日本酒を国がランク付け - かつて存在した「一級酒/二級酒」そして日本酒の等級制度とは?

2022.08

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日本酒を国がランク付け - かつて存在した「一級酒/二級酒」そして日本酒の等級制度とは?

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

お酒のラベルに書かれた「上撰」「佳撰」という言葉を見かけたことはありますか?実はこれは1940年から1992年まで存在した、日本酒の等級制度(「級別制度」)における分類体系の名残です。

この等級制度は、戦争の米不足をきっかけとして制定されましたが、1992年に廃止となるまで消費者がお酒を買う際の基準として長く浸透していたものでした。この記事では、当時設けられていた等級制度の内容や、導入された経緯、廃止された理由、そして現在はどのような制度に変わったのか、ご紹介します。

等級制度の歴史 - 戦争と酒税と米相場

明治後半から大正前半にかけて、政府の財源である国税収入額の第1位は「酒税」でした(※1)。たとえば1894年の日清戦争、1904年の日露戦争では、戦費の多くが酒税により賄われていたと言われています。そして時代が進むなかで、1937年から日中戦争、そして1941年から太平洋戦争へと突き進むにつれて、日本酒市場の環境も大きく変化していきました。

日本酒の原料である米は、軍需や旱魃の発生によって供給が不足し、米市場も混乱を極めました。そうしたなか、日本酒も1939年には価格等統制令により公定価格が制定され、1943年には配給制となります。生産量も抑制され、需給バランスが崩れたことで「金魚酒」などの粗悪品が横行しはじめてしまいました(※2)。

(※1)1899年〜1903年および1909〜1917年において、酒税が国税収入額の第1位
(※2)金魚酒:「金魚が泳げる」と言われるほどに水で薄めて、量をかさ増しした酒のこと

これを受けて政府は1940年に、日本酒市場を立て直し、より多くの酒税を徴収するために酒税法を改正します。同時に制定された「価格等統制法」ではアルコール度数と原エキス分(糖類等、不揮発性成分の割合)をもとに日本酒を分類し、それぞれに応じた公定価格が設けられました。

日本酒の等級制度は、このときの分類がもととなり、1943年に生まれました。この年の酒税法改正で、国税庁が監査して定めた等級ごとに酒税の割合が定められたのです。この等級は、消費者の購入基準として広く浸透していきます。

1940年の時点では並等・中等・上等の三段階に分類されていましたが、等級の数は時代の変化とともに増減していきます。もっとも一般的なのは、戦後から用いられるようになった特級、一級、二級の区分です。

参考:
税務大学校「租税史料 酒税が国を支えた時代 2.国税の第1位へ」(国税庁ウェブサイト, 2022年8月4日閲覧)
商工省・大蔵省告示第1号「清酒其他ノ販賣價格指定等」(官報 昭和十五年四月一日, p.48)
酒税法中改正法律・御署名原本・昭和十八年・法律第六六号」(国立公文書館デジタルアーカイブ, 2022年8月4日閲覧)

等級の基準や審査方法

等級の基準と酒税

戦後の等級制度では、各等級の基準は、以下のように定められていました。

  • 「特級」は品質が優良なもの
  • 「一級」は品質が佳良なもの
  • 「二級」は特級および一級に該当しないもの、または審査を受けていないもの

また1963年5月までは、日本酒の価格安定化を図るため、級別に公定価格が設定されていました。酒税の額も、等級が上になるほど高く、下になるほど低くなっており、1964年に日本酒の販売価格が自由化されたあとも、酒税額に差がある状況は続いていました。

等級の審査方法

等級の審査は、国税庁の酒類審議会による官能検査によって行われていました。酒蔵は特級や一級として販売する予定のお酒のサンプルを提出し、学識経験者などで構成される級別審査を受けるという仕組みです。

審査の方法は、きき酒により、お酒の味、色、香りをチェックすることで合否の判定がなされ、色が付いていると減点、香りや味に欠点があると減点といった減点法が用いられました。一定の点数以下は不合格とされます。

しかし色があるだけで不合格になったり、また個性的な味や香りを持つものも不合格になってしまったり、ということも起こっていたため、必ずしも「消費者が飲んだときの美味しさ」とは一致していなかった側面がありました。

参考:奥田教広「清酒の級別審査の由来」(日本釀造協會雜誌, 55巻7号, 1960)

等級制度はなぜ廃止された?

酒蔵の等級離れと消費者からの反発

こうした背景から、等級制度は税務上の分類でしかなく、日本酒の品質の良し悪しとは関係ないとしてこの制度を疑問視する声が徐々に高まりました。そんななか、酒蔵のなかには等級制度を拒否するところも出はじめ、品質の高い酒でもあえて監査を受けずに税額の安い二級酒扱いとする「無鑑査酒」を販売しました。

特に宮城県の一ノ蔵の商品で、現在もロングセラーとして販売されている「一ノ蔵 無鑑査」は有名で、「等級制度廃止のきっかけになった」商品として知られています。

このように、二級酒なのに品質や値段がより上級なお酒よりも高い商品が増えたことで、等級制度下における市場バランスが完全に崩壊し、等級制度は徐々に形骸化していきました。

「特定名称酒」の導入と等級制度の廃止、「上撰」などの登場

そんななか、日本消費者連盟による等級制度の告発を受けて、1990年に等級制度に替わる新しい分類体系である「特定名称酒」制度が導入されました。

特定名称酒制度では、原材料や製造方法、さらには精米歩合(※3)や醸造アルコール(※4)添加有無などにより以下のように区分されました。

特定名称醸造アルコール吟醸造り精米歩合
純米大吟醸不使用50%以下
純米吟醸不使用60%以下
特別純米不使用-60%以下 または 特別な製造方法
純米不使用--
大吟醸使用50%以下
吟醸使用60%以下
特別本醸造使用-60%以下 または 特別な製造方法
本醸造使用-70%以下

(※3)精米歩合とは、米の精米の程度を表したもの。数値が低いほど、雑味等の原因となる米の外側部分を多く削っている。
(※4)醸造アルコールとは、おもにサトウキビを原料として醸造・蒸留された食用アルコールで、添加することにより軽快な味わいと華やかな香りが引き出される。

1992年には3年間の経過措置が終了し、等級制度が廃止されました。現在、日本酒のラベルに記載されている「上撰」「佳撰」といった言葉は、等級制度の廃止後に各酒蔵が独自に、それぞれ「一級」「二級」に対応したグレードのお酒であることを示しているものです。批判もあったとはいえ、日本酒の購入基準として広く浸透していた等級に近い目安として、消費者がお酒を選びやすくなるように各酒蔵が設定したものだったのです。

参考:一ノ蔵無鑑査オフィシャルサイト「一ノ蔵無鑑査について」(2022年8月4日閲覧)

まとめ

かつて日本に存在していた、日本酒の等級制度についてご紹介しました。

戦争による米不足をきっかけとして乱れた酒市場を立て直すために導入され、広く浸透した等級制度。しかし品質の高さと等級・価格の高さが必ずしも一致しない点について、次第に消費者からの不満が高まったことで崩壊していきました。

現在では特定名称という新しい制度に変わり、原料や製造方法などによって分類されています。等級制度に親しんだ飲み手が減るにつれて、ラベルに書かれる「上撰」「佳撰」といった言葉も次第に減ってきています。もし見かけた際には、その言葉の歴史的な背景も知ることで、いっそう味わい深く感じられるかもしれません。

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