2024.11
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海を超えて美味しさを届ける。品質を守るための日本酒輸出ガイド:物流編
国内で日本酒市場が縮小していく一方、海外への輸出はこの10年以上、順調に成長し続けています。2030年に5兆円の輸出目標額を掲げる日本政府も、右肩上がりの伸長を見せる日本酒に大きな期待を寄せており、その後押しを受けて、海外市場に活路を見出す事業者は増えてきています。
しかし、海外での売れ筋を見ていると、日本と同様、高級感のある純米大吟醸への評価が高かったり、フレッシュな生酒が注目を集めていたりと、その多くが冷蔵流通を前提とした商品であることがわかります。
世界随一の冷蔵流通(コールドチェーン)技術を誇る日本ですが、海外で日本酒が流通するにあたり、国外に十分な整備はなされているのでしょうか? たとえ純米大吟醸や生酒が人気だったとしても、流通時に品質が変わってしまうことがあれば、日本酒の味わいが正しく伝わらず、現地の飲み手に誤解を与えてしまいかねません。
今回の特集「日本酒輸出の課題」では、前後編に分けて、輸出における流通環境の現状と、その対策について探究していきます。
世界のコールドチェーンの課題
日本酒の流通にまつわる課題を理解するためには、まずは世界におけるコールドチェーンの現況を知る必要があります。海外諸国では、食品をはじめとしたコールドチェーンにどのように取り組んでいるのでしょうか。国土交通省主導の「ASEANスマートコールドチェーン構想」検討会にて委員長を務める流通科学大学名誉教授・森隆行さんにお話を聞きました。
日本のコールドチェーンは世界トップレベル
かつて、日本酒の生酒はその酒蔵がある地域でしか流通しない貴重な飲み物でした。「火入れ」と呼ばれる加熱殺菌処理をおこなわないため保管には冷蔵が必要となり、品質を保持したまま輸送するのが難しかったからです。
しかし、高度経済成長期から業務用のコールドチェーンが整備され、1988年にはヤマト運輸が家庭向けに「クール宅急便」のサービスを開始。冷蔵・冷凍便は一般消費者にとっても身近なものとなり、生酒などのデリケートな日本酒も遠方まで届けることができるようになりました。
森さんは、そうした日本のコールドチェーンについて、「世界でいちばん発達していると言ってもいい」と話します。
「日本では、温度管理が必要なものはしっかりと店まで運ばれ、店内には冷蔵・冷凍管理ができるショーケースが整っていますよね。我々にとっては、生産から消費に至るまで、すべての段階で温度管理がなされているのが普通ですが、海外ではそうではありません。日本から輸出されたものが飛行機や船で運ばれた後、どのように管理されているか不明なケースは多いんです」
先進国の状況とトレーサビリティ
こうしたコールドチェーンの課題に起因し、特に発展途上国において、食品が消費者に届く前に傷んでしまい、フードロスや食中毒などの健康被害も発生しています。
例えば日本では、トラックから倉庫に冷蔵品を移す際や、倉庫からトラックに積み替える際には、外気を遮断するためのカーテンやドックシェルターといった設備を活用しています。しかし、森さんが現地調査をおこなった国にはドックシェルターがないところもあり、「例えば『数時間なら問題はないだろう』といった意識から、工場から都市部までは冷凍車で運んでいたのに、街中では常温の配送車に積み替えて配送するといったケースもありました」とその実態を指摘します。
アメリカでは、業者間での冷蔵流通は浸透していますが、一般家庭に向けた冷蔵便はほとんどありません。宅配便には3〜4日かかるのが一般的で、翌日配送を希望する場合は高額な追加料金が発生します。置き配が基本のため、留守中の荷物は玄関前に放置されるという問題もあります。
ヨーロッパなど、航路で赤道を通る国への海上輸送は約1カ月かかるだけでなく、もしリーファー(冷凍・冷蔵)コンテナを使わなければ、コンテナ内部の温度が50~60℃まで上昇します。
森さんは、こうした各国の事情を前提に、消費者に届くまでの温度変化を把握するトレーサビリティが重要であると説明します。
