2022.01
06
2000年生まれが日本酒DtoCで起業「伝統産業の価値を若い世代・世界に伝えたい」 - Omomuki代表・松家優さん
2021年12月1日、日本酒の新ブランド『Whitedrop』の先行予約販売が開始されました。予約販売分は2日たらずで完売。一般発売は1月下旬が予定されています。
『Whitedrop』を販売する株式会社Omomukiの代表、松家優さんは21歳の現役大学生です。 なぜ日本酒を仕事にしたのか、どうやって起業したのか。そして今後の目標まで、たっぷりお話をうかがいました。
高2で起業を決意!世界で勝負する「理想の事業」
ーーーこのたびは『Whitedrop』のローンチと予約分の完売、おめでとうございます!21歳での起業はかなり早いほうだと思うのですが、いつから考えていたんですか?
松家さん:ありがとうございます!起業すること自体は、高2のときには決めていました。きっかけは図書館のおすすめ本のコーナーで、表紙のスティーブ・ジョブズと目が合ったことですね。彼の生涯が綴られた本で、引き寄せられるように手に取りました。
当時から起業家の伝記はよく読んでいたんですが、もうスティーブ・ジョブズは段違いにかっこよくて。彼のように世界中で必要とされるすごいプロダクトをつくって、社会にポジティブな影響を与えられる人間になりたいと思ったんです。
ーーースティーブ・ジョブズの影響を受けて、IT領域での起業は考えなかったんですか?
松家さん:そうですね。起業をするなら、その領域で唯一無二の存在になりたいと考えていたので、IT系は選択肢に入りませんでした。優秀な起業家が世界中にいる成熟した領域に、これから入って勝負できるイメージがまったく湧かなかったので…。
唯一無二の事業を目指すには「グローバルな観点からも価値が高く、かつ国内外に競合が少ない市場」を誰よりも早く開拓しなくてはと考えました。本やネットから情報を集めて、たどり着いたのが「日本の伝統文化や産業をグローバルに展開する事業」です。
島国だからこそ独自に発展した日本の文化や産業、天然資源は海外から見て非常に価値が高いものですが、日本ではきちんと活用できていない現状を知りました。しかも日本語の壁があるので、海外からは新規参入しづらいんです。僕が勝負するべき領域、理想とする事業はこれだ!と感じました。
でもいきなり起業するには知識も経験もなさすぎるし、まずは進学だなと。起業の足掛かりになる大学がいいと考えて、秋田県の国際教養大学に進学しました。日本の伝統産業が盛んな地域ですし、すべての授業が英語でおこなわれていて留学生も多い大学なんです。どうしてもこの大学に入りたくて、4回目の受験でなんとか合格できました。
日本酒の歴史とポテンシャルに魅了された
ーーー日本の伝統文化や産業はいろいろありますが、日本酒を選んだ理由を教えていただけますか?
松家さん:進学後は「なにで起業するか」を見つけるために、秋田県のさまざまな地域に足を運びました。各地の伝統文化や産業に触れるなかで、日本酒に出会ったんです。お酒が飲める年齢ではなかったんですが、酒蔵の方や米農家の方に話を聴いたり、本を読んだりして知識を得るうちに、日本酒のポテンシャルを強く感じました。
1000年以上続く長い歴史や、日本ならではの気候を活かした製法もそうですし、楽しむための予備知識が必要ない点も魅力的です。日本語がわからなくても、日本酒の歴史を知らなくても、ただ飲むだけで楽しめますよね。エンタメとしてのハードルの低さも、グローバル展開に適していると感じました。
ーーー日本酒で起業すると決めてからは、どのような活動をされてきたんでしょうか?
松家さん:なにで起業するかは決まりましたが「どうやって」の部分が、当時は具体的にイメージできなかったんです。お酒関連の事業なので未成年のうちにできることも限られていますし。それで20歳になるまでは起業に関する経験を積むために、大学を1年間休学して、都内にあるIT系のスタートアップ企業でエンジニアのインターンとして働きました。
IT系の企業を選んだ理由は、自分がプロダクトをつくる際に公式サイトを制作するとか、何か役に立つかもしれないと思ったからです。でもたくさん失敗して、やっぱりこの領域は向いてないなって再認識しました(笑)。『Whitedrop』のサイト構築やデザインはプロにお任せしています。
20歳になったら日本酒関連の経験をすぐに積んでいきたかったので、インターンをしながら唎酒師(日本酒のソムリエ)の勉強もして、20歳と8日で資格を取りました!
起業の礎は『SAKE HUNDRED』での経験
ーーー唎酒師の資格を取得したあとは、日本酒に関わる機会も増えましたか?
