10年後、日本酒の造り手は足りるのか? ― 「履歴書より乾杯」でつなぐ、酒蔵との新しい関係

2026.06

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10年後、日本酒の造り手は足りるのか? ― 「履歴書より乾杯」でつなぐ、酒蔵との新しい関係

酒スト編集部  |  SAKE Street Pioneers

Sponsored by 株式会社アンカーマン

近年、「人手不足倒産」が急増しています。新しい働き手を確保できず、人手が減ってしまい、黒字であっても事業の継続を断念する。帝国データバンクの調査によると、その件数は2025年度に441件にのぼり、3年連続で過去最多を更新しました。3年前(2022年度の146件)と比べると、わずか3年で約3倍にも増加しています(※1)。

そのなかでもひときわ深刻な数字を抱える業種が、日本酒文化の主な担い手である酒蔵(清酒製造業)です。人材の「奪い合い」の激しさを表す有効求人倍率は4.07倍。これは全業種平均の1.22倍はもちろん、人手不足の代表とされやすいホテル・旅館業の2.78倍をもはるかに上回ります(※2)。

実際にお酒を造る蔵元たちは、この状況をどう受け止めているのでしょうか。SAKE Streetでは、酒蔵の採用支援事業を手がける株式会社アンカーマンとともに、酒蔵を対象としたアンケートを実施しました。そこから浮かび上がってきたのは、人手不足の状況がこれから10年でさらに厳しさを増す現実でした。

(※1) 参考:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)
(※2)参考:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag」(令和6年度統計)

「人手が足りている」蔵は、10年後には半減

今回実施したアンケートでは、人手不足の状況について「現在の製造スタッフが足りているか」「10年以内に引退などで欠員が出た場合、足りる見込みか」の2点を尋ねました。現状の人手については、約6割(32蔵中19蔵)が「十分」または「おおむね足りている」と答えており、人手不足という認識を持っている蔵は少数派になっています。

しかし10年後については、先ほど「足りている」と回答した19社のうち10社が、「やや不足する」と回答しており、人手不足という認識を示す蔵が7割以上にのぼります。

グラフ:現在の製造スタッフ、10年以内に引退が生じた場合の製造スタッフ充足状況

危機感は、ほかの数字にも表れています。「人手不足が原因で、廃業や減産を検討せざるを得ない状況を、どの程度身近に感じるか」という問いにも、72%にあたる23社が「将来的にはあり得る」と回答。「数年以内に直面する危機感がある」とした蔵も3社ありました。

グラフ:人手不足廃業の危機感

人手不足や技術継承への焦りを10段階で尋ねると、平均は5.8。「1(全く焦っていない)」という回答も同率で最多だったものの、「6」以上をつけた蔵が、過半数の56%を占めています。

グラフ:人手不足や技術継承の焦り

担い手の高齢化も進んでいます。製造現場の「中心的な担い手」の平均年齢は、40代以上が3分の2(21社)。今は経験豊富な社員が現場を支えていても、その層がそのまま10年、20年と歳を重ねていけば、いずれ大きな空白が生まれます。

このアンケートは、アンカーマンとSAKE Streetが共同で実施したもので、全国の酒蔵32社から無記名で回答を得ました。回答した蔵の規模は「年間製造500〜1,000石未満」が最も多く(12社)、中小規模の地酒蔵が中心です。つまりここに表れているのは、地域に根ざした蔵の、等身大の声なのです。

グラフ:回答した酒蔵の規模

さらに、人手不足によって生じている課題(複数回答)を尋ねたところ、最も多かったのは、「経営者や杜氏の休日返上・長時間労働」(16社)。次いで「設備のメンテナンスや清掃の遅れ」(14社)、「新商品開発やイベントなど新規企画の遅れ・断念」(13社)が続きました。

人手が足りているといっても、経営者や管理職によるカバーや、一部の機会損失を許容して「なんとか回っている」という現状が伺えます。自由記述の回答欄には、売上を伸ばす活動に十分な時間を割くことができない悩みが寄せられています。

