白いもろみが、透明な日本酒になるまでの過程を追う! - 品質管理の重要工程、上槽以降を学ぶ

2021.09

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白いもろみが、透明な日本酒になるまでの過程を追う! - 品質管理の重要工程、上槽以降を学ぶ

戸部 雅弘(リンゴの魔術師)  |  日本酒を学ぶ

グラスに注ぐと、透明で綺麗な日本酒。クリアな見た目は万葉の時代から「清酒(すみさけ)」と呼ばれて高い価値を認められてきました。

水、そして米と米麹からできている日本酒は、できあがる前はお粥のような見た目をしています。しかし、私たちが飲むお酒はどうして透明になっているのでしょうか?ほんのり黄緑がかった色のあるお酒や、白く薄いにごりのある「おりがらみ」などのお酒もありますが、綺麗な透明の日本酒とはどう違うのでしょうか?

今回の記事では、日本酒の原料を仕込んだ「醪(もろみ)」から、透明なお酒が生まれるまでのプロセスを解説します。

まずは、搾る!

日本酒を造るには、原料を仕込んだ「醪(もろみ)」を搾る必要があります。まずはここが、透明なお酒になるまでの第一歩。

サラシなどでできた酒袋(さかぶくろ)に醪を詰めて雫を集める「袋吊り」、槽(ふね)のついた縦型の圧搾機(「佐瀬式」など)、アコーディオンのような横型圧搾機(「ヤブタ」)など、醪を搾るのにはさまざまな方法が使われています。

醪を搾る方法についてはこちら

どの方法でも、目的は醪を清酒と酒粕に分離することです。それぞれの方法が一長一短で、酒蔵の規模や目指す酒質に合ったものが選択されていますが、香味を活かす場合は袋吊り、作業効率が求められる場合は横型圧搾機、というのが王道です。

上の写真が、お酒が搾られて出てきたところです!最初は少し白く濁っていますが、しばらくすると黄金色のお酒が出てきます。

この段階では、透明に見えても集めてみると意外と固形分が混ざっています。ここに含まれている固形分とは、酒袋の目から漏れた未分解のデンプンやタンパク質、繊維質であったり、清酒酵母やその他の菌など。この時点では、麹菌は基本的に死滅していますが、麹菌が生み出した酵素は残っています。

これらが目に見える形で現れたものが「滓(おり)」と呼ばれるものです。「おりがらみ」といって、この「おり」が含まれたままの製品も販売されていますね。

おり自体にも味があるほか、おりに残っている酵母や酵素が発酵を続け、残っている糖を分解するなどの作用が起こることで、酒の香味が変わっていきます。この作用で変化する香味のうち、代表的なものは「ジアセチル」という香気成分がもたらす、発酵バターや古い油のようなにおいです。この成分は、おりをある程度絡ませた状態で置くことで減少することが知られています。

しかしここで生き残っていた酵母は、アルコールが高く、糖も限られている瓶内の環境では長生きはできません。やがて死滅した酵母からはアミノ酸が放出され、これによってまた味の変化が起きます。

この過程ではオフフレーバーが生まれるとされていますが、適切に管理された「生熟」と呼ばれる熟成酒は、熟成の妙によって米の旨味がさらに引き出されており、この味わいを特に好むファンもいます。

細かな成分も取り除く、滓引き(おりびき)!

さて、おりがらみのまま時間がたった場合の話をしてしまいましたが、今回は透明な清酒にしたいので滓引き作業に移ります。清酒を搾って数日たつと、おりが下に沈みます。このとき、上澄みだけを取り出すことで、おりのないお酒が集められますね。ポンプやサイフォンを使って別のタンクにそっと移動することで、元のタンクにおりを残します。 2000リットルの酒から取れるおり部分は、18リットル程度。後日、同様の作業をさらにもう一度行ってから、瓶詰め工程に移ります。

タンクの底面をよく見ると、中央が丘状に盛り上がっています。これは「坊主」と呼ばれる構造で、おりが沈んだときに下部(「山下」と呼ばれる)にたまりやすい形です。タンクには上下2箇所の出し口(「吞み口(のみくち)」と呼ばれる)が付いていることが多いです。この場合、上の口(上呑)から酒を取り出すことで手軽に滓引き移動ができます。

瓶に少し入ると細雪のように綺麗なおりですが、タンクに残って集まったものは吸光して灰色に見えます。この部分も斗瓶に貯めておき、冷蔵庫へ。後日、ここからも沈殿部分と上澄みを取り分けます。できる限りおり部分を集めて、無駄なく清酒を回収します。(このおり部分だけを集めた商品が販売されていることもあります。)

異物だけでなく品質変化を起こす成分も取り除く、濾過!

