独特のコクでファンを魅了する「玉栄」とは?味わい、系譜、生産地などの概要を知る

2023.06

06

独特のコクでファンを魅了する「玉栄」とは?味わい、系譜、生産地などの概要を知る

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

玉栄(たまさかえ)は高精白の吟醸酒には不向きであるというデメリットを持ちながら、独特のコクがある日本酒によく使われており、ファンを魅了しているユニークな酒米です。なぜ玉栄は一部の酒蔵やファンに強い人気があるのでしょうか?今回は、玉栄について、特徴や系譜、産地などを紹介します。

玉栄とは?

粒は大きいが心白発現率は低い

玉栄は他の酒米に比べて粒が大きく、その大きさは山田錦と同等かそれ以上であると言われています。一方、心白発現率が低いこと、「胴割れ」という内部の亀裂が発生しやすく精米時に割れやすいことから、吟醸酒など高精白のお酒向きの性質ではありません。

玉栄が使われるお酒の特徴

心白発現率が低く吟醸酒には使われにくい玉栄ですが、収穫量が多く、比較的溶けやすいという性質から、本醸造酒や純米酒などには向いていると言われています。

玉栄は、主な産地である滋賀県や鳥取県の、熟成酒を得意とする酒蔵で多く使われています。玉栄を使ったお酒はキレのよい酒質になりやすく、さらに独特なコクのある風味が熟成に向くと考えられているためです。

収穫の適期見極めが難しい

玉栄の栽培の特徴として、収穫の適期見極めが難しいという点があります。収穫の適期を逃してしまうと、先ほども解説した「胴割れ」が起こりやすいためです。胴割れを起こした酒米は精米時に割れてしまいやすいため、歩留まりが悪くなったり、香味に影響を及ぼしてしまったりします。

玉栄の系譜

玉栄は1954年に、愛知県農業試験場で「白菊」と「山栄」の交配により育成が開始され、1965年に命名されました。白菊は、多くの日本酒ファンに支持されている「雄町」をルーツに持っています。

また、玉栄の子孫にあたる酒米には、「ひとごこち」があります。粒が大きい「玉栄」と酒造適性の高い「九頭龍(くずりゅう)」を親に誕生した「白妙錦(しろたえにしき)」は、両親の良い特徴を備えており、長野県でよく使われていました。その「白妙錦」と、コシヒカリの血を引く「信交444号」を交配して誕生したのが「ひとごこち」です。

ひとごこちは玉栄の特徴である粒の大きさ、九頭龍の特徴である心白発現率などの酒造適性、そしてコシヒカリの特徴である栽培特性を受け継いでおり、今では長野県を代表する酒米になっています。

玉栄の産地

滋賀県

玉栄が栽培されている地域のひとつが、滋賀県です。滋賀県には日本一と言われる琵琶湖が中心にあり、取り囲むように平野が広がっています。そこにいくつもの山が点在し、山からの伏流水によって豊かな田んぼが育まれています。そのため、うるち米や酒米、もち米の生産が盛んです。こうしたことから、滋賀県産の米は総称して「近江米」と呼ばれています。

鳥取県

玉栄は滋賀県同様に鳥取県でも栽培されています。鳥取県は自然に恵まれた地域で、中国山地から日本海に続く清流が豊富です。そのため、鳥取県は古くから美味しいお米が獲れると言われていました。また、段丘がある地形を生かした酒米の栽培も行われています。例えば、東伯郡琴浦町にある酒米農家では、段丘の下は比較的温かいため山田錦を栽培し、段丘の上では玉栄を栽培しているのだそう。標高や土壌に合わせて酒米を植え付け、収穫する際も田んぼごと混じらないようにする工夫がされています。

参考:「日置桜」山根酒造場ホームページ(2023年6月5日閲覧)

まとめ

今回は、玉栄について、特徴や系譜、産地などに触れながら紹介していきました。玉栄は、粒は大きいのですが心白発現率は低いため、吟醸酒に使われることは少ない品種です。しかし収穫量が多くコクのある酒質になりやすいから、本醸造酒や純米酒に多く使用されています。

独特のコクのある味わいで、熟成酒ファンをはじめ、飲み手の心をつかんで離さない玉栄。これまで試したことがなかった人も、ぜひそのユニークな味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか。

参考文献

・滋賀県農政水産部みらいの農業振興課「滋賀のおいしいコレクション|産地レポート|酒米」(2023年6月5日閲覧)
・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「イネ品種・特性データベース」(2023年6月5日閲覧)
・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「酒米新品種『吟吹雪』」(2023年6月5日閲覧)
・滋賀県「奨励品種の特性概要(https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/nougyou/seisangizyutsu/18475.html)」(2023年6月5日閲覧)
・「日置桜」山根酒造場Webサイト「契約農家のご紹介 02」(2023年6月5日閲覧)

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