「正月挟んで200連勤」「有給とるとボーナス減る」蔵人アンケート結果を公開 - 美味しい日本酒の裏側 酒蔵の労働環境問題(1)

2022.06

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「正月挟んで200連勤」「有給とるとボーナス減る」蔵人アンケート結果を公開 - 美味しい日本酒の裏側 酒蔵の労働環境問題(1)

木村 咲貴  |  SAKE業界の新潮流

世界中から注目を集めつつある日本酒。技術は向上し、多様化が進み、メディアでも日々、革新的な取り組みやユニークな商品が取り上げられています。

一方、そんな業界が抱える課題のひとつに、働き手である蔵人たちの労働環境があります。多忙かつ重労働も多い酒造りの現場で、労働基準法のルールに則らない過酷な状況に悩まされている蔵人は少なくありません。

SAKE Streetでは、こうした日本酒業界の労働環境を改善するきっかけを作るため、連載「美味しい日本酒の裏側 酒蔵の労働環境問題」をスタート。現状を知り、具体的な改善案を考え、実際の解決へつなげることを目指します。

第1弾では、全国の蔵人を対象に、インターネットでアンケートを実施。第2弾では、実際に酒蔵で就労経験のある現役/元蔵人4名で座談会をおこない、現場の視点からどのような問題があるのかを抽出します。

第3〜4弾は、具体的な解決策を提案。近年増えつつある“ホワイト酒蔵”にインタビューし改善事例をご紹介するほか、社会保険労務士にお話を聞き、法律的・実践的な情報を提供します。

今回の記事では、全国29県59名の蔵人から回答いただいたアンケート結果から、日本酒業界の労働環境の現状を分析します。

長すぎる労働時間:9割近くの人が「繁忙期は週1日も休めない」

第一の課題は、労働時間の長さ。

微生物を扱う酒造りは、人間の思い通りにコントロールしきれない部分も多く、長時間つきっきりで麹やもろみの管理に務めなければならないこともしばしば。冬季醸造の酒蔵の場合、夏に仕事がない分、冬から春の繁忙期に詰め込み気味で仕事をするところがほとんどです。

アンケートの結果を見ると、繁忙期には55.9%が1日あたり9.5時間以上、うち25.4%が12時間以上の労働にあたっています。(労働基準法第32条では、1週間あたり40時間を超える労働ならびに1日あたり8時間は原則として禁止。残業時間は1ヶ月あたり45時間以内、1年あたり360時間以内と定められています。)

また、休日に関しては、繁忙期には週1日以下の人が88.1%。うち52.5%と半数以上が「週に1日も休めない」と回答しました。(労働基準法第35条では、毎週少なくとも1回、または4週間を通じ4日以上の休日を与える必要があります。)

【回答者コメント】

  • 「繁忙期は8時〜25時まで重労働が続きます。最長42連勤でした」
  • 「秋から100連勤して、正月3日間だけ休んで4月終わりまで100連勤超をこなしたことがあります」
  • 「労働基準法では、8時間以上の労働に対し1時間の休憩を取ることが義務付けられていますが、それもきちんと取れないことが多い」
  • 「上の人が常に働いているので、下の立場の自分は何かしてないと怖いから、昼食以外は休めません」
  • 「休みのない労働が続き、『残りの日数をやりきるためにも一日だけでも休みたい』と申し出たところ、『なんで?』と聞かれた時に絶望しました。入った当初は週1、希望があれば週2は休めると言っていたのに……」

このように、日本酒造りの現場では、深刻なまでの長時間労働、連続勤務が問題となっています。

給与が見合わない:労働時間が長くなるほど月収が安い?

こうして労働時間が長いにもかかわらず、給料が安いという問題もあります。(労働基準法第37条では、時間外労働には25%〜50%の割増賃金の支払いが義務付けられており、休日と深夜の労働にはさらに割増が必要です。)

アンケートの質問文に明記できていなかったため、額面給与と手取り金額が混在してしまっていますが、雇用期間の月あたり平均における最低金額は一般蔵人の13万円、最高金額は役職者(杜氏/製造責任者、頭/リーダー)の65万円。回答者の66.1%を占める一般蔵人の給与の中央値は22.5万円でした。

また、繁忙期の就労時間と給与の関係性を下図のようにグラフ化してみました。色が薄いほど労働時間が短く、黒に近いほど長くなりますが、給与が低い(グラフ左)層ほどむしろ労働時間が長いことがわかります。

【回答者コメント】

  • 「10年目の蔵人の給料が入社時と変わっていません」
  • 「社員がサービスで休日出勤をしていても見て見ぬふりで、代休も取らせない」
  • 「タイムカードの機械があるのに、勤務時間を誤魔化すために手書きさせています」
  • 「有給休暇を取ったらボーナスが下がる」
  • 「深夜手当が一晩2000円しかもらえない」

そのほか、「早めに出勤したり、残業したりしても時間外労働手当が出ない」「1時間以内の残業はカウントされない」など、時間外労働に対する支払いが十分になされていないというコメントも散見されました。

