日本酒の知識ゼロの元エンジニアが、10年連続金賞を達成できた理由 - 千葉県・小泉酒造(東魁盛)

2026.09

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日本酒の知識ゼロの元エンジニアが、10年連続金賞を達成できた理由 - 千葉県・小泉酒造(東魁盛)

山本 浩司(空太郎)  |  酒蔵情報

千葉県富津市の小泉酒造は、今年(2026年)5月の全国新酒鑑評会(対象年度は2025BY)に出品した「東魁盛(とうかいざかり)」が金賞を獲得。これで10回連続金賞の快挙を成し遂げました。

近年では市販酒の品評会や南部杜氏の鑑評会でも上位に入ることが増え、それにつれて、以前から課題だった「全国で売れる地酒」という目標への階段を着実にのぼっています。

蔵元杜氏の小泉文章(ふみあき)さんが、酒造りをまったく知らない状態で蔵に帰ってきてからもうすぐ20年。ここまでの奮闘の歴史を追いました。

日本酒の知識が皆無のまま蔵を継ぐ

小泉酒造代表・小泉文章さん
小泉酒造代表・小泉文章さん

江戸時代創業の小泉酒造は、造ったお酒を水運を使って江戸で売っていた時代もありましたが、戦後の高度成長期を過ぎて、日本酒の需要が減退期に入ると売上が落ち込んでいきました。

活路を見出すために、1990年代初期の頃、各地の酒蔵の様子を見て回った父(先代)の小泉平蔵さんは、観光客を相手に直売で成功している蔵を見て、「これだ」とひらめきます。ちょうど東京湾を横断する東京湾アクアラインの建設が進んでいたころで、1997年末に開通することが決まり、開通したら房総半島への観光客の大幅増加が見込まれていました。

観光バスやマイカーの休憩スポットとして蔵に大きな駐車場とトイレ、販売所を設ければ、直売でお酒がたくさん売れるのではないかと期待し、開通に先駆けて1995年、蔵に隣接して「ソムリエハウス 酒匠の館」をオープン。これが当たり、アクアライン開通後は期待を上回る来場者があり、販売所を増築するほどの人気となりました。

ソムリエハウス 酒匠の館の外観

蔵は立て直しに成功しましたが、平蔵さんは酒蔵の将来は楽観できないと感じ、そのころ高校生だった小泉さんには、「蔵を継ぐ必要はない。自分の好きなことをやりなさい」と言っていたそうです。小泉さんは父の言葉もあって、東京の大学に入学して物理を学び、大学院で修士号を取ってから、2007年4月に半導体の会社に入社しました。

ところが、それから1年後に平蔵さんが病気で倒れたとの連絡を受けました。

「正直、後を継ぐとも継がないとも考えないまま就職していましたが、父が倒れたと聞いて、14代目蔵元の自覚というか、責務を強く感じてしまい、結局、年末に会社を辞めて、2009年1月に蔵に帰ってきました」

そのころの小泉さんは、日本酒についての知識は皆無でした。

「会社の先輩に、麹と酵母の違いについて聞かれて、何も知らないことがばれて、『蔵に帰る前に少しは勉強したほうがいいぞ』と言われる有様でした。なので、帰ってから早速酒造りの手伝いを始めましたが、言われるままにやるだけでした」

小泉さんが最初に携わったのが、全国新酒鑑評会に出品する大吟醸酒の洗米でした。平蔵さんは鑑評会で金賞を取ることにこだわりが強かったようで、「今年こそ金賞を狙うから、きちんと洗えよ」と言われた小泉さんは米を5キロずつに分けて、冷たい水でせっせと洗ったのだそうです。

金賞を逃した時の“低評価”に衝撃

東魁盛(とうかいざかり)の酒瓶

この年は10年ぶりに金賞(2008BY)を獲得し、蔵の中は沸き立ちましたが、「僕は金賞のありがたみもわからず、傍観者でしたね」と小泉さん。酒造りは平蔵さんと片腕となる頭(かしら)の二人が担っていて、彼らから酒造りのイロハを学び、造りのシーズンが終わった後は、研修に行ったり、酒造りの教本を片っ端から読んで学んでいきました。

学びながら、小泉さんは出品酒とそれ以外の酒造りに違いがあることを知ります。

「いわずもがなですが、出品酒により手間をかけて小口で造っていることを知ったわけですが、そのとき思ったのは、『じゃあ、市販している酒を美味しくするには出品酒と同じ造りに切り替えればいいんだな』ということでした」と、その切り替えを蔵の中期的な経営課題として認識したといいます。

