2022.11
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「酒屋」って何をしているの? 日本酒専門店を開きたい人のために始め方も解説!
「酒屋(酒販店)」はその名のとおり、お酒を売るお店です。街の酒屋さんで日本酒を買ったことのある方も多いでしょう。しかし、「お酒を売る」以外に酒屋がやっている仕事や、業界内での立ち位置は、あまり広く知られていないかもしれません。
そこで今回は、酒屋の業界における役割や、日々の仕事を紹介します。さらに「自分で酒屋を開いてみたい」という人に向けて、酒屋のはじめかたも解説します。
そもそも「酒屋」って?
まずは、酒屋とは何なのか、日本酒の流通においてどのような役割を果たしているのかを見ていきましょう。
酒屋とは、お酒を消費者に届けるお店
酒蔵で造られたお酒は、まず問屋に買い取られます。酒屋は、問屋から仕入れたお酒を飲食店に販売したり、個人のお客さんに販売したりします。これが一般的なお酒の商流です。
また、酒屋が問屋を通さず、酒蔵から直接お酒を仕入れることもあります。「特約店」や「正規販売店」といわれる酒屋は、酒蔵と直接取引をしているお店です。
この記事を読んでいる人の中には、飲食店にお酒を供給しているのは問屋だと思っていた人もいるかもしれません。これについては、次の項目で見ていきましょう。
お酒を売るためには「免許」が必要
上で登場した「酒屋」と「問屋」は、「お酒を仕入れて売る」という点では共通しています。では、この2つは何で区別されるのでしょうか?
実は、酒屋と問屋では、持っている「免許」の種類が違うのです。酒屋さんが持っているのは「酒類小売業免許」といって、一般消費者や飲食店にお酒を販売できる免許。問屋さんが持っているのは「酒類卸売業免許」で、お酒を販売する業者やお酒を製造する業者に対してお酒を販売できる免許です。
「酒類小売業免許」には、実店舗でお酒を売る場合に必要な「一般酒類小売業免許」のほか、ECサイトなど通信販売でお酒を売る場合に必要な「通信販売酒類小売業免許」もあります。
また、「酒類卸売業免許」のなかで比較的新しいのが、平成24(2012)年に新設された「自己商標酒類卸売業免許」です。これは、自らが開発した商標や銘柄のお酒、つまりオリジナルのお酒に限り、卸売が可能な免許です。
もともと日本酒を卸売するには「全酒類卸売業免許」が必要でしたが、この免許は地域ごとにわずかな件数しか発行できない仕組みになっており、卸売への新規参入が非常に難しい状況でした。しかし、自己商標酒類卸売業免許の新設により、たとえば「地元の酒蔵と提携してオリジナルのお酒を造って売る」など、お酒をより柔軟な方法で販売することが可能になったのです。
酒屋はどんな仕事をしている?