「仕込み期間中、さまざまなイベントにお声がけいただくが、断らざるを得ない」
「新商品の提案が後手にまわったり、コンテストの準備ができず断念することもある」

海外市場の成長や高付加価値化によって日本酒が改めて注目を集めるなか、「せっかくの機会を活かしきれない」という形で、すでに人手不足の影響が現れはじめていると言えます。

なぜ酒蔵の求人は、若者の目に入らないのか

では、なぜ酒蔵はこれほど人手の確保に苦労するのでしょうか。長く酒蔵の経営に伴走してきた、アンカーマン代表取締役の和田直人さんに話を聞きました。

「当社の創業以来、設備の老朽化や生産性の向上といった経営のご相談をいただくなかで、経営計画の策定や補助金申請のお手伝いをしてきました。ただ、それらは酒蔵経営のなかで一つのピースに過ぎないんです。『次の杜氏さんが来られない』となってしまえば、そもそもお酒を造ることができません

和田さんは、当初から人手不足の悩みは多く聞いていたものの、十分に応えきれていなかったと振り返ります。そこで立ち上げたのが、人と人とをつなぐ、お酒業界専門の人材紹介サービス「酒蔵エージェント」でした。

説明する和田さんの写真
株式会社アンカーマン 代表取締役 和田直人さん

こうして実際に、酒蔵の採用現場に踏み込んで痛感したのは、地方の蔵が使える手段の乏しさでした。

「地方の酒蔵では採用活動といっても、知り合いや紹介、ハローワーク、地域紙の広告といった伝統的な手段が中心でした。しかしそもそも若い人が都会に出てしまっていて、地元に担い手が少なくなっています

アンケートにおいても、「直近3年間で実施した採用手法」のうち最も多かったのは「知人・取引先・社員からの紹介」(21社)と「ハローワーク」(20社)。一方で、求人サイトへの掲載は有料・無料いずれも4社にとどまり、自社SNS・HPの活用も11社と3割程度に留まりました。都市部の若年層が求職に使っているデジタル媒体を使った採用が、酒蔵ではまだ十分に機能していないことが分かります。

グラフ:直近3年間で実施した採用手法

その背景にあるのが、経済的な課題です。採用にかける年間予算を聞くと、「予算を確保できていない」が15社、「10万円未満」が9社。これらを合計すると75%(24社)が、採用活動に割いている予算がほとんどないことが分かります。

グラフ:採用にかける年間予算

アンカーマンでマーケティング部 部長を務める渡辺由紀さんは、特に地方部で若年層の人口が少なくなるなか、企業の採用活動の難易度や予算の考え方が変わってきていることを指摘します。

採用にお金をかける必要性に、まだ気付けていない酒蔵の方もいると思います。『これまではそれで何とかなってきたから』と、同じやり方を続けてしまったり、そもそもお金をかけられないという事情もあるでしょう」

もちろん予算が十分にないなかでも、無料の求人媒体を使う蔵もあります。しかし、それも簡単ではないと渡辺さんは続けます。

「たとえばindeedに求人を出している酒蔵は多いんです。でも、こうした媒体は掲載される求人も非常に多い分、日々運用しないと求職者の目に止まりにくい。その運用にも手が回っていないことで、採用に繋がりにくい、というのが現実です」

アンケートの回答で採用の「壁」として挙げられたのも、「待遇面(給与水準、福利厚生)」(21社)、「労働条件(休日数、夜間勤務、体力的な負担)」(16社)、「社会情勢の変化(若年層人口の減少・高齢化など)」(15社)が上位でした。

グラフ:採用活動の壁

お金や人手をかけられない、待遇でも勝負しづらい、そしてそもそも若い働き手が減っている。地方の酒蔵が若者を採用するためには、数多くのハードルが存在します。

履歴書はいらない。おちょこを片手に、「飲める!酒蔵合同就職説明会」

写真:会場の様子
画像提供:株式会社アンカーマン

こうした酒蔵の課題に対して、アンカーマンが2024年から立ち上げたのが「飲める!酒蔵合同就職説明会」です。35歳未満(U35)の若者に対象を絞り、蔵元と語り合いながらお酒の試飲もできる。履歴書やスーツを前提としない、異例の就職イベントです。

