日本酒と地方の未来を切り拓く酒造りとまちづくり - 秋田県・稲とアガベ醸造所

2024.11

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日本酒と地方の未来を切り拓く酒造りとまちづくり - 秋田県・稲とアガベ醸造所

木村 咲貴  |  酒蔵情報

「稲とアガベ」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。稲はご存知のとおり、日本酒の原料であるお米が実る植物で、アガベはメキシコ原産の蒸留酒・テキーラの原料です。この、一見相容れない二つの名前を冠した醸造所が、秋田県男鹿市にあります。

2022年に創業した稲とアガベは、日本酒の製法を用いた新しいお酒のカテゴリ「クラフトサケ(※)」を造る醸造所です。その名のとおり、アガベシロップをはじめ、お米と多彩な原料を結ぶ酒造りをおこないながら、醸造所を取り巻く男鹿のまちづくりにも精力的に取り組んでいます。

SAKE Streetでは、稲とアガベがこれまでの3年間に取り組んできたプロジェクトを、稲とアガベの名前に倣い、「◯◯と△△」という形でテーマを区切りながら、まちづくりと酒造りの視点から掘り下げていきます。創業からわずか3年とは思えないほど多種多様な事業を手掛けている稲とアガベ。その根底には、どのような哲学があるのでしょうか。

※1 クラフトサケ:日本酒の製造方法をベースに、発酵段階で副原料を加える新しいジャンル。酒税法では清酒(日本酒)ではなく「その他の醸造酒」に該当する。

新政と土田と木花之醸造所:稲とアガベ創業までの道のり

稲とアガベの創業者、岡住修兵(おかずみ・しゅうへい)さんは秋田県男鹿市から約1500kmも離れた福岡県北九州市の出身。かつて日本酒の人気銘柄「新政」を醸す秋田県秋田市・新政酒造に勤めたことが、人生の転機となりました。

神戸大学経営学部在学中、将来について悩んでいたころに、神戸市内の秋田居酒屋「ぼでが」で新政のお酒と出会った岡住さん。その味に惚れ込み「この酒蔵で働きたい」と話したところ、女将さんがSNSに投稿。たまたま蔵元の佐藤祐輔さんの目に留まり、まずはアルバイトというかたちで採用が決まったのが2014年のことでした。

新政でそのころ杜氏を務めていた古関弘(こせき・ひろむ)さんに師事した岡住さんは、もともと経営者として起業を志していましたが、次第に日本酒業界の現状をブレイクスルーするきっかけになるような醸造所を設立しようと考え始めます。

2018年には新政酒造を退職し、同県大潟村で無施肥・無農薬の米作りをおこなう石山範夫さんのもとで修行を開始。日本で初めて有機JAS認証を受けた自然栽培の第一人者のもとで育てたお米を使い、2020年2月に初めて「稲とアガベ」のブランドとしてリリースしたのが、「稲とアガベ prototype01」でした。

このお酒は、かつて新政酒造に修行に来ていた土田酒造の星野元希杜氏に麹づくりを教えた縁から、同酒蔵への委託醸造というかたちで実現しました。精米歩合90%という低精米、酵母無添加の生酛造り、低温発酵というチャレンジングな製法で、その後、このprototypeシリーズは稲とアガベ醸造所がオープンする直前までに4回リリースされました。

2020年3月には、東京都蔵前の醸造所・木花之醸造所(このはなのじょうぞうしょ)の初代醸造長に就任。岡住さんの就任をきっかけに、木花之醸造所はこれ以降、「自分の醸造所を持ちたい」と夢見る若い醸造家たちの修行の場となります。

東京でどぶろくをメインとしたお酒を醸造しながら、秋田県で醸造所設立の準備を着々と進め、2021年5月には、日本政策金融公庫と秋田銀行から2億円を超える融資を獲得。2022年11月に、男鹿市のJR男鹿駅旧駅舎跡地に稲とアガベ醸造所をオープンし、アガベシロップを副原料とするクラフトサケ「稲とアガベ」をリリースしました。

