なぜ山口の日本酒蔵は「西都の雫」を選ぶのか?山田錦に並ぶ酒米の特徴、歴史、系譜を解説!

2026.07

21

なぜ山口の日本酒蔵は「西都の雫」を選ぶのか?山田錦に並ぶ酒米の特徴、歴史、系譜を解説!

新井 勇貴  |  日本酒を学ぶ

本州最西端に位置する山口県が独自に育成した酒造好適米「西都の雫(さいとのしずく)」をご存知でしょうか。吟醸酒に適したこの品種は、現在の山口県の日本酒造りを語るうえで欠かせない存在です。

山口県内では山田錦の次に多く生産されている西都の雫。本記事では、この酒米がどのように誕生したのか、どんな特徴を持っているのか、その魅力と背景を解説します。

西都の雫の特徴

山口大学での西都の雫栽培風景(写真提供:山口大学)
山口大学での西都の雫栽培風景(写真提供:山口大学)

山口県農林総合技術センター(旧:山口県農業試験場)で交配・育成された西都の雫は、大粒で心白発現率が高い酒造好適米です。

千粒重は約25.4gと大粒種に属しており、中心部に山田錦と同じく線上の心白が発現する特徴を持っています。

心白とは、お米の中心にできる白く不透明な部分であり、心白があることで日本酒造りに必須となる米麹が作りやすいというメリットがあります。特に、西都の雫は心白が線上に現れるため、精米時に割れにくく、高精白にも対応しやすいとされています。大吟醸のような精米歩合を下げる日本酒造りにおいて、この特徴は大きな強みです。

さらに、タンパク質の含有率は山田錦と同レベル。タンパク質は旨味のもととなりますが、多すぎると雑味の原因となってしまいます。こうした特徴から、西都の雫で醸した日本酒は淡麗でスッキリとした酒質に仕上がりやすいとされています。

稲の長さは従来品種よりも短く改良されており、倒伏に対するリスクも軽減されています。収穫力は山田錦と同等、もしくはやや多め。西都の雫を使用した大吟醸は、全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、酒質でも山田錦に劣ることなく、品質と生産性を両立した実用性の高い酒米として山口県内で活躍しています。

西都の雫の歴史

西都の雫を用いた山口の日本酒(画像出典:山口県酒造組合ホームページ)
西都の雫を用いた山口の日本酒(画像出典:山口県酒造組合ホームページ)

西都の雫の育成は1997年(平成9年)にスタートしました。

当時、山口県では県産酒米の安定供給と品質向上が求められていました。それまで広く使用されていた「穀良都(こくりょうみやこ)」は優れた酒質につながる特徴を持っていましたが、稲の背が高く倒伏しやすいという課題を抱えていました。

こうした状況を背景に、山口県農林総合技術センターは短稈(たんかん)(※1)で安定性に優れた系統との交配を実施。2002年(平成14年)に配布が開始され、2004年(平成16年)に西都の雫と命名されました。

※1:稲の背が短いことを指す。

その後、2008年(平成20年)には品種登録を受けています。

名称は、山口市が「西の京」と呼ばれたことにちなんだ「西都」と、清らかでキレのある酒を連想させる「雫」を組み合わせたもの。地域性と酒質のイメージを重ね合わせた、美しいネーミングです。

西都の雫の系譜

下関にある西都の雫の圃場(写真提供:山口大学)
下関にある西都の雫の圃場(写真提供:山口大学)

西都の雫は、母本を山口県内で使用されてきた穀良都、父本を「西海222号」とした交配によって誕生しました。

穀良都は明治時代まで西日本で広く栽培されていた品種であり、山口県内でも西都の雫が誕生するまで重宝されてきました。しかし、前述したとおり稲の背が高いことから、栽培時の倒伏リスクが高いという課題を抱えていました。

一方、西海222号は山田錦を母本として育成された短稈系統であり、倒伏耐性や栽培の安定性に優れていました。

このように、それぞれの品種のメリットを融合して生まれたのが西都の雫です。なお、現時点(2026年2月)では西都の雫を親とする関連系統は公表されていません。

西都の雫の産地

棚田イメージ画像

西都の雫は山口県内限定で栽培されている品種です。

種もみの「他人への譲渡」「海外への持ち出し」についても種苗法に基づき制限されており、県のオリジナル品種としてブランド価値が守られています。

現在は山口県酒造組合から安定した供給力と品質が求められており、品質は確保されている一方、契約量が未達成の状況となっています。そのため、生産者部会による活動強化と栽培技術の普及が継続的に実施されています。

例えば、山口県下関市豊田地域では、部会活動の強化による生産力向上が推進されています。部会全体を対象とした穂肥(ほごえ)(※2)、収穫前研修会の実施や、生産目標未達部会員への重点指導など、積極的な活動をおこなっています。

※2:稲の収穫量と品質(食味・充実)を高めるため、出穂(しゅっすい)前(通常10〜25日前)に窒素を中心に施す追肥

また、山口県酒造組合の継続的な要望を受け、JAと酒造組合が直接訪問し、活動状況や情報を共有する取り組みも進められています。

2024年(令和6年)10月31日に確定した値によると、生産量は195トン。山口県内では山田錦の2,421トンに次ぐ第2位の規模となっています。

全国的な主力品種と比較すると、生産量は決して多いとは言えません。しかし、山口県内における存在感は大きく、県内の酒造りを支える重要な品種として重宝されているのです。

まとめ

本記事では、山口県のオリジナル酒米である西都の雫の特徴や歴史、系譜、産地について解説しました。

大粒で心白の発現が安定しており、山田錦と同等のタンパク質含有率、そして改良による倒伏耐性の高さを誇ります。こうした特性が重なり合い、淡麗でキレのある日本酒を多く生み出しているのです。

地域の伝統を受け継ぎながらも、大吟醸など現代の酒造りに対応する形を持つ西都の雫。山口県の風土を活かした日本酒を、ぜひ一度味わってみてください。

参考文献

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