アメリカ発!日本酒×ビアカクテル「サケボム」とは?

2023.03

21

アメリカ発!日本酒×ビアカクテル「サケボム」とは?

瀬良 万葉  |  日本酒を学ぶ

「サケボム」という日本酒の飲み方を知っていますか? 日本に住む多くの人にとっては、馴染みのない飲み方だと思います。アメリカの日本料理レストランに行ったことのある人なら、ひょっとすると見かけたことがあるかもしれません。

サケボムは、アメリカのパーティーシーンで生まれた日本酒×ビアカクテルです。今回の記事では、米国月桂冠株式会社社長・松村憲吾さんへのインタビュー内容を交えつつ、サケボムの楽しみ方、サケボムの歴史、アメリカのSAKEシーンにとってのサケボム普及の意義などを紹介します。

「サケボム」ってどんなもの?

「サケボム(SAKE-BOMB)」とは、アメリカで生まれた日本酒の飲み方です。日本ではほぼ知られておらず、日本酒ファンの中にも馴染みのない人が多いかもしれません。しかし、アメリカのパーティーや日本食レストランなどでは、コアな日本酒マニアのみならず、多くの人がサケボムを楽しんでいます。

一般的なサケボムの楽しみ方は、以下のとおりです。

[サケボムの手順]

  1. ビアジョッキに3分の2程度ビールを注ぎ、上に箸をのせる
  2. おちょこに日本酒を注いで、1の箸の上にのせる
  3. 掛け声(Ichi, Ni, San…SAKE-BOMB!)
  4. テーブルをどん!と叩く
  5. おちょこがジョッキ内に落ちたら一気に飲む

参考)Sake Bomb

ご覧のとおり、サケボムはいわゆるパーティードリンクのひとつで、場を盛り上げる「宴会芸」的な側面を持っています。レッドブル入りのグラスにイェーガーマイスター入りのショットグラスを落として飲む「イェーガーボム」にも似ていますね。

※サケボムの手順は上記のとおりですが、短時間のうちに多量の飲酒(一気飲み)をすると血中アルコール濃度の急激な上昇につながり、急性アルコール中毒の原因となります。一気飲みは絶対にしないようにしましょう。また、一気飲みを強要した場合、刑法上の責任(傷害罪)を問われることもあります。

サケボムの誕生と普及の歴史

さて、そんなサケボムはいったいどのような経緯で誕生し、普及してきたのでしょうか。

「サケボムは『ビアポン』という遊びから発展したと考えられます」

こう教えてくれたのは、1989年の設立以来アメリカのSAKEシーンを見つめ続けてきた米国月桂冠の松村憲吾社長です。

ビアポンは、1950〜60年代にアメリカの大学生たちが始めた、ビールを使った遊びです。テーブルの両端にビール入りのカップを置いてチーム同士でピンポン玉を投げ入れ合い、すべてのカップにピンポン玉を入れたほうが勝つというルール。自分のカップにピンポン玉を入れられてしまったら罰ゲームとしてお酒を飲むのが定番で、アルコールを飲み始めたばかりの若い世代が、仲間たちと楽しむものでした。

参考)ビアポンとは | 日本ビアポン協会 | ビアポン | Beer Pong
※その後ビアポンはスポーツに発展して世界に広まり、日本にもビアポン協会が存在します

1980年代に入ると、ビアポンは「ベイルート」(レバノンの首都)という名称でも呼ばれるようになります。当時はちょうどレバノン内戦の真っ只中で、ベイルートは特に激しい戦いの場でした。ピンポン玉をカップの中に落とす様を「爆弾(ボム)を落とす」ことに喩えて、ベイルートという名がついたのかもしれません。

松村さんによると「サケボム」の「ボム」も、この比喩表現の延長線上にあるのではないかとのこと。おちょこがビールの中に落ちて一気に泡が立つ様は、確かに爆弾を落としたようにも見えます。

日本酒が「ボム」として使われ始めたのは、アメリカで日本酒が広まり始めた1980年代と重なります。ビアポンと同じように、サケボムも、学生などの若者がパーティーシーンで楽しむドリンクとして広まりました。

