成功のカギは「美味しさ」よりも○○?JETROに日本酒輸出の極意を聞いてみた【支援制度リストつき】

2026.08

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成功のカギは「美味しさ」よりも○○?JETROに日本酒輸出の極意を聞いてみた【支援制度リストつき】

卜部 奏音  |  SAKE業界の新潮流

企業の海外輸出を支援する日本貿易振興機構(JETRO)。海外76か所・国内51か所に事務所を持つネットワークと、無料で利用できる幅広い支援が特徴です。規制情報の提供や海外バイヤーとの商談会など、輸出に取り組む酒蔵にとっては身近な存在かもしれません。

しかし、元JETRO職員であり日本酒好きである著者は、「活用できる支援がたくさんあるのに、外から見ると分かりづらい!」というもどかしさをずっと感じていました。そこで、この記事では、より多くの酒蔵がJETROの支援を使いこなせるよう、JETRO事業に精通する職員にお話を聞きながら情報を整理してみることにしました。

お話を伺ったのは、JETROで約20年間、輸出支援やデジタルマーケティングに従事し、2回の中国駐在経験を持つJETRO農林水産食品部の高山博さんです。JETROが長年行ってきた商談会などBtoB事業の運営に加え、ECやSNSを使ったBtoC事業を中国で新たに立ち上げた高山さんに、輸出を成功させるコツを聞きました。

JETROの支援を使い倒す!日本酒輸出ガイド

酒蔵が輸出を考え始めたとき、何から手をつければいいのでしょうか。JETROが提供する支援とあわせて、高山さんに説明していただきました。

高山さん
JETRO農林水産食品部 高山博さん

(1) 情報収集

まず必要なのは、輸出先の国を決めるための情報収集です。JETROではセミナーやレポートで、各国の市場の大きさや食の嗜好、規制などの情報を発信しています。各都道府県のJETRO事務所に輸出アドバイザーが配置されているため、彼らに相談することも可能です。

輸出先の国を選ぶポイントについて、高山さんは「まずは日本酒が多く出ている国がおすすめです」と話します。

「2025年の清酒輸出額458億円のうち、中国が133億円、アメリカが110億円なので、この2つが最初の選択肢になるかと思います。そこからプラスして香港、韓国、台湾に広げていくケースが多いですね。

ただ、『100万円分輸出できたら成功』と考える酒蔵もいれば、『数億円売らないと意味がない』と考える酒蔵もいるように、それぞれの規模や輸出の目標額によって狙う市場は変わってきます。目標額が小さければ、極端な話、南米などのニッチなマーケットだけに注力するといった戦略もあり得ます」

年の輸出金額・数量上位国の表
2025(R4)年の輸出金額・数量上位国(参考:日本酒造組合中央会)

(2) 国内展示会・国内商談会

輸出先の国が決まったら、輸出をサポートしてくれるパートナーと出会うため、商談の機会を探します。JETROでは、輸出商社や海外バイヤーを招いた展示会や商談会を全国で開いており、無料で参加できます。通訳が無料でつくため、語学力の心配もいりません。この段階では「とにかく数をこなし、さまざまな国の人と話すこと」の重要性を高山さんは強調します。

「お酒を出してみたいと思う国のバイヤーと話してみることで、いろいろな課題が見えてきます。まずは少ないコストでバイヤーとマッチングし、『うまくいきそうだ』となれば海外の展示会や商談会に移る、という流れです」

ジェトロの主なサービス表

(3) 海外展示会・海外商談会

主要な海外の展示会や商談会には、「サケサミット上海」(中国)や「FOOD TAIPEI」(台湾)、「SIAL Paris」(フランス)などがあります。JETROではこうした展示会への出展費用を負担したり、輸出の専門家が同行したりする支援を行っています。高山さんによると、海外展示会に出るタイミングには、2つのケースがあるそうです。

