2020.10
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舞美人 酒粕再発酵酒"MYVY(まいびー)"はどうやって誕生したの? - 福井・美川酒造場[番外編]
発酵した醪(もろみ)を搾った後に残る酒粕。蔵や酒質によって違いはありますが、1本分のタンクの重量から平均25%ほど酒粕ができると言われています。通常は、蔵や酒屋さんで販売され家庭で消費されたり、料亭、レストランなどに売られて、酒粕を活用した食品の加工に使われることもあるようです。
美川酒造場では、この酒粕を利用して再度発酵させたお酒「酒粕再発酵酒」を造っています。「完熟した果物」「漬物のような複雑味のある香り」「醤油や味噌のような凝縮した発酵食品の甘みや旨味」など…飲んだ人に衝撃を与える、濃熟で個性的な味わいです。今年から「MYVY(マイビー)」と名付けられ、舞美人の定番商品として定着しつつあります。
どのようにして、このユニークな日本酒が生まれたのか、引き続き、蔵元杜氏の美川欽哉さんに伺いました。
ーーなぜ、酒粕をもう一度発酵させてみようと思われたのでしょうか?
美川さん「6月下旬から出荷される踏み込み粕※は、通称「詰め粕」とも言われ、夏野菜を粕漬けにするために用いられてきました。しかし、最近は一般家庭で粕漬を漬ける人も少なくなり、酒粕が余ることに毎年悩んでいたんです。
うちでは全量木槽搾りでお酒を搾っているため酒粕が柔らかく、夏場になると酒粕が入ったタンクの表面に水分が浮いてきて、こまめに水分をすくわなければならず、その作業も大変でした」
※踏み込み粕:酒粕をタンクに入れ、足で踏み固めてたもの。そのままタンクで通常は半年熟成させ、漬物をつくるための酒粕に仕上げてから販売する。
ーー余った酒粕をどのように再利用するか、模索されていたんですね。
美川さん「ある日、ふと直感的に熟成された酒粕から滲み出た山吹色の液体をスプーンですくって口にしてみたのです。そのとき、今までに感じたことのない甘みと深み、上品なアルコールが感じられ、素直に美味しいと思いました。
この液体を小瓶に詰め、取り引きのある京都の純米酒専門の酒販店様に送ってみたところ、試飲された方は深く感動し『珍しいお酒を飲ませていただきありがとうございます!』と大変喜んでいただけました。
これをどうにか製品できないかと試行錯誤した結果、2年越しで再発酵させた酒粕をもう一度搾ってみることにしたんです」
ーー2年越しの酒粕……。どのようなものか想像できません。どのくらいの量のお酒が採れるのですか?
美川さん「酒粕は、時間経過とともに柔らかくなって、とろとろの状態です。酒を搾るときに使う酒袋(縦幅60cm、横幅30cm)に再発酵させた酒粕を詰め込み、自作の槽に12袋を互い違いにして敷き万力で搾ります。1度で一升瓶で約18本分。4か月にわたり作業することで、120〜160本ほどのお酒が出来上がります」
ーー計算だと1回の搾りにつき10日以上かかりそうですね…。とても時間のかかる作業です。味の方は、年によって変わるのでしょうか?
美川さん「味わいは、毎年同じような感じになりますね。いろいろと考えてみると、約1年の再発酵期間を経ているので、そこで味のバランスが毎年平均化されているのかもしれませんね。高濃度のアミノ酸やペプチドがたっぷり凝縮されています」
ーーお酒なのに健康に良さそうに感じます! ちなみにMYVY(マイビー)という名前は、どのようにしてできたのでしょうか?
美川さん「ネーミングを考えたのは私です。酒販店様や問屋様向けに、毎月発行している広報誌に、まいび~ちゃんという舞美人のキャラクターおりまして、それがきっかけですね。
これまで「酒粕再発酵酒」と言って売っていたのですが、お客様に『分かりにくい』と言われることも多かったんです。それなら、いっそのこともっと分かりにくくしてしまえと(笑)。スペルは、舞美人のMYと1950年にアメリカで流行し、1960年代に日本でもトラッドファッションとして定着したアイビールックの「 IVY」という言葉の響きを重ねました。
理屈ではなく『これ、なんだろう?』と思ってもらえるような、美味しい謎のお酒にしようという遊びを込めたネーミングを考えたわけです」
遊び心が詰まった新感覚の日本酒、MYVY(まいびー)。お酒を搾った後の酒粕をさらに1年以上熟成させて搾る希少なお酒です。ぜひ一度、味わってみてください。
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