
2021.12
11
日本酒造りの責任者「杜氏(とうじ)」とは? - 杜氏の仕事から杜氏の流派、蔵人たちの役職まで 日本酒好きな人でなくても、「杜氏(とうじ)」という言葉を聞いたことがあるという人は多いのではないでしょうか。「杜氏が変われば酒の味も変わる」と言われるほど、酒造りにおいて杜氏の役割は大きく、責任も重大です。
では、杜氏の仕事とは具体的にどのようなものなのでしょうか?また「○○流杜氏」と言われるような、杜氏の流派にはどんなものがあるのでしょうか?今回は酒造りのキーパーソンである杜氏という役職についてご紹介します。

杜氏とは、酒蔵における酒造りの責任者を指す言葉です。酒の原料を選ぶところからはじまり、製造・貯蔵・品質管理まで酒造りのすべてを統括しているのが杜氏です。
また酒造り以外にも、酒蔵が持つ設備の管理、酒税などのための帳簿管理、蔵人たちのマネジメントなど、仕事内容は広範囲にわたります。杜氏とは、酒造りのプロであると同時に、酒蔵の製造・技術面での最高責任者でもあるのです。
杜氏には、酒造りの経験で培われた知識や技術を伝承するだけではなく、蔵人たちのリーダーとして、酒蔵内の人間関係を円滑に保ったり、蔵元と交渉をしたり、ときには蔵の顔として宣伝や販売の現場に立ったりと、あらゆる面での活躍が求められます。

杜氏のことは「酒造りの最高責任者」として紹介しましたが、他にも酒蔵で働く人を指す言葉として「蔵元」や「蔵人」といったものがあります。それぞれどのような位置づけなのでしょうか?
「蔵元」は酒蔵のオーナー(経営者)を表す言葉で、経営全般のほかに、営業や出荷管理など、製造以外の部分を全面的に担当することもあります。そして、「蔵人」とは杜氏の下で働く、酒造りの技術者のことを指します。
杜氏の指揮のもとで、蔵人たちがさまざまな役割を担うことで、酒造りの規模や効率、安全性を高めることができます。
杜氏の下で酒造りをする蔵人にはいくつもの役職がありますが、分け方は杜氏の流派や蔵によって異なりますし、小さな蔵では一人でいくつかの役職を兼任することが多いです。「酒造習俗」(2006)では、頭、麹師、酛師、槽頭(船頭)、釜屋、精米屋、働き(道具廻し・上人・中人・下人・飯屋)に杜氏を含めて8つの役職があるとされています。
この8つの役職を図にしたものがこちらです。なお頭(かしら)・麹師・酛師は三役(さんやく)と呼ばれ、三役以下の蔵人は役人(やくびと)とも呼ばれます。

それぞれの仕事内容は以下のとおりです。
| 役職名 | 仕事内容 |
|---|---|
| 杜氏 | 最高責任者、酒蔵管理、帳簿管理、蔵人管理 |
| 頭(かしら) | 杜氏の補佐役、蔵人の指揮 |
| 麹屋(大師・代師) | 麹造りの責任者(助手は「相麹(あいこうじ)」と呼ばれる) |
| 酛屋(酛回り) | 酒母造りの責任者(助手は「室の子」と呼ばれる) |
| 釜屋 | 蒸米の責任者(助手は「相釜」と呼ばれる) |
| 精米屋 | 精米の責任者 |
| 船頭 | 上槽工程の責任者(搾りに使う道具が「槽(ふね)」と呼ばれるためこの名になった) |
| 道具廻し | 酒造り道具の管理や水の運搬など |
| 上人(じょうびと) | 主に桶洗い、水汲み、道具の準備 |
| 中人(ちゅうびと) | 主に水汲み、米洗い、蒸米運搬 |
| 下人(したびと) | 主に洗い物、米洗い、水汲み |
| 飯屋(ままたき、かしき) | 食事一切の世話、掃除、風呂焚き等の雑用、新人の仕事 |
※流派や蔵により役職や職階は異なる
参考:文化庁文化財部編「酒造習俗」(2006)
杜氏に関連した資格として、国家資格である酒造技能士(酒造技能検定)や、のちほど紹介する各杜氏組合による認定があります。
なお、酒造技能士は、日本酒造りに関する唯一の国家資格です。受験資格として、1級は7年以上、2級は2年以上の実務経験が原則要求され、学科試験と実技試験の両方に合格する必要があります。学科試験では、微生物や関係法規などに関する知識を問う内容が出題されます。実技試験では、白米の精米判定やきき酒判定など、清酒の製造等に関わる知識・技術を問う内容が網羅的に出題されます。一方、これらの資格や認定があっても杜氏になれるとは限りません。杜氏は基本的に各蔵に1人のみであるため、その蔵の製造のトップとして指名される必要があるのです。反対に、資格がなくても、実務経験を積んだ結果として、杜氏に指名される場合もあります。

杜氏という言葉の語源には諸説ありますが、その一つが「刀自(とじ)」という言葉です。古代から 平安時代頃にかけて、日本では家庭内で酒造りが行われており、その担い手は女性でした。今では「主婦」と呼ばれるこうした女性たちのことを「刀自(とじ)」と呼んでいたのです。
鎌倉時代・室町時代頃から、酒造りは事業として行われるようになり、担い手も男性中心に変わってきました。さらに江戸時代になると、大量生産化に伴って酒造りにも複数の役職が生まれます。そのなかでも責任者を指す言葉として、かつての「刀自」から派生した「杜氏」という言葉が使われるようになった、とされています。
江戸時代には米の価格を安定させるため、不作などの時期には冬季以外の酒造りを禁じる政策を取ることがありました。こうしたこともあり、農閑期の働き口として多くの出稼ぎ労働者が酒造りを担うようになります。
これらの出稼ぎ労働者のうち、特定の地域から来る人々は、「杜氏集団」を形成して、技能を継承しながら酒造りを請け負うようになり、彼らによる酒造りが産業として定着していきました。なお、出稼ぎのスケジュールは以下の通りです。
| カレンダー | 内容 |
|---|---|
| 10〜11月上旬 | 酒造りの成功と安全を祈願し、酒の神を祀る松尾大社(京都市)や梅宮神社(京都市)、大神神社(おおみわじんじゃ・奈良県桜井市)などに参詣しつつ、蔵入り。 最初の洗米(初洗い)や、蒸き ょう(初甑/はつこしき)で酒造りがスタート。 |
| 1〜2月 | 吟醸酒造りが佳境を迎える。鑑評会出品酒もこの時期に造られることが多い。 |
| 3月 | 最後の洗米や蒸きょう(甑倒し)に伴い、道具の片付けもはじまる。 |
| 4月上旬 | 仕込んだお酒をすべて搾り終える(皆造)。 酒蔵での作業がすべて終了し、神社にお礼参りしつつ故郷に帰る。 |
かつて杜氏といえば、このように出稼ぎで酒造りを担う人々を指しており、こうした働き方は江戸時代から300年以上続いてきました。
しかし近年になると、これまで杜氏集団を送り出してきた地域の過疎化や、現役杜氏の高齢化、日本酒の消費量・製造量が減少したことなどを理由に、杜氏の雇用形態にも変化が見えます。
それまでの季節雇用ではなく通年で雇用される「社員杜氏」や、蔵元が杜氏も兼ねる「蔵元杜氏」が増加する傾向にあるほか、若手の杜氏や女性杜氏も多く誕生するようになっています。
