2020.07

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「日本酒造りの新規免許獲得を目指す」 - 「稲とアガベ」代表・岡住修兵さん(2/2)

二戸 浩平  |  日本酒を仕事にした人

日本酒造りの新規免許を取得し、秋田に新しい酒蔵を造るプロジェクト「稲とアガベ」の代表を務める岡住さん。前回の記事では、現在醸造所長を務める木花之醸造所での取り組みと、日本酒と出会い新政酒造に就職するまでのエピソードをご紹介しました。今回は、新政酒造での修行時代のお話、そしていよいよ新規免許取得に向けたお話を伺います。

何もかも学んだ新政酒造での修行。「酒で生きていく」決意を固める。

岡住さん「新政酒造の同僚は若い蔵人が多く、現在は新政の杜氏を務める植松さん、『WAKAZE』の今井さん、『義侠』の足利さん、『飛良泉』の高橋さんなど、勉強熱心な人ばかりで刺激を受けました。彼らとは毎日のように飲みに行っていましたね。朝も早かったですが、大学卒業前に就労した際の挫折経験もあったので、心を入れ替えて働くことができました。

その時杜氏を務めていた古関さんは現場をしっかり管理しつつ、若い蔵人たちにも基礎からどんどん教えてくれて、仕事を任せてくれていました。そのことで造り手として成長することもできたし、本当に働きやすい環境でした。

佐藤社長からは、理想を追求して価値を実現する姿勢を学びました。全量生酛や全量木桶なども、単に伝統を重視するだけでなく、その技術的価値を見出して商品の価値につなげていた。嘘のない人なので、現場にとっては高いハードルがある取り組みでも、納得感を与えてくれました。僕自身も嘘が苦手人間なので、この点は大きかったですね。

製造だけでなく、酒の会などのイベントにも行かせてもらい、営業的なスキルも身に付きました。今、『稲とアガベ』のプロジェクトに一緒に取り組んでいる奥さんとも、酒の会で出会ったんですよ。彼女は秋田県で初めてテキーラマエストロの資格を取得したテキーラ好きで、『稲とアガベ』のアガベはそこから来ています。

先ほどお話しした通り、何もかも、ここで学びました。ここでの経験が『酒で生きていく』ことを決めさせてくれたんです。」

規制緩和は必ず起きる。あらゆる手段で新規免許取得の道を目指す。

岡住さん「もともと『3年で独立する』と宣言して就職していたのですが、こうした環境で居場所ができたこともあって、4年半にわたって新政酒造に勤めて退職しました。

その時は、ちょうどWAKAZEの三軒茶屋醸造所が立ち上がり、フランスでの酒造りを目指していた頃でした。自分ができる日本酒業界への貢献は何だろうと考えたときに、国内での新規参入を増やしたい、と考えたんです。

そして自分で酒蔵をやるなら、持続性の高い農業を営みつつ酒を造る『栽培醸造蔵』にしたいと考え、当時すでに10年以上自然栽培に取り組んでいた石山農産の石山さんの下で働かせてもらうことになりました。キャンピングカーで営業に回るスタイルで農協を通さず全ての米を直接販売していて、全国にファンのいる方です。

厳しい人でしたが、次第に認められるようになり、最後には怒鳴り合うようにしてコミュニケーションをとっていましたね笑」

--そしてその石山農産の米を使って、群馬県の土田酒造で今年初めて「稲とアガベ」の酒が生まれたんですよね。

岡住さん「はい。製造をお願いしている土田酒造の星野杜氏も新政に研修に来ていたことがあって、そのときに麹造りを教えていたご縁があったんです。委託醸造で酒を造りたいと頼んだところ、OKをもらうことができました。

今年は『01』と『02』の2ロットを総米300kgずつの仕込みで造り、約1,300ℓの酒ができました。『01 』は石山農産の自然栽培米で90%精米の低精米、酵母無添加の生酛造り、さらに低温発酵という条件での酒造りでした。通常、酵母無添加の酒は低温では発酵が進まないのですが、酒母の香りが良かったので『これはいける』と判断して、土田酒造さんを説得・・・というよりゴリ押しして(笑)、温度を下げてもらいました。上槽時の生酒はぶどうジュースのような香りが出ていて、米の力と土田酒造さんの造りの力を実感しました(実際の商品は全て火入れで販売)。『02』は基本的に『01』と同スペックですが協会601号酵母を使って、さらに低温で発酵を進めました。