歴史と革新:シャッターを閉じた男鹿の物件をリノベーション

稲とアガベは、「新政時代にお世話になった秋田県へ恩返しをする」という岡住さんの決意のもと、酒造りと並行して、過疎化が進む男鹿市のまちづくりに尽力しています。男鹿の空き物件をリノベーションし、シャッター街の扉を一つひとつ開けることで、新しい雇用を生み出していくという取り組みです。

醸造所はJR男鹿駅の旧駅舎を再利用。最低限の改築を施すことで、ホームや駅員室の自動ドアなどはそのまま残し、地元の人々の思い出を引き継いでいます。併設のレストランは昼はカフェとして営業し、夜には若手シェフによるペアリングディナーを提供します。

「その地域に行きたいところが3カ所あれば、旅行してみようと思うはず」 と考える岡住さん。2023年には、醸造所から徒歩2分のロケーションに 加工工場「SANABURI FACTORY」 をオープン。工場で生産したオリジナル製品のほか、全国選りすぐりのメーカーから取り寄せた雑貨を揃えるセレクトショップとしても機能しています。また、同年夏には、醸造所の目の前に ラーメン店「おがや」 を立ち上げました。

徐々に観光客が増えてきたにもかかわらず、醸造所周辺に宿泊事業がない事態を受けて、宿事業を立ち上げ。2024年6月には東北電力の社宅をリノベーションした一棟貸し宿&ゲストハウス「ひるね」の予約を開始しました。現在、2025年のオープンを目標に、14室の客室と中華料理店、サウナを備えた「うみまちホテル」の建設も進めています。

生まれ変わりつつある男鹿を周知するため、イベントによる集客も実施。クラフトサケの醸造所が集まる「猩猩宴(しょうじょうえん)」は、2024年夏には男鹿に古くから伝わる盆踊り大会と同時開催しました。ほかにも、温泉旅館を貸し切っての音楽イベント「OGA温泉ジャック」、スローフードの専門家たちが集まる「第2回国際海藻サミット」など、多彩な催しを通して男鹿の名前を国内外に広めています。

日本酒とクラフトサケ:酒粕の再生事業で業界を救う

クラフトサケという新しいジャンルが生まれた背景には、日本酒(清酒)の製造免許が新たに発行されないという日本の法律があります。

日本酒を造ることができるのは、戦後にいわゆる「需給調整要件」が設定される前に製造免許を取得した企業のみであり、それ以外で「自分の醸造所で日本酒を造りたい」と考えた場合は、既存の酒蔵をM&Aするか、海外輸出向けの清酒を造るという選択肢しかありません。

この制度は、もともとは既存の酒蔵を保護する目的で成立したものですが、一方で情熱を持って日本酒造りに取り組む蔵人でも、「自分の蔵を持つ」というキャリアパスを描けないという課題があります。

そのため、クラフトサケはあえて酒税法の定める日本酒の製法を外れるお酒を造ることで、「その他の醸造酒」という枠組みで酒類業界への新規参入を可能にしています。

このように稲とアガベをはじめとしたクラフトサケ醸造所は、現状の日本酒業界へのチャレンジとして誕生した背景がありますが、決して日本酒業界と対立する存在ではありません。岡住さんも「クラフトサケによって、日本酒業界に新しい消費者を招くことができる可能性がある」と語るほか、日本酒蔵にも貢献できる事業の展開を進めています。

そのひとつが、酒粕の利活用です。地方の中小酒蔵にとって、日本酒の製造工程で発生する酒粕の処分は頭痛の種。稲とアガベが立ち上げた「SANABURI FACTORY」では、この酒粕を加工したマヨネーズ風調味料を製造・販売。現在は自社の酒粕のみを活用していますが、いずれは処分に悩む他の酒蔵の酒粕を買い取ることも視野に入れています。

このほかにも酒粕の活用事業は着々と広がっており、2024年7月には地方創生にまつわる商品開発などをおこなう株式会社GOOD NEWSとコラボレーションし、酒粕を活用したレモンケーキ「早苗饗レモン」を販売開始。関連会社・男鹿サケ蒸溜所株式会社では、2024年冬の稼働を目指して、酒粕を蒸留して造る「粕取り焼酎」をベースにしたスピリッツの蒸溜所の建設を進めています。