安全性におけるリスクが高い:労災保険に加入、しかし実態は……

力仕事が多く、歴史ある建物の老朽化が懸念される酒造りの現場。不安定な足場で重いものを運ぶ、高所での作業、醸造機器やフォークリフトなど大きな機械の操作など、危険と隣り合わせの労働環境です。

アンケートでは、なんと9割以上が「怪我の危険を感じることがある」と回答。さらに、6割以上が「命の危険を感じることがある」と答えました。

健康保険・労災保険については、いずれも9割以上が「職場で加入している」という回答でした。ところが、コメントを読むと、労災保険への加入は形式的なものになってしまっている企業もあるようです。

【回答者コメント】

  • 「労災に加入と回答しましたが、実際は適用されない仕組みです」
  • 「先輩は機械による怪我、後輩は作業中の火傷がありました。会社から治療費の負担はあったようですが、いずれも病院を受診する際に、『職場で怪我をした』と言わないように会社から指示されていました」
  • 「休みがほとんどなく、充分な疲労回復ができないまま、現場作業を続けることに危険を感じます」
  • 「骨折が繁忙期だったので、怪我した翌日から造りに参加しました」

危険な労働環境への十分な改善・補修が行われないだけでなく、いざというときの補償がされないのは労働者としては不安が大きいことでしょう。

「ブラック」だと感じる要因はさまざま

勤務先の「ブラック度」を5段階評価してもらったところ、「ややブラック」が30.5%でトップ。「ブラック」は16.9%という回答になりました。

この回答を役職別に分けたところ、一般蔵人は「ブラック」と感じている人が最も多く、「ややブラック」も合わせると50%以上の人が労働環境に不満を感じていることがわかります。

また、このアンケートを職場の人数と比較したところ、人数が少ない職場ほど、職場を「ブラック」と感じている人が多いことがわかりました。

一方で、人数が少ない=労働時間が長い=ブラックという仮説に基づき、繁忙期の労働時間と従業員数を比較してみたところ、必ずしも「人数が少ない=労働時間が長い」とは言えませんでした。

では、酒蔵で働く人々は、どのようなときに「ブラックだな」と感じているのでしょうか?

タイプ①経営者・管理職の人間性

  • 「経営者が会社を私物化し、経費を使いすぎます」
  • 「従業員は社員ではなく、奉公人といった感覚でした。蔵と、瓶詰め工場、営業、事務所の連携がまったく取れておらず、殺伐としていました」
  • 「パワハラやセクハラに該当する言動が見られる。『女子社員は要らないのではないか』と言われたことがあります」
  • 「経営陣が、消費者をあざむいて、ラベルとは異なる中身のお酒を販売しようとしたときはショックでした」

タイプ②金銭面での問題

  • 「社員の同意を得ていないのに、何度も給料改定がおこなわれました」
  • 「面接の時に聞いていた給料と違った」
  • 「実際に払った給料より多く払ったように税務申告する。そのせいで住民税が上がる」
  • 「自費で出張に行かされる。しかも、出張の日は休日扱い」
  • 「早退したら給料は一日分カットされる」

タイプ③過労に関する問題

  • 「私の代わりをできる人がいないため、休めません」
  • 「インフルエンザでも出社命令が出ました」
  • 「あまりの疲労で従業員を追加してほしいと話したら、蔵元から『人員を追加するなら、お前の給料から減らす』と言われました」

こうした回答と先ほどの数字から考察すると、人数が少ないために「逃げ場がない」「制度が整いづらく、従業員も増えにくい」「休むと大きな影響が出る」といった要素が、ブラック感を生んでいるのかもしれません

アンケート所感:「回答しなかった」人たちを考える

今回のアンケートでは、日本酒の酒蔵における労働環境に、①労働時間, ②給与, ③安全性, ④経営者・管理職の人間性といった問題点があることがわかりました。本特集ではこの結果をもとに、「ホワイト」と呼ばれる酒蔵の調査や、社会保険労務士へのインタビューを通して、改善案を提案していく予定です。

また、編集部としての反省点は、アンケート回答者が目標値の100名に至らなかったことでした。より多くの人に回答してもらうほうが、より正確な実態を把握できるはずだと考えていたからです。

SNSを中心とした呼びかけをおこなうなかで、実際に酒蔵で働く方々のリアクションを見ながら考えさせられたのは、予想していたよりも「現状を変えたい」と思っている人が少ないのか、あるいは「このようなアンケートには答えづらい」と感じてしまう人も多いのか、ということでした。

しかし、「現状を変えたいと思っている人が少ない」「こういうアンケートに答えづらい」と考える人がいることもまた、労働問題を考えるうえではとても重要な情報となります。さらに、そのような中でも声を上げてくれた方に対してきちんと返していくことは、私たちの重要な使命となります。

第2弾では、実際に酒蔵で働く蔵人の方々をお招きし、覆面座談会を実施。アンケートを深堀りしながら、「どうしてこのような問題が起きてしまうのか?」をテーマにディスカッションしました。データだけでは見えてこない、さらに詳細な現場の声をお伝えします。

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