イェーガーボムのように、ほかの「ボム」がつくドリンクに使われる「ボム」には度数が高い酒が選ばれることが多く、アルコール15%程度の醸造酒を用いるサケボムは特殊なケースでもあります。これは当時アメリカで日本酒が中国の白酒などと混同された結果、度数の高い蒸留酒と誤解されていたことが背景にあると考えられます。また、流通環境が整っていなかった当時は、状態の悪い日本酒が多かったとも考えられ、あまりおいしくない酒の味わいをごまかす手段として使われていたとも推測できます。

このように、ビアポン(=ベイルート)の罰ゲーム的な飲み方から発展し、おもに学生や若者のパーティーで広まってきたサケボムですが、映画のタイトルにもなりました(「Sake Bomb」)。

日本酒そのものの価値がアメリカ国内で認められるようになった近年、サケボムの存在感は少しずつ減ってきているものの、今でもドリンクリストにサケボムを揃える和食・アジアンレストランは存在します。

サケボムが日本酒の裾野を広げた

サケボムは、日本における伝統的な日本酒の飲み方とは大きく異なるものです。日本を代表する酒造メーカーとしてサケボムをどのように捉えているのか、松村さんに訊きました。

「まずシンプルに、サケボムは美味しいビアカクテルなんです。酒造メーカーという立場上、サケボムは日本酒ベースのドリンクだと考えてしまいがちですが、実際は『ビールをもっと美味しくする飲み方』といったほうが適切だと思います。ビールの苦味やコクがさらっとして、すっきり楽しめる。爽やかな飲み心地が、アメリカの気候にも合っているような気がします」

さらに松村さんは、酒造メーカーとして、サケボムの普及はうれしいものだと語ります。

「サケボムは何より、文化として楽しいですよね。中には『景気づけ』としてサケボムを楽しむ人々もいるんですよ。このようにアルコールを楽しむシーンで日本酒が使われるようになったのは、日本酒そのものが浸透している証拠であり、喜ばしいことだと思います」

アメリカのSAKEシーンが急速に発展しつつある今、業界内でも協力しあい、日本酒の楽しみ方を多くの人に広めていく必要があると松村さんは考えています。

サケボムは、日本酒の存在を知らなかった人たちが、日本酒に出会う可能性を広げてくれました。中にはバージニア州にあるクラフト醸造所・North American Sake Breweryのように、自らサケボムをメニューとして売り出す生産者もいます。

こうした動きを見て私が思い出したのは、アメリカのクラフトビール文化です。クラフトビールの造り手は、自由な発想でいろいろな原料を混ぜておいしいビールを造ります。アメリカでは、自家醸造も盛んですし、こういった自由でフラットなアルコール文化を持つ国だからこそ、サケボムという飲み方が生まれたのではないでしょうか」

日本酒を愛する人の中には、サケボムを見て「せっかくのお酒がもったいない」と感じる人もいるかもしれません。しかしサケボムは、日本酒を「知識がないと楽しめない、敷居の高い飲み物」ではなく、「誰にでも楽しめる自由な飲み物」として海外に広めてくれた、ありがたい存在でもあるのですね。

まとめ:「飲み手」から発展するSAKE文化

今回の記事では、アメリカで生まれた「サケボム」について、飲み方や歴史、日本の造り手から見た普及の意義を見てきました。

米国月桂冠・松村さんへのインタビューの中で印象深かったのは、アメリカでは「飲み方はこうあるべき」という考え方を持つ人がほとんどいないというお話です。日本酒発祥の国である日本では「正しい飲み方」や「伝統的な飲み方」にどうしてもとらわれがちですが、海外の自由な楽しみ方から学ぶことで、日本酒の新しい美味しさに出会えるかもしれません。

アメリカでは年々SAKEを造るクラフト醸造所が増えていますが、松村さんも、メーカーが飲み方を規定する従来のあり方とは違った、「飲む人起点」のSAKE造りに可能性を感じているとのこと。これから広がる新しい日本酒・SAKEの世界が楽しみですね。

※短時間のうちに多量の飲酒(一気飲み)をすると血中アルコール濃度の急激な上昇につながり、急性アルコール中毒の原因となります。一気飲みは絶対にしないようにしましょう。また、一気飲みを強要した場合、刑法上の責任(傷害罪)を問われることもあります。

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