2022.07
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ユニークな商品を生む秘訣は? 新興の醸造機器メーカー、キクプランドゥーの開発現場に迫る
広島県広島市で、清酒醸造機器をはじめとする各種機器・設備の設計や製作、販売を手がける有限会社キクプランドゥー。「衛生かい棒」や「うす〜い疑似米布」など個性的な商品を次々と生み出し、SNSでも話題になっています。そんなキクプランドゥーのユニークかつ便利な商品は、いかにして開発されているのでしょうか。代表取締役社長の菊田 壮泰(きくた たけひろ)さんに、広島市内にある事業所を案内していただきながら、開発秘話を伺いました。
「自宅の工作室」から始まったキクプランドゥーの歴史
キクプランドゥーは1998年、広島の閑静な住宅街で産声を上げました。創業者は、今回お話を伺った菊田壮泰さんの父、菊田和典さんです。自宅に設けた「工作室」を拠点に設備関係の事業を展開し、ソースメーカーなどの地元企業を支えてきました。
事業拡大に伴って自宅の工作室が手狭になると、近隣に2軒目、3軒目の家を手に入れて業務スペースを拡大します。外から見るとどれもごく普通の一軒家ですが、ドアを開ければそこはまさに「ものづくりの現場」。キクプランドゥーの歴史は、まるで秘密基地のようなこの場所で刻まれてきたのです。
2021年以来社長を務める菊田さんが、キクプランドゥーに入社したのは2011年のこと。その後、2016〜2017年ごろから醸造機器の自社開発に取り組むようになります。
キクプランドゥーが開発するオリジナル商品「KPDシリーズ」には、大きく分けて2つの特徴があります。1つめは、業務用洗剤メーカーに勤務していた菊田さんの経験を活かし、衛生面に配慮した商品であること。そしてもう1つは、どの商品も非常に個性的で、まさに唯一無二の商品であることです。
ユニークなのは商品だけではありません。キクプランドゥーでは、働く人もみな個性的です。
「なにか1つ、飛び抜けた才能をもったメンバーばかりなんです。いろんな能力を5段階評価すると、1と10ばかり並んでしまうような(笑)。1や2の項目はほかのみんなで補い合って、結果的にはバランス良く9や10が並ぶというわけですね」
菊田さんはそう言いながら作業場や事務所を巡り、リスペクトに満ちた表情でメンバーを一人ひとり紹介してくれました。
見事な精度で旋盤を扱う職人中の職人、宮本さん。あらゆる技術に知見を持ち、それを惜しみなく発揮する技術責任者の松尾さん。企画から制作まで、クリエイティブ領域を一手に担う専属デザイナーの田村さん。そして菊田さん曰く「大黒柱」として会社の根幹を支える、事務スタッフのみなさん。
醸造機器の開発には、醸造経験者の知見も活かしています。酒蔵出身のメンバーもいるほか、「半醸半Do」といって、年の半分は酒蔵で醸造に携わり、あとの半分はキクプランドゥーで働く、という取り組みをいくつかの酒蔵と共同で行っています。
多彩な人々がさまざまなやり方で、自分の得意分野を活かしているのです。
キクプランドゥー生まれのユニークな商品たち
これまでリリースされてきたキクプランドゥーオリジナル商品「KPDシリーズ」のうち、一部を簡単にご紹介します。
サニタリーポンプシリーズ
分解して各パーツをしっかり洗浄できる衛生的なポンプです。「つぶさず送れる」「優しく送れる」「たくさん送れる」「力強く送れる」と4つのタイプが用意されており、目指す酒質や使用場面に合わせて選べます。タイプごとにオリジナルのマスコットキャラクターがいて、なんとポンプ本体にもそれぞれのキャラクターの顔が描かれています。
シーンに応じて使い分けられるだけでなく、使わないときも清潔を保てる。小ロット多品種の生産が普通になった現代の酒造り現場にぴったりの製品です。
衛生かい棒
水より軽いポリプロピレンのかい先と、きわめて薄いステンレス製のかい棒を組み合わせてできたかい棒です。かい先とかい棒を分解して洗えるので、清潔を保てます。