一つは、まだ現地パートナーがいないケース。その国で卸売を担う代理店探しが展示会出展の目的になります。もう一つは、すでにパートナーがいるケース。その場合、小売店や飲食店、EC事業者など、代理店の顧客となりうる人に営業することが目的になります。

ここで注意したいのが、信頼できるパートナー選びです。「国内商談会ではJETROの海外事務所がスクリーニングしたバイヤーが参加するので比較的トラブルは少ないのですが、海外展示会にはさまざまな思惑の方たちがやって来るので、自身で見極める必要があります」と高山さんは注意を促します。

高山さんは、赴任先の中国で酒蔵のパートナー候補となる企業に新たに出会ったとき、商談会での動きぶりを判断基準にしていたと言います。

「基本的なところでは、イベントに遅れてこないか、来場者に対して積極的に営業するかを見ていました。プロモーションイベントを行う際には、飲食店を紹介してくれるか、サンプルの無償提供に応じてくれるかという点も確認していました」

JETROでは、世界70か所以上にある海外事務所の職員がさまざまな展示会や商談会、セミナーに足を運んでパートナー候補とつながり、酒蔵とのマッチングに活かしています。また、輸出経験が豊富な専門家がマンツーマンで酒蔵を支援する「輸出プロモーター事業」もあるため、彼らからアドバイスをもらうことも可能です。

海外展示会・商談会(@サケサミット上海2026)の様子
参考:

(4) プロモーション

高山さんによると、近年、海外で日本酒人気が高まっているため、パートナーを見つけて輸出を始めるところまでは「それほど難しくない」そう。しかし、輸出とは、外国で商品が流通し始めて終わるわけではありません。

「酒蔵は数百年の長い歴史があるところが多いので、国内ではその間にすでにブランドが定着しています。しかし、海外ではゼロからブランドを認知してもらう必要があるため、プロモーションのコストがかなりかかります

こうしたプロモーションは、契約した代理店と相談しながら決めていくケースが多いそうです。

「プロモーションは、お金をかけないと売れるようになりづらいものの、かけても必ず売れるとは限らない、難しい世界です。職人気質の酒蔵では『美味しいものは必ず売れるはず』と思っている方が多いですが、正直なところ、海外の消費者の感覚は日本の消費者とは異なります。そのため、味だけで売れるという思い込みは捨て、総合的な取り組みが必要になります

(5) 輸出にかかる費用

上記のプロモーション費用のように、輸出には、国内取引とは違うお金がかかります。これらを事前に把握し、そこに投資する覚悟を持たないと輸出は前に進まないと高山さんは言います。

わかりやすい例として、通訳費用があげられます。JETROの国内商談会では無料で通訳が派遣されますが、海外展示会などでは自社で通訳を雇う必要があります。地域によっては、JETROの海外事務所から通訳会社のリストを入手できる場合もあります。

ほかに、輸出先の国での商標の取得にもお金がかかります。高山さんによると、中国では最小単位の商標1つにつき約4〜5万円と比較的安く取得できるものの、国によって金額が違い、例えば台湾ではその3倍程度になるそう。JETROでは知的財産権保護に関するセミナーを開いているほか、海外で商標を無断で取られてしまった場合に係争費用の一部を助成する制度もあります。

参考:

さらに、市場調査やパートナー探しには現地への渡航費もかかるため、こうした点も考慮しながら輸出先の国を決めるとよいとのことです。

JETROに聞きたい、日本酒輸出のあれこれ

(1) 国税庁や酒造組合中央会との役割分担は?

