「暖気樽」「暖気入れ」ってなに? - 効果や道具の種類、使われ方を解説!

2022.11

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「暖気樽」「暖気入れ」ってなに? - 効果や道具の種類、使われ方を解説!

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

酒造りにとって最も重要な三つの工程を表す言葉に「一麹、二酛(酒母)、三醪」とあるように、酒母は日本酒の味わいを左右するとても重要なものです。

酒母を造る工程の中には、「暖気入れ(だきいれ)」という作業があります。今回は、暖気入れの目的や方法などをご紹介します。

暖気入れの目的や方法

暖気入れとは、お湯を入れた「暖気樽(だきだる)」と呼ばれる容器を酒母に入れることで、酒母の温度を上げる作業です。

日本酒は、「並行複発酵」と呼ばれる、ほかのアルコールには見られない独特の発酵形態で醸されます。原料(米)のでんぷん成分が糖に変わる糖化と、糖がアルコールに変わる発酵という“複”数の反応が“並行”して進行するため、このように名付けられています。

日本酒の発酵のスターターである酒母も、この並行複発酵によって米から糖をつくりながら、糖からアルコールを生み出しています。

※酒母の詳細についてはこちらの記事をお読みください。

暖気入れによって酒母が温められると、以下のような効果があります。

・麹菌が持つ酵素の活性が高まり、米の糖化が促される
酵母や乳酸菌が活動しやすい温度になるとともに、麹菌が分解した糖を取り入れることで、増殖、活性化し発酵が進む

酒母のうち90%ほどは「速醸系」、10%ほどが「生酛系」と呼ばれる方法で造られています。暖気入れ作業によって、速醸系では酵母菌の、生酛系では乳酸菌と酵母菌の増殖を促し、活動を活発化させます。

暖気入れの方法

しかし、暖気入れで糖化を進めることは二つのリスクを伴います。

一つ目は、酒母の糖度が高まることで、それを好む酵母菌以外の雑菌が増殖し腐敗する可能性があること。

二つ目は、酵母菌の数に比べて糖の量が少なくなったり多くなったりしてバランスを欠くとスムーズに発酵できなくなってしまうことです。

このため暖気入れには極めて繊細な温度調整が求められます。基本的には、暖気樽の中にお湯を入れて温めますが、時として、水を入れて冷やす作業を行うこともあります。

暖気入れでは、温度調整だけではなく時間、暖気樽の動かし方、かき混ぜ方、なども重要です。「暖気操作」と総称されるこれらの作業は、酵母菌がじゅうぶんに育つまで続けられます。

前暖気と後暖気

暖気入れには、糖化を目的として「膨れ」の状態までに行う「前暖気」と、膨れ後に酵母の増殖・発酵を目的として「湧付き休み」まで行われる「後暖気」があります。

前暖気の最初の作業は「初暖気(はつだき)」と呼ばれ、初暖気から湧付き休みまでの間、暖気入れは毎日1回、湯温や暖気時間を調整しながら行われます。後暖気も含めると、合計10日間程度にわたって暖気入れを行うことになります。

酒母づくりの詳しい工程は、以下の記事で解説しています。

暖気入れに使う「暖気樽」とは?

暖気入れに用いる暖気樽は、持ち手がついた円筒状の容器です。暖気樽には木製と金属製があり、それぞれの特性を生かした酒造りが行われています。ここからはそれぞれの材質の暖気樽について、特徴を見ていきましょう。

暖気樽・木製

木製の暖気樽は、主に杉材で作られています。上部に取っ手と吞口があるのが特徴で、熱湯を入れてもゆがみにくい柾目材(まさめざい)が使われています。

かつてはこの木製の暖気樽が主流でしたが、現在では金属製の暖気樽を使う蔵元が多くなりました。箍(たが)の締め直しなど、手入れに手間がかかることや、樽を製作・修理する木桶職人が不足していることで、使用する酒蔵が減っているのが現状です。

とはいえ、木製暖気樽は熱伝導がゆるやかに起こり、軽くて扱いやすいことから、変わらず使い続けている酒蔵もあります。

暖気樽・金属製

金属製暖気樽は、アルミニウムやステンレス材で作られています。金属製暖気樽は木製暖気樽に比べて熱伝導が早く、手入れもしやすく長持ちするため、現在ではほとんどの酒蔵で使用されています。

金属製暖気樽のデメリットはその重さにあり、空の状態でも5キロ、中に湯水を入れると30キロ前後の重さになります。その暖気樽をタンクの中に出し入れしたり、タンク内をかき混ぜたりする作業を何日も続けるのです。

暖気壺

今ではほとんど見ることのない陶器製の暖気壺です。木製の暖気樽と相前後して使われていました。陶器の暖気壺は、木製の暖気樽に比べると熱伝導が早いのが特徴です。小型のタンクにも収まるサイズなので、少量しか仕込まない吟醸酒用暖気樽として使われていました。

暖気樽を使わない暖気入れ

暖気樽には、サイズにバリエーションがありますが、人が操作することを考えると、大きくするのには限界があります。

そのため、暖気樽のサイズに見合った酒母タンクでしか暖気操作はできません。大規模な酒造りになると、暖気樽では十分に温度操作が行えない可能性が出てきます。そこで、タンクの周りに配管を巡らせるなどして、タンクごと加熱・冷却するシステムを採用している蔵もあります。

まとめ

日本酒造りの要となる酒母造りには、欠かせない「暖気入れ」という作業。熱湯を用い、重たい暖気樽を動かす重労働のおかげで、美味しい日本酒が生み出されているのです。

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