「対象国での輸入手続後の倉庫から先は、要望したとおりの温度で管理されているか確認が必要する必要があります。最終的な納品先に届くまでにさまざまな事業者が関わりますが、実際にはフォワーダーに一括で依頼するケースが多いと思います。どこで問題が発生したのかを特定できるフォワーダーを選定したうえで、きちんと要求を伝える必要があるでしょう」
日本の基準を国際規格化する
問題が発生した箇所を特定したり、事業者へ要求を伝達するうえでは、コールドチェーンをめぐるプロセスに関する共通理解や共通言語を形成していくことが重要になります。
森さんが委員長を務める「ASEANスマートコールドチェーン構想」委員会では、海外でのコールドチェーンの実態を改善するため、日本のガイドラインをアジア各国に広め、現地の物流のレベルアップを図ることを目指しています。
「委員会ではコールドチェーン物流の規格として、2020年にJSA-S1004を発行しました。この規格では、保税倉庫、事業者の冷蔵倉庫、小売店・飲食店等の輸送拠点と、それらの間での輸送プロセスごとに満たすべき基準を定義しています」
現在、この規格を国際規格であるISOにしようという動きが進んでおり、2024年中には成立する見込みです。
「たとえば品質マネジマントシステムに関するISO9000の認証は、製造業で国際的な取引をするほとんどの企業が取得するまでになりました。コールドチェーンの認証も同じように取得が標準化されれば、結果的に日本レベルのコールドチェーンが普及していくことになるでしょう」
日本酒の輸出相手国の現状は?
ここまでは、食品を中心としたコールドチェーンの概況をお伝えしました。ここでは、日本酒に限定して各国の流通事情を見ていきます。
アメリカ:知識が明暗を分ける成長市場
コロナ禍におけるコンテナ滞留問題などに起因とした輸出減を挽回し、最新の2024年8月統計にて輸出額世界トップを誇るアメリカ。日本酒の輸入を手がける企業は幅広く、日本食品を扱う大手貿易会社から、日本酒のみを扱う個人企業までさまざまです。
カリフォルニア州を拠点として30州に卸売を行い、「紀土」、「醸し人九平次」、「赤武」などの人気銘柄を輸入するSake Suki代表・宗京裕美子さんは、コロナ禍でも業績は右肩上がりだったと話します。
「弊社では、酒蔵から冷蔵管理できる保税倉庫までお酒を輸送いただき、そこからサンフランシスコに向けて毎月2、3本のコンテナを輸入しています。
酒蔵から送られたお酒は国内の保税倉庫である冷蔵管理された倉庫で1週間ほど保管され、税関の許可を待った後、冷えた状態のままリーファーコンテナに積まれます。コンテナは、通常マイナス5℃で管理しています。
2~3週間かけて太平洋を渡り、船から積み降ろされた後もコンテナの冷蔵のための電源が入った状態が保たれ、一度も温度が変わることなく弊社のサンフランシスコの倉庫まで輸送され、再びマイナス5℃で保管されます」
このように冷蔵流通を徹底している事業者がいる一方で、リーファーコンテナはドライ(常温)コンテナの倍以上のコストがかかるため、価格を優先して後者を使うインポーターもいるようです。
また、アメリカの法律には輸出を担うインポーターと現場に卸すディストリビューターが別企業でなくてはいけないという「3ティアシステム」が定められていますが、「契約しているディストリビューターは、自社のトラックを持っている場合もあれば、外部に委託しているケースもありますが、いずれも冷蔵対応のトラックを使用しています」と宗京さん。窓口となるインポーターだけではなく、実際にレストランや小売店に卸す業者といかに連携しているかは重要なポイントとなります。
そうした前提を踏まえて、「アメリカのコールドチェーンにおいて、最も大きな課題はリテール(小売・レストラン)です」と宗京さんは言います。
「小売店には要冷蔵だと伝えていますが、スペースの問題もあり、すべてを冷蔵庫に入れるのは難しいところが多いのも現状です。これは日本も同じで、酒販店やデパートでも全ての商品を冷蔵で管理できているわけではありませんよね。
ニューヨークなどの都会では、よいワインショップほど専用のセラーがあって、お店自体の室温を寒く設定しています。また、高級レストランほど一升瓶は扱いません。冷蔵庫に入りませんし、720mlのボトルでも回転の早いところでは1日で何本も空くからです」