2009BYも金賞を獲得しましたが、その翌年(2010BY)は一回目の審査である予審の評価が低く、二回目の決審に進めませんでした。

審査の結果は、「香りの良さ」「華やかさ」「味の良さ」「濃さ」「あと味きれ」の5項目の数値をレーダーチャートにしたもので、何が評価が低かったかが一目瞭然でした。

「前年に比べると驚くほど、その五角形がとても小さかったのです。すべての評価が低かったわけですね。最初に自分の口から出た言葉が、『ちっちゃ!』でした。ただただショックでした。こんな気分は二度と味わいたくない、来年からは毎年必ず金賞を取ってやるぞ、と決意を固めた瞬間でした」

コツを体得し、金賞の常連蔵に

小泉文章さん

それまでは酒造りの基礎の習得を優先していた小泉さんですが、以降、全国新酒鑑評会のことを徹底的に研究することにしました。

「山田錦をしっかり精米した大吟醸が一番金賞を取りやすいことは間違いないのですが、金賞を取った出品酒の香りと甘さに対する評価が年々微妙に変わっていることに目が行きました。審査員の評価のトレンドを把握することがカギであることに気づき、金賞を連続して獲得している杜氏らに聞くと、ほとんどが結果発表後にすべての出品酒を利き酒できる広島県東広島市で開かれる製造技術研究会に必ず足を運んでいたのです。官能能力に差はあるでしょうが、すべての酒を利き酒することで、間違いなく見えてくるものがあるに違いないと、どんなに忙しくても毎年、東広島に行くようになりました」

この結果、2011BYから3年連続して金賞を獲得。2013BYからは、小泉さんが製造責任者になりました。2014BYで入賞止まりになったものの、以後、2015BYからは金賞を並べ、今年2026年に10回連続を果たしました。小泉さんによると、製造技術研究会でじっくりと酒を利き、それを参考に酵母の使い方などの修正を重ねていることが主な勝因だそうです。

さらに2017年には市販の日本酒の代表的品評会である「SAKE COMPETITION」の純米大吟醸部門で2位に、南部杜氏組合が実施している 「南部杜氏自醸清酒鑑評会」の2018年大会で上位に入賞するなど、次々と好結果を得るようになっていきます。

「全国新酒鑑評会以外で賞が取れるようになったのは、市販する酒も出品酒と同じ造りに順次切り替えてきたからです。しかも、その結果、地酒販売店から引き合いが増えていきました。賞を獲得することが広告宣伝効果に繋がるのなら、蔵で造る酒のほとんどを大吟醸と同じ造りにして酒質を上げればよい、と考えました」

2020年4月に新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が発令され、以後、2021年9月に4回目が終了するまで、自粛ムード蔓延で蔵の直売所は閑古鳥が鳴いていたそうですが、大打撃の中でもなんとか持ちこたえられたのは、こうした受賞による展開の中で特約店が育っていたからだそうです。

「この1、2年はコロナ以前よりも好調で、今年は前年よりも取引先が3割も増えました。しかも、東北や九州など、うちのお酒が売られていなかった地域に進出できて、全国で売れる地酒にしたいという目標に近づきました。頑張っていろんな賞を獲得できたことも要因だと思っています」

自社田で育てた米で高評価を目指す

自社田

そんな小泉さんに、金賞を獲得する確率を高めるために必要なことを伺いました。

「米に高温障害が出る年が増えていることもあり、米の溶け具合を把握するのが最も重要です。12月に同じ山田錦で純米吟醸を先行して造ってみることと、酒母における米の溶け具合をじっくりと観察することが非常に参考になります。実際の造りでは醪の初期の10日間が勝負です。品温管理と水の調整を真面目に手を抜かずにやるのが勝敗のカギです。

最近は気持ち濃い目の酒の方が評価が高く、薄いと落ちます。ただ、フルーティーな香りのカプロン酸エチルの量が多い酒の場合、醪の段階では薄いほうがいいのですが、搾った酒が薄すぎると苦味を指摘されてアウトになります。その兼ね合いが難しいですね」

今年の鑑評会の発表で、金賞の連続記録ランキングは、栃木の辻善兵衛商店が12回、広島の金光酒造が11回、小泉酒造が10回となりました。今後の目標について小泉さんは、「ひとつの目標として10年連続がありましたので若干燃え尽きているところがある気がします。もう連続記録はいいかなという気持ちもありますが、落とすとショックなので、頑張っていこうと思います」と話しています。

小泉酒造としての“次の挑戦”は、自社田で育てた酒米を使った大吟醸で金賞を獲得することだそうです。

「酒蔵は地域の田んぼの保全や、環境を守るのに重要な役割を果たすべき存在だと思っており、父の代から自社田での酒米造りに力を入れています。その育てた米で造った日本酒が2024年にある鑑評会で高い評価をもらいました。全国新酒鑑評会の金賞のハードルは高いですが、挑むことを諦めないことが大切だと思っています」と静かな闘志をのぞかせていました。

酒蔵情報

小泉酒造
住所:千葉県富津市上後423-1
電話番号:0439-68-0100
創業:1793年
社長&杜氏:小泉文章
Webサイト:https://www.sommelier.co.jp/

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