2021.01

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麹をたくさん使うと、どんな味の日本酒になる? - 「仕込み配合」を学ぶ

瀬良 万葉  |  日本酒を学ぶ

米と水と米麹でできている日本酒。その「レシピ」ともいえるのが、米や水、麹、酒母などの原料をそれぞれどのような割合にするかを決めた「仕込み配合」です。

最近では、「全麹」や「酒母しぼり」など、麹や酒母の割合で個性を強調した酒が続々と登場し、人気を得るようになってきました。仕込み配合もまた、米や酵母の種類、精米歩合などと同様に、酒の味わいに大きく関わる要素です。

仕込み配合はラベル等で公開されていることは少なく、造り手以外があまり意識することのない部分です。しかし、先ほど見たような個性的な味わいの酒を飲んだ時に、仕込み配合がどのように決められ、どのように日本酒の味に影響を与えるのかを知っておくと、その味わいの秘密が想像できるようになるかもしれません。

「仕込み配合」の考え方

本記事では「汲水歩合」「麹歩合」「酒母歩合」という、仕込み配合に関わる3つの数値をご紹介します。それぞれの具体的な解説に移る前に、まずは、どのように仕込み配合が決められていくのか、飲み手として理解しておくと良いポイントを確認しておきましょう。

仕込み配合は、料理のレシピのようなものです。したがってもちろん、「どういった味わいの酒を造りたいか」が仕込み配合に反映されます。甘さを残すか少なくするか、酸を高くするか低くするか、旨みを強くするかすっきり軽めにするか……こうした味わいの要素が、仕込み配合に左右されるのです。

また日本酒造りでは、米のでんぷんから麹が糖を作り出す「糖化」と、酵母が糖からアルコールを作り出す「発酵」のバランスを適切にコントロールすることが重要です。この糖化と発酵の速度には、使う原料の種類と仕込み配合の双方が影響を与えるため、原料のタイプにフィットした仕込み配合を設定することも必要になってきます。

たとえば米の特徴と精米歩合によって、最適な仕込み配合は異なります。軟質で溶けやすい米もあれば、硬質で溶けにくい米もあります。さらに、高精白米になるほど水を吸いやすいため溶けやすくなるという特徴も考慮する必要があります。溶けやすい米を使う場合、糖化が速くなりやすいため、発酵の速度がそれに添うように仕込み配合を考えることになります。

水の硬度も、仕込み配合を決めるための重要な要素です。日本酒造りでは、ミネラルの多い硬水だと発酵が速く進み、軟水だとゆるやかになります。

ほかに、使用酵母の発酵力やアルコール耐性といった性質、麹が持つ糖化力も考慮します。

上記以外にも、発酵時の温度などさまざまな要素を踏まえて、最終的な仕込み配合が決定されます。仕込み配合には、酒造りの長い歴史のなかで蓄積されてきた知識と経験、そして造り手の想いがたくさん詰まっているのです。

汲水歩合

汲水歩合とは、総米(蒸米、麹それぞれの白米換算重量の合計値)に対する仕込み水の割合のことです。通常の汲水歩合は120〜130%前後とされていますが、酒によって幅があります。

汲水歩合は、主にもろみの発酵速度に影響します。汲水歩合を上げると、もろみの中により多くの酵母を収容できるため、発酵が速く進むのです。したがって、発酵を進めたい場合は汲水歩合を高く、抑えたい場合は低くします。

例えば、過去の記事で紹介したように仕込み水が超硬水で早湧きしやすい「風の森」は、初期の汲み水歩合を低く設定しています。(早湧き:糖化のスピードに比べて発酵スピードが速すぎること)

参考記事:

また、溶解・糖化が進みやすい高精白米や軟質米を使う場合、発酵を追いつかせるために汲水歩合を大きくすることもあります。反対に米が溶けにくいと予想される場合は、汲水歩合を下げます。

先ほど見たとおり汲水歩合を上げると、相対的に発酵が進みやすく(糖がアルコールに変えられやすく)なるため、酒の味わいはすっきりしてキレのよい辛口タイプになりやすくなります。