参加者アンケートでは、『楽しかった』という声がとても多いんです。蔵元さんも、自分の得意な分野で、お酒や会社の話ができる。スーツにネクタイよりも、はっぴにポロシャツ。それが、若い子の安心感につながっているのだと思います」(渡辺さん)

説明する渡辺さんの写真
株式会社アンカーマン マーケティング部 部長 渡辺由紀さん

こうしてお酒を介して出会い、会話することで、蔵元の側にも発見があるといいます。

「『お酒好きな若者って、こんなにいるんだ』『こちらが元気をもらった』と言ってくださる蔵元さんもいます。会社説明の機会になるだけでなく、蔵のお酒を知ってもらうきっかけにもなるんです」(渡辺さん)

手応えは、数字にも表れています。2025年の開催では、参加者の78.5%がエントリーを希望し、17名が採用または選考へと進みました。3回目の開催となる2026年は、「獺祭」「八海山」「黒龍」をはじめ、全国から20の蔵が出展します。

イベントページ:日本酒の利き酒ができる「飲める!酒蔵合同就職説明会2026」-U35限定-

応援が売上になり、次の造り手を育てる ―「情熱のサイクル」

今回、アンカーマンでは、この説明会を支える仕組みとしてクラウドファンディングに挑戦しています。集まった支援金の使い道にも工夫があり、運営費や広告費として使うのではなく、「酒蔵のお酒を買い支える」ことに充てるのです。

支援者がプロジェクトを応援すると、その資金で出展蔵のお酒を買い支え、蔵はその売上を原資として採用や人材育成に回すことができます。

こうして技術が次の世代へ継承され、造られたお酒が再び世に流通して新たな応援を呼ぶ。「応援」が「採用」「継承」へとつながっていくこの一連の流れを、アンカーマンは「情熱のサイクル」と呼んでいます。

情熱のサイクル図:1.応援→2.売上→3.採用→4.継承→5.流通→1.へ戻る
画像提供:株式会社アンカーマン

なぜ、遠回りにも見えるこの方法をあえて選んだのか。渡辺さんは、次のように語ります。

「このクラウドファンディングで、私たちが利益を得る必要はないんです。それよりも、多くの方にこのプロジェクトを知ってもらいたい。そしてこの取組を応援してくださる方は、『お酒が好きだから』という理由で応援してくれるはずです。だからこそ、応援にはお酒でお返ししたいと考えました」

この「情熱のサイクル」で重要な役割を担うのが、お酒の流通を担う酒屋です。今回協力するのは、東京都世田谷区経堂にある老舗・朝日屋酒店。店舗の近くにある東京農業大学(農大)に通う学生たちが日本酒を学ぶ場としても知られ、代表の小澤さんは、多くの「未来の造り手」と日常的に接してきました。

朝日屋酒店の外観写真
朝日屋酒店

「酒蔵への就職について考えるとき、一番最先端にいるのがうちの店だと思っているんです。必ずしもお酒が飲めなくても、微生物や酒造りに関心のある学生が農大には集まっています。アルバイトの学生たちとは、将来の仕事や就職活動の状況について日常的に話をしています」

そんな小澤さんは、このイベントを当初から応援してきた一人でした。2024年に第1回の開催を知るとすぐ、自発的にSNSで紹介したといいます。

「以前にも1度、農大を会場に似たイベントが開催されたことはあったのですが、そのあとが続かず、残念に思っていました。それ以来、若者に酒蔵の仕事をアピールする機会があれば、応援していきたいと考えていたんです」

笑顔で語る小澤さんの写真
朝日屋酒店 代表 小澤和幸さん

蔵元の子息であっても、全く異なる業界に就職する場面も多く見てきた小澤さんには、「若い担い手が育つ場をどうすれば守れるのか」という危機感が、早くから芽生えていました。だからこそ、こうして続く取り組みの価値を、誰よりも信じているのです。

