が期待できます。ふるさと納税を通した日本酒の購入は地域経済を支え、長年培ってきた伝統や技術を後世へ伝える一助になるでしょう。

日本酒との出会いだけでなく、酒蔵がある地域の特色を活かした特別な体験が楽しめることも魅力。ふるさと納税を通して、推しの酒蔵や地域を応援してみませんか?

参考文献

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