松家さん:そうですね。SAKETIMESが運営するサロンに入ったり、日本酒イベントに参加したり、20歳になってからは積極的に日本酒に関わるようになりました。お酒が飲めるようになって、それまで踏み込めなかった領域の知識も増えていくのがすごく楽しかったですね。ただ、そろそろ休学期間が終わるころでもあったので、秋田に戻って何かプロダクトを立ち上げようかなと考え始めていました。
でも復学のタイミングでちょうどコロナウイルスの流行が始まって、授業がすべてオンラインになったんです。とりあえずはそのまま都内に残ることにしたんですが、毎日「これからどうしよう?」と考えていました。そんなときにたまたま、SAKETIMES編集長の小池潤さんとランチに行く機会があって。
そこで「Clear(SAKETIMES運営企業)の新規事業部でインターンをしてみないか」と誘っていただいたんです。その新規事業が日本酒ブランド『SAKE HUNDRED』でした。
ーーーそこから本格的に日本酒業界での起業家修業が始まったんですね。『SAKE HUNDRED』では、どのような経験を積まれたんですか?
松家さん:業務内容は固定ではなくて、いろいろな仕事を経験しました。『SAKE HUNDRED』でのインターン経験がなかったら、僕は起業できていなかったと思います。それくらい多くのことを、ゼロから学ばせていただきました。商品開発の現場では、さまざまな味わいの日本酒や、自分では飲めないような高価格帯の日本酒をテイスティングする機会にも恵まれました。
それだけでも素晴らしい経験なのに、代表の生駒龍史さんをはじめ、社員のみなさんがビジネスに関する知識も惜しみなく共有してくださるんです。マーケティングやブランディング、カルチャーのつくり方から、スタートアップならではの資金調達の方法まで、本当になんでも教えていただきました。商品開発への徹底したこだわりにも、大きな影響を受けています。
「株主資本」での資金調達にこだわった理由
ーーーインターン期間を経て、起業までの経緯を教えていただけますか?
松家さん:インターンでたくさん学ばせていただくなかで事業ビジョンが固まったので、起業に向けて動き出したのが2020年の11月です。ベンチャーキャピタル(未上場のベンチャー企業に出資してハイリターンを狙う投資会社)の方に壁打ちさせていただきながら、アイデアや事業戦略を詰めていって、2021年1月25日に法人化しました。
そのときはまだ出資は確定していなかったんですが、投資家の方たちに僕の覚悟を見せようという思いもあって。資金調達をしているからこそできること、やり切れることの多さを『SAKE HUNDRED』で目の当たりにしていたので、株主資本で事業展開をしていくのは最初から決めていました。
ーーー出資はすんなりと決まったのでしょうか?
松家さん:一回ですんなり、とはやっぱりいかなかったです。インターンでビジネスの勉強をさせていただいたとはいえ、圧倒的に経験不足ですし…。ベンチャーキャピタルの方や投資家の方と、何度も面談を繰り返しました。
一度あやふやな内容を話してしまった投資家の方がいたんですが、事業アイデアやプランをブラッシュアップして1ヶ月後に再チャレンジしたら、出資が決まったことがあって。その方には「松家くんの成長率を見て投資を決めた」と言っていただきました。1ヶ月でここまで成長できるなら期待できると思ってくださったそうです。
ーーー資金調達の成功要因は何だと思われますか?
松家さん:グローバルを目指せるプロダクトである点を評価していただけたと考えています。 持続可能な息の長い企業にしていくためにも、味方になってくれる株主との出会いは何よりも貴重な財産です。国内外に向けて発展していく日本酒のポテンシャルを、株主のみなさんが理解してくださっていることは本当にありがたく思っています。
Whitedropは「物足りなさ」から生まれた
ーーー『Whitedrop』はどんな事業アイデアから誕生したんでしょうか?
松家さん:大学の授業や課題がひと段落して家で飲んでいたときに疑問が浮かんで、その疑問がアイデアになっていった感じですね。「美味しいお酒を飲んで頑張った自分を労いたい」と思って飲んだのに、なぜか物足りなさを感じてしまって…。味はもちろん美味しかったんです。でも心が満ち足りるような時間にはならなかったというか。頑張ったご褒美としては何かが足りないと感じました。
何が足りないのかを紐解いて突き詰めていくうちに、あのときの僕が求めていたのは「贅沢な体験」だったと気づいたんです。味だけではなく、手にしたときの特別感や、ワクワクする体験がプラスされたら最高だなと。そこから少しずつ、日本酒が抱えている課題が見えてきました。
ーーー日本酒が抱えている課題は、他にどのようなものがあるでしょうか?