滓引きの工程で、ほとんどのおりは取り除きましたが、まだ少し残っているものもあります。おり自体も軽いため、酒を取り出す際に引っ張られてしまったり、浮遊しやすい成分が残ってしまったりするのです。これらを取り除くには、どのような方法があるでしょうか。

フィルターを使った濾過

まずは、ガーゼなどの布で取る方法です。すでに酒袋の布目を一回通っているため、細かい成分を取り除くことはできませんが、小さな異物が入っている場合などの最終防壁としては活躍してくれます。

もっと細かなものを取りたい場合は「メンブランフィルター」を使います。不織布と特殊濾紙でできたフィルターで、細かなおりとゴミを取ることができます。 孔径は1μm(1000分の1mm)以下と細かいため、デンプン粒だけではなく、菌の中でも大きめな清酒酵母(2~10μm程度)も除去できます。

さらに細かい成分まで取り除きたい場合は、「SFフィルター」が有効です。中空糸と呼ばれるストロー状のフィルターで出来たチューブが、素麺のように束ねられてハウジングという容器に入っています。ストローの外側から酒が入ってくることで、透明な酒が染み出してくるという仕組みです。

孔径は0.4μmなど細かいものもあり、これで酵母やタンパク粒のほか、火落ちの原因となる乳酸菌群も除去できます。孔径が小さいため、目詰まりを起こしてしまわないよう、事前に滓引きや粗めのフィルターでの濾過をしておくことは必須です。微細な成分まで取り除くことで味もクリアになるため、導入する酒蔵も増えています。

活性炭を使った濾過

さて、これまでフィルターを使った濾過をしてきましたが、この方法で取れるのは固形物のみです。さらに余分な色や香りも除去したい、という場合に活躍するのが「活性炭濾過」です。

「活性炭」という、水蒸気などで加熱することで、微細な穴がたくさんできた炭を使います。原料になっているのは、吸着力を増す加工などを施したオガクズやヤシガラなどです。

活性炭濾過は、特に色の除去に効果的です。清酒の着色原因は主に5つで、(1)原料由来の色(フラビン類)、(2)鉄による色(フェリクリシン)、(3)貯蔵中に増加する色(メラノイジン)、(4)日光によるもの、(5)銅によるもの、があります。このうちフェリクリシン以外は、少ない量の活性炭でも吸着除去できますし、その他の着色の原因となる物質も吸着してくれます。

お酒によって除去したい色や香りは異なるので、炭の量や種類を変えて予備試験を行い、きき酒をした上で決めるのが一般的です。濾過をしたい成分に合わせて、珪藻土やセルロースなどでできた「濾過助剤」を組み合わせて作業を行うこともあります。

活性炭は多く入れるほど良いというものではなく、ある程度以上では効果が薄れていきます。また、香味を取り除きすぎてしまったり、炭そのものの香りがついてしまっても良くありません。

(※)醸造用資材規格協議会編『日本酒用資材Q&A』(日本醸造協会, 1999)を参考に作成

炭濾過を行うタイミングはいくつかありますが、火入れ貯蔵する際、貯蔵タンクに直接活性炭を入れて、ろ過器を通す際に回収する(ハリツケ法)のが方法の一つです。滓引き・濾過を行った後、ハリツケをしながら火入れして貯蔵(上図のa~e)し、熟成期間を経てタンクからポンプで酒を送り、濾過器を通した後貯蔵タンクに送られ瓶詰の時に再火入れを行うのが慣例です(二回火入れの場合。上図のf~j)。

生酒状態で瓶詰時のみ火入れを行う場合もあります。この際に滓などが絡んだりするリスクを減らすためには、SFフィルターなどを通すのが有効です。

かつて伊丹の酒蔵をクビになった使用人が、腹いせに貯蔵していたお酒に火鉢の灰を入れて帰ってしまい、後日これがクセがなく美味しいお酒になっていたことが、炭を使った濾過の起源という逸話(『摂陽落穂集』)もありますね。一方、灰を使用して雑味や雑菌を減らす法は奈良時代に発案されていたのではないかという説もあります。実際のところはどうなんでしょうね。