「日本酒の専門家やソムリエなどは、知識を持っていて、しっかり冷蔵管理をしてくれています」と話す宗京さん。市場として成長期にあるからこそ、流通業者による扱いも差別化の要因となっています。
中国:消費者と事業者、双方の意識改革が必要
コロナ禍において驚異的な成長を見せた中国の日本酒市場。そこで圧倒的知名度を誇るブランド「獺祭」の製造元・旭酒造は、同国内の複数のインポーターと取引をしています。
「現地インポーターの倉庫まではリーファーコンテナで輸送し、各社の冷蔵倉庫を確認しています。ただ、中国の場合は、そこから先の流通が問題です。商流がとても複雑で、卸業者が複数関わることが多く、最終的に冷蔵管理が徹底されていないといった事態が起こりえます」
そうお話してくれたのは、旭酒造の海外事業を担当する営業部の山根翔平さん。「インポーターから一部の大手小売までの商流は短いですが、中国の多くの商流が多層化しやすい傾向がありますね。そのうえで、冷蔵の重要性は一部のコアな層しか理解していない というのが現状です」と指摘します。
冷蔵流通をメインストリームにするためには、「流通業者や小売店だけでなく、消費者が冷蔵管理の必要性を認識している環境をつくる必要がある」と山根さん。
「もちろん、我々も小売店や飲食店に対してできる限りコミュニケーションをおこなっていますが、面倒に思われてしまうことが多いんですよ。中国はプレイヤーが多く、並行輸入品も大量に入ってきているので、あまり厳密な要求をすると『他のところから買えばいい』と思われてしまいます。消費者から『冷蔵保管されたものでないと買わない』という声が上がってくるようになれば、取扱店もちゃんとしようと意識を改めてくれると思うのですが、それにはまだ時間がかかるでしょう」
世界35カ国に輸出する旭酒造は、「どの国も冷蔵に対する意識は未発達」という認識のもと、これまで、現地の取扱業者を対象に、常温と冷蔵で保管した獺祭の飲み比べなどを通した講習をおこなってきました。中国でもインポーターと連携して、冷蔵販売の重要性を地道に説き続けています。
EC販売が増える中国ですが、「冷蔵小口輸送の仕組み自体はあり、牛乳や生鮮食品などは冷蔵で流通しています。ただ、日本酒に冷蔵保管が必要だという認識はまだ広まっていないため、お願いしても対応してくれないケースがあります」とのこと。
「最近は試験的に、冷凍酒の扱いを始めました。搾りたての新鮮な状態をお届けできることに加えて、冷凍なら見た目からも『溶かしてはいけない』ということがわかりやすく伝わる可能性があるからです。アイスクリームなどは冷凍で流通していますから、インフラは既に整っている。あとは消費者や流通業者の認識だけなので、冷凍流通で感動するくらい美味しい酒に出会ってもらう体験を通じて、低温で保管することの重要性が伝わっていけばと思います」
フランス(EU):ワインの温度に合わせた啓発活動
フランスで日本産酒類の輸入事業を手掛け、フランス人のみの審査員による日本酒・焼酎コンテスト「Kura Master」を主催する宮川圭一郎さんは、ロシア・ウクライナ戦争により日本からヨーロッパへの輸出のハードルが上がっていることを指摘します。
「現在、日本からヨーロッパに向かう船はすべてアフリカの希望峰周りの航路を通るようになっています。以前は4週間で着きましたが、6週間ほど見る必要がありますし、コンテナの料金が約2.5倍ほどに値上がりしています」
コールドチェーンに関しては、日本酒に力を入れている業者はリーファーコンテナを使っていますが、ドライコンテナで輸送しているところも存在するとのこと。しかし、宮川さんはそれ以上に影響が大きいのは、現地に着いてからの管理だと話します。
「フランスでは、どうしてもワインと同じような温度で扱われてしまうことが多いんです。 なので、要冷蔵のお酒については『冷蔵で保管すれば、商品が長持ちする』と伝えるようにしています。『冷蔵庫に入れなければいけない』と言うと面倒に感じられてしまいますが、『冷蔵庫に入れておけば長く売り続けることができる』と相手のメリットを伝えると、前向きに受け止めてもらえる。言葉の使い方が非常に重要です」
ただし、冷蔵温度についてはあくまでワインを基準に設定しているとのこと。
