2020.06
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「酒のせい」にしない! - 悪酔いしないための日本酒の飲み方を学ぶ
日本酒について、このような話を聞くことはありませんか?
「日本酒は悪酔いしやすい」
「アルコール添加の日本酒は悪酔いしやすい。」
このように言われることはありますが、根拠を示しているケースはあまりありません。そこで酒造会社や研究機関が公開している情報をもとに、この俗説について考察していきたいと思います。またこれに関連して「お酒に酔う」とはどういうことかについても再確認しながら、理解を深めていきましょう。
「酔う」とは?
お酒を飲んで酔うといいますが、この現象を正しく捉えておくことも重要です。実際に自分の身体の中で起こっていることを理解することが、酔い対策の第一歩になります。
まずは、お酒を飲んでから酔いが醒めるまでの流れを見てみましょう。
お酒を飲むと、まずアルコール分の約20%が先に胃から吸収されます。その後残りの80%のアルコールは、血液と共に体内へ拡散され肝臓へ。最終的に分解されなかったアルコールは体内を循環し、肝臓で分解され体外に排出されます。
肝臓に運ばれたアルコールは9割が分解され、アセトアルデヒドに。そしてアセトアルデヒドを酢酸に分解することで、最終的に人体に無害な状態になります。
このとき、分解しきれなかったアルコールとアセトアルデヒドは血液中に含まれて体内を巡ります。体内を巡るアルコールは脳のマヒを引き起こし、アセトアルデヒドは動悸や吐き気、頭痛を引き起こします。これらのアルコールとアセトアルデヒドによる体への作用が「酔う」と呼ばれるものです。
さらに、この「酔い」はアルコールによって引き起こされる脳のマヒの状態によって、6つの段階に分けられています。
このように、科学的には飲酒量に応じて酔いの段階が変わってきます。上記のうち3.酩酊初期〜4.酩酊期以降になると、「悪酔い」と呼ばれる段階に入ると言えるでしょう。あくまでお酒は適量を守って飲むこと。まずはこれが楽しく健康に飲むために必要なことです。
なぜ「悪酔い」してしまうのか?
先ほど見たアルコールを分解するプロセスのなかで、アセトアルデヒドを分解する反応を促すのが、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2型)という酵素でした。この酵素は人によって種類が異っており、以下3種類があります。
- 活性型
- 低活性型
- 非活性型
活性型はアセトアルデヒドの分解能力を持ち、低活性型は活性型に比べて分解速度が遅くなります。非活性型はそもそも分解の能力がないため、注意が必要です。活性型にも速度の早いものと遅いものがありますが、それらの違いが酔いの個人差となって現れます。よく「酒に強い」「酒に弱い」と言われるのは、このALDH2活性の差によるものが大きいです。日本人はモンゴロイドという黄色人種であり、アセトアルデヒドの分解速度の遅い、もしくは分解能力のないALDH2を持っている割合が多い人種です。
参考: 生物物理化学 41巻3号「アルコール代謝の遺伝的個人差」原田 勝二(1997)
先ほど、酔いの各段階に応じた目安としての飲酒量を引用しましたが、ALDH2の活性度、そして体格やその日の体調などによってもアセトアルデヒドの分解能力と酔いやすさは異なります。日本人の場合、悪酔いしやすい体質の人が多い傾向にあるため、お酒の摂取スピードや量に関しては注意して楽しむ心がけが必要です。
アルコール摂取の適正量をチェック
ではどれほどの量を目安としてお酒を楽しめばよいのでしょうか。体重60kgで平均的なお酒の強さを持つ日本人が3〜4時間に分解できるアルコールの量は20g程度と言われており、この量は「お酒の1単位」と呼ばれています。
日本酒を飲む際にも、実際にはビールや焼酎など他のお酒も一緒に飲むことが多いでしょう。その際には、この単位を目安に飲酒量を把握しておきましょう。お酒の1単位はアルコール15度の日本酒では約1合にあたり、酔いの段階のうちではほろ酔い期の目安量と一致します。この量を目安に、自分がどこまでお酒を飲めるのか、一度記録をつけたりしながら把握してみましょう。
酒類 | アルコール度数 | 1単位の量 | 量の目安 |
---|---|---|---|
日本酒 | 15度 | 180ml | 1合 |
ビール | 5度 | 500ml | 中瓶1本 |
焼酎 | 25度 | 110ml | ロックグラス1杯 |
ウイスキー | 43度 | 60ml | ダブル1杯 |
ワイン | 14度 | 180ml | ワイングラス 1.5杯 |
缶チューハイ | 5度 | 500ml | ロング缶1本 |
※アルコール健康医学協会ウェブサイト(http://www.arukenkyo.or.jp/health/base/index.html)を元に作成