その他、貯蔵後・瓶詰後の工程

濾過や火入れを行った酒はタンクに移し、瓶詰めを待ちます。澄んだ酒になって出荷を待つだけなのですが、火入れをおこなった酒でも熟成が進みます。しかしこのとき、また滓が出てくる場合があるのです。

これは白ボケ・たんぱく混濁と呼ばれる現象で、酒に含まれる酵素 (麹由来の糖化酵素が主)が熱変成して見える形になったものと言われています。ぼんやりと濁った酒になりますが、火落ちなどの微生物汚染とは異なり、燗酒にすると消えます。これらは製麴時間を長くとり、旨味の強い酒質を目指した場合に多く見られますが、詳しいメカニズムについては解明されていません。

このときに滓下げ剤を使用します。柿渋のタンニンを使い、滓を凝集させ、ゼラチンや珪藻土を含ませて沈降させる方法がよく知られています。沈降されたものは滓引きの要領で分けられますので、透明な清酒が取得できます。味はほとんど変わりません。しかしながら一度瓶からタンクに空け替える必要や再火入する必要があるなど手間は多いです。

このような清酒へのダメージを考慮し、滓下げしないでそのまま出荷する場合もあります。見た目は良くありませんが、これこそが熟成の指標だと説明する酒販店さんもいますので、気になるようでしたら是非尋ねてみましょう。先述の通り燗酒にすると消えます。

異物混入の最後の防波堤、検酒!

清酒に異物が混入しないようにするには、「検酒」が最後の砦です。

「倒立検酒」といって、瓶詰めしたお酒をひっくり返し、光に透かして見る方法が推奨されています。こうすると、液体の中に気泡が混ざるのが見えますが、これとは別の動きをする物が潜んでいます。浮くような繊維辺や、光を反射するガラスの切片、沈殿する滓状のもの……たとえ小さな物でも見逃さず、ラインを通過するほんの数秒で判断します。

ちなみに上の写真は、ゴミが混ざってしまったお酒の例でした。見えましたか?

人間の目は意外と鋭く、慣れるとすぐに分かります。さらに確実な方法としては、センサー付きの検査システムが導入されることもあります。

忘れてはいけない、酒粕の品質管理!

この記事のはじめに、醪に入った異物をまずは酒袋で取り除きましたが、このとき異物と一緒に取り除いた醪の固体部分も、酒粕として商品にすることになります。つまり、そのままでは酒粕に異物が含まれてしまう可能性があるため、それを検査し、取り除く作業が必要になります。酒蔵で最も気をつかうのは、実は酒粕の製造工程とも言えるでしょう。

酒粕も消費者が直接口にするものなので、食品衛生法の安全基準を満たしていなければなりません。1000kgの原料で仕込んだ醪からは、一般的な割合で酒粕が300kg、つまり300g詰めの商品が1000個分できます。このなかに、髪の毛一本でも入っていたら大変なことです。専用のクリーンルームで光を透過させ目視で検査し、麹の褐変粒や櫂棒などに由来する木片、麹室などで使う布類の繊維辺などを取り除きます。

では、もっと大きな仕込みの場合はどうでしょう。粕の量もとんでもなく多くなります。この場合、異物検査・除去が自動化されている酒蔵もあり、色彩選別機やマグネットでの金属検査を組み込んだ設備が使われているようです。スーパーなどで並ぶ酒粕も、日々の検査を受けているのですね。

まとめ

清酒が清酒であるためには、搾ってからも意外とたくさんの工程があります。これは、「異物混入防止」という食品・飲料として守るべき基準のためでもあります。さらに、清酒に求められる貯蔵性を上げ、搾った日よりずっと先にも飲まれるシーンを想定したものでもあるのです。

一方、近年注目をあびている無濾過生原酒も、製造や流通の過程で、酒蔵・物流会社・酒販店の力をフル活用し、消費者に届けられる現代の技術の粋と言えるでしょう。酒屋さんに出かけてオススメを聞けば、保管方法や飲み方にあわせてピッタリのお酒を紹介してくれるはずです。ぜひ、さまざまな工程を経てできあがったお酒を楽しんでみてください。

次回の記事(無濾過生と濾過火入れのお酒、それぞれに造り手が込める思い)はこちら

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