「吟吹雪」とは? - 環境にやさしい滋賀県生まれの酒米の特徴・歴史を徹底解説!

2026.06

09

「吟吹雪」とは? - 環境にやさしい滋賀県生まれの酒米の特徴・歴史を徹底解説!

新井 勇貴  |  日本酒を学ぶ

日本一の面積を誇る湖・琵琶湖を有する滋賀県生まれの酒米「吟吹雪(ぎんふぶき)」は、これまで同県において数多くの銘酒を生み出してきました。栽培のしやすさに加え、吟醸酒向きという特性を持ち、1999年(平成11年)の登録以来、県を代表する酒米として滋賀の酒造りを支えています。

本記事では昭和後期、多様化する消費者ニーズに応えるために誕生した吟吹雪の特徴、そして近年の環境変化に対応する最新の取り組みを紹介します。

吟吹雪とは?

画像引用元:ふるさとまいばら「滋賀県発!酒造好適米『吟吹雪(ぎんふぶき)』とは?」
画像引用元:ふるさとまいばら「滋賀県発!酒造好適米『吟吹雪(ぎんふぶき)』とは?」

吟吹雪は滋賀県農業試験場(現:滋賀県農業技術振興センター)が1984年(昭和59年)に開発した酒造好適米です。

滋賀県では、1954年(昭和29年)に愛知県農業試験場で交配された「玉栄(たまさかえ)」が1966年(昭和41年)に県の奨励品種に採用されており、酒造好適米として一定の流通評価のもと順調に作付けを増加させていました。

玉栄は収穫量が多く、溶けやすいといった特徴を持っていましたが、酒造適性は「山田錦」と比較するとやや劣り、特に心白発現率の低さから吟醸酒への適性が低いという課題を抱えていました。

こうした課題を解消することを目標に開発された品種が吟吹雪です。吟吹雪は背丈が短いため倒伏リスクが低く、心白発現率が高いという、玉栄の栽培特性と山田錦の酒造適性を兼ね備えています。

一方、出穂(しゅっすい)するまでに少しでも葉色が落ちてしまうと、収量が激減してしまうという欠点もあります。そのため、出穂前後の追肥のタイミングが収穫量を確保するために重要となります。

吟吹雪は滋賀県知事の認定を受けた「環境こだわり農産物」に指定されており、その多くは化学農薬・肥料の使用を制限するなど、環境への負荷を軽減する技術で栽培されています。

吟吹雪の歴史

棚田のイメージ画像

吟吹雪が登場した背景の一つに、1960年代後半から始まった米の余剰が挙げられます。滋賀県内ではより食味の高いコシヒカリが急増し、「日本晴(にほんばれ)」に次いで多く作付けされるようになりました。

その結果、1989年(平成元年)には県内作付け面積の9割弱をこの2品種が占めるようになり、気象災害や病害虫による被害リスクが高まっていきます。

一方、米流通の中で各都道府県産地は生き残りをかけて、地域特産品の開発に注力。滋賀県においても優れた食味を持つ品種や、加工がしやすい品種の育成が強く求められていました。

飽食の時代と呼ばれるようになるにつれ、消費者の食ニーズが多様化していた時代。こうした流れは日本酒業界にも波及します。大吟醸、純米酒、本醸造といった消費者の嗜好にあった酒質を実現させるためにも、県内において新品種に対する期待が高まっていったのです。

それまで滋賀県内で酒造好適米として使用されていた玉栄は比較的栽培しやすく、質の良い米が多く収穫できるという特徴を持っていますが、心白発現率の低さから吟醸酒などの用途に使われることはほとんどありませんでした。

