2023.07
25
日本酒YouTubeとは?- 視聴者に人気のジャンルや動画コンテンツの魅力を解説
昨今、YouTubeで日本酒の情報を発信する人が増えてきています。Webサイトや雑誌などのテキストコンテンツと異なり、YouTubeではどんな情報が発信されているのでしょうか。
今回の記事では、日本酒を取り扱っているYouTubeチャンネルにどんなジャンルがあるのか紹介します。さらに、その中でも日本酒ジャンルでチャンネル登録者数No.1の「サケラボちゃんねる」を運営するカイさんに、動画コンテンツの魅力や発信の工夫、視聴者の反響などをうかがいました。
日本酒YouTubeにはどんなものがある?
日本酒YouTubeでは、日本酒の商品や、関連する知識が紹介されています。日本酒に関する専門知識を持つ飲食店やソムリエのほか、酒販店や酒蔵が公式アカウントを開設して発信しているケースも見られます。
日本酒YouTubeで発信されている主なジャンルは、以下のとおりです。
- ランキング
「甘口」「新酒」などテーマにもとづいたおすすめの日本酒をピックアップして、ランキング形式で発信。 - 知識系
日本酒の製造工程や酵母、種類や飲み方など、日本酒に関する基礎知識を発信。 - 酒蔵見学
酒蔵を訪れ、建物の中や酒造りの工程を紹介。 - やってみた系
「外国人に初めて日本酒を飲んでもらう」など、企画を立ててチャレンジするタイプの動画。 - 酒販店/酒蔵公式
酒販店や酒蔵が運営するチャンネル。酒販店が自店舗で扱う日本酒の紹介や、専門知識を活かした情報発信をおこなうほか、酒蔵が商品のプロモーションビデオなどを公開している。
チャンネル登録者数No.1の日本酒YouTuber・カイさんに聞く!
このようにバラエティに富んでいる日本酒YouTubeですが、その魅力とは一体何なのでしょうか?
今回は、登録者数5万人超えの日本酒YouTubeチャンネル「サケラボちゃんねる」を運営している「カイ」さんこと、甲斐勇樹さんにお話を聞きました。カイさんは、「日本酒が好きになる店」をコンセプトとした日本酒バル「サケラボトーキョー」などの飲食店を経営しています。
動画はテキストを読むのが苦手な人にも届けられる
カイさんがYouTubeを始めたのは、2019年。さらに広い顧客層にアプローチするため、新店舗を展開しようと考えていましたが、「店舗が増えても、一店あたりの売上が上がらなければスタッフへの還元は難しい」と思いとどまります。各店舗の売上を増やし、スタッフにも還元できる良い方法はないかと考えた末にひらめいたのが、YouTubeチャンネルの開設でした。
「目標としたのは、グルメ雑誌『dancyu』のYouTube版です。当時『dancyu』で紹介された日本酒は売上がアップすると言われていました。そんな番組を作れば集客につながり、日本酒好きな人をさらに増やせるのではないかと考え、発信をスタートしたんです」
始めは1本の動画制作に100時間もかかり苦心したそうですが、スタッフと協力しつつ、店舗営業の合間を縫って投稿を続けていきました。なんと現在は、1本あたりの平均視聴回数2万回を超えるようなチャンネルに。日本酒ジャンルにおいて、チャンネル登録者数No.1を誇る人気を博しています。
そんなカイさんに、YouTubeの魅力についてお聞きしようとすると……
「正直なところ、情報を得る目的ならテキストを読む方が効率的です。YouTubeのような動画コンテンツは、情報を得るのにはあまり向いていないと思います」
とのこと。一体なぜでしょうか?
