2022.09
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「亀の尾」ってどんな酒米? - 味わい、系譜、生産地などの概要を知る。漫画『夏子の酒』にも登場!
日本酒の漫画『夏子の酒』にも登場した「亀の尾」とは?味わい、系譜、生産地などの概要を知る
近年、原料米として名前をよく見かけるようになった「亀の尾」。日本酒漫画『夏子の酒』(尾瀬あきら)をきっかけに知った人も多いかもしれません。知る人ぞ知る人気の品種ですが、実は飯米であり、酒米ではないことをご存知ですか?今回は亀の尾について、特徴や系譜、産地などを紹介します。
亀の尾とは?
名前の由来
今から100年以上前の1893年、熊谷神社(山形県東田川郡庄内町)へお参りに来ていた米農家の阿部亀治氏が、冷害のなか元気に実を結んでいる3本の稲穂を発見しました。その年の山形県は稲作が不良で、ほとんどの稲が倒れているような状況だったのです。阿部氏はこの状況を打開するため、3本の稲を持ち帰り、研究を重ね、品種改良と量産に成功します。この米は、阿部氏の名前から「亀」をとって「亀の尾」と名付けられました。
幻の米となる
その後も米の品種改良に取り組み続けた阿部亀治氏は、大正から昭和にかけていくつかの名誉ある賞を受賞しました。そして亀の尾はその後、各地での品種改良を経ながら東日本へと拡大していきます。やがて酒造りにも使用されるようになり、一時は「西の雄町」「東の亀の尾」と呼ばれるほど有名になっていました。しかし、1925年頃にピークを迎えた後は、さらに改良の進んだ新品種が登場するにつれて徐々に作付面積が減っていきます。戦前には各地の奨励品種として挙げられなくなり、1970年代にはついに栽培が途絶えてしまいました。
日本酒漫画『夏子の酒』の登場で話題に
時は流れて、1988年。講談社の雑誌『モーニング』にて『夏子の酒』という漫画が連載を開始しました。東京で働く主人公・夏子が、兄が病気で倒れたのをきっかけに帰省し、実家の酒蔵を継いで幻の米「龍錦」を復活させ酒を造るという物語です。
この酒蔵のモデルは、新潟県長岡市にある老舗、「清泉」を醸す久須美酒造。実は、久須美酒造の6代目当主氏は、漫画に登場する幻の米「龍錦」のように、亀の尾の復活のために奮闘していた人物なのです。『夏子の酒』をきっかけに、再び亀の尾は話題に。この漫画は1994年になるとドラマ化もされ、徐々に亀の尾の知名度は高まっていきました。
亀の尾の系譜
誤解されやすいが飯米であり酒米ではない
日本酒漫画で取り上げられたこともあり、亀の尾は酒米(酒造好適米)であると誤解されることが多いのですが、実は飯米です。今では日本酒の原料として利用されることが多いですが、当初は飯米として普及していました。亀の尾は、数々のブランド米のルーツとなっています。
亀の尾は山形県で阿部亀治氏に発見・改良されて以降、美味しい食用米として知られていました。ところが、同じく三大水稲品種である「陸羽20号」との交配によって「陸羽132号」が誕生してからは、トップの座を譲ることとなります。
その後、「陸羽132号」を通じて「亀の尾」の優れた遺伝子は引き継がれ、「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「ササニシキ」「はえぬき」「つや姫」といった日本を代表するブランド米を生み出してきました。このような系譜を考慮すると、亀の尾が日本の美味しいお米のルーツであると言うこともできます。
亀の尾の産地
代表的な産地は山形県
亀の尾の代表的な産地は、発祥の地でもある山形県です。山形県では、誕生から昭和3年までの20年間、亀の尾が作付品種としてトップに君臨していました。そして平成22年になると、亀の尾をルーツとした、山形県を代表するブランド米、「つや姫」が誕生します。つや姫は名前の通り、色艶が優れており、甘味と旨味をバランスよく兼ね備えたお米です。
そのほかの産地
山形県以外でも亀の尾は栽培されています。例えば、『夏子の酒』のモデルとなった酒蔵・久須美酒造は、新潟県にある酒蔵。現社長である久須美記廸氏は、亀の尾の種もみを探し出し、そこから栽培した米を使って「亀の翁」という銘酒を誕生させました。「亀の翁」は口に含むとフルーティーな香りが広がり、切れ味が良く、すっきりとした印象のお酒です。
また、宮城県石巻市では、日本酒として使用するために亀の尾の全量契約栽培がおこなわれています。岩手県の菊の司酒造「純米生原酒 菊の司 亀の尾仕込み」は、この亀の尾が持つ米の旨味をしっかりと引き出した純米酒です。無濾過生原酒であるため、亀の尾が醸し出す旨味をダイレクトに感じることができます。
まとめ
今回は、亀の尾について、特徴や系譜、産地などについて紹介しました。日本酒に使用されることの多い亀の尾は、酒米と勘違いされることが多いですが、もともとは飯米として普及した品種です。新品種の登場により、一時は幻の米として消えてしまったこともありました。しかし日本酒漫画『夏子の酒』をきっかけとして再び注目を浴びるようになり、現在では飯米としてもお酒としても味わうことのできる品種となりました。そんな亀の尾のルーツに思いを馳せながら、お酒と飯米の両方でその味を楽しんでみてはいかがでしょうか?
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