そのお酒の別の表情、見てみませんか? - 燗酒の基本的なつくり方を学ぶ

2020.06

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そのお酒の別の表情、見てみませんか? - 燗酒の基本的なつくり方を学ぶ

二戸 浩平  |  日本酒を学ぶ

日本酒を温めて飲む「燗酒」は、他の種類のお酒にはほとんど見られない日本酒ならではの楽しみ方です。温度や温め方を工夫することで、同じお酒でも冷酒で飲むときとはガラリと味わいが変わります。先日の記事でも、日本酒の味わいを変えるのに有効な方法の一つがお燗であることをご紹介しましたが実際に家でやるには何を用意したら良いのか、どうやってやったら良いのか分からないという方もいらっしゃるかと思います。

そこで今回の記事では、最も手軽な電子レンジを使ったお燗のつけ方も含めて、家庭でのお燗のつけ方をご紹介します。美味しくお燗をつけるためのテクニックは本当に様々なものがあるのですが、今回は基本編ということで手軽に試せる方法を学んでみましょう。

電子レンジを使う

用意する道具も少なく済み、かかる時間も短いのが電子レンジを使う方法です。温め時間が30秒〜1分30秒程度で済むのが最大のメリットです。デメリットとしては、適温のコントロールが難しいことと、メリットの裏返しですが短時間で温まりすぎてしまうことがあります。

なぜ短時間で温まることがデメリットになるの?と思われるかもしれません。お燗をするとき、ある程度時間をかけてゆっくりと温めた方が、なめらかで整った味わいになります。反対に、短時間で温めすぎると少しまとまりがなくゴツゴツした感じを受けやすくなります。

とはいえ、適温のコントロールさえできれば家庭で普通に楽しむには十分ということも多いので、気になる場合には後でご紹介する湯煎の方法を試してみる、というぐらいでも良いでしょう。

用意する道具

・電子レンジ
・容器(片口や徳利、湯呑み)
・割り箸
・サランラップ等のラッピングフィルム

容器は、陶器製の片口などがあれば良いですが、徳利や、少し注ぎにくくなりますが湯呑みでも構いません。徳利の場合には温度ムラが発生することを防ぐため、首の部分までお酒を入れないことがコツです。

割り箸は、温める前に容器に挿しておくことで電子レンジでお燗をする際に発生しがちな温度ムラを和らげる効果があります。電子レンジに入れることができる材質の箸やマドラーであれば割り箸でなくても大丈夫です。

ラッピングフィルムは、容器にふんわり被せておくことで香りが逃げにくくなります。香りを少し落としたい場合は、つけなくても良いでしょう。

時間と温度の関係

温め時間と、仕上がり温度の関係は以下の表のようになります。適温はお酒の味わいや好みによって異なりますので、こちらを参考に美味しく感じられる温度を探してみましょう。短時間で手軽に温められるので、好みの温度を探しやすいのも電子レンジを使うメリットです。

条件30秒40秒50秒60秒70秒80秒
夏季常温(25度/600W)38℃43℃48℃53℃58℃63℃
冷蔵庫取出し後(10度/600W)-30℃36℃43℃49℃56℃

※電子レンジの機種によって温度差が生じる可能性があります。
※電子レンジの温め終了後、すぐに取り出して5秒程度かき混ぜた後の温度(3回の平均値)を計測しています。
※冬季の常温や、冷蔵庫温度がさらに低い場合は、上記から調整して下さい。
※500Wの場合の加温時間は調査中です。完了次第、記事に反映します。

湯煎する

電子レンジと違い、ゆっくりと温めることで燗酒の醍醐味であるまろやかで落ち着いた味をしっかり感じることができるのが湯煎のメリットです。時間は、お湯を沸かす時間も含めると5〜10分程度かかりますが、こちらも家にある道具ばかりで簡単につけることができます。

用意する道具

・鍋
・容器(ちろりまたは徳利)
・温度計

鍋は、家にある普通のもので大丈夫です。

容器は、金属製のちろり、または陶器製の徳利があるとよいでしょう。電子レンジの場合と同様に、片口や湯呑みも使えないことはないですが、背が低く掴みにくいため、鍋から取り出すのが少し大変です。

ちろりと徳利の違いには、主に温度上昇の速さがあります。湯煎の方法であれば、電子レンジのような味のまとまりのなさは感じにくいですが、徳利の場合はちろりよりも時間をかけてゆっくりと温まるため、よりなめらかで落ち着いた味わいになります。

ちろりはアルミ製、錫製、銅製がありますが、安価で手軽に買えるのはアルミ製のものです。錫製、銅製のものは燗酒の味わいを高めてくれる効果がありますが、少し高価なのでどうしても欲しくなったら導入すれば良いと思います。時間をかけ過ぎずにお燗をつけたい場合や、冷たい状態・常温の状態のお酒のニュアンスを少し残してお燗をつけたい場合は、徳利よりもちろりを使うのがよいでしょう。 (錫製や銅製のものは、アルミ製のものに比べ重いため、お酒の量が少なくても浮き上がりにくいというメリットもあります。)

温度計は、専用のものも販売されていますが、10〜70度ぐらいの温度が計測できれば十分なので、料理用等に使われる一般的なもので構いません。

手順

  1. 鍋に、容器のうちお酒が入っている部分が浸かる程度に水を入れます
  2. 鍋を火にかけ沸騰する前に火を止めます。70度〜80度ぐらいの温度が良いでしょう。沸騰してしまった場合は、冷水を加えるか、少し時間をおいて冷まします。
  3. 鍋に容器を入れ、温度計を挿し、温度を測りながら温めます。適宜、温度計やマドラーを使ってかき混ぜると均一に温度を上げられます。

その他の湯煎方法

お湯を沸かすことができればいいので、電気ケトルや電気ポットなどを使うこともできます。鍋を使うよりは、こちらの方が手軽かもしれませんね。

ちなみに飲食店では、「かんすけ」という専用の道具が使われていることが多いです。これは電熱を使ってお湯を一定の温度に保ってくれるもので、湯煎の温度が上がり過ぎてしまうのを防ぐことができます。

かんすけは高価で大きさもあるので家庭では購入しづらいですが、低温調理器を使えば、このかんすけと同じ状態を作ることができます。ホームパーティなど、いろいろなお酒を1日に何度もお燗をつけるような場合にはあると便利ですね。もちろん、お燗をしない日には料理に使うこともできます。

また、かんすけには「卓上ミニかんすけ」という、電熱を用いず保温効果のある容器にお湯を注いで使うことができるものもあります。

まとめ

今回は、家庭で手軽に試してみるという観点で燗酒の基本的な知識をご紹介しました。今回は電源が必要な方法をいくつかご紹介しましたが、お花見の際などに屋外で燗酒をしたい!という場合は火器の使用が禁止されていることも多く、電源も確保できないため低温調理器なども使えない・・・ということもあると思います。そんな場合には、アウトドア用の大容量ポータブル電源を使う燗酒フリークの方もいらっしゃるようです。

手軽に試すこともできますが奥深い燗酒の世界。こだわりのある飲食店には、「お燗番」と呼ばれる燗酒職人さんがいるところもあります。燗酒の美味しさに気がついたら、プロの技を体験しに行ってみるのも良いでしょう。ますます燗酒の魅力に引き摺り込まれて、自分でもさらに美味しくつける技を身につけたくなるかもしれません。

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