カスタマイズ性の高さも大きな特徴で、かい先は9種、かい先の脱着方法は2タイプを用意。さらに手持ち棒の長さは自由、太さも2段階あり、仕込み環境に合わせて棒を延長できるパーツまであります。
かい先のバリエーションは今も増え続けていて、最近は酒蔵出身の新人社員の手で「酛摺り用ヘッド」を新開発しました。
身長の高低差を考慮してかい先の角度を2タイプ取り揃えるなど、細やかな配慮が魅力です。
「KPDの衛生かい棒」カタログ
「KPDの衛生かい棒」新型かい先のご案内
バッチ式自動瓶燗・急冷システム ヒートリード
細やかな温度管理と対流コントロールによって、思い通りの瓶燗火入れを実現する機器です。希望する火入れ条件をタッチパネルで設定し、自動運転中はその場を離れることが可能。温度データの履歴が記録されるので、最適な条件の探求にも役立ちます。
清酒だけでなく、リキュールや甘酒など多様な酒を扱えます。打栓した状態でも瓶燗可能であることに加え、細やかな温度管理により生酒のフレッシュさを閉じ込めることも可能です。
火入れが効率化して再現性が高まるのはもちろん、火入れ条件の違いで1つの生酒から複数の味わいを引き出すこともできます。酒造りの可能性を広げる、未来の瓶燗設備です。
※特許取得済
「バッチ式自動瓶燗・急冷システム ヒートリード」カタログ
うす〜い 擬似米布
甑で米を蒸すとき、甑に直接触れる部分の米がべた付くことを防ぐために底部に敷かれる「擬似米」。通常はプラスチックの粒でできていますが、こちらの商品は「布でできた擬似米」です。複数枚を重ねて使う仕組みで、1人でも設置できるよう設計されています。
熱にも洗剤にも強いテトロン素材でできており、洗濯機で楽に洗えます。さらに水を吸いにくい素材なので、乾きやすいのも嬉しいところです。
「扱いが楽で衛生的」「仕込み量が増やせる」「蒸米の質も向上したみたい」とSNSを中心に話題になり、2021年だけで100蔵以上に導入されました。
個性あふれる名品を生み出す、キクプランドゥー流の商品開発
ほかのどこを探しても見つからない、ユニークかつ「かゆいところに手が届く」名品をいくつも生み出してきたキクプランドゥー。こうした商品は、どうやって生まれているのでしょうか。
「完成」を決めるのはお客様。決して自分たちではない
「自分たちが作りたい商品を設計して製造したら完成と言うのは、違うと思っています。完成を決めるのは、メーカーではなくお客様。実際に商品が使われる現場からOKが出て、はじめて完成だと言えるんです。そういう意味では、キクプランドゥーにはまだ1個も完成した商品はありません」
そんな菊田さんの言葉どおり、一度リリースした商品を何度もなんども改良し続けるのがキクプランドゥー流。初期に商品を導入した顧客に対してはアップデートのたびに入れ替えを案内するなど、ソフトウェアやアプリケーションの開発に似た方法で機器・設備を提供しています。
商品だけでなく、カタログもユニークなキクプランドゥー。このカタログも商品と同様、何度も作り替えられています。商品を改良するだけでなく、それを表現する言葉やビジュアルも改良し、あらためて発信するのです。「作っただけでは意味がない、お客様に届いてはじめて意味がある」。そんな菊田さんの哲学が、ここにも現れています。
現場の小さなつぶやきを、チームで大きく膨らませる
キクプランドゥーの機器・設備は、醸造に関わる人々に高く評価されており、口コミを聞いて導入を決める酒蔵も少なくありません。これは、キクプランドゥーの商品が醸造現場の隠れた課題を見つけ、見事に解決している証ともいえます。
菊田さんによると、顧客ニーズを見つけるコツは、「これ、ちょっと面倒なんだよね」といったお客様のちょっとしたつぶやきも決して聞き漏らさず、拾い上げることだそう。創業以来、数々の現場と関わる中で培ってきた「聞く姿勢」が、今も活かされています。
「どんなに小さい悩みごとでも、解決不可能に思われることでも、とにかく深堀りして聞いてみる。そして会社に持ち帰り、周りのメンバーに相談してみるんです。するとチームの中でアイデアが膨らんでいき、『こんなふうに解決できるんじゃないか』という具体策が出てきます」
そんなアイデアを具体化できるのは、内製にこだわり、各分野のエキスパートが揃うチーム体制のおかげです。