「テキストは、必要な情報を自分でピックアップしながら頭にインプットできます。対して動画は、知りたい情報をピンポイントで得るのは難しく、発信者の身振りや表情などの余計な情報も一緒に入ってきてしまいます。もう一度見たい部分をさかのぼる手間も、テキストよりかかります」
では、YouTubeでの発信にはどんなメリットがあるのでしょうか。
「YouTubeは、テキストを読むのが苦手な人にも情報を届けられます。個人的な意見ですが、昨今は本やWeb記事をじっくり読みながら情報を得る人が少なくなっている気がします。テキストを読むには集中力や読解力が必要ですが、集中力が続かず、内容がなかなか頭に入ってこないという経験をしている人は少なくありません。
動画は、こちらが『読む』というアクションを起こさなくても、情報が自然と目や耳に流れ込んできてくれるのが良いところですね」
日本酒ビギナー向けの動画が人気
カイさんが番組作りで心がけているのは、「視聴者が求める情報」をベースにした発信をすること。約3年半運営してきたなかで、上級者向けの専門的な内容よりも、初心者向けのトピックのほうが好評であることがわかったといいます。
「日本酒に興味を持ち始めた方向けのコンテンツとして、人気の日本酒ランキングや、おすすめの日本酒紹介といった動画があります。『新酒を爆買いしてみた』とか、『コスパ最強の日本酒』といったタイトルは引きがあるようで、再生回数が伸びてますね。
これらが人気な理由は、人との会話を膨らませやすいから、SNSに最新の日本酒や希少な銘柄をアップして、周りに発信したいからではないかと分析しています」
驚いたことに、視聴者が知りたい情報を前提に発信するため、カイさん自身が伝えたいことは1割しか言わないといいます。
「先ほど話したとおり、動画は言葉以外の情報まで視聴者に伝わってしまうので、自分が主張したいことばかりを詰め込んだ動画になると、視聴者側も疲れてしまい、離脱につながりやすいんですよね。なので、自分の主張はなるべく削ぎ落とし、テンポ良く見られる動画づくりを意識しています」
具体的には、視聴者にストレスを与えないよう、言葉に詰まった部分はすべてカットし、なめらかに聞こえるよう徹底して編集しているとのこと。動画に没頭してもらえるよう、字幕や画像、効果音による演出にもこだわっているというお話からも、いかに1本の動画づくりに労力がかかるかがわかります。
動画が「日本酒ゼロ杯層」にもリーチ
サケラボちゃんねるの視聴者の年齢層は、40代前後がボリュームゾーンで、次に30代、50代と続きます。男女比は、男性8:女性2の割合ですが、お店に来てくれるお客さんは女性が多いそう。
「YouTubeで発信を続けているおかげで、お客様には『サケラボちゃんねる見てます』とよく声をかけていただきます。そう言ってもらえると、こちらもうれしくて会話が弾みますし、和気あいあいとした関係性を築きやすいです。
発信者の表情や話し方がわかる動画だからこそ、お客様は私や出演しているサノ君(サケラボトーキョー店長)の顔を覚えてくれますし、親近感を抱いてくれるのだと思います」
サケラボちゃんねるが再生数やチャンネル登録者数を伸ばすことができた理由については、今まで日本酒を飲んだことがない「ゼロ杯層」にもアプローチできているからではないかと考察します。
「ここ最近、動画をきっかけに『初めて日本酒を飲みにきた』と来店される方が増えました。お酒を嗜む人のなかでも、普段から日本酒に親しむ人はわずかと言われていますが、その人口を少しでも広げられているのではないかと感じています」
日本酒ファンを増やすのが使命
日本酒に興味を持ち始めた人に向けて、お客さんと近い飲食店の目線からその魅力を発信するカイさん。日本酒バル「サケラボトーキョー」も、動画と同じく初心者向けに日本酒の愉しみ方を伝えるお店として、人気を集めています。
カイさんは、サケラボトーキョーを「日本酒ビギナーが気軽に立ち寄れる店にしよう」と決めて以来、そのスタンスを貫き続けているといいます。
「実は、ビギナーに寄り添ったお店というスタンスを維持し続けるのは、難しいことだと思っています。当初は初心者向けのお店としてオープンしても、そのうち店主が独自のこだわりを追求したくなったり、日本酒に詳しい常連さんたちが増えてきたり……。気づけば、初めての人が訪れるにはハードルの高いお店になっていた、というケースがよくあるからです」
日本酒に造詣の深いお店や、日本酒ファンの常連に支えられているお店はすでにたくさんあるからこそ、サケラボトーキョーは、日本酒へ興味を持った人への接点を作るお店であり続ける。来店をきっかけに日本酒ファンが増えていけば、業界全体への貢献にもつながると、カイさんは意気込みます。
「日本酒に興味があるけど、何から学べば良いのかわからないし、お店に行くのにも勇気がいる。そんな方々に、動画と店舗でアプローチして日本酒ファンを増やしていくことが、私たちの使命です」
まとめ
日本酒について勉強し始めたばかりの筆者にとっても、サケラボちゃんねるは、人気の日本酒や基礎知識について楽しく学べると感じられます。人気の秘訣は、視聴者が求める話題を押さえ、工夫をこらした編集でわかりやすく伝える姿勢を貫き続けているからだということがわかった取材でした。
また、カイさんの「日本酒ゼロ杯層にもアプローチできている」というお話から、改めて動画コンテンツの視覚や聴覚に訴えるインパクトの大きさを実感しました。日本酒YouTubeは、テキストコンテンツとはまた違った、新しい日本酒ファンを開拓できる可能性を秘めていそうです。
サケラボちゃんねるは、日本酒ビギナーをメインターゲットとしていますが、日本酒YouTubeの中には、酒販店が発信するペアリング動画や、酒蔵同士の対談動画など、上級者も見応えのあるコンテンツが投稿されています。いつもテキストコンテンツをメインに情報収集している方も、YouTubeをのぞいてみたら、新たな発見に出会えるかもしれませんよ。
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