「『造り手を育てる』というのは、蔵にしかできないことなんです。お酒に関心を持っている人に、きちんと伝えられる場が増えてほしい。家庭で日本酒に触れる機会も減っているなかで、日本酒に関わる仕事の魅力が見えにくくなっているように感じます」

クラウドファンディング挑戦中!(2026年7月1日〜募集開始予定):100年続く酒蔵を未来へ!「飲める!酒蔵合同就職説明会2026」応援プロジェクト

お酒好きのなかにこそ、未来の担い手がいる

小澤さんの言葉どおり、酒蔵は人を求めていて、お酒に関心のある若者も確かに存在しています。しかし、両者が出会う場や手段が少ないのが現状です。和田さんは、この「非対称」をなくしたいと言います。

「需要と供給の非対称性が解消されてほしいんです。本当はマッチするはずなのに、できていない。私たちが、その架け橋になりたいと考えています。『酒蔵 就職』と検索したけれど、求人が見つからなかったという人が、実際にいるんです

渡辺さんも運営の現場で、実際に「非対称」を感じてきた若者の声を聞いてきました。

「実際に酒蔵に就職した方から『まさか、こんなところで働けるなんて』と言っていただいたこともあります。そうした選択肢があることを知らなかったら、お互いに損ですよね」

お酒が好きで集まる人の輪のなかに、未来の蔵人が眠っている。そう考えると、採用の風景は少し違って見えてきます。酒蔵の採用支援の将来像として、渡辺さんは多様化する働き方にも対応していきたいと話します。

「製造は現場・現物がある仕事なので、リモートワークは難しい。でも、経理や総務のような仕事なら、リモートでもできるかもしれません。『スキマバイト』のような関わり方にも可能性があります。さまざまな関わり方に対応することで、課題の解決に貢献したいと考えています」

多様な働き方のニーズがあるなか、それを迎える酒蔵側の姿勢も問われます。小澤さんは、世代による意識の変化を見つめながら、「伝える」ことの大切さを語ります。

思いを語る小澤さんの写真

「昔と今では、学生の考え方も全然違います。昔はどんどんアルバイトに入ってきましたが、今は『やりたいことの隙間に入れる』という考え方の子が多い。そういう時代だからこそ、良いことも悪いことも、きちんと伝えて理解してもらう機会をつくっていく必要があると感じています」

そして、こうして「伝える」ことの大切さは、運営の現場でも裏づけられています。実際、「中長期のビジョンを語る酒蔵ほど、エントリーが多い」と渡辺さんは言います。これからの採用は待遇だけでなく、「何を目指す蔵なのか」を語れるかどうかにも、かかっているのかもしれません。

一杯の乾杯ができること

有効求人倍率4.07倍、10年後の人手不足7割超。こうした数字だけを見れば、酒蔵の採用難は、途方もない問題に思えます。しかし、「お酒に関心を持つ人と、造り手を求める蔵をどうつなぐか」と視点を変えれば、打ち手も見えてきます。

今回のイベントのように、未来の働き手に酒蔵のことを知ってもらえる機会を増やすのも、その一つ。そして、お酒を飲む私たち一人ひとりにも、この解決に関わる機会は開かれています。和田さんは、最後にこう語ってくれました。

「地元のお酒を買って飲んでもらえるだけでも、酒蔵の応援になるんです。そう前向きに考えて、少しでも気にかけてもらえる人が増えれば、未来に繋がるかもしれないと考えています」

一杯の乾杯が、一人の若者の人生を変え、一つの蔵の歴史と、地域の未来を支える。あなたの一杯、そして一口の応援が、10年後の造り手を生むかもしれません。この「情熱のサイクル」の入り口となるクラウドファンディングを、ぜひ一度覗いてみてください。

クラウドファンディング挑戦中!(2026年7月1日〜募集開始予定):100年続く酒蔵を未来へ!「飲める!酒蔵合同就職説明会2026」応援プロジェクト

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