スタートアップと大手企業:コラボレーションで地域と酒を広げる

約3年という短いスパンの中でこれらの多様な事業を実現してきた稲とアガベ。そのアイデアと実行力は、クラフトサケや酒類という枠組みを超えて、さまざまな企業から注目を集め、地域創生の可能性に挑むコラボレーションを果たしています。

2023年8月にオープンした行列のできるラーメン店「おがや」が生まれたのは、福岡県を拠点に全国展開する人気ラーメン店「一風堂」の運営企業・力の源ホールディングスの協力があったから。同社の監修のもと、男鹿名産のしょっつるや秋田比内地鶏を原料に使ったラーメンを提供しています。

さらに、三菱地所と協働し、全国の農業や食を通じて、地域を超えたまちづくりを考える三菱地所の発足した「めぐるめくプロジェクト」に参画。このつながりをきっかけに、2023年より、各地のプレイヤーがそれぞれの取り組みを共有し合う「わたしたちのまちづくりサミットーBEYONDLOCALー」を三菱地所、三菱地所設計と共に開催しています。

三菱地所らを巻き込んだ本プロジェクトの目標は、男鹿を“まちづくりの聖地”にすること。このコラボレーションは稲とアガベや男鹿にとってメリットになるのはもちろんのこと、相手企業の若手社員が挑戦・活躍できる場としても期待されています。

「男鹿のまちづくり事業では、若手社員が中心となって、実力を試せるような大きな仕事にチャレンジすることができます。本プロジェクトが始まってから、既に『男鹿の取り組みに魅力を感じた』という志望動機で入社した人もいるそうです」(岡住さん)

最近は、NTTがおこなう地方創生スマートシティ事業「SSPP(Sustainable Smart City Partner Program)」に稲とアガベが採択され、カルチャーデザインファーム・KESIKI代表の石川俊祐氏が男鹿市のまちづくりに全面協力。そのほか、日本郵政とのプロジェクトも決定し、2025年から動き出そうとしています。

”縛り”と個性:稲とアガベの酒造り

すべてのお酒に、自然栽培米を磨かずに使用

「自然栽培米は酒造りに適している」と考える岡住さん。自然栽培米は慣行栽培米と比較してタンパク質の含有量が低く、米の割れや雑味の発生を抑えられるといいます。この考えのもと、稲とアガベでは創業当初から原料にほぼ100%自然栽培米、それも食用米と同じ精米歩合90%のお米を使っています。

「ものづくりには何かしら縛りが必要で、稲とアガベの場合は、『磨かない』ことを縛りにしています。これは新政時代の師匠の古関さんが言っていた『選択肢の奴隷になるな』という言葉の影響が強いです。選択肢が無数にあると、自由に見えて、みんなが同じ酵母と製法を組み合わせを選ぶような画一的なものづくりに流れてしまう可能性があるんですよね。

磨かないという縛りを設けると、『どうやったらこの中で美味しいお酒ができるだろう』と考え、教科書を超えたチャレンジができるようになって、工夫が生まれる。この工夫というのが、他の蔵にない唯一の技術になり、オンリーワンのお酒につながっていくんです」

その中で生まれた製法のひとつが、洗米時にお湯を使うこと。磨かないお米は表面に油分が多いため、搾りたてのお酒は美味しくできても、瓶詰めしたあとに味わいが崩れてしまうことがあります。これを解決するのが、50℃のお湯で洗米し、油を落とす方法。たくさん磨いたお米の場合、お湯では吸水しすぎてしまうため決して使えないやり方です。

奇想天外な手法が実現する、安定した麹づくり

精米歩合90%という制約は、麹づくりの工夫にも繋がります。

「磨いてないお米は溶けにくいので、教科書どおりに作ると薄っぺらくなってしまうし、思い切り溶かそうとすると味がくどくなってしまう。薄くもくどくもなく美味しいお酒を造るにはどんな麹をつくればいいか試行錯誤した結果、パワフルな麹菌を使いつつ、製麹時間を短くする製法にたどり着きました」

稲とアガベでは、お米を溶かすため、清酒造りにはほとんど使われない麹菌を、一般的な大吟醸酒の10〜20倍ほどの量を振り掛けます。しかし、この方法で製麹時間に教科書どおり48時間以上かけると味わいが重たくなってしまうため、40時間に短縮することで麹の力を調整しています。