酒屋で働く人たちが日々取り組んでいる仕事を紹介します。
仕入れ
お店で物を売るためには、まずそれを仕入れなければいけません。
酒屋の場合は、試飲会に参加するなどして情報収集し、取り扱いたいお酒を見つけます。良いお酒と出会えたら、酒蔵や問屋といった販売元と商談を重ね、契約を結びます。
販売
「酒屋の仕事」といって真っ先に思い浮かぶのが、この「販売」でしょう。実店舗の場合は、店頭に商品を並べて、来店したお客さんをお迎えし、接客した上で購入してもらいます。ECの場合は、サイトに商品を掲載し、メールやSNSなどでお知らせします。
広報・その他
「仕入れ」と「販売」のあいだにも、たくさんの仕事が存在します。在庫管理や経理のほか、お店の認知を広げるための情報発信やイベント企画など、その内容はさまざまです。
なかでも特筆すべき仕事は「納品・梱包・発送」。酒屋で取り扱う商品の多くは、割れ物で、かつ重みもある酒瓶です。それを1本1本きちんと届けるプロセスに、意外と多くの時間と手間がかかります。
自分の酒屋をオープンするには
ここでは、日本酒好きが高じて、「自分で酒屋を開いてみよう」と考えている人のために、酒屋を立ち上げるための手順を紹介します。
仕入れ先を確保しよう
はじめに、仕入れ先を確保しましょう。仕入れ先と確実に取引できる状態になっていないと、酒類販売免許の取得を申請できないためです(「予定」の状態では免許を取得できません)。
酒屋の仕入れ方法は、先に説明したとおり、問屋から仕入れるパターンと酒蔵から直接仕入れるパターンの2通りあります。そのうち、酒蔵から直接仕入れる方法は、日本酒専門店として魅力的なお店にしていくうえでいろいろなメリットがあります。これを踏まえて、それぞれの特徴を見ていきましょう。
1. 酒蔵さんに打診しよう
特に仕入れたい銘柄やお気に入りの酒蔵がある場合には、「特約店」や「正規販売店」となって直接お酒を仕入れたい旨を、酒蔵に打診してみましょう。
ただし酒蔵は、どんな酒屋にもお酒を売ってくれるわけではありません。「酒蔵のこだわりをしっかり伝えてくれる」「品質が保てる環境で管理してくれる」など、さまざまな条件を満たし、なおかつ信頼できる酒屋とのみ直接契約を結ぶケースが多いです。その結果、小売価格の変更が制限されたり、競合蔵元の商品の取り扱いが制限されたりすることもあります。また多くの場合、小ロットでの仕入れは難しいでしょう。
酒蔵からの仕入れは簡単とはいえないかもしれません。しかし、目当ての酒蔵と直接契約を結ぶことができれば、問屋には卸されていない珍しい銘柄も手に入りやすく、ほかのお店との差別化を狙えます。こだわりの銘柄を扱う酒屋として個性を出したいなら、ぜひ検討したい仕入れ方法です。
2. 問屋さんの活用も検討しよう
もうひとつの方法は、問屋(卸売業者)からの仕入れです。問屋は酒蔵と違って、基本的に注文すれば売ってくれるタイプの仕入れ先といえます(※)。
問屋はさまざまな酒蔵のお酒を扱っており、銘柄当たりのロットが比較的小さくても仕入れられる場合もあるので、「少量多品種」を実現しやすいというメリットがあります。一方で、問屋が取り扱う商品の多くは製造・流通量の多いものであるため、ほかの酒屋やスーパー・量販店などと似通ったありがちなラインナップになる可能性もあります。
酒蔵からの仕入れと問屋からの仕入れ、それぞれの長所と短所を理解した上で、仕入れルートを決定しましょう。
(※)問屋からの仕入れの場合にも、はじめに契約などの手続きが必要となる場合もあります。
販売の計画を立てよう
続いて、「どんなお酒をどれくらい仕入れて、いくらで販売するのか」「お店の設備や人件費はどれくらいかかるのか」といった収支計画を立てます。
これも酒類販売免許の取得申請において必ず求められる項目で、収入・支出の内訳として、具体的な数字の記入が必要になります。販売免許取得のためにはもちろん、立ち上げ後の安定経営のためにも、ここでしっかり計画を立てましょう。
仕入れ・販売額:売上高と仕入れ原価から算出される「粗利率」は、20〜30%が一般的だといわれています。
家賃:地域によって大きく異なる項目です。狙うエリアの家賃の傾向をつかんでおきましょう。
光熱費:酒屋ではお酒の品質を保つために冷蔵庫や空調が必須となるため、光熱費が高くなる傾向にあります。
人件費:経費の中でも大きな割合を占める重要項目です。お店の広さや営業時間などに応じて、自分だけでできるか、スタッフを何名か雇う必要があるかが変わってきます。