松家さん:生意気なことを言ってしまうかもしれませんが「若い人は日本酒が苦手」「日本酒を好む人は少数」などの、業界全体の思い込みも課題だと思っています。僕は起業にあたって100名にヒアリングをおこなったんですが、そのなかで半分くらいの方が「日本酒に興味がある」と回答しました。
もちろん、日本酒業界以外の方を中心に聞いています。ただ知らないだけ、知らないから飲んでいないだけなんです。興味があると答えた方たちは、お酒を飲むのは週に1回や月に1回程度の場合が多く、だからこそ特別なお酒を飲む傾向がありました。例を挙げると、毎日気軽に飲める発泡酒ではなく、1週間頑張ったご褒美にこだわり製法のクラフトビールを飲むといったスタイルです。ヒアリングの結果を見て、若い方の飲酒傾向にフィットする日本酒が少ないと痛感しました。
ーーー日本酒を飲んでもらう機会があっても、現状では松家さんのように「物足りなさ」を感じてしまう方が多いということでしょうか?
松家さん:現状の日本酒産業が間違っているわけではなくて、今の若い世代にほんの少しフィットしていないだけなんです。味はじゅうぶん美味しい日本酒ばかりなのに、もったいないと思っています。だからこそ若い世代が飲んでみたいと思う、日本酒の窓口になれるプロダクトをつくりたいと考えて『Whitedrop』を開発しました。
心の余白が叶える贅沢な時間
ーーー『Whitedrop』のボトルデザインや味わいについて、こだわったポイントを教えてください。
松家さん:僕が『Whitedrop』を通じて提供したいのは、贅沢な体験です。パッケージを開ける前からワクワクする時間、ボトルを眺めながらお酒を飲み、美味しさに癒される時間を過ごしていただきたいと考えています。ボトルの絶妙なグラデーションは、心の余白をリラックスした柔らかい色合いで表現するために試行錯誤しました。 TikTokやInstagramのリールなどに載せる前提で、パッケージはく片手で開けやすい形にこだわっています。もちろん、いくら見た目が良くても味がダメだったら日本酒の窓口にはなれないので、中身にもとことんこだわりました。
ーーー先ほど試飲させていただきましたが、すごく美味しかったです。透明感のある甘さと味わい深いコク、すっきりと綺麗な旨味が調和して、洗練された日本酒だなと感じました。上品な甘い香りも素晴らしいですね。
松家さん:ありがとうございます!製造パートナーは『福禄寿』『一白水成』を代表銘柄とする、秋田県の福禄寿酒造株式会社です。「これを飲んで美味しくないなら、何を飲んでも美味しくない」と自信を持って言えます。
福禄寿酒造が契約している10軒の酒米農家さんは、それぞれの田んぼで違う品種の米を栽培していますが『Whitedrop』の原材料になるのは、その中で一番品質のいい米だけです。さらに土地の気候や環境を味わいに反映させるために、冷房設備はなるべく使用せず、冬の外気を利用して酒づくりをします。
その年で一番美味しい酒米を使って、その年の気候を反映して醸されるので、二度と同じお酒はつくれません。量も多くはつくれないので、美味しいだけではなく希少性も高い日本酒です。
こうした製造方法をはじめ、酒蔵の方たちが大切にしている伝統やこだわりを、ブランドサイトの「ストーリー」でも紹介しています。まずはパッケージやボトルのデザインで興味を持っていただき、それから日本酒の奥深さや面白さ、素晴らしさを知ってもらう動線です。順番を逆にしてしまうと「日本酒って難しいのかな」という印象を与えてしまって、せっかくの機会を失いかねないと考えました。
ーーー375mlというサイズにもこだわりがあるんでしょうか?
松家さん:生産できる量が少ないというのはあるんですが、だからこそ特別な体験、貴重な体験を楽しんでいただけると考えています。日本酒に馴染みがない方でも手に取りやすく、お祝いやイベントでの特別な一杯にも最適なサイズです。熱狂的なお酒好きじゃなくても、自分へのご褒美や大切な方へのギフトに選びたくなるプロダクトを目指しました。
僕は心の余白を感じられる時間が何より贅沢だと思っているので、『Whitedrop』の一滴から優しく波紋が広がるように、余白を生み出す体験を提供していきたいです。
日本の伝統産業を、世界へ。
ーーー最後に、今後の目標を聞かせていただけますか?
松家さん:酒蔵が大切にしてきたことや日本酒の価値を伝える窓口として、日本酒文化を海外にも発信していきたいです。あとは社名の由来である「趣」を感じられる、唯一無二のプロダクトを生み出す事業もどんどん展開したいですね。
具体的には『Whitedrop』に合わせたフードや酒器の開発をしたり、季節のイベントや四季の風景をデザインに取り入れたり、日本の伝統産業を掛け算をして発展させたいと考えています。
日本酒をはじめとする日本の伝統産業のポテンシャルを活かして、グローバルに価値を最大化する企業を目指します!
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