菊田さんはこう語ります。
「ものづくりの達人が社内に揃っているので、アイデアが出たら即、そこにある作業場で形にできるんです。そうやってまずはテスト機を作り、お客様の醸造現場に持ち込んで、試していただきます。そして、よかった点も悪かった点も聞き尽くして改良しながら、お客様と共に完成を目指します。思いもよらないヒット商品が生まれるのは、こうしてご協力いただける酒蔵さんと、メンバー一人ひとりのおかげです」
現場との丁寧なコミュニケーションと、社内の密なチームワーク。この組み合わせが、キクプランドゥーの個性的な商品を生み出しているのです。
「ワクワク」を重視。どんなアイデアも本気で形にする企業文化
遊び心にあふれる商品づくりにも定評のあるキクプランドゥー。各メンバーが抱く「ワクワクする気持ち」を大事にして商品開発にのぞんでいるそうです。
「実は私も社長就任当初、会社のことを考えるとお腹が痛くなる時期もありました。でも、ユニークな人たちがたくさん社内に入ってきてくれて、彼ら、彼女らの様子を見ているうちに、仕事のやり方を学んだんです。『こうでないといけない』ではなく、『こういうのもありなんじゃない?』という遊び心が、いいものを生み出すのだと」
そう語る菊田さんが特に信頼を寄せるのは、もともとは大手広告代理店でデザインの仕事を手掛けていた、デザイナーの田村さん。5年前に入社した田村さんは、サニタリーポンプのマスコットキャラクターや社員を模したオリジナルキャラクターをデザインし、愉快でわかりやすいカタログやパンフレットの制作を一手に引き受けるなど、現在のキクプランドゥーのブランド形成に大きく寄与しました。
「たとえばポンプに顔をつけた件。思いついた私本人も馬鹿げたアイデアだと感じましたが、とりあえず隣にいた田村に言ってみたんです。するといつのまにかキャラクターがデザインされていて、『意外といいじゃん』と。どんなに突飛なアイデアも笑い飛ばさず、本気で具現化してくれる人がたくさんいる。本当にありがたいことです」
とりわけコロナ禍になって、田村さんの存在が支えになったと菊田さんはいいます。あんなに重視してきた現場への訪問が困難になり、仕事のやり方を変えざるを得ませんでした。しかしそのとき、田村さんという表現のプロが傍にいたおかげで、「今は買ってもらう時期ではなく、知ってもらう時期なんだ」という覚悟が決まったそうです。
そして発信に力を入れた結果、キクプランドゥーの名前はSNSなどを通じて大きく広まりました。また、「醸造業界に専念してやっていこう」という経営方針も、自社製品の、ひいては自社の魅力を伝えようとあれこれ考えるうちに固まったのだとか。
「実は最近、田村だけでなく、パートの女性たちもパンフレットのデザインに携わりはじめたんです。ワクワクすること、面白いことを大切にする雰囲気があると、新しいことにチャレンジしようと思えるのかもしれません。これからも既存のイメージや枠組みにとらわれることなく、お客様の声をしっかり聞きながら、まだ見ぬ『完成品』を目指してチームで挑戦し続けたいですね」
まとめ
キクプランドゥーは、間違いなく新時代の醸造を支えていく、これからの醸造機器メーカーです。ほかのどこでも作られていない、とてもユニークなキクプランドゥーの商品は、「お客様の話を丁寧に聞く」「メンバーが各自の得意なことを活かす」という基本的な姿勢に、「ワクワクすること、面白いことを本気でやる」というスパイスを加えて作られていました。
そんなキクプランドゥーは2023年、新たなステージを迎えます。現在保有している3軒の「家」に加えて、ついに正式な組立加工場を持つことになったのです。
菊田さん曰く、これまでの9倍の広さを持つ組立加工場への進出は、ホップ・ステップ・ジャンプのうちの「ステップ」だとか。この一歩を経てキクプランドゥーはどのように羽ばたき、その先にどのような「ワクワクする酒造り」が実現するのか。近い将来やってくる酒造りの世界が、楽しみでなりません。
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