これまで見たように、酒類の違いはあっても、アルコールの量次第で酔いの深さが変わってきます。日本酒だから悪酔いしやすいのではなく、単に飲み過ぎが原因で悪酔いをすることに変わりはないのです。しかしここで注意してほしいのが、日本酒はアルコール度数が比較的高いお酒であること。ここで学んだお酒の1単位を参考に、飲む量には十分気をつけましょう。
また、アルコール添加の日本酒が酔いやすいという噂もあります。アルコール添加の日本酒は、純度の高い醸造アルコールを日本酒を搾る前のもろみに加えたもの。酒質の安定化や香りを引き立たせるといった効果があるため、この製法は古くから使用されています。しかし過去の記事でも紹介した通りアルコール添加についても悪酔いに関する科学的根拠はありません。
ただし、一般にアルコール添加のお酒は純米のお酒より度数が高い傾向があります。たとえば、アルコール度数20度のお酒であれば0.7合で1単位相当のアルコール量になります。アルコール添加のお酒に限らず、原酒タイプのものも度数が高いことが多いので、度数もチェックしながら適宜、飲む量を調整するようにしましょう。
飲み過ぎを防ぐ「和らぎ水」のすすめ
日本酒が悪酔いを引き起こすのではなく、飲酒量を把握することが重要であることは理解できたと思いますが、それでも飲み過ぎには注意が必要です。日本酒は度数が高い割に、爽やかな香りと飲みやすい味わいのものも多いため、ついつい飲み過ぎてしまうことがあります。
ここで試してほしいのが和らぎ水です。お酒を飲む合間に水を飲むことで、お酒の摂取スピードを下げることができるのです。それに加えてアルコールの利尿作用による脱水症状を避ける効果もあります。さらに、先ほど見た通りアルコールは、面積の大きい小腸でその8割が吸収されており、胃から吸収されるのは2割だけでした。水を飲むことで、アルコールの吸収が緩やかな胃の中にお酒を留めておくことができ、酔いにくくなるという効果もあります。
日本酒の場合、その時に飲むお酒と同量〜1.5倍以上の水を飲むようにすると、酔いが回りにくく、悪酔いもしにくくなるでしょう。水以外にも緑茶などを飲むことでもこの効果を得ることができます。
おつまみの選び方
ここでおつまみの選び方について触れていきます。おつまみはお酒と酔いにおいて、重要な立ち位置にあるものです。楽しい時間を過ごすために、味わいと酔い防止の2つの面で私たちを助けてくれます。
先ほど和らぎ水のところでも見た通り、胃の中に食べ物が入っていると、アルコールの吸収が緩やかな胃の中にお酒も長い時間留まる傾向にあり、小腸から速やかに吸収される量を抑えてくれます。良く、「空きっ腹でお酒を飲むと良いやすい」と言われるのはこのためです。
なかでも酔いに対して有効なのは、揚げ物などの油を含んだおつまみが有効だといわれています。酔いの進行を遅らせるためには、胃からアルコールの吸収を抑制しなければなりません。油分は胃での吸収時間が長く、お酒と同時に摂取することで吸収を遅らせる効果があります。
参考:二日酔い・悪酔い防止には つまみの「食べ順」大事(日経Good Day +30)
また近年の研究では柿に悪酔いを抑える効果があるという結果も出ています。まだあまり浸透してはいませんが、油分を控えたい場合は柿を取り入れてみるのも手段の1つでしょう。
サプリメント等の活用
酔いを抑えるものとして使用されている人も多いサプリメント類。何が効いているのかよくわからないまま飲んでいる人もいることでしょう。そこでアルコールの分解をおこなう、肝臓の働きを助ける成分に絞ってサプリメントの例もご紹介します。
市販されているサプリメント等には、肝機能を高める成分が入ったものが多数並んでいます。酔いにはアルコールとアセトアルデヒドの分解が大きく関係しているため、分解をよりスムーズにおこなえる成分が入っているものを選ぶとよいでしょう。
主な成分としては
・ウコンなどの生薬を基にしたもの
・レバーに消化酵素を加えて加水分解し、アミノ酸やペプチドの形にした肝臓水解物
・アルコールの分解に使われるADH,ALDH2と同様の酵素を含む酢酸菌酵素
などがあります。
参考:ウコンの力(ハウスウェルネスフーズ株式会社ウェブサイト)
参考:「肝臓水解物」ってなに?(ゼリア新薬株式会社ウェブサイト)
参考:キユーピーと酢酸菌(キユーピー株式会社ウェブサイト)
これらの成分により、肝臓や胃の状態を整えておくことも酔い対策の役に立つでしょう。店頭で薬剤師や登録販売者に相談しつつ、自分に合ったものを選んでみましょう。繰り返しになりますが、サプリメントがあるからといって飲み過ぎないことが重要です。
まとめ
「日本酒の悪酔い」には根拠が乏しく、それよりも注目すべきは飲み過ぎを避けなければならないということです。この記事を読んでいる方は、少なからず日本酒に興味がある人だと思います。お酒を楽しむ際は油分を含んだおつまみや和らぎ水を取り入れて、「適切な」ペースでの飲酒を堪能してください。サプリメント等によるサポートも有効な場合がありますので、薬剤師など専門家のアドバイスも聞きながら使用してみるとよいでしょう。
この記事が根拠のない俗説を信じ込まずに、好きなお酒を楽しみ続けられるきっかけとなれば幸いです。
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