その他の費用:クレジットカード決済手数料(3%程度)、梱包などにかかる資材(1%程度)なども考慮に入れておきましょう。
発信しよう
仕入れルートだけでなく、販売ルートの確保も必要です。販売前からしっかりお客さんを確保しておきましょう。そのためには、SNSなどインターネット上でもお酒の情報や、酒屋を始める予定であることを発信するなどして、お酒好きに注目してもらえるように工夫してみると良いでしょう。
また酒屋の売上において、一般的に重要度が高いのは飲食店の売上です。SNSだけでなくリアルの交流にも積極的に取り組み、個人のお客さんのみならず、飲食店とのつながりも作っておくのがおすすめです。
販売する場所を準備しよう(ネットショップやテナント)
重要なのはお店のコンセプトに合った場所を選ぶことです。物件そのものの構造や広さはもちろん大切ですが、周辺の雰囲気、通りがかる人々にも目を配りましょう。物件にかかる費用は、事業計画の額を守ることが大切です。
なお、「角打ち」や有料試飲を導入するには、販売スペースと飲食スペースを明確に区切った上で、保健所から「飲食店営業許可」を得る必要があります。販売スペースと飲食スペースの区切り方や面積・レイアウトは、行政の指導を受けつつ検討していくことになります。物件を契約したあとに「ここでは飲食店営業許可が降りない」とならないよう、事前に近くの保健所に相談しましょう。
また、小さくはじめるなら、ネットショップだけに絞るという手もあります。ただしこの場合には実店舗を設けないことになるので、インターネット上でお客さんから「見つけてもらう」ための工夫が必要です。仕入れ先やお客様の確保に向けて、オリジナルな要素をより強く打ち出す必要があることに留意しましょう。
免許を取ろう
ここまでの準備が整ったら、いよいよ免許の取得申請です。申請手続きの流れを、簡単に紹介します。
参考:免許申請の手引|国税庁
1. 事前相談
自分で申請する場合、まずは各地域の「酒類指導官設置税務署」に事前相談に行きましょう。免許の取得要件や提出すべき書類についての指導が受けられます。
酒類指導官設置税務署は、お店の所在地を管轄する税務署とは異なる場合があるので注意してください。国税庁のサイトで、近くの酒類指導官設置税務署を探せます。
2. 書類準備
税務署での指導内容にしたがって、提出書類を準備します。各様式は、国税庁のサイトにも掲載されています。
一般酒類小売業免許申請の手引|国税庁
通信販売酒類小売業免許申請の手引|国税庁
3. 免許取得申請
お店の所在地を管轄する税務署に出向き、必要書類を提出して申請をおこないます。審査期間は最低2ヶ月程度ですが、書類内容や設備の状況等に不備などがあった場合は、それ以上に期間がかかることもあります。余裕を持ったスケジュールで申請を進めるようにしましょう!
4. 免許交付
税務署から免許交付の連絡が入ったら、税務署に出向きます。その際、登録免許税(※)と、「登録免許税の領収証書提出書」および「酒類販売管理者選任届出書」を持参します。
※登録免許税について
一般酒類小売業免許・通信販売酒類小売業免許ともに、1申請につき30,000円の登録免許税がかかります。一般酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許を同時に申請する場合は、30,000円で2種類の免許を申請できます。実店舗とECの両立を考えている人は、一度に申請したほうがお得です。
そこまで難しい手続きではないので、自分で申請することもできますが、行政書士に手続きをお願いすることも可能です。行政書士への依頼費用は10万〜20万円程度で、なかには酒販免許を得意とする行政書士事務所もあります。最近はWebで情報発信している行政書士事務所も多いので、自身での手続きが不安な場合は、近くの事務所を検索してみてもよいでしょう。
まとめ
今回は、日本酒を飲む人にとって身近な酒屋について取り上げました。酒屋の役割やそこで働く人たちの日々の仕事のなかには、よく知っている部分もあれば、意外な部分もあったかもしれません。酒屋は、お酒を消費者に届ける大切な役割を担っています。今回の記事を参考に、日本酒をはじめとしたお酒の素晴らしさを伝える素敵な酒屋さんが増えていきますように!
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