JETROのほかに国税庁や酒造組合中央会も日本酒の輸出支援をおこなっているため、どこに相談すべきか迷うこともあるかもしれません。この点について「これまで各機関の支援が重複しているところがあったのは事実」と、高山さんも課題意識を打ち明けます。

JETROが「海外展開のプロ」であるのに対して、国税庁や日本酒造組合中央会は「お酒のプロ」。これまではそれぞれの立場で海外展示会や商談会の支援をおこなっていましたが、同じ時期に別々の都市で商談会をおこなうなど、参加する酒蔵にとって不便な点がありました。そこで、高山さんは中国に赴任していた頃、頻繁に帰国して国税庁や酒造組合中央会に足を運び、お互いの強みを分担しあえる体制を作りました。

「国税庁や酒造組合中央会の方々には『お酒のプロ』として講師を務めてもらい、JETROは独自のノウハウを生かして展示会やマッチングなどを任せてもらう形を取りました」

サケサミット_領事館による講演
在上海日本国総領事館(@サケサミット上海2026)による講演

酒蔵にとってよりわかりやすい支援のためには、このように、お互いの強みを生かした役割分担をほかの国にも広げていく必要があると高山さんは考えています。

(2) 成功事例の特徴:現地に足を運ぶ

多くの輸出事例を見てきたJETROの立場から、成功する酒蔵と失敗する酒蔵にはどんな特徴が見えてくるのかを聞いてみました。

うまくいっているところは、酒蔵自身が海外によく足を運んでいる。これが一番重要だと思います」と高山さん。例として、中国市場に非常に力を入れている、ある酒蔵の取り組みを教えてくれました。この酒蔵は中華料理に合う日本酒を独自に開発。そのプロモーションのために、代表が2、3ヶ月に一度の頻度で中国に渡り、展示会のブースに立ったり、消費者向けのペアリングイベントに講師として登壇したりしていたそうです。

「中国に限らず、海外のコアな日本酒ファンは酒蔵の蔵元さんや杜氏さんと交流することをとても喜びます。マニアックな質問をする方も多く、代理店がある程度は答えられても、それだけでは物足りなく感じるのです。この酒蔵はそうしたニーズに上手く応えていました」と成功の要因を分析します。

(3) 失敗事例の特徴①:商流を増やしすぎる

一方、うまくいかないケースに共通する特徴は「引き合いがあればどこでも出してしまうこと」だと言います。例えば、中国市場では、3つの代理店から引き合いがあり、商流をしっかり確認せずにすべてに売ってしまうケースがあったのだとか。各代理店には手元の在庫をさばきたいという心理が働くため、1社が値下げを始めると価格競争が始まり、連鎖的に価格が落ちるリスクがあります。

「これをやってしまうと、その商品が海外市場で利益を生まないと業界で認識されてしまい、誰も取り扱おうとしなくなります。そのブランドが海外で死んでしまう、これが一番深刻な問題です」

また、複数の代理店が同じ商品を扱う場合、プロモーションに費用を投じることが同時に他社の利益にもなってしまいます。そのため、代理店がプロモーションにお金をかけたがらなくなる弊害もあると言います。

こうした事例を踏まえ、高山さん個人としては「代理店は増やしすぎない方がいい」と考えています。

「中国のように大きな市場は、1つの代理店だけでは全て見れないため地域別に代理店を設定する酒蔵もあります。ただ、中国は小売総額に占めるECの割合が5〜6割と非常に高い。オンライン販売では地域の概念がなくなるため、代理店を増やすのは特に慎重になったほうがいいと思います。代理店に対して『この金額以下では売らないで』と指定するような、価格のコントロールも大切です

(4) 失敗事例の特徴②:冷蔵輸送にこだわりすぎる

別のケースとして、出荷から通関、流通、小売店・飲食店に至るまで一貫した冷蔵輸送を期待する酒蔵の要望にバイヤーが応えられず、商談が成立しないことも多いと言います。

そもそも、日本の冷蔵流通(コールドチェーン)は世界トップレベルのため、海外のインフラに同じ水準を求めるのは難しいことも。冷蔵輸送にはコストがかかるため、バイヤーが「売れる保証のない、初めて扱うブランドにそこまでコストはかけられない」と判断し、酒蔵が「では商品を供給しない」と商談が止まるケースが多いそうです。

冷蔵輸送は品質維持のために譲れないポイントではあるものの、コールドチェーンの整備には時間がかかります。現地の日本酒関係者への指導と並行して、常温流通に耐えられるお酒を売り出すなど、現実的な落としどころが求められるのかもしれません。