『01』はSNS等での発信による直接販売を行いましたが、『02』は利益を減らしてでも、酒屋さん経由での販売としました。将来新規免許の取得を目指すことを考えると、60kℓの最低製造数量を満たせること、つまり販売力があることを示す必要があります。それを満たせるように、今から酒屋さんとの取引を作っていこうとしています。おかげさまで『01』も、先日販売開始したばかりの『02』も完売になりました。

今はまだ、応援の気持ちも込めて四合瓶3,000円という値段で買ってもらえている部分があると思います。でも今期の造りを通して次回以降は、味で売る自信が得られました。米を作ってくれた農家さんにも、お酒を販売してくれる酒屋さんにも、ワクワクしてもらえるものにしてみせます」

ーー米作りに取り組もうとしているのは、新規免許の取得を見据えてのことでもあると、以前お話しされていましたね。

岡住さん「今後必ず、製造免許の規制緩和は起きていくと考えています。その方向性を自分なりにいくつか想定していて、一つは農林水産省が進める『6次産業化』の一貫として米農家に対して清酒製造免許を緩和する、というものです。他にも市場が比較的伸びている特定名称酒への製造免許緩和も考えられますね。考えられる可能性には、全て対応できるようにしていきたいんです。

すでに公開されている規制緩和では、輸出用免許もSAKE Streetの記事を読んで取得を目指すことを決めました。国内での販売ができなくても、委託醸造で造った酒の国内実績と、輸出用免許で製造した酒の海外コンペティションへの出品などを通じて、販路を切り拓ける可能性があると考えています。先日酒販店が初めて取得したことが報道された、試験製造免許も条件によっては取得を検討したいと考えています」

ーー自社の醸造所設立に向けた準備も進んでいますか?

岡住さん「秋田県男鹿市で醸造所設立の準備中で、2021年秋の開業を目指しています。米の栽培の方も、同時期に秋田県能代市の農地で開始できるように準備をしています。

これまで僕はすごい人たちに、出会うべきタイミングで出会って助けられてきました。大学時代にゼミでアントレプレナーシップを学んでいたとき、起業家の意義は社会貢献であり、その重要なものの一つは雇用創出であると知って『これだ!』と思っていたんです。今度は僕が、みんなを雇って、給料もたくさん払えるようにしていきたい。若い蔵人の就労環境を変えて、独立の道も作っていきたい。そうすれば、絶対に日本酒はもっと面白くなる。そのために、今は意地になって頑張っています

未来の造り手へ。3年頑張って、それでも挫折したら俺のとこに来い!

ーー最後に、「日本酒を仕事にしたい人」へのメッセージをお願いします。

岡住さん「僕は造り手なので、造り手になりたい人にメッセージを送りたいと思います。蔵人は給料も高くないですし、仕事もキツイと思います。挫折も経験するかもしれません。それでも、自分が造ったものを味わって楽しんでもらえる、こんな仕事はなかなかない。酒造りの喜び、というものがあるんです。月並みですがそれを信じて、3年は頑張って欲しい。

3年経てば全体像が見えて、楽しみが分かってくると思います。そしてその頃には、僕の醸造所も軌道に乗ってきているはず。3年やってみて、それでも挫折したら、俺のところに来い!・・・といったところでしょうか(笑)」

嘘が苦手、という岡住さん。「試験対策のために勉強できない」「就職活動は本当に志望する1社だけ」という青年時代のエピソードにも、その性格が表れているように感じました。これまで自分を助けてくれた数々の出会いについて「僕は運が良い」と振り返る岡住さんですが、正直にまっすぐに理想に向けて進んでいるからこそ、そうした出会いが訪れているのだと感じました。高く立ちはだかる規制の壁にも正面突破を試みる彼は、今後も様々な困難を乗り越えていくでしょう。

(プロフィール)
岡住修兵(おかずみしゅうへい)
神戸大学経営学部卒業後、秋田の新政酒造にて4年半勤務ののち、大潟村の石山農産にて自然栽培を学ぶ。秋田市の居酒屋日本酒DINNINGKURO店舗スタッフ、お酒のバイヤー、イベンターとして活動。
浅草、蔵前のどぶろく醸造所木花之醸造所の立ち上げに参画。2020年4月より同醸造所の醸造長に就任。新規清酒製造免許を取得し秋田県に酒蔵を立ち上げる「稲とアガベ」プロジェクトの代表を務め、2021年秋の酒蔵設立に向け準備中。
稲とアガベ:https://www.inetoagave.com/
木花之醸造所:https://konohanano-brewery.com/TOP

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