「私はいつも『白ワインのように冷やして提供する大吟醸酒』、『赤ワインのように常温で提供する伝統的な純米酒』という伝え方をしています。冷蔵温度は、スパークリングなら6〜7℃、吟醸タイプは9〜12℃。冷やしすぎると味が閉じてしまい、ワインを飲み慣れているフランスの人々には美味しさを感じてもらえないからです」
純米大吟醸などのフルーティでわかりやすい味わいが人気を得やすい海外市場ですが、ヨーロッパは比較的複雑な味わいや旨味の強いタイプも評価されており、常温流通の可能性を広げています。
「やはり、Kura Masterで『実際に飲んで体験してもらう』という啓発活動をおこなってきたことが大きいです。最初は大吟醸系のお酒が人気でしたが、最近は伝統的な製法のお酒や古酒も評価されるようになってきています」
シンガポール:輸出ハードルの低い新興市場
日本酒の次なる有力な成長市場として注目を集めているシンガポール。2023年の統計では、アメリカやアジア諸国に続き、輸出額・輸出量ともに世界6位を記録しています。
2022年、シンガポールに現地法人を設立した酒ストリート代表・藤田利尚さんは、これまで香港や台湾向けの輸出を経験したうえで、「シンガポールは香港や台湾に比べるとコストが高く、小口貨物の便数が少ない」と説明します。
「香港や台湾は、ほぼ毎週LCL(小口貨物の混載便)がありましたが、シンガポールだと月に1回あるかどうかという感じです。FCL(一社でひとつのコンテナにすべて積み込む大口貨物向け)で送った方がコスト面で有利になることもあり、使い分けています」
シンガポールの港に届いたお酒は、酒ストリートが契約している冷蔵倉庫にすぐ移し替えられます。0〜5℃の温度帯での保管を理想としていた藤田さんですが、この温度帯の倉庫を見つけるのに苦労したそうです。
「探す中で多くの倉庫を見学しましたが、ワインと同じ温度帯で日本酒が保管されているのをよく見かけました。ワインの流通が日本酒よりも圧倒的に多いので、業者も扱いやすいのだと思います。
シンガポールは酒類事業の参入がすごく簡単で、プレイヤーがたくさんいます。趣味の延長みたいに副業として輸入をしている人たちも多くて、レストランなども扱いたいお酒を自分たちで輸入することができる。日本人が経営している日本食レストランの半分以上は、自分たちで食材と一緒に酒類も輸入しているんじゃないでしょうか」
オンラインショップでは個人向けの配送もおこなっていますが、小口で冷蔵配送してくれる業者は少ないと藤田さん。
「料金体系としては、スーパーやデパートに納品するような大口配送を前提としているところが多いですね。たまたまうちの倉庫会社が小口でも冷蔵配送をしてくれるところだったので、とても助かっています。シンガポールは小さな国なので移動距離が短く、アメリカなどの国に比べて配送コストは抑えられていると感じます。香港と同じように、小さくて物流のコントロールがしやすいので、比較的コンディションを保ったまま輸送できる国ではないでしょうか」
シンガポールでも配達は置き配が基本ですが、藤田さんは、メッセージアプリで「この日は家にいますか?」と確認してから配送するようにしているのだとか。
「飲食店の人たちは意識が高いですが、個人のお客様はワインセラーで保管している方もいます。必ず冷蔵庫で冷やしてくださいと伝えていますが、これから認識を高めていかなければならないところですね」
理想の状態で日本酒を届けるために
このように、日本酒の海外流通は複数の事業者が関わることが多く、品質管理を徹底するためにはどの国にも課題が存在していることがわかります。日本酒は世界的に見ればまだまだマイナーな飲料であり、保管方法を理解している人や、コストを投じる価値を感じている人がまだ少ないのが現場です。現地の事業者はより正しい理解を広め、その魅力を伝えるため、エデュケーションやプロモーションに努めています。
酒蔵にとっては、丹精を込めて造った日本酒が、その美味しさを保ったまま世界に広められることが最大の願いであるはずです。それでは、その品質を保つために、造り手は輸出においてどのようなことを意識するとよいのでしょうか。
①輸出先の国・地域を知る