一方、酒米の王様とも称される山田錦は長稈で倒伏リスクが高い上に、脱粒(だつりゅう)(※)しやすいなど、栽培条件に課題を抱えていました。

※脱粒:植物の種子や果実が成熟に伴って自然に、または外部からの力で、茎や軸から離れ落ちる現象。

そこで、当時の滋賀県農業試験場は1984年(昭和59年)、玉栄の栽培特性を持ち、山田錦の酒造適性を兼ね備えた品種を目的に、両品種の交配に着手したのです。

1989年(平成元年)、選抜された1系統に収量試験番号「大育酒685」の系統名を付け、1990年(平成2年)に奨励品種決定予備調査に供試。1992年(平成3年)、1993年(平成4年)に実施された現地調査の結果、玉栄との比較において次のような結果を残しました。

  • 成熟期は9日遅い、中手の晩
  • 稈長は6cm長く、やや長稈、偏穂重型の草型を示す
  • 山田錦と比較して多収
  • 玄米千粒重は26g前後(玉栄より軽く、山田錦並み)
  • 心白発現率は良好(年次・地域によっては心白流れが散見)
  • 吟醸酒適性が高い

こうした評価の結果、1991年(平成3年)の奨励品種決定本調査にて有望と認められたため「滋賀酒56号」の系統名を付け、1993年(平成5年)に試験を終了しました。

1998年(平成10年)には、心白を吹雪が舞っている様子に例え、吟醸酒向けの米という意味を込めて吟吹雪と命名。1999年(平成11年)3月17日に品種登録されるに至りました。

吟吹雪の系譜

滋賀県のオリジナル酒米である吟吹雪は1984年(昭和59年)、母方を「山田錦」、父方を「玉栄(たまさかえ)」とした交配によって誕生しました。

もともと愛知県農業試験場で誕生した「玉栄」ですが、現在は滋賀県と鳥取県を中心に栽培されており、両県を代表する品種として使用されています。

吟吹雪はその後、1997年(平成9年)に誕生した山形県を代表する酒米「出羽燦々(でわさんさん)」と交配し、「出羽の里(でわのさと)」を生み出しています。吟吹雪の孫品種には出羽の里と「蔵の華」との交配によって誕生した「雪女神(ゆきめがみ)」があります。雪女神は山形県初となる大吟醸向け品種として育成されました。関西地方の滋賀県で開発された吟吹雪が、東北地方の山形県の酒質に影響を与えているのです。

吟吹雪の産地と生産量

琵琶湖のイメージ画像

現在、吟吹雪の栽培は開発元である滋賀県でのみおこなわれています。

2023年度(令和5年度)の実績では、吟吹雪は207トンを生産し、同県の山田錦696トン、玉栄247トンに次ぐ第3位の生産量となっています。県内生産量に占める割合は約15%です。

滋賀県は琵琶湖をはじめとする環境への負荷を軽減することを目的に、化学合成農薬、化学肥料の使用量を従来の5割以下に削減する「環境こだわり農産物認証制度」に取り組んでいます。食用米だけではなく、酒造好適米についても適応されており、吟吹雪の多くは本制度に沿って栽培がおこなわれています。

しかし、近年の栽培期間の高温化に伴い、収量の減少、そして白未塾粒増加といった問題も発生しています。

こうした状況を背景に、滋賀県では現在、吟吹雪を母、「吟おうみ」を父として、高温条件下でも収量、品質に優れ、安定した生産が可能となる新品種「滋賀酒85号」を育成しています。

まとめ

滋賀県を代表する酒米として発展してきた吟吹雪は、玉栄の栽培しやすさと山田錦の酒造適性をあわせ持つ、バランスの良い品種です。高い心白発現率とほどよい溶けやすさから、繊細で香り高い吟醸酒づくりに向いており、県内酒蔵からの信頼も厚い存在となっています。

一方で、近年の高温化による収量・品質への影響が課題となりつつあり、県では後継品種「滋賀酒85号」の育成が進められています。

滋賀の風土が育んだ吟吹雪は、これからも地域の酒文化を支える品種として進化を続け、滋賀酒の未来に確かな可能性をもたらしてくれるでしょう。

参考文献

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