お正月に飲むお屠蘇の意味とは?-歴史や作り方、作法を解説

2021.12

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お正月に飲むお屠蘇の意味とは?-歴史や作り方、作法を解説

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

「お屠蘇(おとそ)」は元旦の朝に無病息災や長寿を願って飲む祝い酒です。

若い世代にはあまり馴染みがないと思いますが、5~10種類の生薬を配合した「屠蘇散(とそさん)」を、日本酒やみりんに漬け込んだお酒なので体にもよく、スパイス料理がお好きな方なら結構ハマるかもしれません。

この記事では、お屠蘇の歴史や作り方、飲む際の作法を解説します。

お屠蘇の歴史

お屠蘇は中国で誕生し、平安時代初期に日本へと伝わりました。歴史をひも解くと、お屠蘇の語源や日本各地での文化の違いが明らかになります。

考案者は『三国志』の伝説的医師

お屠蘇の語源は「邪気を払い(屠る)、心身を蘇(よみがえ)らせる」。発祥の地は中国で、考案したとされる人物は『三国志』にも登場する伝説的医師・華佗(かだ)。東洋で初めて麻酔を使った外科手術をおこなった人物としても知られ、豊富な薬学の知識と医療技術から「神医」と呼ばれていました。

三国志の英雄・曹操の専属医師だった華佗が、酒好きの曹操のために数種類の生薬を調合したものをお酒に浸し、薬として処方したのがお屠蘇のはじまりとされています。

中国では1500年以上前から、一年の健康を願って元旦に飲む風習が定着していました。屠蘇散の正式名称が「屠蘇延命散」であることからも、霊薬として長く重宝されてきた歴史がうかがえますね。

日本におけるお屠蘇の歴史

お屠蘇が中国から日本に伝わったのは、1200年以上前の平安時代初期。初めは宮中の正月行事として取り入れられました。江戸時代になると医者が薬代のお返しに屠蘇散を配るようになり、庶民の間にも広まったとされています。

「一人これを呑めば一家苦しみ無く、一家これを呑めば一里(いちり)病無し」という言葉とともに、新たな一年の健康を願って元旦に飲む風習が日本にも根付いていきました。

お屠蘇は地域性が色濃く反映されるのも特徴で、何も手を加えていない日本酒をお屠蘇として飲む地域もあります。屠蘇散を日本酒かみりんに漬け込んだお屠蘇が一般的に知られていますが、明確な決まりはありません。その土地ならではの特殊なお酒を使う場合も多く、熊本県では赤酒、鹿児島県では黒酒という「灰持酒(あくもちざけ)」でお屠蘇をつくります。灰持酒とは、米を主成分とし、鹿児島県で伝統的に生産されている地酒のことで、みりんに似た濃厚な甘さが特徴です。赤酒はその伝統を受け継いだ熊本特産のお酒です。

参考:農林水産省「伝統食検索 灰持酒

お屠蘇の作法は?作り方・飲み方を解説

お屠蘇を飲むときには基本的な作法、飲み方があります。すべてを忠実に守る必要はありませんが、いざというときのために知っておくと安心です。

お屠蘇の材料と作り方

お屠蘇は日本酒またはみりんと屠蘇散だけで簡単に作れます。屠蘇散は年末になるとスーパーや薬局でも販売されています。

お屠蘇の材料
①日本酒 または みりん(300ml)
②屠蘇散 (1パック)

日本酒とみりんを混ぜる地域もありますので、好みで調整してください。日本酒だけのお屠蘇はすっきりとした味わいを楽しめますが、薬草っぽさが苦手な方は飲みにくいかもしれません。みりんだけのお屠蘇は口当たりが柔らかく甘みがあるので屠蘇散のクセが和らぎます。

日本酒を使用する場合は、本醸造酒や普通酒などの味や香りの個性が少ないものがおすすめです。みりんの場合、調理用のものには塩が含まれているため、本みりんを使用してください。

お茶や出汁とり用の空パックに屠蘇散を入れて、日本酒かみりんに漬けてつくります。屠蘇散の風味や香りをじっくりと染み込ませるため、前夜には漬けはじめましょう。

屠蘇散の効能

「屠蘇散(とそさん)」には5~10種類の生薬が配合されています。さまざまな種類がある生薬の中でも配合されることの多い白朮(ビャクジュツ)、山椒(サンショウ)、浜防風(ハマボウフウ),桔梗(キキョウ),桂皮(ケイヒ),丁子(チョウジ)、陳皮(チンピ)の効能について以下にまとめました。

生薬の名前薬効
白朮(ビャクジュツ)体の湿気を取り除き、痰の多い咳、嘔吐やめまい、胸のつかえを改善。
山椒(サンショウ)腹部をよく温め、冷えを改善する。
浜防風(ハマボウフウ)肺の分泌腺を盛んにして潤し、咳を止める。
桔梗(キキョウ)肺の呼吸運動をゆっくり大きくすることで、咳を鎮めて痰を除く。
桂皮(ケイヒ)心、脾、腎を温めて、気血の流れを改善する。
丁子(チョウジ)おなかを温めて冷えを改善し、停滞した消化管運動も改善する。
陳皮(チンピ)気を巡らせる。甘みは脾胃、酸味は肝に働く傾向がある。

体を温める効果があるお屠蘇は、お正月の寒い気候にぴったりです。また風邪の症状に効果があるので、普段体調が悪くなった時に飲むのも良さそうです。

参考:
田中耕一郎『生薬と漢方薬の事典』(日本文芸社, 2020年4月10日)
毛利千香, 御影雅幸「屠蘇酒の起源に関する考察」(薬史学雑誌, 50 巻 1 号, 2015 年)

お屠蘇の正しい飲み方

お屠蘇にはもともと正式な作法があります。現代はもちろん普通の日本酒のように自由に飲んでも大丈夫ですが、知識として知っておきましょう。 まずは年明け最初に「若水(わかみず:新年に初めて汲む水)」で手を清め、仏壇や神棚を拝みます。若水は家庭の水道水で問題ありません。

次に家族との新年の挨拶をすませたら、全員で東の方角を向き、若い人から順にお屠蘇を飲んでいきます。飲み終わったら次の人の酒器にお屠蘇を注いでください。飲むときは無病息災や延命長寿の願いを込めて「一人これ飲めば一家苦しみなく、一家これ飲めば一里病なし」と唱えます。

若い人から飲みはじめるのは、若者の活力にあやかるためという説や、毒味を兼ねているという説があります。地域によっては「英知を分け与えるため」として年長者から飲みはじめる地域もあるようです。また、厄年の人は年齢に関係なく最後に飲み、家族全員から厄払いの力を分け与えてもらいます。

「屠蘇器」と呼ばれる三段重ねの盃に1杯ずつ注ぎ、3回に分けて飲むのが正式な作法ですが、普通の酒器でも問題ありません。酒器の数が足りない場合は、ひとつの酒器を使用して1杯ずつ3回に分けて飲み干せばいいとされています。

飲む際の温度に決まりはありません。常温で飲まれることが多いですが、寒い時期ですのでぬる燗程度に軽く温めてもいいでしょう。

お屠蘇を取り入れて、無病息災と長寿を願う

お屠蘇の語源や歴史、飲み方について解説しました。お屠蘇には無病息災・長寿を願う意味が込められています。地域や家庭によって異なる味わいや特徴があり、飲み方も自由です。縁起のいいお屠蘇を飲んで、新たな一年の健康を祈願しましょう。

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