2023.07
18
定番酒への愛を熱く語る - 「泡々酒ストライプ」丸本酒造(岡山県)
昨今、日本酒は季節限定酒が次々とリリースされ、ファンにとっては情報や流行を追うのもまたひとつの楽しみとなっています。しかし一方で、その酒蔵が看板商品としている「定番酒」を飲む機会は少なくなりがちでもあります。
定番酒とは、その酒蔵の思想を体現する看板商品であり、だからこそロングセラーとして君臨しています。限定商品をコンプリートするのもいいけれど、毎日飲みたくなるような定番商品をケース買いするような愛もあっていいじゃないか! そんなふうに、定番酒の良さを改めて感じてほしいというアツイ想いからスタートしたのが、こちらの「定番酒への愛を熱く語る」シリーズです。
第二弾を書いてくれたのは、アメリカ・カリフォルニア州を拠点にWSET Sakeのエデュケーターとして活躍するKJ Sakuraさん。ワインのソムリエでもある彼女が、「竹林」「賀茂緑」などで知られる岡山県・丸本酒造のロングセラー商品「泡々酒(ほうほうしゅ)」の魅力を解説してくれました。
日本酒の世界の入り口になる一本
ワインのプロフェッショナルである私が、いわゆる特定名称酒に初めて挑戦したのは2014年。アメリカ出身の日本酒エデュケーターの権威であるジョン・ゴントナー氏が主催するテイスティング会に参加したときのことです。ここで10軒の酒蔵のお酒を飲み比べながら、日本酒がいかに多様性にあふれるカテゴリであるかを知ることができました。
いずれのお酒も素晴らしいクオリティでしたが、特に私の興味を引いた日本酒はふたつ。ひとつは旭酒造「獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分」、もうひとつは、丸本酒造「泡々酒」です。
泡々酒は、これまで日本酒を飲んだことのない海外の人たちにとって、一杯目の日本酒になる可能性がある商品です。ワクワクする発泡感とわかりやすい甘味がありながら、本格的な味の複雑さも備えている。ギリシャヨーグルトにブルーベリーとおもちを入れたような味わい、とでも言いましょうか。
ワインを模倣するのでなく、日本酒らしさに敬意を
近年、スパークリング日本酒というカテゴリーはますます本格的になってきていますが、多くの酒蔵がフランスの伝統的なスパークリングワインを模倣しようとしているのに対して、泡々酒は実に日本酒らしい味わいを極めています。
そもそも、日本酒をぶどうから作られたスパークリングワインのような味にしようとするのは難しいことです。日本酒の酸度はワインの5分の1ほどですし、シャンパンやクレマンによくある、酵母の澱の熟成から来る風味への親和性は日本にはあまりありません。泡々酒に似ているスパークリングワインがあるとすれば、イタリアのプロセッコでしょうか。酵母の香りがなく、フルーツのアロマが豊富で、ほのかな甘味が感じられるところが共通しています。
多くの酒造メーカーが海外のスパークリングワインに倣おうとしているのは評価すべきことでもありますが、日本酒がぶどうではなくお米でできていることは、誇るべき独自性です。泡々酒は、まさに、日本酒の日本酒らしさに敬意を表したお酒なんです。
デザートの代わりに、またはデザートと一緒に
日本酒をよく知らない人にはぴったりのアイテムなので、ギフトやセミナー、テイスティング教室などに使いやすいのも魅力です。
お気に入りの飲み方は、もちろん冷やして。スパークリングワインを飲むフルートグラスやクープグラスで味わっても楽しいですし、食後のデザートの代わりに、またはデザートのペアリングとして飲むと最高です。いちごを使ったケーキ(パブロバやトライフルなど)のほか、ヨーグルトや新鮮なフルーツと相性抜群だと思います。
丸本酒造は、自社でお米を栽培しており、同社のブランド「竹林」は、100%自社栽培の有機山田錦を使用しています。この泡々酒は食用米を使用していますが、2003年という日本国内でもかなり早い段階で、瓶内二次発酵のスパークリング日本酒としてリリースされ、このカテゴリーの道を拓いたパイオニアです。
丸本酒造は、アメリカで手に入る中でも、とても刺激的なブランドとしていつも楽しみにしています。Keep up the good work, Marumoto-san!
KJ Sakura
サンフランシスコ在住のワイン&SAKEソムリエ。アメリカ初のSAKE専門店「True Sake」に4年務めたのち、名レストラン「Foreign Cinema」のワイン・ディレクターを経て、現在はHôtel Biron Wine Bar & Art Galleryのアートキュレーター兼ワインディレクターを務める。Wine & Spirit Education Trust(WSET)認定SAKEエデュケーター。Masters of Wineの受講生でもあり、ロンドンのInternational Wine & Spirit Competitionの審査員の経験もある。
公式サイト:https://www.kerryjorizzo.com/
Instagram: @sipsommkj
【シリーズ:定番酒への愛を熱く語る】
料理研究家 松原もも:「獺祭 純米大吟醸45」旭酒造(山口県)
WSET Sake エデュケーター KJ Sakura:「泡々酒ストライプ」丸本酒造(岡山県)
会社員 godanism:「奈良萬 純米酒」夢心酒造(福島県)
料理家・酒屋「発酵室よはく」店主 真野遥:「丹澤山 麗峰」川西屋酒造店(神奈川県)
会社員 河島泰斗(わっしー):「群馬泉 山廃本醸造」島岡酒造(群馬県)
「定番酒への愛を熱く語る」シリーズの記事一覧はコチラ
あなたの「定番酒愛」を募集しています!
SAKE Streetでは定番酒への愛を熱く語っていただける方を募集しています。愛飲している定番酒があり、その愛を語りたいかたはぜひ思いの丈を下記フォームからお知らせください!
掲載させていただく場合、所定の原稿料をお支払いいたします。(詳細はフォーム冒頭の説明事項をご参照ください。)
Pickup記事
2021.10.27
話題の記事
人気の記事
2020.06.10
最新の記事
2024.12.24
2024.12.05