前段でアメリカ、中国、フランス、シンガポールの4つの国の例をお伝えしたように、「輸出」とひと口に言っても、その送り先の国によって状況はまったく異なります。「海外」「外国」とひとくくりにしてしまいがちですが、一つひとつの国・地域ごとに多様性があることは第一に意識しなければなりません。
特に、アルコールに関する法律は国によって異なります。シンガポールのように現地のレストランが直接個人で輸入することができる国もあれば、アメリカのように、輸入業者・卸売業者・小売業者それぞれが別企業でならなければならない国もあります。法律と、それにともなう流通構造によって、消費者への日本酒の届き方は大きく異なります。
また、政治状況も把握しておかなければならない要素のひとつです。その国の経済状況がどうであるのか、トップに立つ政治家が輸入や酒類に対してどのような方針を持っているかは、日本酒の受け入れならびに現地流通に大きな影響を及ぼします。
②パートナーを本気で選ぶ
輸出はほとんどの場合、フォワーダーや現地インポーターなどの仲介業者との契約が不可欠です。昨今、酒造メーカーが仲介業者を名乗る人から「日本酒を輸出/輸入させてもらえないか」という依頼を受け取る機会は少なくないでしょう。日本酒に関心を持つ事業者が国内外ともに増えていく中、どのようなパートナーと手を組むかが輸出の明暗を分けると言っても過言ではありません。
大手なのか中小なのかといった事業の大きさは良し悪しの指標とはなりませんが、それぞれに得意・不得意があります。また、日系の飲食店やローカルの星付きレストランなど、その事業者がどんな販路を持っているのかも実績を判断する基準になります。
もちろん、日本酒に対する知識と情熱を持っているかも重要です。これは窓口だけではなく、現地マーケティングをおこなう担当者まで把握しておいたほうがよいといえます。具体的な輸出パートナーの選び方に関しては、SAKE Streetにて今後、別の記事で詳しく紹介する予定です。
③現地で自分のお酒を飲んでみる
信頼できるパートナーを選ぶことは重要ですが、最も重要なのは、自身が造ったお酒に最後まで責任を持つことです。
例えば、フルーティな純米大吟醸として売り出していた自社の商品が、海外で「スモーキーな香りがする旨味の強いお酒」として知られていたら反論したくなるでしょう。品質が変わった原因について仲介業者を追及したくなるでしょうが、パートナーも「運送業者のせいだ」「レストランの担当者のせいだ」と責任を転嫁するかもしれませんし、複雑な商流の中で本当の要因は究明できないかもしれません。
誰の過失によってお酒の味わいが変化したにせよ、その事実と最後まで向き合い、変えられるのは他ならぬ造り手(酒蔵、メーカー)だけです。パートナーや取扱店がよくないのであれば、そこで取引を止める選択肢もあります。
この理想的な例が、前段にも登場している「獺祭」の旭酒造です。旭酒造は、現社長の桜井一宏氏がニューヨークに半年間滞在し、その足で現地のレストランを回ったことがきっかけでアメリカでの知名度を上げていきました。同社では今も、営業スタッフが小売店を回ってお酒の保管状況を確認しているほか、先述のとおり、セミナーなどを開催して品質管理の指導をおこなっています。
輸出は決して「出したら終わり」ではありません。他の国に行って飲んでみると、輸送環境だけではなく気候条件なども作用して、日本で飲むのとは少し違った味わいに感じられることがあります。自分が造ったお酒がその国で愛されるためには、そのお酒が現地の消費者にどう飲まれているのかを知ることがとても大切です。
「要冷蔵」の前提から視点を変える
この記事では、世界が抱えるコールドチェーンの課題について専門家や輸出先の声とともにお伝えしました。コールドチェーンはインフラの整備であり、国ごとにさまざまな事情があるため、日本国内のような恵まれた環境を作り出すのはとても難しく、時間のかかることです。
そうした中で、品質を変えず美味しい日本酒を届けるにはどうしたらよいのでしょうか。そこでは、常温での流通に耐えられるお酒という視点が必要になっていくはずです。
「日本酒輸出の課題」では、製造技術の面から、輸出において品質が変わりづらい日本酒について考えていきます。
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