2019.04
04
そもそも「日本酒」とは? - 定義や他のお酒との違いを詳しく解説
日本酒を長期間熟成させた古酒や熟成酒。
個性豊かな香りや味わいが、中華やエスニックなど、スパイシーでコクのある料理とも相性が合うことから、日本酒の幅を広げる存在として注目が高まっています。
当連載では、古酒・熟成酒に取り組む蔵元にスポットをあてて、紹介していきます。
まずは、熟成酒の基本的な知識について、日本酒の古酒・熟成酒を取り扱う専門店「いにしえ酒店」の薬師大幸さんに伺いました。
蔵によって多種多様な古酒・熟成酒の定義がある
一般的な古酒や熟成酒というと、色がついていて、紹興酒やシェリー酒、ブランデーのように複雑で深い味わいをもつ日本酒、とイメージしている人が多いのではないでしょうか。
薬師:「環境によっては、10年熟成させてもまったく色がつかないものもあるし、イメージや感情的な理由で、『古い酒ではないから、"古酒"とは呼びたくない』と考える蔵もあります。古酒・熟成酒には明確な定義はないんです。」
蔵元や造り手によって、熟成の手法や考え方も多様なうえ、香りや味わいも千差万別。それぞれの蔵が独自の判断基準をもち、造られているのが現状です。酒屋萬流ならぬ"古酒萬流"と言えるほど、ひとことでは語れない世界のようです。
薬師:「いにしえ酒店では、熟成酒はもとの酒質を向上させることを目的として寝かせた酒、古酒は、原材料は日本酒だけど全く違う風味に変化したもの、と捉えています。
熟成酒という大きなカテゴリーの中に、古酒という分野があるという考え方です(下図)。
シェリー酒やマデイラワインのように、古酒が別のジャンルとして確立できれば、もっと分かりやすく消費者に伝わるのではないかと考えています。」
今後、古酒・熟成酒が消費者に浸透していく中で、言葉の定義も変化していく可能性がありそうです。蔵元独自の見解も紹介していきます。
熟成に影響を与える要素とは?
日本酒の熟成が進むと、無色透明だった清酒の色は、山吹色や琥珀色、濃い茶色などに変化。香りは、ナッツやはちみつ、チョコレート様など多彩で複雑、深みのあるものに。味わいは、甘みやコクが増していきます。では、どのようにして酒は変わっていくのか。熟成に関わる要素は大きく分けて4つあります。
時間
時間の経過とともに、酒の風味が変化していく。温度との掛け合わせで、変化の度合いが変わる。
容器(瓶・タンク・木樽など)
酸素に触れる量が多いほど、風味が変化する。瓶よりも大きなタンクで貯蔵する方が、変化が早い。木樽は、酒に樽香がつくなど風味が変化する。
酒質(水・米・菌[酵母など]・処理[火入れ・アルコール添加・生酛など])
熟成前の酒質により、変化の速度や大きさが異なる。一般的に、糖とアミノ酸が多いほど、酒の風味の変化が大きい。熟成後の風味の違いも酒質の違いによるものが大きい。
温度(冷蔵・常温・加温)
貯蔵する場所の温度が高い方が、早く変化する。
薬師:「熟成による変化で分かりやすいのは、糖とアミノ酸がメイラード反応を起こすことによって、色や香りが変わること。 メイラード反応とは、玉ねぎを加熱すると色がつく原理と一緒です。
貯蔵する際の温度の高さは、反応を促すための重要な要素です。また、米を削らない低精白の酒はアミノ酸を多く含むので、熟成による変化が大きいと考えられています」
アミノ酸の少ない高精白の酒を冷蔵貯蔵すると、もとの酒質からほとんど変わりません。一方で、低精白の酒を常温貯蔵すると、同じ年数でも色や香りが大きく変化していくというのが、基本的な考え方です。
最近では、ワイン樽やオーク樽、シェリー樽など、さまざまな樽を使ったユニークな熟成酒も造られています。また、加温熟成の日本酒なども開発され、熟成酒の多様性は、ますます広がってきています。
蔵が古酒・熟成酒を造る理由
また、市場にある古酒・熟成酒は、主に以下の3つの理由で造られているそうです。
- 古酒・熟成酒にすることを目的に、生産・貯蔵している
- 良い酒ができたから貯蔵しておく
- 時代に合わないため出荷を見送ったもの(売れ残りも含む)
薬師:「1974年から同じ酒質のものを毎年同じ条件で造る、木戸泉酒造(千葉)の『ヴィンテージ古酒 玉響』などが、目的をもって貯蔵している例です。
商品として計画的に造っているものもあれば、試行錯誤しながら試験的に造っているという蔵もあります。
和歌山県『車坂』醸造元の吉村秀雄商店では、全国新酒鑑評会の出品酒を5度の環境で貯蔵した『亀の歩み』という商品を出しています。
これは、2. に該当し、良い酒ができたので、熟成させてみようという発想です」
少しネガティブに感じられてしまうのが、3. の理由ですが、出荷する時期を見送ったことで、今の時代のトレンドに合うようになった酒もあるのだとか。
薬師:「岐阜県の『長良川』醸造元の小町酒造では、20年以上前からタンクで貯蔵したままの酒がありました。
酸味が高くワインのような味わいで、当時は売れないだろうと出荷を見送ったのです。
酸味のある日本酒が受け入れられるようになった、今の時代であれば売れると見込んで商品として出しています。」
まとめ
熟成のさまざまな要素を掛け合わせると、できあがる古酒・熟成酒のバリエーションは無限です。蔵元によって古酒・熟成酒の捉え方も大きく異なります。それぞれの蔵で、どのように熟成酒に取り組んでいるのか。
次回から、さまざまな蔵を紹介しながら、探っていきます。
取材協力:いにしえ酒店
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