酒造りの要である麹づくり。難しいと言われるのは、米の品種や精米歩合、種麹の種類や量などの変数が多いためだと岡住さんは指摘します。

「麹造りを徹底的に極めれば少ない量の種麹でも調整できるかもしれませんが、それでも毎回完全に同じように振れるわけではないと思っています。麹がブレたら、その後の発酵の工程もブレていきますよね。このブレをなくし、品質の高い麹をいつでも作れる手法を突き詰めた結果として、今のやり方にたどり着きました。

一般的な麹づくりでは温度の経過が毎回少しずつ異なるために、人間が体で合わせにいきます。だから毎日夜勤しないといけないし、ずっと緊張しながら作らないといけないんですよね。でも、稲とアガベの麹づくりは、毎回まったく同じ時間に最高品温を迎えられるんです

日本酒造りの現場で麹は難易度の高い工程で、伝統的な酒蔵では、修行から何年も経過してようやく種麹を振ること(種切り)が任されるようになるほど。しかし、岡住さんいわく、「稲とアガベでは、入社初日から種切りができる」。低精米に最適化した酒造りを貫いた結果、誰にでも品質が高い麹を造ることができる手法が誕生したということです。

信念を持ち、創意工夫を凝らした酒造りに取り組む岡住さん。いち醸造家として盤石な信頼を集めていますが、多様な事業に取り組む中で、常に製造の現場に張り付いているわけにもいかないのが現状です。

「酒造りへのこだわりは第一にありますが、これからますます事業を大きくしていく中では、自分がいなくても品質の高いお酒を造れるようにならなければいけない。精米歩合90%という制限を設けながら、品質を一定に保つ”標準化”ができるのが我々の強みだと思います」

お米と副原料:クラフトサケの意義を突き詰める

土・風・雷・星をテーマにした4つのシリーズ

プロダクトラインは男鹿の自然をイメージした土・風・雷・星の4種類。「土」は古来よりその土地に根付いてきた飲み物としてのどぶろく。「風」は、業界に新しい風を吹かせるという想いを込めて、副原料を一緒に発酵させたクラフトサケ。男鹿の風物詩である「雷」を冠するのは、小ロットでインパクトある挑戦をおこなう試験醸造シリーズ。方角の目印として漁師たちを導いてきた「星」は、清酒製造免許の鍵となる輸出用清酒・委託醸造清酒が該当します。

「どぶろくは『飲みにくい』といったマイナスイメージを持たれやすいんですよね。木花之醸造所のころから造っていますが、どぶろくが苦手な人でも第一印象で美味しいと思えるようなお酒を当初から目指しています。意識しているのは、“明るい飲み物”であること。”明るい”というのは、雑味がなくきれいで、甘いけど甘すぎず、酸で切れる、などの要素のことです」

稲とアガベではすべての商品を均質にするため、米粒をすりつぶし、ミルクシェイクのようなさらさらと飲み心地の良いテクスチャーにしています。

クラフトサケシリーズのフラッグシップは、醸造所の名前に基づき、テキーラの原料であるアガベシロップを副原料とした「稲とアガベ」です。アガベシロップは酵母によってアルコールに変換されるため、味には影響がないゆえほとんど日本酒のようなお酒になる点を強みとしていましたが、岡住さん曰く、近年は「副原料を入れるならその個性を出したほうが良いのではないか」と考えるようになってきているともいいます。

ホップはサケに出会うべくして出会った

これまでに使った副原料は20パターン近くに及びますが、「基本的には日本酒が造りたいと思っているので、なんでもかんでも入れたいわけではない。使うときには、やはり理由が必要です」と岡住さん。そんな中でも、「出会うべくして米と出会った」と評価するのがホップです。

副原料を使ったクラフトサケのラインナップ(2024年10月時点)