麹歩合

麹歩合は、酒母から留添(三段仕込みのうち、三段目)までの、総米重量に対する麹米の合計重量の割合です。通常は20%前後とされています。

麹には、酵母の栄養源となるビタミンなどの物質が含まれています。そのため、麹歩合を大きくすると酵母の増殖が活発になり、その結果として発酵も旺盛になります。また、麹は糖化の役割をもつ原料なので、麹歩合が大きくなると糖化も進みやすくなります。

麹の使用割合が多いと、先ほど見たとおり酵母の活動が盛んになることで、酸が高い酒になりやすくなります。また糖化が進みやすくなることに加え、米のタンパク質をアミノ酸に変える力も強くなります。そのため味わいの面では、麹歩合が高いと濃醇な酒になり、低いと軽やかな酒になる傾向があります。

最近では、麹歩合を通常より高くしたお酒も注目されるようになりました。例えば、米のほぼ全量を麹にして仕込んだ「全麹」の酒も造られています。(なぜ「ほぼ」全量かというと、「清酒」と表示するには米を原料に含める必要があるためです。したがって全麹仕込みでも、麹ではない蒸米をほんの少量使います。)

さらにユニークな商品として、土田酒造の「麹グラデーション」シリーズでは、それぞれ99%、77%、55%という高い麹歩合で仕込まれた酒を飲みくらべることができます。

酒母歩合

酒母歩合は、酒母から留添までの、総米重量に対する酒母用総米の割合のことです。通常は、普通酒で7〜8%、吟醸酒で5〜6%ほど(普通速醸酒母の場合)です。

ある程度までは酒母歩合が高いほど もろみ前半の発酵が速く、低いほど遅くなります。酒母歩合を極端に低くすると、もろみ初期の酸度やアルコール度数が低くなるため、腐敗リスクが高まります。

「じゃあ、極端に高いのもよくないのかな?」と思ってしまうかもしれません。しかし実は、酒母歩合を極端に高くすることで、低アルコールで甘酸っぱい酒を造ることがあるのです。酒母歩合を大幅に高くすると、もろみ初期のアルコール度数が高いため、一般的な日本酒ほどには発酵が進みません。その結果、仕上がった酒は低アルコールで、糖がそれほど使われないために甘く、さらに酒母の高い酸度が残ることで、酸味がある味わいになるのです。

最近では、玉旭酒造の「玉旭 Echoes」シリーズのように、「酒母しぼり」「酒母仕込」のような名前で、酒母から段仕込みをせず、そのまま搾った商品も登場しています。

参考:高橋 康次郎, 国分 伸二, 泉 健, 里見 弘司, 佐川 浩昭, 白石 常夫, 田丸 二三人, 井上 博「高酒母歩合によるソフト清酒の製造(第1報)」(日本釀造協會雜誌76巻7号, 1981)

まとめ

仕込み配合は、米や水、麹、酒母などの原料の割合を決めた、酒造りの「レシピ」のようなものです。各原料の性質を踏まえた上で、理想の味わいを目指して決定される仕込み配合には、それぞれの酒蔵のこだわりが表れています。

最近では、これまでのやり方にとらわれず、挑戦的な仕込み配合で造った酒も増えてきました。今までに飲んだことのない個性的な味わいの酒を飲むと、「どうやって造ったのだろう?」と好奇心が刺激されます。そうしたときに、想像を膨らませる一つのポイントとして「仕込配合」の知識を頭に入れておくことが役に立つかもしれません。

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参考文献
(1) 高橋康次郎, 国分伸二, 泉健, 里見弘司, 佐川浩昭, 白石常夫, 田丸二三人, 井上博「高酒母歩合によるソフト清酒の製造(第1報)」(日本釀造協會雜誌76巻7号, 1981)
(2) 高橋康次郎, 国分伸二, 泉健, 里見弘司, 佐川浩昭, 白石常夫, 田丸二三人, 井上博「高酒母歩合によるソフト清酒の製造(第2報)」(日本釀造協會雜誌76巻8号, 1981)
(3) 若林三郎「〈シリーズ・醸造の基本技術 〉もろみ(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/7/93_7_498/_pdf)」(日本醸造協会誌93巻7号, 1998)
(4) 日本ソムリエ協会『SAKE DIPLOMA教本(Second Edition)』(日本ソムリエ協会)

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