参考:

今後の課題はEC、SNS、インバウンド

これまで、企業同士のマッチング支援など、BtoB事業をメインとしてきたJETRO。ECやSNSなどのデジタルツールを活用したBtoC事業も一部おこなっていますが、今後はこの分野をさらに拡大する必要があると高山さんは言います。

例えば、中国ではBtoC事業として、約40軒の飲食店とコラボし日本酒の飲み比べセットを提供するイベント「Sake Overflow」を2024年から毎年実施。ECサイトやライブ配信でのオンライン販売を同時におこなった結果、SNS総露出が120万回を超える大きな反響を呼びました。

Sake Overflow事業で提供された、日本酒の飲み比べセット
Sake Overflow事業で提供された、日本酒の飲み比べセット

ほかに、アメリカではSNSを使って北米の日本酒ファンと酒蔵をつなぐ「#SupportSAKE」事業を実施。現在111の酒蔵が参加し、インスタライブや酒蔵ツアーを通して交流を深めています。

このようなBtoC事業の一環として、インバウンドの活用も重要だと高山さんは指摘します。「日本に観光に来た人たちのSNS投稿や口コミで人気に火がつき、海外から『扱いたい』とオファーが来るのが理想」。実際に、「日本でも入手しにくい」と中国で認識されているプレミアムな銘柄を扱いたいというオファーがJETROへ来たこともあったそうです。

インバウンド観光客は、日本に関心があり、日本の商品を手に取る可能性が高い海外消費者とも言えます。そんな彼らからのフィードバックは、酒蔵が輸出戦略を練るうえでも参考になります。JETROでは、酒蔵と協力して空港や主要駅、国際会議などでインバウンド客に酒類を提供し、味わいやラベルの印象、価格の納得感などを調査しています。

「BtoBとBtoCの両方で日本酒の輸出をお手伝いできるメニューが揃っているので、まずは最寄りの国内事務所か東京本部へ連絡してみてください。

とにかく『現場を見る』というのが輸出では重要です。レポートばかり読んでいても得られるものは少ないので、早く人と会って海外に行く。これに尽きると思います」

輸出への道のりは決して平坦ではありませんが、JETROや国税庁など公の支援を上手く使うと、最初の一歩がぐっと踏み出しやすくなります。最後に、輸出に活用できるJETROの支援をまとめました。「何から始めればよいかわからない」という人はぜひ、ここから自社のフェーズに合ったものを選んでみてください。

<目的別>JETROの支援一覧

▼国・地域別の市場の情報や食の嗜好、商流や商習慣を知りたい
国・地域別マーケティング基礎情報
▼国・地域別の現地価格を知りたい
農林水産物現地市場価格調査
▼現地の輸入規制や手続きを相談したい
農林水産物・食品輸出相談窓口
▼競合商品の有無や自社に向いている展示会など、現地の最新事情を知りたい
海外コーディネーター(農林水産・食品分野)による輸出相談サービス
▼商標の保護に関するJETROの支援を知りたい
中小企業等海外侵害対策支援事業(抜け駆け商標無効・取消係争支援事業)
▼商社や物流会社、保険会社など輸出のパートナーを探したい
ジェトロ農林水産物・食品 輸出協力企業リスト
▼JETROが出展を支援している国内外の展示会や商談会を知りたい
(農林水産物・食品分野)海外見本市、海外商談会、国内商談会、セミナーの計画
▼輸出専門家によるマンツーマンの支援を受けたい
農林水産・食品分野の輸出専門家(プロモーター)による個別支援サービス
▼動画で輸出のノウハウを学びたい
動画で見る!農林水産物・食品の輸出
▼海外バイヤーとの英文メールや商談が不安
海外ビジネスお役立ち資料
▼最寄りのJETROの連絡先が知りたい
国内拠点/事務所一覧

※情報は2026年7月10日時点のものです。

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