2021.08
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「全国新酒鑑評会」とは?金賞ってすごいの?注目の日本酒コンテストを徹底解説!
毎年5月に開催され、たくさんの日本酒愛好家や飲食店・販売業者のあいだで注目されている「全国新酒鑑評会」。2021年は2年ぶりに決審が行われ、日本酒ファンや業界関係者の間でその結果が話題になっています。
明治時代からスタートしたお酒の出来栄えを競うコンテストで、その年に造られた新酒のなかで特に優れているとされたものに送られるのが「金賞」です。全国の酒蔵たちが蔵の威信をかけ、金賞受賞を目指して競います。
こちらの記事では、鑑評会がつくられた目的や、蔵元が金賞を目指す理由などについて解説します。100年以上続く全国新酒鑑評会の歴史をたどりながら学んでいきましょう。
全国新酒鑑評会の概要について
開催の目的
「全国新酒鑑評会」とは、お酒に関する国の研究機関である酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が、毎年5月に開催しているお酒のコンテストです。全国規模で開かれている新酒鑑評会で、酒造業界では最も信頼性のある鑑評会として有名です。 また全国新酒鑑評会とは異なりますが、各都道府県などに設立されている酒造組合でも、個別に鑑評会を行っています。
開催された目的としては、その年に新しく造られたお酒の品質について調査、研究を行い、酒造技術の現状や過程を明示し、品質の向上に貢献すること。さらには、国民の日本酒への認識を高めることを目指しています。
出品基準と審査方法
鑑評会に出品されるお酒は、清酒の製法品質表示基準に定められた吟醸酒の原酒であり、酸度が0.8以上のものと決められています。(酒類総合研究所・日本酒造組合中央会「全国新酒鑑評会 事務運営要領(平成31年2月1日改定)」)
なお、令和2酒造年度の全国新酒鑑評会の出品数は821点です。
審査は、審査委員会による官能評価によって行われます。審査委員会は、酒類総合研究所・国税庁・国税局や地方の公的な醸造指導機関の職員と、日本酒造組合中央会が推薦した製造者といった、日本酒造りや日本酒の評価の専門家によって構成されています。
審査内容は予審と決審で異なっており、下図の審査カードのように予審では香味の品質と総合評価を5段階で評価するとともに、特徴的な香味を記録します。
そして決審では総合評価のみを審査します。審査カードの下部に記載された審査基準のとおり、評価の対象は「香味の調和や特徴」、評価の観点は「吟醸酒の品格及び飲用特性」 となっており、「特に良好」「良好」「それ以外」の3段階で評価を行います。入賞に問題があると判断した場合には、理由を明記のうえ「入賞外」を選択することもできます。
予審により優秀だとされた新酒を入賞とし、その後の決審で特に優れているとされたものに授与されるのが金賞です。また、それとは別に出品者が提出した調査票の内容集計結果、出品酒の成分分析結果を公表しています。
日本酒コミュニティとの関わり
鑑評会後、毎年6月頃に開催される世界最大級の日本酒の祭典「日本酒フェア」や「公開きき酒会」では、入賞酒や全国のお酒を一度に味わうことができるため日本酒ファンが多く訪れます。(2020年・2021年は新型コロナウイルスの感染拡大によりオンラインイベントのみ開催。)
1911年にスタートしてから100年以上、開催形態や審査方法を変えながらも、金賞を目指して酒蔵が競い合うことにより酒造技術は向上し、現在の日本酒の世界が形作られてきました。
100年以上受け継がれてきた歴史とは
鑑評会が開催されるようになった明治時代には、政府により近代化が急速に進められていました。そのための財源確保として酒税が国税収入の一つの柱となり、酒造業が盛んに行われるようになります。
政府によって酒造業が奨励されたこともあり、全国に造り酒屋が急増し、当時はなんと10,000軒もの酒蔵が軒を連ねていました。現在、日本全国にある酒蔵の数は1,500軒以上(※1)です。 (※1)参考:国税庁「清酒製造業の概況(平成30年度調査分)」
お酒の消費量を増やすためには品質を向上させる必要があることから、1901(明治34)年には日本酒の研究をする機関として、国立醸造試験場が設立されました。その頃、各地での品評会も開かれるようになりました。
1907(明治40)年、日本の品評会の始まりとされる「清酒品評会」が日本醸造協会により行われます。1年おきで秋に開催され、戦後1950(昭和25)年まで続けられました。
そして1911(明治44)年に、国立醸造試験場による「全国鑑評会」が開催されました。これは現在の鑑評会のもととなったものです。産業推進のためというよりも、製造技術の習得と進歩を目的としていたため、毎年春に行われました。
その後、2000(平成12)酒造年度の鑑評会から、主催が醸造試験場から酒類総合研究所へと変わる(※2)とともに出品基準も変更されました。それまでは地方ごとに国税局が主催した鑑評会で予選が行われ、全国で約2,000社のうち約800社が鑑評会に出品していました。現在ではそのような予選などはなく、どの酒蔵でも酒造免許を持つ蔵(醸造所)1ヶ所につき1点のお酒を出品することができます。
(※2)現在は、酒類総合研究所と日本酒造組合中央会により開催される。
なぜ金賞を目指すのか
毎年、全国の酒蔵が持てる技術を尽くし金賞獲得目指して競います。では、なぜそこまでして金賞を目指すのでしょうか?
全国新酒鑑評会の金賞は日本酒業界で最も歴史が長いこともあり、権威のある賞として認められています。開催された年度にもよりますが、全出品酒のうち入賞するのは約半数、そして金賞に選ばれるのは3割未満です。金賞は受賞数自体が少なく、選考結果の信頼性も高いため、確かな品質とそれを実現する技術力を認められたとしてアピールすることができます。
また、審査結果は入賞有無に関わらず酒蔵にフィードバックされるので、自分たちで造った日本酒の客観的な評価を知ることができます。それにより大きな自信が生まれたり、課題が明らかになったりすることで、今後の酒造技術向上に向けてのモチベーションアップにもつながっていくことでしょう。
まとめ
毎年春に開催され、日本酒の出来栄えを競う「全国新酒鑑評会」について解説しました。明治時代から100年以上続いてきた歴史ある鑑評会は、日本で最も権威ある鑑評会として全国の日本酒愛好家たちから大変注目されています。
毎年、全国の酒造が威信をかけて競い、入賞したお酒のうち特に優れているものに金賞が授与されます。これまで日本酒の品質向上に対して大きく成果を上げ、現在の日本酒を支えてきたのはこの「全国新酒鑑評会」だといえるかもしれません。
参考文献:
後藤邦康「『全国新酒鑑評会』について」(日本醸造協会誌, 107巻3号, 2012)
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