発売年月商品名副原料・製法
2021年11月稲とアガベアガベシロップ
2022年2月稲とホップ / ホップどぶろくホップ
2022年5月稲とリンゴリンゴ
2022年12月稲とブドウブドウ
2023年4月DOBUROKU<破> 八朔八朔
2023年4月DOBUROKU<破> もも
2023年4月稲と日本茶緑茶
2023年6月稲とブドウ つけオーク樽熟成ブドウ
2023年6月稲とハチミツ(オカズミード)はちみつ
2023年7月稲とアガベとイヨシコーラ粕
2023年8月稲とリンゴ オーク樽貯蔵リンゴ
2023年8月稲とイチジクイチジク
2023年10月DOBUROKU<破> コーヒーどぶろくコーヒー
2024年2月交酒 花風ホップ
2024年3月稲とアガベと宮崎日向夏日向夏
2024年3月アガベと稲アガベシロップ
2024年5月稲とジャスミンジャスミン茶
2024年5月稲とアガベと渋谷の植物園レモングラスほかハーブ14種類
2024年6月稲とアガベと土田のホップ 交酒 花風オークホップ
2024年7月稲と男鹿梨
2024年8月稲とリンゴ ドメーヌショオオーク樽貯蔵リンゴ
2024年9月稲とハチミツ(オカズミードリベンジ)はちみつ
2024年10月稲と富士山-HERBSTAND- / DOBUROKU〈破〉富士山ハーブクロモジほかハーブ8種類

ホップという素材は、米の酒にこんなにも合うのかと驚きます。個人的には、麦の酒よりも合うんじゃないかと思うほどです。苦味は日本酒にとって許容されづらい味覚ですが、五味のひとつで重要な味わい。それが、ホップの苦味になると、多くの人がポジティブに受け止められる。料理との相性も広がりますし、ホップサケならではの味の幅に可能性を感じています」

「稲とホップ」や「ホップどぶろく」などにはブレンドしたホップを使っていますが、その中の中核を成すのがネルソンソーヴィンという品種。日本酒でも近年注目されているマスカット香を出す4mmpという成分が含まれています。

ブドウと米を発酵させることで、ワインや日本酒よりもおもしろい飲み物を造る。単体ではお酒になるまでアルコール発酵できないフルーツを米と米麹の力でお酒にする。日本酒のようで日本酒ではないものを造るからこそ、岡住さんは"クラフトサケならでは"の意味を追究します。

「その副原料を単体で酒にした方が美味しいんだったら、余計なことはしないほうがいい。その副原料が加わることによって可能性を超えたものを造れるところが、クラフトサケの醍醐味なんじゃないでしょうか」

これまでとこれから:「獺祭」の生産量を目指して

2024年2月、「クラフトサケをもっと手に入りやすいものにする」という目標のもと、新ブランド「交酒 花風」がリリースされました。小規模での醸造のため値段が高くなりやすいクラフトサケは、飲食店ではグラスあたり価格が高額になりやすく、扱ってもらいづらいという課題があります。「花風」はその解消を目指した商品で、もろみの発酵日数を他の造りの3分の2程度に短縮し量産を実現することで、四合瓶で2100円程度(税抜)という小売価格を達成しています。

クラフトサケを広く認知してもらうためには、コアなファンに向けた小売販売だけではなく、初めて飲む人が訪れる飲食店にも卸せるものでなければならない。岡住さんはその先に、「2年後に10倍の製造量を実現し、クラフトサケをもっと手に入りやすいものにしたい」という目標を掲げます。

「今後は、杜氏候補になる若い造り手も採用していきたいと思っています。自分がいつまで若い感性でいられるかはわからないし、10年以内くらいには次の造り手を育てていかないと、時代に取り残されてしまうからです」

醸造所を中心としたまちづくりによって、過疎化する男鹿を生まれ変わらせる。米と米麹を使ったサケの可能性を追究して、自由な未来の酒造りを実現する。「黒霧島や獺祭、ヤッホーブルーイングのようなメーカーになれるまで、死ぬ気で頑張り続ける」と語る岡住さんに次々とサポーターが集まるのは、その目が自分ではない他者や、自分のいない未来へと向けられているからなのでしょう。

2024年11月、創業から4年目を迎えた稲とアガベ。今年もまた目まぐるしく新しい事業が始まり、新しい商品が生まれていきます。「自分が死んだ後の男鹿の未来を作る」と宣言する岡住さん率いる稲とアガベがやるべきことは、まだまだ山積みだからです。

酒蔵情報

稲とアガベ醸造所
住所:秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21
連絡先:info@inetoagave.com
創業:2022年
代表:岡住修兵
Webサイト:https://inetoagave.com/

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